2016/07/03 のログ
インフラブラック >  
中指立ててる……
言い返してる……

「フッ、これも因果か」

筐体の中に入り、目を瞑ってステージ選択を待つ。
そして次に見開いた瞳は、城砦ステージ。

いける。

視界は悪いが、重量級にプラズマスピアで粘着するにはこれ以上ないステージ。

「任された……信じようと、信じまいと」
「歪んだ現実を前に、私は戦おう」
「真の闇は、焔を裂き紅蓮を喰らう」

漆黒の軽量機が、フィールドを駆ける。

「くれぐれも神斬を私の領域に入れないことだ…」
死ぬからね。

アンジェラのホーリーブルはガンメタルカラーの重量機を悠然と動かす。

そこに城の裏から回りこんで強襲するのが手。

『それで』
アンジェラの声がゲームセンターに響いた。
次の瞬間、城の一部がグレネードランチャーで爆砕され、プラズマスピアを構えたカレイドスコープ・シャドウの姿が丸見えになっていた。
『何をしたいわけ?』

観客が沸いた。

鬼灯 怜奈 > 「こうすンだよッ!」

神斬の駆るランカーTG≪烈光≫が、カレイドスコープ・シャドウの背面から奇襲を仕掛けたその時だ。
クリムゾンタイドの真紅のボディが、機体ごとぶつかっていく。
バーニアを吹かし姿勢を整える烈光。両腕に装備された折り畳み式ブレードを翻し、周囲の木々を両断した。

「イライラしてンじゃねえぞ、オラァッ!」

ショットガンを打ち据えるように吐き散らし、木々から木々へと機敏に逃れる烈光を、茂みの彼方へと追い立てていく。

「クク……ハハハ。」
「よかろう小僧。しばし、我と戯れる権利をやろう」

次々と背部コンテナから上空へと立ち上るミサイルが、矢継ぎ早にカレイドスコープ・シャドウ目掛けて降り注いでゆく。

「さあ、足掻け。恐れよ。この我と……このホーリーブルの圧倒的な力をな!」

インフラブラック > 「クリムゾンタイド……」

近接型ギアを追い立てる鬼灯怜奈の機体。
この信頼を裏切れば、敗北の味を覚えてしまう。

「……! 魔が齎す死の気配褪せず……」

ミサイルを上空に跳んで回避しながら攻める機会を待つ。
それでも相手のミサイルは尽きる気配がない。
それどころか爆風という名の至近弾でこっちは装甲が削れてきている。

『これは狩猟よ、我が一方的に狩るだけの』

ミサイルの軌道の設定がまた恐ろしい。
こちらの回避ルートを的確に潰してくる。
そしてこちらが軌道を迷った一瞬を突いて、爆発する。

「くっ………青き空を漫ろ歩むだけが、このカレイドスコープ・シャドウの…うっ」

テンパって上擦った声を出す。
普段出している低い声ではなく、地声の少し高い声で。

鬼灯 怜奈 > 「いつもの調子でやりゃいいんだよ!」
「ミサイルも無限ってわけじゃねえ! そいつァ排熱のタイミングで動きを止める!」

怜奈が舌打ちしたタイミングで、烈光も攻勢に出る。
おびき寄せたのは怜奈か、はたまた神斬の方か。
サイドからの斬撃かと思えば、城壁を蹴り付け上方からも斬り込んでくる。
怜奈が依然より苦手としてきた三次元挙動だ。
致命傷こそまだないものの、ショットガンの残弾は着実に減っている。

「アタシよかうめーんだよ、お前は!」
「それを見せつけろってんだッ!」

インフラブラック > 怜奈の声に、ハッとする。
怜奈も余裕がないはずなのに、自分に声をかけてくれる。
情けない。情けない情けない情けない。
こんなの……インフラブラックじゃない。

次の瞬間、空中で爆発が起きた。

『ゲームオーバー』

アンジェラの声が響き、観客が感嘆の溜息を漏らす。

その時。
「真の闇は」

インフラブラックの声が響く。

「焔を裂き……紅蓮を喰らう!」

プラズマスピアが爆風を切り裂いた。
格闘を精妙に操作しなければできない芸当。
そしてそのままの勢いでホーリーブルに迫った。

『!?』

咄嗟にグレネードを構えるホーリーブルの銃口を、プラズマスピアの柄が弾いた。
軌道を逸らされたグレネードランチャーは真上に発射される。
折りしも廃熱のタイミング、ホーリーブルは動けない。

「綺麗な花火だな、だが」

加速。ホーリーブルの周囲を回るように加速しながら、カレイドスコープ・シャドウが槍で相手の重装甲を削り取っていく。

「何がしたいんだ?」

そう低く言いながら、攻める。攻める。攻める。

鬼灯 怜奈 > 「……!? アンジェラ!」

無言を貫いていた神斬が声を荒げたその刹那。
斬撃を仕掛けたはずの烈光の胴体を、クリムゾンタイドのエネルギーブレードが刺し穿つ。

「アンタ、感情的になると雑になる癖やめた方がいーぜ? へへ……。」

救援を急いだ烈光が直線的に仕掛けると同時。
計っていたかのように、設置されたエネルギーブレードごと、左腕部を打ち込んだのである。

「あばよ、オッサン。」

ひと薙ぎ。
両断された烈光の残骸が、爆発四散。

インフラブラック > 『神斬ッ!』

アンジェラの声が響く。
その隙は、インフラブラックにとって……その機体、カレイドスコープ・シャドウにとって決定的だ。

「終焉を受け入れるがいい」

プラズマスピアを構えてブースターを全開。
穂先は確実にホーリーブルを捉え、刺し貫いた。

「愛する家族のようにな」

ホーリーブルの腕が虚空を掻いて倒れこむ。
カレイドスコープ・シャドウが離れると、ホーリーブルは爆発した。

鬼灯 怜奈 > 画面のインジケータ上にWINの文字が躍り出ると同時、集まっていたギャラリーたちの歓声が沸き上がった。
勝利者である二人の名前の後ろには、ランク50、51と表記が続く。

「ま、上の数字はしばらく貸しといてやンよ。」
ランク51へと昇格した怜奈が、マイク越しにからからと笑う。

一方ランクを剥奪されたアンジェラたち。

「……すまん。」

「気に病むな。我の慢心が元の種よ。」
「所詮はただの数字。ならば取り戻せば良い。」

モニタ越しに静かに頷く神斬の顔を見て、アンジェラはしばし目を閉じる。

インフラブラック > 「ランク50……」

これで鬼灯怜奈とインフラブラックの名が売れることになる。
高揚感と、満足感と、不安感と。
全部綯い交ぜになって、奇妙な感情。

「フッ、私たちは至尊への道を踏み出したに過ぎない…興じよう、この先の地獄を」

筐体からはまだ降りない。だって手が震えていたから。
インフラブラックは……違う。
ランク50はこの程度で震えていてはだめだ。

繋がったままの回線、アンジェラと神斬に話しかける。

「これで名実共に死を超越させてもらった…」
「暗闇は重責など感じない、漆黒は恐怖など感じない」
「ククク……挑むがいい、このインフラブラックにな」

観客から歓声が上がる。
その多くは、絶対負かすとかさっさと降りろとか、そんな言葉ばかりで。

鬼灯 怜奈 > 筐体から降りる面々。周囲の声々は今尚も続く。
アンジェラと視線が交わう。
怜奈の言葉を待たず、アンドェラが先に口を開いた

「敗者が交わす言葉などない。」

「ンだよツレねーな。」
「ンまあ……またやろうぜ。」
「次は1on1でアンタをボコボコにしてやるよ。」

「……。」

鼻を鳴らして立ち去るアンジェラと神斬。

「次は負けぬ。」

「ケッ。」

腕組みしながら、怜奈はその背中を見送った。


その晩アンジェラは、あまりの悔しさに神斬相手に一晩中SNSで一方的に絡んだあと、飼い猫12匹に泣きついていたという。
つづく。

ご案内:「部室棟」から鬼灯 怜奈さんが去りました。
ご案内:「部室棟」からインフラブラックさんが去りました。