2016/10/09 のログ
■ヨキ > 力なくしては資材を軽々と持ち運べなくなり、生きた子種を宿したとなれば女をむやみに抱くことも出来ず、
街を一晩駆け回る無茶な体力も失って、殺した標的の肉は鼻先を近付けただけで吐き気がした。
転移荒野で見た夜明け。
あんなにも晴れやかな日はないと思っていた。
昇りきった太陽の下の現実。
こんなにも鬱屈とした日々を送るとは夢にも思っていなかった。
湿っぽく熱を含んだ息を吐き出す。
寝台に上がろうと、気怠げに手を伸ばしてブーツをもそもそと脱いでゆく。
硬い床に転げた靴が、ヨキにしては無造作な音を立てた。
■ヨキ > 寝台に仰向けになり、小さく喘ぐ。
咳込んで痛めた喉から、掠れた息が零れた。
手の甲を目元に乗せて、じっと目を閉じる。
脳裏に奔る血の脈動に、じっと意識を集中する。
どうして先生は何もしてくれないの、と責められたことを思い出す。
腕を回したきりで、ひどく感謝されたことを覚えている。
「(……ああ、そうか)」
それは本当の人間になって、次々と得心がいった事実のひとつだった。
「(自分は今、寂しいと感じているのか)」
何だか、ひどく可笑しかった。
熱に浮かされるほど冷静で、他人事のようだった。
■ヨキ > 今はただ眠るべきだ。
この波濤が鳴りを潜めるまで。
島を囲む海が決して制止することのないように、この波も今はまだ凪ぐことを知らぬだけなのだ。
金工の手わざに計算され尽くした技巧を用いるのとは裏腹に、自分自身の心に対することの何と無策だろう?
せめて見ていてくれ、という言葉を願いに表すその寸前、消え入るように静かな眠りに落ちてゆく。
呼吸に上下する胸が、彼のうちに確かな生があることを示していた。
ご案内:「保健室」からヨキさんが去りました。