2016/12/03 のログ
ご案内:「屋上」に竹村浩二さんが現れました。
竹村浩二 >  
夕闇と珊瑚色が溶け合う夕方。
土曜日にも、用務員である彼には仕事がある。あった。
ベンチに座って手元でカチカチと使い捨てライターを鳴らしている青年。

煙草に火をつけるわけではない。
ただ、火が点らないライターをカチカチと鳴らしているだけだ。

竹村浩二 >  
カチカチ。
カチカチ。

家に帰れば、メイドが一人。
行こうと思えば、居場所に特別対策部。
特別対策部のみんなには、ヒーローとしての姿も受け入れてもらえた。

順風満帆。
思考にその言葉が出た瞬間、笑ってしまった。

ジュンプウマンパン?
俺の? どこが? ただのクズに、たまたまパチンコで大当たりが来たようなラッキーな時期がきただけだ。
どうせすぐ一人で戦うことになる。

『戦隊』が解散になった時から俺は一人だったんだから。

カチカチ。
カチカチ。
それにしても、寒い。

竹村浩二 >  
カチカチ。
カチカチ。
火はつかない。
このライターは壊れてしまっている。

いつ壊れたのか。
どうして壊れたのか。
壊れた結果、このライターは何が変わったのか。

火打石が何も産まない火花を上げるたび、苛立ちが募る。

「クソッ!!」

小さく毒づくと使い捨てライターを足元に投げつけた。
イライラしている。
どうしようもなくて、この感情をぶつけるものがなくて。
イライラしている。

竹村浩二 >  
この街に悪はいる。
ただ、正義の味方面ができるのは、悪人が悪事を行っている場面に遭遇できた時だけ。

地道にその場面を探すのは、シュレッダーにかけた書類をテープで元通り復元するような感じだ。
不可能ではないが、ただひたすらに単純な作業。

そしてその行為のどこが正義なのだろう。
悪事を渇望している自分の背中を想像するだけで反吐が出る。

乾いた音を立てて、使い捨てられたライターは屋上の地面を滑って転がった。

その時、竹村の携帯デバイスからコールが鳴る。
初期設定の着信音に舌打ちをしながらパネルに触れた。

竹村浩二 >  
「もしもし」

不機嫌さを隠そうともせず、短く答える。
電話から聞こえてきた声は。

「お前………サクラコか?」

昔、『戦隊』でピンクだった女。
男ばかりの正義の味方の中で、紅一点だった存在。

「なんだ、急に電話なんてよぉ」

ガリガリと首の辺りを掻きながら答える。
昔、いろいろあった女だ。心中複雑。

「……赤坂が死んだ!?」

自分で言って、その言葉が脳に沁み込んでくるまで、少し時間がかかった。
赤坂一樹。
『戦隊』でレッドだった男。
勇敢で、誰よりも正しくて、熱く、正義を追求し続けた男。

今は確か、企業を立ち上げて成功し、そこそこ名前が売れた青年実業家だったはず。
それが……死んだ?

「怪人に殺されたのか? 本当に?」
「お、おう……わかった、落ち着いた頃に折り返し連絡する」
「またな、桜子」

電話を切ると、ベンチに体を預けるように座り込んだ。
レッドが、死んだ。怪人に殺された。

竹村浩二 >  
知り合いが死んだ。
しかも、殺された。

その情報が脳を白紙にしていく。
もうイライラしている余裕がない。

ベンチに座り込んだまま、薄紅が黒く塗り潰されていく空を見上げた。

そういえば、前に変身して戦った蜘蛛怪人と鮫怪人は。
俺を狙っていた、のだろうか。

震えがきた。
寒い。寒い。寒い。
寒い寒い寒い寒い寒い。

竹村浩二 >  
最近、この寒さに苦しめられる。
気温が突然変わるわけはないのだが、とにかく寒くなる。
涙が滲むほどに、寒い。

体を抱えて、立ち上がる。
屋上にいるから寒いだけだ。
校内に入れば。家に帰れば。きっと寒くなくなる。

ふらつきながら、校内へのドアまで歩いた。

ご案内:「屋上」から竹村浩二さんが去りました。