2016/06/22 のログ
ご案内:「職員室」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 黒星がレアキャラを叩き出し、斉藤が憤り、白椿がウィンクを飛ばし、獅南がリビドーに殴られた職員室。
眉間に深い皺を寄せたヨキは、会議の終了と共に早々に自席に戻ってきていた。

会話を後方に聞きながら、中断していた事務作業を再開する。
夏季休暇にはまた何らかの講習を開く予定で、今のうちにスケジュールを詰めておかなければならなかった。

備品の小ぶりなやかんで茶を注ぐと、茶柱がぷかりと立つ。

「態度さえ目を瞑れば、有能な教師ばかりなんだがな……」

自分のことは、自分にしか手の届かないほど高い棚の上に上げておく性質なのだ。

ヨキ > 仕事の交渉を進めていたスマートフォンに連絡が入っているのを見つけて、画面を開く。
SNSのメッセージ通知の隣に、可愛らしい女の子のアイコンがポップアップしているのを見つける。

「…………、SSR入手確率アップイベント……」

小声で目を剥く。
ソシャゲの時間限定イベントの開催通知だ。

便秘のようにしばし唸ったのち、通知を消して事務的なメッセージ画面に戻る。

現在ヨキが進めているのは、新しく開かれる飲食店で使われる食器の製作である。
常世新美術館で開催に協力した企画展での縁が切欠だった。

じっくりと文面を読み進める。
クライアントの反応は好意的で前向きだ。

「……SSRかあ……」

顔を顰める。
ガチャ回したさに気持ちがどこかへ飛んでいた。

ヨキ > 今ガチャを十回分回して退勤後にもう一戦してポイントを稼いで……。
犬の本能に人間の理性を併せ持ったヨキの計算力は、ときに無駄な使い方をされる。

「いやッ。だめだ。真面目にせねば真面目に」

アルミ箔のように軟化していた意志を再び奮い立たせる。
パソコンに向かい、改めて図面と向き合う。

ベクタデータで構築された、緻密な曲線。
コンピュータ上の設計図を再現するにも、異能ならば設備も不要だ。

食器に茶器、カトラリー、オブジェ。
それはひとつの空間が、ヨキや力あるアーティストや、建築家たちの手で出来上がってゆく過程だ。

ヨキ > 椿丸の視線はやたらと力がある。
彼女の言動はいつもどおりのこととして、ひらりと手を振る。
小さく控えめに振られる指先は、女の子に色目を使うためのそれだった。

画面に目を戻して、添付されていた店内の写真を見つめる。
茶を基調とした、落ち着きのある内装だ。

手のひらの上に、滑らかに波打つ銀の小皿が音もなく現れる。
果たして自分の銀器が店に合うのか、正確に色を見ることの出来ない眼差しが思案する。

ヨキ > ノートを開く。
左手に取った鉛筆を寝かせて、幾本もの曲線を引いてゆく。
頭の中のアイディアを形にするには、何より手書きが合っていた。

有機的なデザインは、ヨキのもっとも得意とするところだった。
機械で再現することの出来ない、手作りの緻密さ。
手作りの緻密を凌駕する、頭の中の着想をそのまま形にするヨキの異能……。

だが手わざを真に超えるためには、それだけ発想の力が要る。
異能で作り出した作品とて、賞賛ばかりとは限らないのだ。

ヨキ > ヨキより巧みな腕を持つ職人はたくさん在る。
ヨキよりユニークなアイディアを持つ学生にも恵まれた。

手わざにしか出来ないこと、異能にしか出来ないこと。
それらを突き詰めて“ヨキにしか出来ないこと”に辿り着くのは、彼の永遠の課題だった。

鉛筆を動かす手が形作る描線は、自然と生き物のしなやかな輪郭に似た。
過剰な要素を削ぎ落としたシンプルな曲面は、計画された静謐な空間のために表れる美の形だ。

(……………………、)

よく学び、知った形こそが美意識に表れてくるのは自明の理だろう。

生きたものを、生きたまま食したいという欲望。
人知れず息を吐き、茶を啜る。