2015/09/08 のログ
■茨森 譲莉 > 異邦人はスマートフォンでゲームもするのか。
一体どんなゲームをするのだろう。スマートフォンだと多いパズルゲームだろうか。
RPGだろうか、それとも、ソーシャルゲームの類だろうか。
音楽ゲーム……は、4本指だと不便な気がする。
何であれ、この風貌でガチャガチャの結果やら、ゲームの結果やらに一喜一憂していると考えると可笑しくて、
ヨキ先生のスマートフォンを操作するような仕草に思わず口元が緩んでしまった。
「はい、分かりました。
やっぱり、少し怖いですけどね。」
笑うたびに見える牙は、やはり視界に入ってしまう。
しかし、その牙がピーマンの肉詰やら、豆腐を噛み砕くモノと考えると、
先ほどよりは恐ろしいものには見えなくなってきた。
豆腐を噛んだら、さぞサクッと刺さるんだろう。あんなに鋭いし。
「………獣人、ですか。
やっぱり、そういう人達も居るんですね。ここには。」
視線を横に動かして、耳に目をやる。
奇抜なファッションのついでにつけているつけ耳、とかではなく。
やはり本物らしい。少し触ってみたいような気がしたが、ぐっと堪えた。
獣人、獣と人のあいの子、ちゃんと仲良くできるだろうか。
きっと、食文化も何もかもちが……くなかったな。
ヨキ先生玉ねぎは食べれるんですか?と聞いてみたい衝動に駆られたが、これもまた堪える。
「美術の先生だとやっぱりそうですよね。
ああ、いえ、アタシは普通の人間だけが暮らしている地域の学校から、
共存のモデルケースになっている常世学園を見学してくるように、と言われて。
……一時的な交換留学みたいなものなので、アタシは異能はさっぱりです。」
■ヨキ > 「ふふ。これからきっと、君は沢山の異邦人を目にするだろうから。
我々も変わらず生きていることを、知ってほしい。
怖く思ってしまうのは、知らないことの多い所為に他ならないのだから」
(穏やかに話しながら、椅子の背凭れに肘を載せる。
腕に触れてひらと揺れる耳は、犬の形に人間の肌の質感をしていた。
彼女が飲み込んだ質問や衝動には気付く由もなく、言葉を続ける)
「うん。いろんな種族が居るよ、この島にはね。
君がきっと、フィクションの中でしか知らなかったような者たちが沢山な。
気のいい異邦人も、人付き合いの苦手な地球人もいろいろさ」
(茨森の身の上に、ほう、と耳を傾ける)
「一時的な交換留学、か。
外界にとっては、異能や魔術や異邦人は、まだまだ未知の世界だろうからな。
……ふふ、君の見聞きしたことが、これからの君の母校にも関わってくるわけだな。
もしかすると……君自身にも、いつか不意に異能が宿る日が来るかもしれない。
ここの皆も、『さっぱり』だったところから始めたからな。
気負わず、新しい国や文化を楽しむつもりで居てくれたらいい」
■茨森 譲莉 > 話ながら、ヨキ先生は身体を崩した。
それに連れ立って揺れる耳は人間のそれとも、獣のそれとも違う。
見る限り、人の肌のような質感。触ったら気味の悪い感触がするような気がする。
犬の耳を期待して触ったら人肌の感触。
中身がたっぷり入ってると思って持ち上げた牛乳の残りが、
案外少なかったような感覚に襲われる気がする。
身体を崩す姿にドキりとしたが、それが乙女の恋心なのか、
やっぱり少し怖いのか、それは判断に迷う事案だ。
いや、どう考えても怖いんだろうけど。
「………そうですよね。
これから、しっかりと知っていけるようにしたいと思います。
知ったらもっと怖くなるような事もあるかもしれませんけど、
もし、そうなっても食べないでくださいね?」
ヨキ先生は知的な雰囲気で、話し方も落ち着いていて、丁寧で、
獣らしさは少なくとも外見以外には微塵も感じない。
獣人というのは全てがこのようなモノなのか、それとも、ヨキ先生が変わっているのかは、
ヨキ先生が言うようにこれから知って行けばいい。
「そうですね、外の世界全てがそうではないと聞いてはいますが、
少なくともアタシが住んでいた地域では、異能者や異邦人は『化物』と言われていました。
提案を受けても、誰も行きたいとは言わなかったそうですよ。
……得体の知れない物は、皆、怖いですからね。
こういってしまっては失礼かもしれませんが、アタシも正直そうですから。」
自分にも異能が、なんてことは考えた事も無かった。
異能というのは、どういう風に身につくものなのだろう。
ある日、目が覚めたら突然秘められた力が目覚めたりするんだろうか。
そもそもヨキ先生は、異能者なんだろうか。
「あの、ヨキ先生、ヨキ先生は異能は使えるんでしょうか。
……あとヨキ先生も、ある日突然異能が使えるようになったんですか?」
■ヨキ > 「大丈夫。怖がられたって、君を食べはしないさ。
もしお腹が空いたら、君を誘ってごはんを食べに行くよ」
(くすくすと喉を鳴らして笑う。
紅を差した目尻に、くしゃりとした笑い皺が薄く浮かんだ)
「『化物』。そうだなあ、当然の反応だ。
ここにはそう呼ばれて、追い立てられるようにやって来る者も少なくない。
あるいは地球人こそを『化物』と思っている異邦人も居る。
まだまだ『共生』には程遠いが……幸いにも、ヨキの見てきた生徒は人のいい子が多くてな。
何、失礼などないさ。ヨキとて、怖がられることには慣れているからね。
未知のものと相対して、こわい、と感じるのは、生きものとして当然の本能だ」
(だから今のうちに、存分に怖がっておくがよい、と。
怖がるな、とは、決して言いはしなかった。
自身の異能について尋ねられると、わずかに茨森へ顔を寄せる。
人間の男と何ら変わりのない、オリエンタル系の薄い香水の匂い)
「ヨキの異能かい?
もちろん持っているよ。見ていてごらん、こう……」
(言って、右の手のひらの上で、左の指をくるりと回す。
まるで氷が解ける映像を逆再生したように、手のひらの上にぷくりと金色の粒が芽吹く。
その金色がみるみるうちに膨らんで、小花の形に音もなく花開く。
ちょうどアンティークのブローチに似た、真鍮の花が現れる)
「……これが、ヨキの異能だ。金属を操る力さ。
使えるようになる切っ掛けは、あったよ。
ヨキはもともと、金属とは縁遠い獣だったからな。
それが金属にはじめて触れて――異能を得た。
理屈とか、理由なんてものは判らない。とにかく、『そうなってしまった』」
■茨森 譲莉 > 「常世学園の食事処には疎いですし、その時には喜んでご一緒させて頂きます。」
紅を刺したヨキ先生の目尻がくしゃりと歪む。
きっと、アタシの顔にも笑顔が浮かんでいることだろう。
大分と緊張も解れて来たのか、その口元の牙ばかりに目が行くことも無くなった。
なんとも、見れば見るほどお洒落な先生だ。どんな所でご飯を食べるのだろう。
先ほど聞いたメニューから察すると和食だろうか。………お金、足りるかな。
「……すみません、ありがとうございます。」
怖がるなとは言わないのは、ヨキ先生の優しさだろうか。
心底丁寧な先生で、最初に会った先生がこの人で良かったと心の底から思う。
今のうちに怖がっておけ。言葉の裏を返せば、知って行けばきっと怖いという事はなくなるよ。
―――と、いう事なんだろう。
そんな生徒思いの先制になんだか失礼な事を言ってしまった自分が恥ずかしくて、
顔が熱くなったのを感じて、そっと顔を伏せた。
元居た学校にも、これほどまでに生徒思いのいい先生は居なかったような気がする。
そうして顔を伏せていると、顔が寄せられる。鼻をくすぐるのは香水の匂い。
本当にお洒落な先生だな、と繰り返し思いつつ、その手を覗き込む。
みるみるうちに作られていく真鍮の花。
その光景は、異能という未知の恐ろしさよりも、むしろ―――。
「―――きれい」
思わず、そう感嘆の声が漏れる。
お洒落なヨキ先生に似合った、とても素敵な異能だ。
異能は恐ろしいモノばかりだと思っていたけれど、こんな異能もあるのなら、
アタシも少しだけ、欲しいなと考えてしまう。
「そうだったんですか。きっかけは人其々なんですね。
……それがきっかけだったのかは知りませんが、
今のヨキ先生はとても人間らしい、素敵な先生だとアタシは思います。」
素直な賞賛の言葉は、少し気恥ずかしい。
また顔が熱くなるのを感じて、視線を逸らした。ふと、傍らに置いたスマートフォンが目に入る。
イヤホンが垂れ下がり、悲しくもそこから誰も聞く事の無いそれには、時計が備えられている。
つい話し込んでしまったが、お仕事の邪魔をしてしまったかもしれない。
「ヨキ先生、アタシ、そろそろ失礼しますね。
お仕事中なのに色々とお話してくださって、ありがとうございました。」
そういって、アタシは静かに席を立つ。
■ヨキ > 「気兼ねなく来るといい。ヨキはここに暮らして長いのが取り柄だからな。
ガイドブックにも乗らないような店に、ひょいひょい入るのが好きなのさ」
(あちこちうろつき回ることを示すように、左手をひらひらと動かしてみせる。
どうやら好奇心が旺盛で、どこへでも食べに行くらしい――
懐具合の心配が不要であると知れるのは、また別の話だろう。
茨森の物腰が少しずつ柔らかくなってゆくことに、ゆったりと笑みを深める)
「恐れることに慣れすぎると、今度は本当の『危険』に鈍くなってしまうものだ。
そうなってしまう前に、君と共に学んで、君を守る……それが教師で、大人で、異邦人のヨキの仕事さ。
いつでもヨキを尋ねてくるがいい。ヨキは君の『恐怖』にはならないと、約束するよ」
(現れた金色の花に上がった感嘆の声に、ほっとしたように目を伏せる)
「この異能は……こうして綺麗なものも、人を傷つける刃物も、何だって作れてしまう。
異能の使い方や考え方は、本当に人それぞれだ。
ヨキは君にそうやって褒めてもらえる方が、ずっと気分のよいものだと思っている。
ありがとう。君の生活が素敵になるように、素敵な先生で居られるように努力しよう」
(時計を見やって席を立つ茨森に、いいや、と笑って首を振る)
「本を読むよりも、ずっと楽しくて有意義な時間を過ごさせてもらったよ」
(気にした風もなく、ひらりと左手を振る。
手のひらに載せていた真鍮の小花が、するりと溶けて見えなくなった)
「またお話しよう。ヨキにとっては、君の暮らしてきた日常だって『未知の世界』であるから」
(ではね、と茨森を見送る。
独り残ったあとには、穏やかな微笑みを湛えて本の世界にゆくのだろう)
ご案内:「図書館」からヨキさんが去りました。
■茨森 譲莉 > ヨキ先生にお礼を言って、三度目になるお辞儀をした後、
先ほどまで読んでいた本を貸出しカウンターに預けながら、
アタシはヨキ先生と話した事を振り返る。
「いつでも尋ねてくるといい。か。」
教師で、大人で、異邦人のヨキの、ヨキ先生の仕事。
きっとそれは、アタシのような何も知らずに学園に来た人間から、偏見を取り除く事なんだろう。
怖がっている人間を諭すのは、難しい。
だからこそ、ヨキ先生はあんなにも丁寧で、何よりも優しい。
叱らず、急かさず、しっかりと知って、考えるまで見守ってくれる。
「ほぁ……。」
思わず、そんな溜息が漏れてしまう。
ヨキ先生は、間違いなく素敵な先生だった。
顔を寄せられた時の香りが思い出しながらも、頬を数度叩く。
……まだ、全員がそうだと決まったわけじゃない。
異能の使い方は人によって違うと、ヨキ先生は言っていた。
つまり、人を傷つける、いや、殺めるような使い方をする異能者もやはり、この学園にはいるのだろう。
良い側面だけ見れば良い物でも、悪い面のリスクが上回っていれば総合的に見ればマイナスだ。
手続きを終えて手元に返ってきた本を受け取って、
ご飯を食べるときにはまた色々とお話を聞かせて貰おうと考えながら、
本に没頭しているヨキ先生を遠目から一度だけ見て、アタシは図書館から出て行った。
ご案内:「図書館」から茨森 譲莉さんが去りました。