2015/09/26 のログ
ご案内:「美術部部室」にビアトリクスさんが現れました。
ビアトリクス > 芸術の秋。
常世学園にもある学園祭――その開催が少しずつ近づいていた。
この美術部でも、学園祭で行われる展示物の制作に、部員は日々勤しんでいる。

美術部の部員の一人である、日恵野ビアトリクスが
その日部室で何をしていたかというと――

「待てこの!」

バサバサバサバサ――

部室を所狭しと飛び回る色とりどりの数羽のハト。
それを追いかけていた。

ビアトリクス > 別に美術部が最近になってハトの放し飼いを始めたわけではない。
ビアトリクスの正体不明の異能によるものだった。
息せき切って駆けまわってようやく一羽捕まえると、
ハトは藻掻きながら滲むようにして、幻のように消えた。

「“時間切れ”を待ってもよかったんだけど――」

もともと散らかっていた部室だが、ハトが暴れたおかげで
画材や作品がよけいに散らばってしまった。

「手慰みに動物の絵を描くだけでこれじゃあな……」

異能の制御に成功するどころか日に日に悪化していく。
これではまともに絵の練習などできるはずもない。

異能によって製作された作品の企画展がある――という話は聞いていた。
しかしこの異能では参加は不可能だろう。
何しろ時間経過によって揮発してしまうのだから。

「相変わらずぼくの異能は使えそうで使えないな……」

嘆息。

ビアトリクス > (“絵に描いたものが現実になる”――小学生の妄想みたいな異能だな)

あまり認めたくない話だったが、そういう異能として認識するしかないようだった。
何から何まで受肉するというわけでもないようだが。

しかし、ビアトリクスは現実はこうなってほしいと考えながら
絵を描いているわけではない。
ないのだが……。

(どうにもこの異能というやつはぼくの心をいじめてくるな)

とはいえ、《踊るひとがた》がビアトリクスにとって
どうしようもなく使い勝手の悪い異能だった認識が深まった時ほど
現実には悲観してはいなかった。
なんとかなるだろう――なんとなく、そう考えていた。

ビアトリクス > ぼんやりしているうちにハトは全て消えていた。
後には羽毛も残らない。残っているのは散らかった部屋だけ。
片付けはしなければならない。

「それにしても……
 この異能というやつはなんなんだろうな」

人の機能にはなく、修練や学習なしにいきなり身につく力。
それなのに異能者はその異能の使い方を知っている。

――というのがほとんどなのだが、
ビアトリクスは新たに発現したこの異能の使い方がわからない。
あるということだけがわかる。その全貌と詳細が掴めない。
それがどうにもひっかかってしょうがない――

ビアトリクス > (――ま、考えてもわからないんだけどさ……)

世の中には意味のあることというのは本当は少ない。
無理に意味を求めようとすること自体が間違っている可能性がある。
さしあたって向き合わなければいけない現実は、
荒廃した部室をどうにかすることだろう。

何度目かのため息をついて、部室の片付けへと乗り出す――

ご案内:「美術部部室」からビアトリクスさんが去りました。
ご案内:「美術部の部室」に織一さんが現れました。