2015/07/29 のログ
久藤 嵯督 > テクノ調の音楽でもここに流そうものなら、これはもう一つのパフォーマンス。
その土台となる人間の動きだって、スター顔負けのカンフーアクションだ。
針金細工や実戦の『糸』で培われた確かな技術と、鍛え上げられた身体能力。それらがここに来て十全に活かされる。

空中に浮かせた三つの球は、時計のように針を回す。
そして地面に落ちてしまう前に、時計はメビウスの輪へと還る。
赤い糸に繋がれた三匹の蛍が追いかけっこをすれば、一匹が空へ舞い、残りの二匹だけが追いかけっこを続ける。
天に昇った一匹は、何も成すこともなく二匹を見下ろした。

大回り、小回り。光の球はそれぞれが意思をもっているかのようで、
それなのにどうしてか、オーケストラのように息の合った動きで円環を創り続けている。

久藤 嵯督 > 『土台』がステージの端まで寄ったと思えば、三つの光が手元を行ったり来たりし始める。
まるでそれぞれが、別々に動かされたヨーヨーのような動き。
紐が光ってさえいなければ、それらが全て繋がっている事さえわからない。
そして曲芸は、次の段階を迎える。

上着の内の背中に隠しておいたもう一つの『ソレ』を、もう片方の手で持つ。
光の球は六つに、赤い糸は四本に増えた。

いまにもがんじがらめになってしまいそうなほど激しく動き回る光達。
しかしその動きはどこまでも自由気ままなもので、”繋がれている”という閉塞的なイメージをまるで感じさせない。
時に球同士がぶつかり合うこともあるが、それも全て芸の内。
それらがぶつかり合うことによって生まれる新たな軌跡が、今までに無い光景を創りだしている。
片方は斜め上に、もう片方は斜め下に。
それらが遠心力の猛スピードで輪に戻る頃には、次の球がまたぶつかり合い、また戻っていく。

久藤 嵯督 > そして残すは、ステージ全体を銀河に、光を星に見立てた動き。

上下左右縦横無尽に動き回る流星群はまるでブラックホールにでも飲み込まれたかのように中央へ引き寄せられていく。
引き寄せられては弾き返され、また惹かれれば突き飛ばされる。
光の軌跡がステージ上を支配して、最後は全てが一つとなり、一つの宇宙が終わりを告げる。

「………フ」

自らの素晴らしい技術に酔いしれているわけでもないが、思わず微笑んでしまう。
少し間が開いてしまっていたが、どうやら腕は衰えていないらしい。
フィニッシュの構えを解いて、六つの星だけが輝く闇夜のに座り込む。

久藤 嵯督 > こうやって人のいない頃合を見計らってやるのも、風紀委員としての自分の顔が悪い意味で知れ渡っているからだ。
一般生徒には鬼と呼ばれ、半ば強引に捕縛して学園復帰させた元落第生には羅刹と蔑まれ、
共に働く上司には厄病神と忌まわれている。

まあどれも自分の行動から来るものなので、因果応報と言えば因果応報というものなのだが。
そんな自分がこういった遊びに興じているのを見られるのも、あまりよろしいことではない。
恐れられる人間には恐れられる人間なりの役割がある。今はそれを壊すべきでは無い。

ステージに寝そべり、片方の手で三つの光を軽く振り回す。
一仕事終えた後の余韻というのも、中々どうして棄て難いものだ。

久藤 嵯督 > やる事もやったので、さっさと本部に戻ることとしよう。
そろそろ休憩時間も終わる頃だ。

光の球らをバッグに入れると、体育館を後にするのであった。

ご案内:「多目的体育館」から久藤 嵯督さんが去りました。