2015/08/27 のログ
ご案内:「部室棟屋上」にビアトリクスさんが現れました。
ビアトリクス > 部室棟、屋上。夕暮れ時。
天文系の部などに専ら使われているその場所に、折りたたみ椅子とスケッチブックを抱えて訪れる。

今日は涼しくて外のほうがむしろ過ごしやすい。
夏も終わりが近づいているということだろうか。

ビアトリクス > 最近、絵が描けていない。
日課の静物デッサンですらサボりがちになってきた。
『絵が順調ではない』――と、イーリスに指摘されたのは正しい。

広げた椅子に座り、スケッチブックを広げ、鉛筆を手にして、
適当に画用紙の上を走らせる――数分そうして、ページを破く。破棄。

「…………」

別に初めての不調ではない。よくあることだ。焦ったりはしない。
そのうち勝手によくなっている。そういうものだ。

ただ、調子が悪い時でも筆を動かせるようにならなくてはいけない。
本気で芸術を志すなら、不調という言葉で逃げてはいけないのだ。

ビアトリクス > 漫画的デフォルメ表現で蝶々を何匹か描く。
これはただの落描きだ。
何も考えていなくても描ける。

ふと思いついて、ハサミを鞄から取り出し、ちょきちょきと切り取る。

ぱ、と手から放ると、ふよふよと紙の蝶は羽ばたいて、ビアトリクスの頭上を周るように飛ぶ。
数分の間そうした後、ぺしゃりと落ちる。
それをぼけーっと眺めていた。

(ん? 今何をしたんだ? ぼくは)

ビアトリクス > (……まあいいか)
深く考えず、落ちた紙片の蝶を拾い上げてスケッチブックに挟み込んでしまう。

ごろ、と屋上の床の上に身体を横にする。折りたたみ椅子はまくら代わりに。
ぼーっとしていたら眠くなってきてしまった。

『夜の部室棟にはゾンビが徘徊していて夜更かししている生徒を食ってしまう』
なんてあまりにも雑な噂が部室棟で立っていたのを思い出す。
信じてはいないが、少しぐらい微睡む程度なら大丈夫だろう。

ご案内:「部室棟屋上」にヨキさんが現れました。
ヨキ > (珍しく、美術部の様子を見に来ていた。
 顧問でもないからには、特に訪れる必要もなかったのだが。

 硬質な靴音を立てて、ビアトリクスを見下ろす。
 本人はその噂を知らなかったが――少し身奇麗なだけの、ゾンビも同然だ)

「冷えるぞ」

(一言告げて、持っていた膝掛けをビアトリクスの上へ放る。
 美術室の備品であることが、タグに小さく描かれている)

ビアトリクス > 「…………あ、どうも」
身を起こし、ひざ掛けを手にして広げる。眠たげに瞬きを幾度か。
部室棟に現れたことには少し驚きはしたが、
ヨキという人物自体には慣れていた。

「……こんにちは、ヨキ先生。
 こんなとこで会うとは。見回りか何かですか?」
寝転がったままというのも非礼に思ったのか、
折りたたみ椅子に座り直して、ヨキを見上げてそう尋ねた。

ヨキ > 「やあ、日恵野君。
 ……そう、見回り。そんなようなものだ」

(ビアトリクスの隣に立ち、フェンス越しに広がる遠景を見遣る。
 衣服の長い裾を揺らす風が、どことなく秋めいている)

「先日は邪魔をして済まなかった。
 あれから、君のことが気になっていた」

(ビアトリクスを見下ろす。
 設えられた灯りが照り返すでもなく、金の瞳が内側から蝋燭に、薄らと光っているように見える)

ビアトリクス > 「いえ。お気になさらず……」

少しの間を置き。

「あれから、ですか……。
 ……。特に進展はありませんよ」

手持ち無沙汰にスケッチブックをパラパラと捲る。
新しくおろしたばかりなのか、まだ白紙のページが多い。

「いいなりになるつもりもないけど……
 どうあの人に向き合っていいものか、わかりかねてて」

フェンスの隙間から、遠く学園地区の景色を眺める。
そよ風に、褪せた金色の髪が揺れる。

ヨキ > (『先日』――日恵野ビアトリクスと永久イーリスの『家族会議』のことだ。

 じっとビアトリクスを見下ろしていたのが、やおら地面へ腰を下ろす。
 仕立てのよいローブの裾がふわりと広がる。
 獣が眠るときのように、足を横へ緩く曲げて投げ出す)

「……君の母親は、魔術師だったな。
 君をどこへでも逃がしてやりたいが、どこへでも辿り着きそうな女性だと思った」

(泥濘のようなやり取りを思い出す)

「言いなりにはならないが、どうすればよいか判らない、と。
 …………。君、父君はご健在かね?他に親類は」

ビアトリクス > 「父……」
膝掛けを両手の指先でつまむ。

「父はいません、他の親類も。永久イーリスだけがぼくの親族です」

「どこまで本当かわかりませんが……
 あの人は次元を自在に渡り歩く魔術師だと聞いています。
 おそらくこの世界が出身ではないのでしょう」

ため息。

「できれば相手なんてしたくないし、
 逃げられれば逃げたいんですけど――
 そうもいかないらしい。やれやれ」

視線は地面へと落とされる。

ヨキ > (親類はいない、という言葉に、そうか、とだけ短く答える)

「次元を、渡り歩く……」

(一瞬の沈黙、)

「逃げられない以上は、従うか、打ち克つかの二択か。
 ……あるいはこんな会話だって、盗み聞くのも容易かったりするのだろうな。
 
 …………。
 決断するのは君ひとりかも知れんが、何もひとりで立ち向かう必要はないだろう?
 例えば神宮司君……いや。君の性格からして、巻き込むのは好かなさそうだ」

(傍らの、スケッチブックを一瞥する)

「……絵のほかに、気晴らしの方法はあるのか?」

ビアトリクス > 「監視していない……とは言い切れませんね。
 まあ……逐一盗み聞きするほど、暇ではない……と、思いたいところですが」

鉛筆をくるくると指で回す。

「ちはやですか……。
 彼にもその提案はされましたが――
 ちはやとあの人を対面させたくない、というのが正直なところです」

こうべを横に振った。

「でも、そんなに悲観することばかりではなくて。
 常世学園で過ごして、いろいろ学んで……
 少しは自分のことも客観的に見れるようになりました。
 だから――少しは、あの人のことがわかるような気がします。
 どうしてぼくにこんな仕打ちをするのか――というのが。
 わかったからといって、何ができる、というわけでもないんですけど」

横顔で、かすかな笑みを浮かべて見せる。
気晴らしについての問に、ヨキのほうを向いて両腕を広げる。

「この通り――女性の格好をすることでしょうか。
 あんまり、普通の人のするような、楽しみ方というのは知らなくて。
 そういえば、ヨキ先生のその服装も――趣味ですか?」