2015/07/13 のログ
ご案内:「図書館」に緋群ハバキさんが現れました。
■緋群ハバキ > 数冊のハードカバーを抱え、赤マフラーの少年が自習席へと腰を下ろす。
試験前であってもわざわざ図書館を訪れ自習に勤しむ事も稀だった彼が、自主的に本を求める姿というのは余人には奇妙に映るかも知れない。
常であれば良く言えばにこやかな、悪く言えば緩んだその顔に浮かんだ無表情もまた、彼を知る者には違和感を覚えさせるかもしれない。
箔押しの表紙は研究論文をまとめたもの。
暫しそのタイトルを眺め、少年は我知らずため息をつく。
「……『魔眼の発現とその性質に関する世界間比較論考』、B・A・ロール著、ね」
求めている知識に対する期待を感じさせぬ声色でタイトルと著者名を舌に載せ、少年は頁を捲り始めた。
■緋群ハバキ > 頁に並ぶ文字を目で追い頭に入れながら、少年は思考を巡らせる。
魔眼、邪視、Evil Eye、邪眼。
古来より、ヒトは視線に宿る魔力を感じながら生きてきた。その総てが実質的な魔力を持つ物でもあるまいが、ともあれ世界各地に存在するそれらの民間伝承が事実を含むものであったことは、『門』の出現に伴う常識の変質以降、よく知られる物である。
そして、異世界から訪れた来訪者達にも魔眼と呼ばれる魔術、或いは先天的能力を有する者が多く在り、在来の地球人にもまた、異能として発現し始める。
この論文はそれらの特性を比較し、異世界間で魔眼と呼び慣わされるものに関する考察を深めたものであった。
そこから瞳に宿る力を解き明かし、人類或いは異邦人に共通する要素を見出す事を目的とした論が展開されていくのだが――少年が求めるのは、そういう学術的な話ではない。
「……魔眼の、分類」
頁はそうタイトルが振られた章に差し掛かる。
系統樹のように厳密なものではない。が、魔眼と呼ばれるモノは、魅了や呪い、石化と言った魔眼と聞いて思い浮かぶ能力を基準とした分類が可能だと、著者は語る。
だが、それと同時に唯一無二の特性を備えたものも数多存在し、その分類が正しいのかどうかは今後の研究課題としている。
「まー、そうだよなぁ……」
あからさまな落胆の声を漏らし、少年は天井を仰いだ。
そもそも、何かしら劇的に事態が進展するという事を期待して図書館に足を運んだ訳ではないのだ。
ただ、知識だけは仕入れいておいて損はあるまい。その程度である。
■緋群ハバキ > 頁を送る。
論に興味はない。
実利を佳しとする思考は、著者が調査した中で特異とされる魔眼に関する記述を目に留めた。
「ぅ……」
掲載された写真に写る無数の瞳が、少年の緋色のそれを見つめる。
まるで多眼の怪物に射竦められるかのような威圧感に、思わず呻きが漏れた。
瞳ばかりが並ぶ頁は中々に生理的嫌悪感を掻き立て、同時にB・A・ロールなる著者の瞳の持つ魔力に対する並々ならぬ執着をも感じさせて。
蒼・灰・赫・翠。
色とりどりの虹彩は、その宝石めいたバリエーションの通りに多彩な能力を記されている。
魔力視。並行世界視。果ては現実改変まで。
これだけの多彩な視界をヒトという形に与え、世界は何を見せようというのか、と思う程に。
「……うぅ。
なんか頭痛くなってきた……」
写真越しの無数の視線に何もかもを覗かれているような錯覚を覚え、頁を伏せて本をテーブルに置き、眉間を揉みほぐす。
ただ論文を読んでいるだけなのに、物凄い精神的に消耗した気がする。
ご案内:「図書館」に夕霧さんが現れました。
■夕霧 > 図書室に入室し、ふと見渡せば。
「……あら?」
軽く首を傾げる。
こういうと失礼だろうが、余り図書館に来たがってはいないと思う人物、後輩であるハバキがそこに居た。
神妙な顔つきをしているようにも見える。
遠巻きなので実際はどうなのかわからない。
ゆっくりと、ハバキに向かって歩いていく。
特に忍び足だとかどうとかでもないので普通に気づけるだろう。
■緋群ハバキ > 天井を仰ぎ、ため息を一つ。気を取り直さねばなるまい。
もう一度手元の本へと視線を落とし、頁を捲った先。
見開き二頁に渡って詳細に書かれた文章と、
「黄金の、瞳……」
何処か現実離れした金の色彩が、己を見つめ返して――
「……ん、んん?」
と、ふと。
こちらに近づいてくる気配に気付く。足音の反響と間隔から類推するに足の長い長身女性、という思考を瞬時に弾き出し、首を巡らせれば。
「……あ、先輩。
どーもお疲れ様でーす」
■夕霧 > ハバキが此方を向いたので軽く手を上げる。
「ええ、お疲れ様です」
ゆっくりと、ハバキのテーブルへと近づき。
「勉強です?」
と声を掛けた。
そして声を掛けた後、テーブルに乗るハードカバーの本を捉える。
勉強、と言う訳では無く、どちらかと言うと。
「ああ、調べものでしたか」
軽く一人頷き、納得する。
ご案内:「図書館」に湖城惣一さんが現れました。
■緋群ハバキ > 「いやーまぁそんなトコで。
慣れねー事やって頭痛くなってきた所です……」
本を閉じ、テーブルに突っ伏す。
ぐったりと伸びる様は、言葉通り慣れないことをやって消耗した馬鹿学生と言った風情。
そのまま顔だけを夕霧へと向け、気の抜けた声で尋ねる
「先輩は勉強、スかねー?
図書館似合うなぁ……メガネイズインテリジェンス……」
よくわからない感想を漏らした。
■湖城惣一 > 図書館。足音もなくゆっくりと入室していく。
その中には先客が二人。いずれも委員会棟で見覚えのある顔だ。
ふたりとも事務方であり、湖城もまた単独で行動するタイプ故に大きく関わりはないはずだが。
公安委員会が二人揃う様をみて些か気の張った場所か、と判断するも、
――思ったほど、そういう場でもなかったらしい。
突っ伏したハバキを見て、少し気を抜いて、中に足を踏み入れながら二人を見た。
■夕霧 > 「うちも調べものみたいなものですよ」
トン、とハバキの腰かける椅子に手を置く。
少しばかりの調べものを、と思い来たのである。
そうすれば、慣れない事をして疲れている後輩を見た、そんな所であった。
「お疲れみたいですね。肩でも揉んであげましょうか?」
などといい、トン、と椅子に置いていた手をハバキの肩へ置いた。
■緋群ハバキ > 「……へー。蔵書量多いのはいいんですけど、多すぎてどれがお目当てなのか分かんなくて困りませんここの図書館……?」
贅沢な不満を漏らし再び顔を机に突っ伏し……と、肩に触れた感触にびくっと身が震える。
ゆっくり起き上がりつつ、後ろを振り向き。
「えっ、あっありがたくは、ありますが!!
これって先日のなんでも権にカウントされませんよね!!?」
なんだかズレた、というか小物な疑問を尋ねながら落ち着かなげに首を回せば、此方に視線を送る、
「……あ、噂の切腹侍だ」
あんまりにもあんまりなアダ名をつけられている、公安・風紀両方に籍をを置くという稀有な実働要員を視界に捉えた。
■夕霧 > 「サービスですよサービス」
ころころと笑いながら。
とりあえず片手だけ置きつつ、ハバキが言うのでそちらを向けば。
独特の恰好、そして風紀・公安どちらにも属する人物。
確か名前は……湖城惣一。
見かけた事は何度かあれど、ここまで近くで見た事は無かった。
何時もの柔和な笑顔のまま、湖城に向かい、軽く頭を下げ。
「こんにちわぁ」
独特のニュアンスで、挨拶を告げる。
■湖城惣一 > 「あれは……」
肩を揉もうとする夕霧の動き。
あれはこの間試し読みした漫画で見たラブコメムーブ。
もしや彼らは……と思ったが。そのまま慌てた様子で起き上がったハバキを見て、うむ、と一度頷く。
「応。噂の切腹侍……二年、湖城惣一だ」
否定はしない。無表情に淡々と。声をかけられればそちらに向かい。
ひとまず馬に蹴られる必要はなさそうだ、と。
腰掛けぬまでも、二人から三歩ほどの距離まで近寄った。
■緋群ハバキ > 「俺、公安入って良かったなぁ……
っていうか先輩に肩揉みさせながら初対面の先輩に座ったまま挨拶とか我ながらなかなかに態度デカいなぁ……」
しみじみと語りながらも、応えた湖城へと軽く頭を下げる。
目を引くのは矢張り、羽織り袴の下に覗く刀傷。
「湖城先輩……スね。一年の緋群ハバキ16歳彼女なしです!
いや、まぁその。お噂はかねがね。
……勇名も聞きますし」
今更ながらにこの態度で接するのヤバくね? でも肩揉み気持ちいいしたまに後頭部が何だかこう当たりそうで当たらないスリルがあって非常に嬉し楽しい時間だしなぁ……みたいな思考がダダ漏れな顔をしつつ。
己が聞いた落第街における彼の活躍、それを脳裏に浮かべながら言葉を作る。
■夕霧 > 「御噂はかねがね、聞いてます」
マッサージを継続して行いつつ、湖城に言う。
実働要員であり、そしてまた特殊な立ち位置に居る人物だ。
そしてその稀有な戦闘方法もまた、ハバキの言う様に「切腹侍」という名は如実に表されていた。
事務方ではあるが、十分にその話は聞き及んでいる。
「うちは夕霧いいます。一応、三年生と言う事になっていますよ」
柔和な笑顔のままよろしゅう頼みます、と続ける。
■湖城惣一 > 「勇名か」
自覚はない。元から評価を含めた自分のことに興味の薄い男だ。
一年と三年。どちらの相手にも態度は崩さない。
年齢という意味の薄いこの場所で、折角の学友だ。
そこに遠慮をする意味を感じない……だけなのだが、不遜にも映るかもしれない。
「夕霧に緋群だな。よろしく頼む」
目礼だけで挨拶を済ませると、そのままじっとハバキを見つめた。
――この状況。自分なら動揺が止まらないが。肝の座った少年だ。
湖城という男は古風な価値観の男である。
覚悟をしなければ異性に触れるも触れられるも戸惑う男であった。
■緋群ハバキ > 「落第街で、なんつったか……”異能喰い”虞淵とやり合った、とか。
島内のSNSでもたまーに動画が流れてたりしますよ。”異能喰い”近年稀に見るベストバウトの一つ、とかなんとか」
暫く前の一戦を挙げ、懐から取り出したスマホを操作して湖城へと画面を見せる。
動画プレイヤーが再生するのは、落第街の学生が撮影したのであろう、不鮮明な粗い画質ながら、剣士と巨漢が舞踏のように戦闘を繰り広げる姿。
「……ま、目立つのが本意な訳じゃねーんでしょうけどってなんスか!
今俺かなり我が世の春感ありますけどきっとこの後揺り戻しで割とひどい目に遭うんスよ俺は詳しいんだ」
じっと見つめられ、そんな小物くさい返答。
彼もまた今のような状況に慣れているという訳ではない。困惑しているが、それよりも悦びが優っているにすぎない。
■夕霧 > つい、と目を細めてその動画から流れる戦闘を眺める。
不鮮明なれどその戦闘は確かに本物で。
死合と言うに相応しいものだ。
さて己がやってどちらにも勝ち目があるか。
やってみなければわからないが。
「ええ、ほんま御強いですなあ」
そんな思考は出すことは無く、すぐに何時もの柔和な笑顔に戻った。
仕上げと言う様にぽん、と後輩の肩を一つ叩き、手を放す。
「ま、こんなトコで。少しは疲れ取れはりました?」
■湖城惣一 > 「ああ……あれか」
夕霧の視線に気づいたか気付かなかったか。少なくとも感心を向けぬままこちらもスマホの画面に視線を移す。
そこで動く二人の影に、よくとれているものだと感心する。
ベストバウト、かどうかは本人には分からなかったが。
貧血の問題が解決されている今ならば以前よりは"良い"戦いになるだろうか。
こうして自分が戦っている姿を客観視するのは少々妙な気分であった。
「いや、別段目立つことにも目立たぬことにも対して頓着はしないが……揺り戻し? ああ」
自分の顎を撫で、ラブコメ漫画の主人公の顛末を思い出し。
「キャーエッチー、バシーン。という奴か」
無表情で、淡々と、棒読みで。
「そういう女には見えないが」
違ったか、と少し唸った。
■緋群ハバキ > 己では、ここまでの剣の境地に達する事は叶わない。
故に驚嘆と敬意は心の底から。
「実働が此処までの実力者なら頼もしい事で……なんで切腹してるのかは分かんないんですけど!
あ、ありがとうございます夕霧先輩。この思い出を胸に今後も生きていけます」
正直な感想と大げさな感想を続けて並べ、改めて席を立ち、湖城へと一礼。
求道者を地で行く返答に肩を竦め、だがそうであるがこその先の戦いの記録であろうという思考が頭を掠め――
「――え、」
思案気な素振り。しかし棒読みで語られる顛末。
意外過ぎる言葉に思わずリアクションを取る事も忘れ、硬直する。
「ら、ラブコメとか……読むんスか……?」
勝手に抱いていた剣の道を愚直に進む求道者というイメージがガラガラと音を立てて崩壊するのを感じた。
■夕霧 > 「……」
少しだけ考えて。
気が向いたのだろう。
「いやぁん、すけべ♥」
と、二人にだけ聞こえる声で言う。
無駄に感情と表情・仕草全てを込めて。
努めて艶やかに。
その後すぐに何時もの顔に戻って。
「こんな感じです?」
意外と、お茶目であった。
「しかし湖城はんもそういうの読むんですなあ」
夕霧も読んだことはある。
これまた適当に本を買った時だ。
ご都合主義、と言うに相応しいのかも知れないのではあるが。
中々興味深いものであった。
ふと横を見れば緋群が少し「ええー」と言う表情。
確かに硬派な印象は受けていたのでその辺りだろうと、適当に推察する。
「ほら、湖城はんもお年頃ですし」
口元に手を当ててころころと笑った。
■湖城惣一 > 「神域に至るための供犠のようなものでな。
性質は暗示に近いが、系統としては神道系の術法だ」
特段隠すつもりはない。
明らかになったところでどうしようもない類の技であるがゆえに。
奉納を行った段階で技は完成しているといっていい。
事細かに解説することもできるが、話が長くなるだけだ。
「俺が強いか弱いかは知らんが……君たちの役に立てるなら悪くはない。……む?」
明らかに動揺している彼の姿。しかしわざわざ取り繕う必要性も感じず。
「ああ。趣味もない男でな。この歳になって初めて漫画というものを読んだ」
彼の言葉に同意する。数ヶ月前までは彼もまたいわゆるイメージどおりの男だ。
淡々と告げた直後。思い切り不意打ちで艶のある声が刺さった。
「――――!」
撃ちぬかれたように空を仰ぎ目頭を抑える。
プライベートでは純情というか、性関係に弱い男である。
なんとか鼻血は免れた。
■緋群ハバキ > 「ああー。成程……奉納と暗示。
聞くだにすげーリスキーな……」
求道者というよりマゾヒズムの体現者。
そんな失礼な感想すら抱く程に、問いに対する答えは特化「し過ぎている」。
だがそんな危ういまでのストイックさが在ったとしても湖城も矢張り青少年、漫画という娯楽に触れる機会も在ろうという事か――
「う、うぉ。うぉぉぉぁぁぁぁぁあ!!!!!
最高でした。ありがとうございございます夕霧先輩。この思い出を胸に残りの余生を生きていけます……!」
マフラーを口元まで押し上げて過剰なまでに大仰な感想を伝える。
艶めいた声と科を作った仕草。総てがコケティッシュな魅力の黄金比を形作っている。
それこそ今後一生の青少年のなんかを満足させ得るのではないか――そんな想いすら抱かせるほど。
感極まって溢れ出した雄叫びに、周りに居た学生が非難がましい視線を向けるが誰がハバキを責められよう。
■夕霧 > 「強いと思いますよ、ほんまに」
嘘偽りない感想。
この強さはその刹那さ故の正真正銘の強さ。
非の打ち所は。
「純すぎますけど」
柔和な笑顔のまま、そう、呟く。
そしてこれもまた本心からの感想。
彼は戦屋ではない。
殺し屋でもないし人殺しでもない。
彼は求道者であろう、と湖城に目を向けて考える。
刹那、と言う意味では彼女の戦い方と少しだけ、似ているだろうが。
その点でははっきりと違うと感じる。
■湖城惣一 > 「実際リスクは高い。殺しきれなければ死ぬだけだからな」
いかに関心がないとはいえ、それは認める。事実だからだ。
問題はそれに一切気を払っていないということで。
二人が湖城に抱える感想は、恐らくそのどれもが的を射ているだろうが。
横では盛り上がる少年の姿。あそこまで盛り上がれるのはすさまじいことだ。
確かに破壊力は高かったが、はっきり言って湖城にとってはどれもオーバーキルのシロモノであり。
気持ちが落ち着いた辺りで、抑えた目頭からゆっくりと手を離す。
「純」
ゆっくりと頭を下ろしながら呟き、目頭を抑えていたそれをまたも顎に手をやり考えこむ。
「純か。いや……そうか。女性は慎ましい方ばかりに慣れていてな。
……あまり、触れるのも触れられるのも得意ではない」
■緋群ハバキ > 「純……まぁ、そう、ですかね。
実際手合わせした訳でも、目の当たりにした訳でもねーんで、偉そうな事は言えないですけど」
ちらりと、夕霧を一瞥して。思い浮かべるのは彼女の戦闘スタイル。
何をされても食らいつき損害を無視して相手を叩き潰す戦技と、致命を許す前にリミットを外した戦闘能力で相手を斬り伏せる戦技。
大きく違う、だが同じく「一」を極めたその戦闘方法に、果たして己の業が比肩し得るのか、否か。
気にならないと言えば嘘になる。が、それを試す気にはならない。
「え、あ!? そっち!?
純ってそっちのニュアンス……いや確かに一途で純な男感すげーありますけど!!」
そんな自分の解釈と湖城のソレとの違いに思いっきりズッコケる。
■夕霧 > 「湖城はんはそう、思っていたかも知れませんけど」
そっちで取ったか、とは思うけれども。
話の流れ的に仕方あるまい。
そもそもそう振ったのは何を隠そう彼女であるからして。
「案外、女性の方がそう言う事に貪欲なものですよ?」
口元に手を当てて笑う。
「殿方は鈍感な方、多いですから」
―――そしてこの一連の言葉に関してこの場で応えられるものは。
誰も居ないだろう。
■湖城惣一 > 「む…………」
自分が純。戦い方に関しては全くの無関心であった。
勝つべくして勝つ、と聞こえはいいが、そこに勝敗を求めぬ莫迦であったがだけな故に。
どうやら自分が大きく勘違いしていたことに気づくと、
人との会話の難しさを改めて痛感するのであった。
いずれの二人も、その所作は美しい。
恐らくは彼らも、事務方以上の修羅場をくぐってきたのだろうとアテをつけ。
こんなところばかりに気がつくが、人の機微はわからぬものか、と改めて思った。
「いや、すまん。昔から相手の言葉を読み取ることが苦手でな」
ずっこけたハバキに対して手を伸ばす。無表情で、淡々と。
瞳を見つめながら言う姿はまさに一途で純かもしれないが。
「……貪欲」
ふむ、と。背中にかかる声に対しても一考の余地があり。
「なるほど。胸に留めておこう。今いった通り、人の機微には疎くてな」
■緋群ハバキ > 「いやーまぁ。そういうトコ純だなぁとは思うスけどね」
好感の滲む苦笑と共に手を借り姿勢を正す。
実用一点張りだが、それ故に美しい日本刀。そんな在り方だな、と。
湖城について、自身の中でそう印象付ける。
「どんよく……どん……どんかん……」
深い意味無く放たれた発言なのか、それとも何がしかの意図があるのか。
それを判断するにはハバキは若く、女性と交流した経験も少ない。
故に妄想だけが逞しく育ち、黒髪の先輩が貪欲にスキンシップを欲する姿が脳内に像を結ぶ。
が、大変失礼なので心の金庫に厳重に仕舞っておいた。
「……まぁなんか。少なくとも、その手の機微は俺も苦手っつーか、経験不足で……
はい……」
お互い精進しましょう。そんな視線を、湖城へと送った。
■夕霧 > 「難しいですけれどね。うちも完全に読める訳でもありませんし」
表情は変わらないままだ。
そう言う意味では彼女の機敏を読む、と言うのは難易度が高い、のだろうか。
「読める様になっておくに越したことは―――ありませんよ」
何事に於いても。
読めずに命を落とした者などそれこそ星の数ほど居る。
そして読まれずに命が救われた者も同じく。
機が読めなければ、先は細くなる一方だ。
「まぁ、そんな事は関係あらへん時も当然ありますけれど」
誰と無く呟き。
さて、と書籍棚をざっと見て、一つの書籍を手に取る。
【刀剣全書~発祥と時代変化~】そう書かれていた。
「ええ時間なりましたし、うちはこれを借りてそろそろお暇します」
そういい、貸出受付まで歩いていく。
■湖城惣一 > 「……そういった類は分かるのだが」
戦いの機。攻撃的な気配は匂い立つように理解できる。
そのアンバランスさこそが彼のすべてであり。
鼻血を我慢したその一瞬に切りつけたところで、不意を打つことは難しかっただろう。
だが。人の機微を読み取ることもできずに戦いの機を見るそれは、やや異常とも言えた。
「純、か。俺はただ自分が莫迦なだけだと思っているが……」
莫迦であるがゆえ、純であるがゆえに、だからこそ自覚などできないのだろうか。
しかし彼ら二人が少なくともこちらに"良い評価"を向けてくれていることは理解した。
常世学園には湖城の接したことのない様々な手合が揃っているようにも感じるのだった。
学外で友人といえる付き合いは精々三人程度。それでも湖城にとっては多いと感じる方だ。
「ああ。呼び止めたようで悪かったな、夕霧。
……それに緋群も。…………」
たっぷり五秒。深く思考した後に、
「よければ、今後は友人として仲良く付き合ってくれればと思う」
ハバキには視線を返した。お互い、機微が読めないもの同士。そういうことなのだろう。
■緋群ハバキ > 謎かけのような夕霧の言葉に、マフラーを口元へと当てて少しばかり思考の海へ意識を泳がせる。
機を読み状況に臨機応変に対応するのは、己のような出自の人間にとっては必須とされる技能であり、不得手な訳ではない。
――だが、人の感情の機微を捉え、行動を予測するという話となったならば、どうか?
己に問うても答えは出ない。
だが、忸怩たる想いは在る。それはこの学園の誰にも打ち明けていない、恐らく今後も明かす事はないであろう、個人的な事情に起因する感情であり――
「……え、あ、」
湖城の言葉に、後悔の水面へと流されつつあった意識が引き戻された。
思わず間抜けな声で応え、その意味を頭で理解して。
「俺もまぁ、先輩後輩みてーな堅苦しいのより友人って方が気楽なんで。よろしく湖城先輩」
屈託のない笑みを浮かべ、親指を立てて返答。
過去がどうあれ、少なくともこの学園に籍を置き学友と戯れる間はその問いを棚上げしても良いだろうと。
「……あ、っかれさまです。
マッサージありがとうございました!」
そうして去り行く夕霧の背に身を折って礼をし、思う。
例えその安寧に身を浸すのが逃避だとしても。他者へ抱いた好意は、否定出来るものではない、と。
■夕霧 > ふと、思い出したように。
本を借りた後、緋群の方へ歩き。
「そうそう、言い忘れてましたけど」
こそ、と耳打ちするように。
「【準備】出来ましたから何時でもええですよ」
それだけを緋群に伝え、肩をぽん、とまた軽く叩く。
「それじゃあ湖城はん、これから先色々顔、合わす事あると思いますけど、よろしゅう頼みます」
最後に湖城にもそれを伝え。
今度こそ図書館を後にした。
ご案内:「図書館」から夕霧さんが去りました。
■湖城惣一 > 「なに、呼びやすければ先輩もいらん。好きに呼んでくれ」
それは彼なりの考えで。相手のことを慮るというよりは、ひどく乱暴な。
同じ学友という分類で、そこに上下関係が発生するのは"違う"と、そうなんとなく思っていたからで。
あいも変わらず相手の態度には察しはつかない。
呆けていた、というより思索にふけっていたこと程度は理解していたが。
何を考えているかまでは見当つくはずもない。
「よろしく頼む。……ああ、何かあれば端末に」
友人としてでも、公安委員会としてでも。
そこに区別はないし、男はすぐに連絡がつくものだ。
「さて。……俺も少々探しものがある」
そういって、重心を動かす。書架の方に視線を向けて、
「ではな、緋群」
ゆっくりと書架の方へ歩いて行くだろう。
他者にも己にも関心のなかった男だが。この数ヶ月で随分と心変わりした気がした。
ご案内:「図書館」から湖城惣一さんが去りました。
■緋群ハバキ > 肩に手を置かれ、囁くように告げられた言葉。
それだけで全てを理解して、
「は。
……っい!」
思わず上擦った応えを返す。
それ程までに思春期の男子にとって先日の約定は重く、心躍るのだ。
尤も、静粛を尊ぶ図書館に於いて周りの生徒は二度に渡る赤マフラーの少年の奇声に怒り心頭と言った視線を突き刺して来ていたが。
「へいよー。ま、そんじゃコジョーくんってトコかなー。
武道家歩きだ……めっちゃ武道家歩きだ……またねー」
軽やかながら存在感ある歩みに瞠目しつつ彼を見送って。
思わぬ出会いと幸運を反芻するように、暫し目を伏せたまま、暫く椅子の背もたれへと体重を預けた。
■緋群ハバキ > 暫し、口元を緩めてそうして居たが。
少年はこの場所へと訪れた当初の目的を忘れた訳ではない。
卓上へ視線をやる。
読みかけの論文。閉じていた頁を開けば、こちらを見つめる金の色彩。
その詳細について記された文章を読みながら、少年は口角を吊り上げ、何処か皮肉げに笑う。
笑って、一人呟く。
そこに居ない誰かに、呼びかけるように。
「……なぁ。兄様、割と楽しんじゃってるわ。
ホント――困ったもんだ」
その記述は、まるで御伽話のような伝説めいたものが並んでいて。
だが、それ故に。己と、本土に残したたった一人の肉親の問題を解決する糸口になり得るのではないかと。
そう期待させるだけのものが在った。
何しろ神も仏も、伝説上の幻想すらこの世界には既に在るのだ。
『すべてを見抜く/すべての想いを受け止める/神にも等しい力を得る』。そんな御伽話が実在したとして、最早不思議など何処にもあるまい。
「それでも――やっぱりな。
可愛い妹に不義理は出来ねえもんだよな」
少年は密やかに笑う。
或いはそれは、己への自嘲か。
「――なぁ、鎬」
半分だけの血の繋がった妹の名を呟いて。
緋群鈨は、溢れる程の視線が綴じられたその本を静かに、閉じた。
ご案内:「図書館」から緋群ハバキさんが去りました。