2015/10/22 のログ
麻美子 > 「絶対離さないッスよ、歩けないとか知った事じゃないッス!!気合いで歩くッス!!」

抱き着くように顔を埋め、まわりを見ないようにしながら進んで行く。

「壁に手をついたら奥からおっきい石が転がって来たり矢が飛んで来たりするんスよ!!
 麻美子知ってるッス!!映画で見たッス!!お約束ッス!!!
 麻美子はそんな安易な罠には絶対に引っかからないッス!!

 暗いの嫌ッスーーー!!!暗いと何も見えないッスーーーー!!!!」

埋めたままの顔をぐりぐりと左右に振りながら、
そのまま結局壁に手をつく事も無く引きずられるように歩いて行く。

「随分歩いたッスけど、出口はまだッスか?
 実は足元がベルトコンベアになってて歩いてるつもりで一歩も進んでないとかじゃないッスよね?

 ……とにかく早く外に出るッスよ、こんな恐ろしい建造物公安委員会権限で叩き潰してやるッス。」

もふぉもふぉと、緑の身体に埋まったままの口が動く。

朱堂 緑 > 「なんで唐突に物騒なパニックホラーになるんだよ。生きて返さない類なのかよここ」
 
そんな場所だったらそもそも認可が降りる訳がないのでまぁそんなことはない。
一種の演出なのだろうと男は結論付けて、ずるずると麻美子を引き摺りながら歩く。
暗いせいで視覚が弱まってはいるが、麻美子の存在はよくわかる。
抱き着いていること以上に、鋭敏になった嗅覚が麻美子の良い匂いを捉えているのだ。
人間は外見や声を忘れても相手の匂いは覚えているそうなのだから、これほど確かに存在を訴えるものもない。
 
「足元が動いている可能性はなくもないが……どっちにしろそれはそれで凝ってるな。
まぁ建築上問題があったら閉鎖せざるを得ないが、それは俺と麻美子が決める事じゃねぇからな?
……しかしさっきから、なんか、妙な音が聞こえるな」
 
耳元で聞こえる音は奇妙な囁き声のような音だ。
特に意味のある音ではなく、古いカセットテープか何かで録音されたような、よくわからない奇妙な音だ。
この御時勢に経年劣化させたカセットテープを準備したのだとしたら、まぁ大した手間ではあるといえる。

麻美子 > 「生きて返さないんスか?そりゃそうッスよね、お化けの屋敷ッスよ?
 勝手に入るなんて強盗か空き巣ッス、正当防衛でコンクリ詰めにして海に捨てられるッスよ!!」

別に意識してるわけでもなくぶんぶんと頭を振って、
髪の毛からその良い匂いを振り撒く。
とにかく喚き散らして周りの音を聞かない作戦だったようだが、
何か聞こえないか?という緑の言葉に黙って思わず耳を澄ませて―――。

「―――ヒッ!!!

 緑サンが変な事言うから聞いちゃったじゃないッスか!!!
 麻美子もう無理ッス!!!ギブッス!!!!リタイアするッスーーーー!!!!」

パッと手を放すと、耳をふさいで全速力で駆けだす。

朱堂 緑 > 「そんな治外法権認められたお化け屋敷存在してねぇよ。ヤクザじゃねーんだから。
日頃相手してる落第街の連中の方がよっぽど物騒……あ、おい! 麻美子!」
 
全速力で駆けだしてしまった麻美子を急いで追いかけるが、運動神経は麻美子の方が圧倒的に良いのだ。
男では追いつくことが出来ず、ぐんぐん距離が離されてしまう。
 
「離れるなって! 暗くてあぶねーから!」
 
そう言いながらもなんとか追いすがっては来たのか、麻美子の耳元で囁き声が聞こえる。
 
「リタイア? もうやめておく?」

麻美子 > 囁き声に一瞬ビクっとするが、聞きなれた声だと気がつくと抱き着く。
やめておく?という声にはふるふると首を振る。

「―――正直やめときたいッスけど。
 このお化け屋敷、外に出る前に奥にある黒板に二人の名前を書く時に、
 相合傘にして書くと末永く一緒に居れるってジンクスがあるんスよ。

 ………さっさと行って書いて帰るッス。」

目元を袖で拭うと、改めてぎゅっと緑の手を握って歩き出す。

「こんなお化け屋敷超余裕ッスよ。余裕余裕ッス。」

朱堂 緑 > 「そこまでちゃんとリサーチしてる当たり流石は麻美子ってところだな……」
 
それも秘密にしておいたつもりだったのだが、隠すまでもなかったらしい。
というか、そこまで知っているという事は、ある程度、計画は予見されていたのかもしれない。
その上でも此処にきてくれたというのは、いじらしいというか、なんというか。
本当に出来た彼女である。
 
「まぁ、そういうことならネタも割れたし……早くでちまおう。
余裕ってことは克服したってことで、そういうことなら無理に長居することもないからな」
 
そう、暗闇の中で薄笑いを浮かべて、麻美子の手を取って進むと……すぐに出口に出てしまった。
暗い通路を進んだだけで、終わり?
 
「……あれ? 脅かしらしい脅かしもなく終わりって、妙なところだな。
まぁ、雰囲気あって確かに不気味ではあったが……黒板って、これか?」
 
出口のすぐ横に黒板は確かにあった。
チョークも御丁寧に揃えておいてある。

麻美子 > 「それなら、さっさと書いて帰るッスよ。無駄に疲れたッス。」

ふぅ、と安堵の息をつくと、丁寧に置かれたそのチョークを手に取り、
―――手際よく二人の名前を相合傘にして書き込んで、満足気にほほ笑む。

「―――ま、こんなジンクスに頼らなくても、麻美子と緑サンはずっと一緒ッス―――。」

名前を書き終えた瞬間、それを見計らったように、
頭上からいきなり逆さまに髪の長い女がべしゃりと床に落ちてきた。

「ひっ!!!!なんスか!!なんなんスか!!!!」

毛が逆立つ勢いで叫ぶと、麻美子は出口のほうに走り出す。
しかしその出口は先にも使われていた空間系の異能によって作られたダミーだったらしく、
盛大に壁のようなものにぶつかった麻美子は自分のおでこを押さえた。

「いったッ!!!
 ――――このお化け屋敷作った人絶対性格悪いッス!!!!」

床に落ちた女はゆらりと立ち上がると、ひた、ひた、ひたと二人に歩み寄る。
麻美子はがっしと改めて緑の手を握ると、ふるふると震える。

「み、緑サン、どうするッスか?
 ……麻美子、塩とかお札とか何も持ってないッス。」

朱堂 緑 > 「ああ……そういえば聞いたことがあるな。
木登りの達人は弟子が木から降りる寸前のところになると必ず『気をつけろ』と声をかけるっていう逸話。
目標達成前か、それを達成した直後は確かに一番気が緩むからな……それを狙っていたわけか。
なるほど。効果的だ」
 
一部始終を観察して、よくできているなぁと感心していると、そのまま麻美子が戻ってきてしっかり手を握る。
まぁ、あれは自分もやられたら驚くし、しょうがないな、などと男は思った。
実際、今現在ひたひたと近寄ってくる女は中々雰囲気が出ていて恐ろしい。
 
「俺もそういったものは持ってないし渡されてもいねぇよ。
まぁ、演出から考えると此処は逃げるのが妥当な気がするが……ちょっと今みたいなのはやりすぎだしな。
少し注意しとくか。おい、アンタ」
 
と、男が声をかけた直後。

朱堂 緑 >  
 
 
『おしあわせに』 
 
 
 
 

朱堂 緑 > そう、女が呟いたところで、唐突に白に染まる。
今度は閃光か何かで脅かすのか? などと思っていたが、どうもそうではないらしい。
よくみれば、廊下の隅に二人は立っていた。
単純に暗闇の中から光の中に放り出されて、目が眩んだのだ。
 
「終わり、か?
……最小の効率で最大の効果っていう趣旨とでも、理解すりゃいいのかな?」
 
廊下の隅で麻美子の手を握って周囲を見ながら、そんなことを呟く。
確かに良く出来ているとは思う。
驚かせることだけを主眼に置くなら一発勝負のほうがまぁ効率的だろう。
だが、お化け屋敷はそんなに効率だのなんだの重視するものだったろうか。
男は首を傾げた。

麻美子 > 「………。」

口から何かが漏れ出ているような表情で呆然と突っ立っていたが、
やがて、きょろきょろとあたりを見渡す。

「終わったんスかね。」

はーと安堵の息をついて、改めて緑の手を握り直す。

「本当、ガチで怖がらせに来るお化け屋敷だったッスね。
 不意打ちというか、なんというか、真剣に怖かったッス。」

あいた手で少しずれた眼鏡を直しながら、緑を見上げる。

「………今日は一人じゃ寝れなそうッス、一緒に寝るッスよ。」

朱堂 緑 > 「ははは、そりゃあ役得だな。
まぁそういうことならあの不可解なお化け屋敷にも感謝だな」
 
などと言いながら、少しズレた眼鏡を直しながらこっちを見上げてくる麻美子を見て笑う。
満足したのだしこれはこれでいいかと思いながら、二人で揃って歩いていくと。
 
 
目前に現れたのは、写真部の看板が下げられたお化け屋敷。
 
 
「……」
 
さっきのお化け屋敷は『廊下の隅の教室』にあった。
こっちは『通路の中ほどの教室』にある。 
というか、手作り感あふれた学園祭らしい代物で、さっきの奴とは全く違う。
部員から「どうです? お二人さん入って行かない?」などと気さくに話しかけられる始末。
思わず、擬音がつくような勢いで振り返って先ほどまでいた廊下の隅を見る。
 
 
「……」

 
何もない。空き教室どころかそもそも、そこは……『突き当り』だ。
自販機すらおいてないただの袋小路である。
入口も出口も何もない。あるわけがない。
……では、先ほどまで二人がいた場所は? 
 
「……なんか、あったかい物でも飲みにいくか麻美子。ちょっと冷えた気がする」
 
そう、苦笑いを漏らす。

麻美子 > 「そうッスね、何かあったかい飲み物でも飲みに行くッスよ。」

乾いた笑いを浮かべながら、その「突きあたり」を見る。
「どうしたんですか?お化け屋敷は嫌いですか?」
と、聞いてくる部員に「麻美子、お化け屋敷はもう大っ嫌いッス」と返しつつ、くるりと振り返る。

「………広報紙のネタにはなりそうッスけど、
 麻美子はもう広報部じゃないッスから。関係ないッス。
 
 それはもうきれいさっぱり、すっきり頭から追い出すッスよ。
 面白いネタは好きッスけど、当事者になるのは勘弁ッス。」

ふるふると頭を振ると、その場から逃げるように歩き出した。

朱堂 緑 > 「俺も管轄外だからな……ああいうのは別の専門の部署に任せたいところだ」
 
とりあえず、祝福もしてくれたことだし、仮に「管轄外の何か」だとしても悪いようにはしないでくれるだろう。多分。
まぁ、いざとなったら本物のネクロマンサーもいれば神も悪魔もいる常世島だ。
ヤバくなったらそういう管轄の連中に頼むとして、今は麻美子の提案に乗ってお互いに忘れよう。
そう心中でひとりごちてから、嘆息混じりに男は呟く。
 
「今夜は出来れば……俺もベッドからは出たくないな」
 
冗談めかしてそう強がってはみたが、上手く出来たかどうかはわからない。
ここまで含めてお化け屋敷の効能なのだとしたら大したものだ。
吊り橋効果で片付ける連中は机上でしか物が見れないのだなと今だけは罵りたい気分である。
 
「とりあえず、いくか……今日のところは飲み物飲んだら帰るぞ。
続きはまた今度だ。学園祭期間は長いからな」
 
ひとまず、震える麻美子の手を握り返して、その場を後にする。
そのあと飲んだコーヒーはただ温かい意外に特筆することもない味の代物だったのだが、何故かとても美味かった

ご案内:「部室棟」から麻美子さんが去りました。
ご案内:「部室棟」から朱堂 緑さんが去りました。