2015/10/20 のログ
ヨキ > 「ふふ。人の作ったものには、人の考えや人柄が出るからな。
 相手に面と向かうことと同じように、作品にも真摯に向き合わねば失礼になる」

(気を害した様子はない。
 ビアトリクスが引き起こした刺原のポップに、渋い顔で目を逸らした)

「…………。流血沙汰はいかんぞ……」

(ごほん。小さく咳払い)

「何もない空間に、何かが居るかもしれない、と空想してしまうことは、人間の性質のひとつだからな。
 それが恐怖ではなく、何らかの期待めいた形で表れる分には、それが君の支えであったということだろう」

(腕を組む。ビアトリクスへ身体ごと向き直る)

「いかがかね。
 見たものを見たまま描くばかりだったことから、何かしら抜け出したものはあったか?

 作品に、何も教訓めいたものを含める必要はない。
 それでも、ただ技術や『描かねばならぬ』という焦りからしか生まれぬものは……
 どうしたって、硬くなってしまうからな。この絵は随分と……和らいだように思うよ」

ビアトリクス > 「……そうですね。
 きっと捉え方によっては、同じものを描いても
 別の趣を持つものとなったでしょう。
 それはそれで、価値のあるものでしょうが」

キャンバスにあるのは、薄暗くもどこか牧歌的な光景。
人の寄り付かぬ場所で饗宴を繰り広げる怪異。
それがどう映るかは……まさしく、それぞれ異なるのだろう。

「ええ、少しは。まだまだ精進の足りない身ですが。
 枷が創作に必要なことはありますが……
 ぼくの痩せた身体には、少し重すぎたらしく」

棚から白い札とサインペンを取り、少し考えあぐねた様子で。

「……ヨキ先生なら、この絵に、どんな題を付けます?」

そう問うた。

ヨキ > 「ヨキは元から、人ならざる者であったからな。
 だからこそこの絵に対しても、温度を先に感じ取るのだろう。
 違和感や不自然さを感じ取ってしまう者も、きっと少なからず居るはずだ。
 だがそうした異界が、何気なく飾られること……
 絵を描くことも、明日からの常世祭も。それらが全く自由なことの表れだ」

(歩み寄る。ビアトリクスの傍らで、木彫りの熊を取る。
 自分の手に『生き血』を滴らすような傷がないことを確認してから、その細部を眺めた。
 『腕は確かだ』と一言評して、そっと机上に戻す)

「枷を科することは、元来合う者と、合わぬ者がある。
 もちろん、枷で縛られることによってこそ、自由に想像を広げられる者もあるだろう。
 しかし君は……そうではなかった、と。

 学生である、ということは、それだけで芸術家にとっては制約たり得るものさ。
 ……題?」

(ビアトリクスに問われて、キャンバスへ目を向ける。
 口元に手を添えて、少し考える。
 温室の廃墟と、そこで歓談する存在のあえかな者たち……)

「……そうだな。
 ヨキがこの絵を名付けるとしたら……

 ――『カンバセーション・ピース』、といったところか」

(『conversation piece』。
 和やかな群像――団欒画。転じて、話題となるもの、話の種。
 非現実の怪異こそが現実たる、常世島の日常)

ビアトリクス > 「……あるいは、もう少しぼくに合う枷が、他にあるのかもしれませんが……
 少なくとも今は、それを必要とはしません」

先ほど伏せたポップを、どうしようか迷って……
やはりそのままでも悪いと思ったのかやっぱり立てる。
小洒落た出来なのが微妙に腹立たしい。

ヨキの提案した題に、ほう、と感嘆の息を吐いて、目をしばたたく。

「ヨキ先生らしい感じ方ですね。……とても素敵です。
 ……ぼくは、きっと、この常世島のことが好きです。
 特別、何かを伝えたくて筆を取ったわけではありませんが、
 この絵を見た人が、この島のことをもっと好きになってくれたらいい……
 とも、思います」

素朴に、素直にそう口にする。そう言えるようになっていた。
『頂きますね』と、サインペンを走らせ――
自らの名と、題――『conversation piece』を札に記し、絵に取り付けた。
幻であり、しかし同時に現でもある――その相反する事実を、示す題。

「お話ありがとうございました。
 それでは。
 次は常世祭でお会いしましょう、先生」

エプロンを取り、絵に埃よけをかぶせ。
にこり、と微笑みかけて一礼し、部室を後にしていく……

ヨキ > 「学生を終えれば、次なる枷は自ずとやってくる。
 芸術家が芸術によって生きるということは、いつの世もサバイバルめいているものだ」

(ペンを走らせるビアトリクスへ、悪戯っぽく目を細める。
 自分が口にした通りの題が、絵に添えて飾られる)

「ほう?それはそれは……タイトルの使用料でも、頂いておきたいところだが。
 君に免じて、サービスとしておいてやろう」

(全くの冗談。
 ビアトリクスの表情が柔らかく変化し、言葉に明るい豊かさの増していることに、
 ヨキもまた充足感に満ちて微笑む)

「…………。他者へ伝える力のないものに、名前を与えることは出来ない。
 ヨキが題を与えることが出来たのは、ひとえに君の考えと筆とが、それだけの力を持っていたからさ。
 安心するがいい。賑わいのない祭りに、人は惹かれなどせん。
 この絵は立派に――常世祭の一部として、見た者の心に残るだろうよ」

(ビアトリクスへ首肯を返す。
 去ってゆく背を見送り、翌日の目覚めを待つかのようにしんと眠る作品たちを見渡して――
 ヨキもまた、静かに部屋を後にする)

ご案内:「美術部部室」からヨキさんが去りました。
ご案内:「美術部部室」からビアトリクスさんが去りました。