2015/10/21 のログ
ご案内:「部室棟」に朱堂 緑さんが現れました。
朱堂 緑 > 世は喜色満面の学園祭期間である。
だが、そんなことは関係ないとばかりに不景気な面を引っ提げた男が此処に一人。
腕には公安委員会の腕章をつけ、重苦しいコートを羽織り、びしっとネクタイまで絞めた制服姿。
世間は無礼講のお祭り期間だというのに、全く空気を読んでいない堅苦しい装いである。
壁に背を預け、缶コーヒーを啜り、何やら周囲に視線を巡らせているその姿は、一目見ればすわ張り込みかといった有様である。
だが、男はそんな周囲の評価など我関せずと言った様子で、何度も壁掛けの時計を確認している。
人待ちのようである。

ご案内:「部室棟」に麻美子さんが現れました。
麻美子 > 少し離れた場所から、男と同じくキョロキョロとあたりを見渡しながら、
ゆるふわカールの髪からぴょこんと飛び出たショートポニーが揺らしながら、一人の少女が歩いてくる。
重苦しいコートに、びしっとネクタイまでしめて、あまつさえ腕章までつけている男を見ると、
ハァ、とうんざりするようなため息を漏らした。

(………緑サン、今日は折角の学園祭で、しかもデートなんスよ?)

少女、麻美子はくすっと笑うと、そのいつも通りの恋人に後ろから声をかけた。

「張り込みッスか?学園祭の時までご苦労様ッスねー。」

ケラケラと笑って、その姿を皮肉る。
そんな麻美子は、いつも通りの装いだ。

それでも、ネイルの色が少し違っていたり、髪留めがいつもと違ったり。
少しだけいつもと違う香りがしたり。……なんだかんだで気を使ったような要素はあるのだが。

朱堂 緑 > 背後から声をかけられると、少し驚いたように振り向いてから、男は口元だけを歪めて笑みを象る。
大凡、好意を寄せる人物……しかも恋人に向ける笑みには見えないかもしれないが、いつも通りである。
そういう顔つきであり、笑顔も滲み付いたものなのだ。
今回、好意以上の他意はない。少なくとも男にはない。
伝わる相手がどれだけいるかはしれないが、それこそ目前の彼女にその心配をする必要はない。
互いに良くわかっていることだ。
 
「まぁな。だが、目当ての容疑者も丁度現れてくれたことだし、張り込みはこれで終わりだ」
 
そういって、缶コーヒーを飲み干すと、空き缶を屑籠に放り投げて、空いた左手を差し出して手を取る。
僅かに普段と違う香りがしているのが、男にも分かる。
ネイルやら髪留めの色が違うのもなんとなくわかる。
でも、自分の勘違いだったらどうしてくれようなどと思うと、指摘するには至らない。
故にか、口から出てくる言葉はいつもの調子の言葉だった。

「さて、それじゃあ麻美子。これから今日一日連行させてもらうが、構わないな?」
 
素直にデート言えばいいのだが、それは気恥ずかしい。
何をいまさらと言われればそれまでではあるが、まぁそこは複雑な男心である。
男もそこまで年をとっているわけではない。

麻美子 > 歪んだ笑みにケラケラとした笑みを向ける。
こちらも作り笑いにしか見えないが、そういう顔つきであり、笑顔も滲み付いたもの。

………つまり、二人のいつも通りだ。

「あー、任意同行ッスか?仕方ないッスねー。
 それじゃ、容疑者が逃げないようにしっかり捕まえとくッスよ。」

麻美子はにへらっと笑って、手を差し出す。

「それで?容疑者の麻美子に何かいう事は無いんスか?
 手配書と人相が少し違うなとか。今日も可愛いなとか。」

ん?と首を傾げて、目の前の察しの悪い恋人に助け舟を出す。

朱堂 緑 > 容易に先回りされて、流石に笑みに苦味が混じる。
この彼女は本当に何でも御見通しなのだ。
助太刀に甘んじるのは情けないような気もするが、折角の施しである。
差し出された手を改めてとりながら、一度だけ覚悟するように溜息をついて、口を開く。
 
「……ネイルに髪留め、あと香水か? 確かに普段と違うが、どれも似合ってる。いい趣味だ」
 
若干自信なさげにそういうのは、以前に間違えたことがあるからである。
いつもと同じものを付けているのに「変えたか?」ときいたこともあれば、そもそも気付かずにスルーしたこともある。
どっちもやらかしたことがある男からすると、この答え合わせも中々におっかなびっくりである。

麻美子 > 「ピンポーン、正解ッス!!それじゃ、賞品を進呈するッスよ!!」

パチンと指を鳴らして満足気に笑うと、少しだけ背伸びすると頬に口づけする。
緑が指摘した通り、いつもと少しだけ違う香りがふわりと漂った。

「さすがに、間違えなくなって来たッスね。
 スルーされるのはともかく、変わってないのに変わったか?
 なんて言うのはさすがに乙女に失礼ッスからねー。

 ………ま、緑サンだと仕方ないのかもしれないッスけどね。
 思い出、ちゃんと麻美子で埋まってるみたいで何よりッス。」

ケラケラと笑って手を取られたついでに軽やかなステップで横に立つと、
緑の腕に自分の腕をからめて改めて手を握る。

「まったく、もっとちゃんと確保しとかないと容疑者に逃げられちゃうッスよ?
 
 ―――それじゃ、まずはどこから行くッスか?当然、ちゃんと考えてあるッスよね?」

横から彼の顔を見上げるように、笑いかける。

朱堂 緑 > 突如進呈された豪華賞品に意図せず頬が染まる。
いい加減慣れるべきだと男も自分では思っているのだが、それで慣れられたら苦労はしない。
故に、この案件に関するイニシアチブは常に麻美子にあるのだ。
防戦一方になるのも已む無しである。
 
握られた手を軽く握り返しながら、若干憮然とした表情で前を見る。
ささやかな抵抗の照れ隠しだが、まぁ、まるで無駄だ。
 
「俺は一途な方なんでね。それに考え込むほうでもある。
そうなれば、一度好きな相手が何で好きなのかなんて事を考え出せば、頭の中はそりゃあそれで一杯になる。
分かりやすい話だろう。
プランのほうは任せとけ。流石にそこまで手ぶらってわけじゃない」
 
そういって、顎で示した先にあるのは園芸部の喫茶店である。
といっても、これから出歩くのだから早速そこで休むわけではない。
お目当てはそこのカウンターで売っているミックスジュースだ。
とりあえずそれでも飲みながらうろつこうという算段である。
 
「ほら、好きなの選べ。奢ってやる」

麻美子 > 「園芸部の収穫した果物とか野菜を使ったミックスジュースッスか。
 ……果物とか作るの大変そうなのによくやるッスねー。」

麻美子は、「どれにするッスかねー」と呟きながらメニューを順番に眺めて行く。
指定した果物や野菜を自由に組み合わせて好きなミックスジュースが作れるらしい。

不安な人向けなのか、『美味しくお任せ』というメニューもあるが、
『チャレンジなお任せ』だとか『激マズお任せ』だとか『運試しお任せ』だとか、
そういったメニューがあるのは、ある意味では学園祭らしいのかもしれない。
麻美子はその所謂ネタメニューがあるあたりを指差して、隣の彼に笑いかける。

「……このへんとか面白そうッスよ?
 緑サン、なんかチャレンジしてみるッスか?」

朱堂 緑 > 「まぁ、農作業って時点で重労働ではあろうが、この常世島は最新科学だけでなく、異能や魔術の研究も活発な一種のアーコロジーだ。
外の学校でやるよりは幾分か楽だろうさ」
 
事実、ハウス栽培宜しく、この季節にはどう考えてもなさそうな野菜や果物の名前もチラホラ並んでいる。
それどころか、異邦人が持ち込んだ異界由来の良くわからないものまであるらしい。
ここでチャレンジメニューやら運試しメニューを頼んだら何が出てくるか本当に分かったものではない。
その上で、チャレンジの提案をしてくる麻美子は相当に肝が据わっていると思う。
 
「個人的には冒険はこういう時避けるのが信条なんだが……まぁ、話の種と思えば悪くもないか。
一つ、運試しといってみようじゃないか。
すいませーん、運試しお任せ一つ」
 
そういって、早速ひとつ頼んでみる。
 

朱堂 緑 > [1d6→5=5]
朱堂 緑 > 何やら引っ掻き回して差し出されたジュースはまぁ、それなりに飲めそうな代物だった。
少なくとも色合いや匂いは悪くないし、妙な粘性を帯びてもいない。
爽やかな口当たりの柑橘系のジュースが炭酸で割られている。
 
「おお、なんだ美味いじゃねぇか。今日の俺はそれなりに運がいいみたいだな」

麻美子 > 「麻美子とデートしてるんスから、今日の緑サンの運がいいのは当たり前ッスよ。
 ………それじゃ、麻美子も運試しお任せで頼むッスよ。
 
 ―――不味かったら半分こッスからね。」

ケラケラと笑うとジュースを受け取って、一口―――。

麻美子 > [1d6→5=5]
麻美子 > ガチャガチャとかき回され、差し出されたジュースは緑に出されたものと概ね同じ、
こちらは葡萄系のものが炭酸で割られているようなものだった。

「ここはチャレンジお任せとか、激マズお任せとかを頼むべきだったッスかねー。
 麻美子も普通の葡萄ジュースッス。残念だったらなんだったやらッスね。

 ……ちょっと飲んでみるッスか?」

ゆらゆらとそのジュースを揺らすと、片手に持って緑の手を取る。

「学園内でこんなに色んな種類の野菜やら果物が取れるのは驚きッスね。
 まぁ、麻美子は重労働は御免ッスけど。」

「ご興味あったら体験入部とかどうですかと、
小麦色の肌の生徒が差し出す紙を「ジュース美味しかったッスよ。」と断って、緑の手を引く。

「それじゃ、次行くッスよ。」

朱堂 緑 > 「まぁいいじゃねぇか。麻美子のラッキーに俺も肖ったってことなんだろうしな。
麻美子は幸運の女神様ってことで此処はひとつ納めとこう。
俺みたいな仕事してるとありがたい話だぜ。
ん? じゃあ、交換するか」
 
そういって、自分が飲んでいる柑橘系の炭酸と交換して、一口飲む。
葡萄の上品な甘みが後味を引いて美味い。
間接なんたらではあるが、まぁ、流石にこれは慣れたものである。
 
「葡萄系のも悪くないな、ありがとよ。
それじゃあ、次はあっちでもいくか」
 
ジュースを麻美子に返しながら、先に進む。
学生たちの作った手製の看板の前を横切りつつ、向かう先は廊下の隅。
公安委員の腕章が普段だったらもうちょっと目立つものなのだが、見回りついでくらいにしか思われていないのか、今日は別に誰も気にしていない。
せいぜい警邏生徒その1、くらいにしか思われていないのだろう。
普段ほど、生徒から怪訝な目で見られもせずに辿りついた先は写真部の出し物。
 
「やっぱり学園祭と来たらこれは定番かと思ってな」
 
お化け屋敷である。

麻美子 > 麻美子も緑のジュースを一口飲んで、緑に返す。

「こっちも悪くないッスね。さすが、麻美子は幸運の女神ッス。
 ………えっと、で、ここはお化け屋敷ッスよね?確かに定番ッスけど。

 緑サン、麻美子がお化け屋敷とか苦手って知って言ってるッスか?」

ギギギと音を立てるように顔を向けると、
明らかに苦笑いを浮かべて、頬から汗を流しながら、ぶんぶんと手を振る。

「お化けとか物理法則とか無視してきそうじゃないッスか!!!
 麻美子そういう麻美子の異能が効かない相手は無理ッス、非科学的ッス!!!」

朱堂 緑 > 「ああ、よく知ってる。知ってるから克服のいい機会かと思ってなぁ。
まぁそれは建前で単純に愛する麻美子の色々な表情を見たいと思っただけだ。
生きた表情を見るのは大事な事だからな。
そういうのは良く思い出に残るし忘れにくい」
 
わざとらしくそういって、ニヤァっと笑う。
常日頃からイニシアチブを握られっぱなしのこの男からすれば微かな復讐の機会なのである。
今日のデートプランを最後まで麻美子に言わなかったのはこのためともいえる。
 
「ここんちのは出来がイイらしいからなぁ、ほらいくぞ麻美子。
出来が良すぎて妙だから調べて欲しいって要望も少なからずあるんだ」

十中八九悪戯であるが、今はどちらでもいいことだ。

「何にせよ、一日連行されるって約束だろう。諦めろ」
 
半ば強引に手を引きながら中に入っていく。

麻美子 > 「克服だろうが愛故だろうがそんな愛は麻美子要らないッス!!
 
 ……なるほど、よく残るならしかたな―――く、無くないッスか?
 別にこういう所じゃなくてもそういう生きた表情は見れるッスよ!!他に行くッス!!」

ぐいぐいと手を引きながら、ぶんぶんと手を振る。

「その妙って通報の信憑性はちゃんとあるんスか!?
 嫌ッス!!麻美子はそんな偽情報には踊らされたりしないッスよーーーー!?」

半ば引きずられるようにしながら、お化け屋敷の中へと入って行く。
入るまではイヤイヤと後ろに引っ張っていたが、中に入ると観念したように緑にがっしり抱き着いた。

「あーーーあーーーー!!!麻美子は何も聞こえないッスーーー!!!
 何も見えないッスーーーー!!!」

朱堂 緑 > 「はははは、麻美子、そんなに引っ付かれたら歩けないだろう」
 
日頃、翻弄されっぱなしの自分がこんな風にイニシアチブをとったのはいつ以来であろうか。
下手すれば付き合う前まで遡る羽目になるのではなかろうか。
それはそれで非常に情けないような気がするが、思い出せないということにして忘れよう。
手段を選ばず弱点を突いてこんなところに連れてきた時点で、最早プライドも何もあったものではないのだ。
 
「でも本当にくらいな。ライトくらい入口で渡せよ。
もしかしたら、こういうところが危ないから見て欲しいとかそういう要望だったのかもな。
だとすりゃあ、確かに運営側に進言しなきゃならんが……ほら、麻美子、いくぞ。そんな怖がらなくても大丈夫だ。多分。
とりあえず、壁に手をつきながら進むぞ」
 
そういって、引っ付いている麻美子を連れたまま、壁に手をつきながら真っ暗な部屋を歩く。
空間操作系の異能でも使っているのか、真っ直ぐ進んでいるにもかかわらず、何時まで経っても曲がり角すらない。
とっくに教室から飛び出して校舎外に出ているほどの距離を歩いているのだが、只管直線の一本道だ。
暗闇に目が慣れてはきたが、近場以外はあまりよく見えない。
さしあたって良く見えるのは日頃あんまり見ない麻美子の動揺っぷりくらいなものだ。