2016/10/09 のログ
ヨキ > 力なくしては資材を軽々と持ち運べなくなり、生きた子種を宿したとなれば女をむやみに抱くことも出来ず、
街を一晩駆け回る無茶な体力も失って、殺した標的の肉は鼻先を近付けただけで吐き気がした。

転移荒野で見た夜明け。
あんなにも晴れやかな日はないと思っていた。

昇りきった太陽の下の現実。
こんなにも鬱屈とした日々を送るとは夢にも思っていなかった。

湿っぽく熱を含んだ息を吐き出す。
寝台に上がろうと、気怠げに手を伸ばしてブーツをもそもそと脱いでゆく。

硬い床に転げた靴が、ヨキにしては無造作な音を立てた。

ヨキ > 寝台に仰向けになり、小さく喘ぐ。
咳込んで痛めた喉から、掠れた息が零れた。
手の甲を目元に乗せて、じっと目を閉じる。

脳裏に奔る血の脈動に、じっと意識を集中する。

どうして先生は何もしてくれないの、と責められたことを思い出す。
腕を回したきりで、ひどく感謝されたことを覚えている。

「(……ああ、そうか)」

それは本当の人間になって、次々と得心がいった事実のひとつだった。

「(自分は今、寂しいと感じているのか)」

何だか、ひどく可笑しかった。
熱に浮かされるほど冷静で、他人事のようだった。

ヨキ > 今はただ眠るべきだ。
この波濤が鳴りを潜めるまで。
島を囲む海が決して制止することのないように、この波も今はまだ凪ぐことを知らぬだけなのだ。

金工の手わざに計算され尽くした技巧を用いるのとは裏腹に、自分自身の心に対することの何と無策だろう?

せめて見ていてくれ、という言葉を願いに表すその寸前、消え入るように静かな眠りに落ちてゆく。
呼吸に上下する胸が、彼のうちに確かな生があることを示していた。

ご案内:「保健室」からヨキさんが去りました。