2015/11/18 のログ
ヨキ > (再び紙面に目を落とす。
 クローデットが歩み寄ったその目の前に、死人めいた生白い横顔。
 煙たい花に似た香。嵌めた首輪には継ぎ目がない。
 相手が自分との距離を詰めるのを一瞥して、言葉を続ける)

「ほう、委員会?それはまたご苦労であった。
 この島の運営は、君ら委員に委ねられておるからな。

 この小説は……そうだな、ロードノベルといったところか。
 春先から連載が始まって、ちょうどいい山場だったんだ」

(新聞から目を離す。椅子の背凭れに上体を預けて笑う)

「君はどちらの出だね?流暢な日本語をしている」

クローデット > 「あたくしのような一般委員に出来ることなどたかが知れておりますけれど…
ねぎらい、感謝致しますわ」
(さほど影響力の出来ない場所に割り当てられて、割に合わないことこの上ありませんでしたわ…まあ、見たい展示は見られたのが不幸中の幸いですけれど)

目を少し伏し目がちにして、優しく笑む。
その実、かなり不穏なことを考えていたりしたのだが。

「ロードノベルですか…様々な情景を物語に織り込めますし、連載小説、というものとしては書きやすいのでしょうね。
…連載小説、というものにも、やはり違和感が拭えませんが」

くすくす…と、口元に軽く手を当てて隠しながら、声をほとんど立てずに笑う。
そして、出身を尋ねられれば

「フランスの、リヨンですわ。
言葉は、この島の翻訳術式に助けられるところが大きいのです。
こちらに来る前に父が教えてくれましたので、それがなくとも最低限の読み書きは出来るのですが」

古い言葉が出てくると、それでも戸惑いますわね…と、少しだけ困ったように笑った。

ヨキ > 「重役だけで委員会が回る訳ではないからな。
 大勢の一般委員の力添えなくば、この常世島は周りはせんよ」

(目を細める――その瞼の動きは、ひどく犬に似ている)

「もともと、紀行文が有名な著者であったからな。描写について申し分はない。
 一日ごと少しずつ読み進めるのも、新たな楽しみになるやも知れんぞ」

(小説の話題をそこで切って、ふむ、リヨンか、と呟く)

「『ふらんす物語』だな。……さておき、魔術による翻訳か。
 異邦の人びとを多く受け入れるこの島であるからして……魔術の研究は特筆すべきものがあると聞いている。
 日常の話し口は、格式ばった文法ともまた異なるであろうから、よほど柔軟な形態があるのだろうな。
 魔術については、なかなか門外漢でいかん」

(クローデットの顔だちを真っ直ぐに見遣る。
 自ずと茫洋とした灯を発する、金色の瞳。
 潤んだ虹彩がてらてらと光る様も、また獣のものだった)

「日本の中では、未だ本土には異邦や異能に対する拒否感も強くてな。
 フランスという国ではいかがだったね?《変容》のあとの受け入れは、進んでいるのか」

クローデット > 「………それもそうですわね」

一般委員の意義について語られれば、控えめに頷く。
人とは違ったような瞼の動きには…少なくとも表向きは、違和感を表明する手がかりは何もない。

「創作を細切れに、しかも期限を区切って作家に書かせる…というのが、どうにも理解し難いものでして…
それでも、「こちら」の方々はその読み方を楽しんでいらっしゃるのですね」

そう言って、柔らかい笑みを口元に浮かべる。
…と、何やら文学作品らしきものの名を挙げられれば、人形めいた仕草と表情で、ことりと首を軽く傾げて。

「あら、「こちら」の方にもリヨンを舞台にした作品があるのですね…パリでなく。
あたくし、「こちら」の文学にはさほど通じておりませんので、存じませんでした」

機会があれば拝読しましょう、と付け足す。

「ええ…あたくしも、魔術の研究のためにこちらに留学して参ったのですけれど…
残念ながら、島全域に翻訳の力を与えた術式は非公開のようです。
あたくしの専門ではなかったのが、不幸中の幸いですわ」

その口ぶりは、術式が公開されていないのを本当に残念に思っているようだった。

そして…《変容》後のフランスについて尋ねられれば、少し目を伏せ、何やら含みのある笑みを浮かべた。

「…そうですわね…どちらの拒否感がより強いか、ということは断言致しかねますが…
恐らく、拒否感の「質」が、違うものかと思われます。
それぞれの国家の成り立ちと道程…そして宗教の違いを考えれば、仕方のないことですが」

難しいものです…と、ぽつりと付け足す。
もちろん、クローデットの内心の「難しい」の位置づけは、ここで語られた文脈からは著しく離れたところにあるのだが…読心術でも使えない限り、読み取るのは困難だろう。

ヨキ > 「フランスの新聞といえば――大デュマなどが居ったか。
 あれの作が載ったのも、数世紀も前の話であるからな。
 確かに、異邦人のヨキと、年若い君とでは……なかなかリアリティのない話ではある」

(くすくすと笑って、クローデットの顔を仰ぐ。微笑んだ目尻の紅が、すいと細くなる。
 機会があれば、との言に、著者の名だけを短く応える。永井荷風だ、と)

「ふふ。オープン・ソースによって発展を遂げるのは、機械も魔術も同じことであろうが……
 何しろ島の行政に関わっておるでな。そうそう公開されるものでもあるまい。
 ここには何かと、悪意ある者の出入りも多い。転用される訳にも行かんよ」

(机の上に、空いた右手をこつりと置く。
 何も着けていない手首の骨が、天板を軽く打つ……どことなく金属めいた、重い響き)

「フランス――『光の時代』を経て、道を切り開いた国か。
 光あるところに影がある。
 大昔の教科書では、白人が『未開』の土地を『発見した』と書かれていた、とさえ聞く。
 地続きの大陸国家と、大海に囲まれるばかりの島国ではその思想に違いもあろう」

(眼鏡のフレームを押し上げる、左の四本指)

「魔術の研究ということは――君は魔術師になるために、この学園へ?」

クローデット > 「ああ…そういえば、彼の作品は新聞に掲載されていたのでしたわね。
あたくし、幼少から魔術のことばかりでしたので…」

祖国が生み出した大作家の名前が挙がれば、なるほどという風に軽く手を合わせる。
「ふらんす物語」の作家名を教えられれば、「ありがとうございます」と、こちらも簡潔に返す。

「翻訳魔術に頼っているのはあたくしだけではないでしょうし…悪意ある者が術式を知って、歪めるような形で関与することがあっては困るでしょうから、仕方がありませんわ」

伏し目がちに、そう穏やかに言う。

そう、「社会が混乱したから」常世島が滅びるのでは面白くないのだ。
常世島は、「その理想の果てに」破綻しなくてはならない。

そう考えるクローデットにとっては、翻訳魔術の歪みによる混乱によるメリットはさほどない。だから、言葉には嘘は「ほとんど」なかった。

「そうですね…「理性」という光を重んじるからこそ、その影が強いのがあたくしの祖国なのでしょう。
《変容》前から衝突があったという話ですから…その点、誠に残念ではありますが、驚きはありません」

そう言って目を伏せる女性の表情の穏やかさは、理知的な印象を与えるには十分なものだ。
その実、クローデットが自国の社会思想を俯瞰出来るのは、

『自分達が排除されてきたのもその思想故であることを知っているから』
『自分達(レコンキスタ)に市民を共鳴させるために、ダシにしているに過ぎないから』

なのだが。

学園にやって来た動機を尋ねられれば、四本指を気に留めた様子をほとんど見せず、穏やかな物腰を崩さずに

「あたくし、魔術の研究機関…大学のようなものですわね…から、こちらに編入して参りましたの。
まだ駆け出しではありますが、一端の魔術師であると自負しておりますわ」

そう、誇らしげに艶めいた笑みを見せる。

「この学園は魔術の資料が豊富ですし…特に"門"については、祖国と比べ物にならないほど、研究データがありますので、それを学びたいと思って参りましたの。

…無論、学びたいのは"門"に関わる魔術に限りませんが」

そう言って、心底楽しそうな微笑を浮かべた。

ヨキ > 「新聞というのも、なかなか面白いぞ。
 魔術の研鑽に直截には繋がらんが、視野を広げる切っ掛けにはなる」

(クローデットの翻訳魔術に関する言葉に、本当にな、と頷く)

「風紀も公安も、我々教師も、そうした歪を起こされてしまうことのないように動いている。
 この島がモデル都市として在る以上……『完成された姿』を保たねばならんからな。
 ……だがその分、常世島へ向けられる害のかたちもまたさまざまだ。
 目に見える暴力然り――『目に見えぬ悪意』もまた然り、と」

(目を伏せて嘯く。相手の身の上についての話には、ふうむ、と小さく相槌を打って)

「なるほど……『一端の魔術師』か。頼もしいことだな。
 幸いにも、この学園には優秀な魔術師が多い。
 最終的に、どれほど君の糧になるか――あるいは母国よりも低く見られるかは、定かでないが。
 少なくとも、日々の充実については保証出来ようぞ」

(《門》に関する意欲には、感心したように目を開いて笑む)

「《門》か。あれこそ世界のブラックボックス――謎の根源であるからな。
 《門》を抜けてしまったことでこの地球に留まり、祖国に帰れなくなった者も多かろう。
 研究が進めば、それだけ《門》を開く――あるいは《閉じる》一助になろうというものだ」

(背凭れに半身を預ける格好で座り直し、クローデットに対して正面を向く。
 椅子の背凭れに、ゆったりと肘を載せる)

「何か、《門》を学ぶことになった切っ掛けが?」

クローデット > 「ええ、現在の新聞はいくつか電子版を購読しているのですけれど…
過去のアーカイブは、「未知の情報を得る」のには、少々使い勝手が良くないものですから」

こうして、図書館に通っておりますの、と。
何か調べたいことがあることを匂わせることを、クローデットは厭わなかった。

「他の地域でも「特区」等の形で類似の試みはあるようですけれど…規模も先進度も、この島に及ぶところはありませんものね。
最先端ならではの重圧、そして『敵』…本部の方々は大変でしょうね」
(…だからこそ、崩す意味があるのですけれど)

心の声を表情に出すことなく、柔らかい笑みを浮かべてみせる。

「少なくとも、学べる魔術の種類については、この島に随分と分がありますわ。
世界中はもちろん、異世界の魔術書すら閲覧出来ますもの。
…おまけに、魔術を芸術などの実用的ではない分野に振り向ける余力もありますから」

常世祭の、魔術を用いた美術の展覧会は何とか見ることが出来ましたのよ、と、楽しそうに笑む。
「魔術を学ぶ環境が充実している喜び」を語る彼女の言葉が嘘であるならば、大変な役者であると言えそうだった。

「この島ですらブラックボックスである《門》は、外では「脅威」以外ではあり得ませんから。
…その状況を何とかしたいと思った、それが動機です…特に、きっかけということはないのですが」

口元に微笑こそ湛えたままだが、目の奥には向上心の強い知性の光が垣間見えるだろう。
無論『「脅威」でなくする』ことの意味は、この島の理想と正反対をいっているが…この文脈で、特に疑う余地はないはずだと、クローデットは考えていた。

ヨキ > 「公文書館やアーキビストの先進たるフランスから見れば――この国はまだまだ甘いところも多かろうな。
 だがここの図書館は、本土にも劣らぬ充実を誇っている。
 ヨキは魔術に疎いが……魔術や、学園の過去を知る『人間』への手引きならば出来よう。
 たとえば司書が、人間と『本』との手引きを行うのと同じようにな。

 そうしてこのヨキもまた……無為に長くはないつもりで居る。
 この島について知りたいことがあれば、気軽に訪ねてほしいものだ」

(柔らかく笑い返して頷く)

「は。『人でないもの』と近しく暮らして来たのはこの日本であるが――
 『魔性を操る術』に永らく長けてきたのはそちらが本場であろう。
 その言葉が、『日本人』を真似た世辞でないといいがな」

(く、と喉奥で短く笑った。
 獣と同じ形をした目が柔和な丸みを帯びて、クローデットの瞳の奥を見据える)

「一端の魔術師であるところの君が、《門》に立ち向かうか。――面白い。

 “獅南蒼二”を知っているかね?魔術学の教師でな。
 教師と呼ぶには、随分と無頼に偏った男ではあるが……
 彼もまた、『常ならざるもの』を魔術学で制しようとしている。

 ……いや。魔術学においては、急先鋒のひとり――と呼んでも、差し支えはなかろう。
 君の動機とその意欲に、何らかの刺激を与えてくれるだろうと思う」

クローデット > 「ありがとうございます…
あたくし、学園自体の歴史にはさほど明るくないものですから…そのうち、お力添えをお願いすることもあるかと思います」

その際にはよろしくお願い致します、と、美しい姿勢で頭を下げる。

(自分の後ろ暗いところを探ろうとしている人間に対して、不用心ですこと。
…まあ、表には出しておりませんし、読めないのであれば仕方がありませんわね)

こう考えていることなど、おくびにも出さずに。

「『魔性を操る術』という定義には少々申し上げたいこともございますが…
それとはまた別に、伝統の濃淡と、それが社会的にどのような立ち位置であるかは別の話なのです。

…《変容》前から存在していた魔術とて、それまでは表向きには「ないこと」とされておりましたから」

残念ながら、予算もそこまで…と、瞳を陰らせ、首をゆるやかに横に振る。
…その瞳の奥に、憤懣やるかたない感情の影が見え隠れするのは、ヨキに捉えることが出来るだろうか。

「『立ち向かう』というと少々語弊があるかもしれませんわね…
対処の難易度を下げる技術を、この島の「外」にも普及させたいだけですので」

《門》自体への干渉は、後輩に譲りますわ、と、控えめに微笑む。

「獅南先生ですか?
いくつか講義を受講させていただいておりますわ。
講義の構成が独特ですが…それ故に、とても興味深いと思っておりますの」

『同志』として深い親交があることは、特に言及はしなかった。
…もっとも、親交が深いこと「だけ」なら隠してはいないので、どこかで聞くこともあるかもしれない。

「…そうですわね、そのうち獅南先生の研究についても、「個人的に」お話しする機会など、持ちたいと思いますわ」

そういえば、あの研究の成果はどうなっているのか、最近はあまり聞いていない。
近いうちに、聞きに行くことにしよう。
そんなことを考えつつ…完璧に繕ってみせた、品の良い笑みを浮かべた。

ヨキ > 「勿論。生徒の学びのためとあらば、何でも力となってみせよう」

(楽しげに緩ませた笑み。
 椅子に腰掛けたまま、こちらこそ、と目礼を返す。
 語るクローデットを前にして、口元だけで薄らと笑う)

「残念ながら――この常世島を超えたより多くの人間にとって、魔術は未だ『魔を統べる術』だ。
 斯くも善良なるこのヨキが、『魔物』と称されるのと同じようにな。
 君がその呼称に異を唱えるならば、ヨキもまた……君の意志に与するところである」

(クローデットの穏やかな言葉のひとつひとつを聞きながら、大らかに腕を組む)

「後輩に?随分と控えめだな。
 それとも……君は例えば、『後学の徒の薪になれるならば、自分が燃え尽きようとも構わない』とでも考えるタイプかね?」

(片手の指先で、細い顎を撫でる)

「ああ、やはり彼の授業を取っていたか。
 獅南の教えが“興味深い”と感じられるならば――君には随分と、資質があるんだろう」

(開いていた新聞を、ぱたりと閉じる)

「なかなかに面白い。
 君、名前は何と言う?」

クローデット > 礼をし合えば、楽しそうに笑む。
…少なくとも、表向きは。ついでに、

「それでは、何かお伺いしたいことが出来た際には、教員紹介のところに記載されているメールアドレスでよろしいですか?」

と、連絡先の確認もしておく。

「ええ…魔術も、異能も、「異邦人」も…多くの人々にとって、「異物」でしかないのは代わりがありませんわね。

………本当に…残念です。」

そう言って、寂しげに目を伏せる。
この「残念」の意味も、ヨキが受け取るところと、クローデットの内心の間には著しい乖離があることだろう。
…無論、クローデットは寂しげな表情の裏でそれを狙っている。

「魔術学に限らず…学問というものは、「ヒト」というある種の知性を持った生命体の、集合的な営みですから。
………それに、あたくし、まだ「生涯の伴」というべき、主たる専攻を決めていないのです。
ですから…大きなことを申し上げるのは、それからということで」

控えめな言葉の意図を説明して、少しだけ悪戯っぽい微笑を見せる。
そして、獅南の授業評を聞けば、くすくすとおかしそうに笑って、

「そうでしょうか?
獅南先生の講義は、「理解するための努力が出来れば」、寧ろ魔術の素養がない者に理解させるためのカリキュラムになっていると思いますけれど」

獅南の講義の「意図」を読める程度には、この女子学生は魔術学に長けているようだった。
名前を尋ねられれば、品の良い微笑を作り

「クローデット・ルナンと申します。2年次に編入されておりますの。

…ヨキ先生…ですわね?
異能芸術の展覧会の告知で、お顔とお名前を拝見したことがあるように思います」

名乗ったついでに、「一応」相手の名を確認するような質問を投げる。
先ほど連絡先について触れているので、本当に「一応」なのだが。

ヨキ > 「ああ。あのメールアドレスならば、逐一覗いているからな。
 あすこが手っ取り早かろう。何なら、アトリエへ直接来てくれたって構わない。
 そちらは……そうだな、教師ではなく作家として公開しているから――
 気が向いたら、美術年鑑でも覗いてみたまえ」

(言って、図書館の奥に設えられた参考図書のコーナーを一瞥し、示す。
 クローデットの寂しげな表情には、ひょいと肩を竦めて)

「残念がるどころか、むしろチャンスだとヨキは考えているがな。
 少なくとも君の言う――『なかったことにされていた』時代よりはずっとましだ。
 事実我々は、“異なるものとして認識されている”。

 あとは君のような魔術師や、ヨキのような異能者や異邦人――
 そういった“常ならざる者たち”が、在りようを見せるほかにない。
 君が『外へ技術を普及させたい』と、明言するように……
 例えそれが、“どのようなかたちであろうとも”。

 そうでなくば、ここはいつまでも異界――それこそ“常世”だ」

(クローデットの笑みに滲む戯れを眺めながら、目を細める)

「それではヨキは……君が『伴』を見つけるときを、楽しみにしていよう。
 生徒が大きな言葉を口にすることは、いつまでも教師の楽しみであり励みだ。
 ヨキは君の、いかなる学びをも応援する」

(クローデットの名を聞いて、満足げに小さく頷く)

「――クローデット・ルナン。覚えておこう。
 獅南から学びを得ることのできるその姿勢……君なら、彼をさぞ満足させてやれるだろうさ。

 ああ、ヨキだ。他に名はない。
 新美術館の告知を?それは嬉しいな、覚えていてくれて有難う。
 こちらの世界へ来てもうずっと、金工ばかりをやっている」

クローデット > 「分かりましたわ。
調べ物をしていて、詳しく知りたいことが出来ましたら連絡致します。

《変容》前にはなかった美術も興味深いと思っておりますので…美術年鑑も、そのうち」

直接赴く前にアポイントメントだろうと判断し、そう答えて花の綻ぶような笑みを見せる。
以前調べたのは過去のパンフレットだけだし、嘘を吐いたことにはなっていないだろう。

「チャンス…そう、かもしれませんわ。
…母はともかく、あたくしはあまり「外」の方々に見せやすい術式に詳しくありませんので…そういったところも、これから学んでいくべきなのでしょうね」

神妙な表情で頷く。
あえてこの場で言及はしないが、クローデットの得意分野は戦闘に偏っている。
常世祭でもそれで出品物に悩まされることになったし…擬態程度でもいいから、実際に少し幅を広げておこうか…と、考え始めていた。

「ありがとうございます…魔術の道は多様且つ奥深いですから、いつになるかは断言出来ませんけれど…いずれ」
(…あたくしが道を定めるのが早いか、あなたが「あたくし達(レコンキスタ)」に討たれるのが早いか…楽しみですわね?)

不穏なことを考えながらも、それをきっちり胸の奥に封じ込めて、品の良い笑みを浮かべた。

「夏休み前の試験の結果では、満点までは下さいませんでしたけれど。
…次への目標ですわ」

獅南の講義の話になれば、そう言ってくすくすと笑う。
獅南と違って魔力に恵まれたクローデットには、効率性の理論的な追求が若干甘くなってしまうところがある。そういう瑕疵を獅南は見逃さないのだ。

「ええ、新美術館の展示も、時間が出来れば是非足を運ばせていただきますわ。
…それでは、調べ物の続きもありますので、あたくしはこれで。

…読書のお邪魔、してしまって申しわけありませんでした」

美しい姿勢の、やや深めのお辞儀をして、閲覧スペースに向かおうとする。

ヨキ > (いつでもどうぞ、と微笑んで頷く。
 机に下ろした指先の爪が、こつんと硬い音を立てた)

「そうか……そうすると、君は両親とも魔術師か。あるいは、そういった家系であるかな。
 技術の幅を広げることは、本道を盤石とする支えにもなるからな。
 自分に合わずとも――触れるだけ、新しく知れることはある」

(意欲に満ちたクローデットの礼と挨拶に、立ち上がって応える)

「君ほどの熱意があれば、次にヨキと会うときには早々と新たな成果を打ち立てていることだろう。
 ……いや、こちらこそ無碍に声を掛けて失敬したな。
 またの機会を楽しみにしているよ――ルナン君」

(踵を返し、クローデットに背を向けて逆の通路を歩き始める。
 来たときと同じ歩調で、颯爽と図書館を後にする――)

ヨキ > (――やがて独り、図書館からキャンパスへと至る道。
 手元のメモに、聞いた名前を書き付ける)



《 C - lau - de - tte , 》

《Ru――(打ち消し線。仏語!) RE - na - n …… 》



(目を細める。……愉快げに、く、と喉で笑う)

「やれやれ」



(暗転。)

ご案内:「図書館」からヨキさんが去りました。
ご案内:「図書館」からクローデットさんが去りました。