2016/10/04 のログ
ご案内:「禁書庫」にクローデットさんが現れました。
■クローデット > 先日の大規模討伐で頑張った分、しばし委員会の業務を外れる事になった。
それでもやりたい事は多いが、ひとまずは研究の続きである。
そんなわけで、クローデットは講義が終えると早速禁書庫に篭っていた。
閲覧許可をもらった「門」に関する学術書を紐解きながら、大まかな内容をノートにまとめていく。
…無論、曰く付きの書物も多いこの空間だが…少なくとも「魔」に関するものや、精神を侵す類のものに対する対策は抜かりがない。
白を基調にしたこの装いも、その「対策」のうちだった。
■クローデット > (…随分、悔しげな声が聞こえますこと)
内心おかしがりながら、それでも平然と…この場所にはそぐわないくらいの落ち着き具合で、勉強を続けていく。
まさか、クローデットほどの魔術師が、「わざわざ」「よりによって」「禁書庫で」聞き取りの術式など仕込んだりはしない。それならば、力の動きだけを察知する方がよほど安全で、間違いがない。
…つまり、今禁書庫のクローデットがいるあたりでは、「獲物」に手を出せない「曰く付き」の書物達の恨みがましい念が、実際にかすかなうめき声として聞こえるほどにまでなっているのである。
常人であれば、うめき声の気配を察知しただけで回れ右したくなるに違いない状況だった。
■クローデット > (…ああ、なるほど…そういった要素も勘案しなければなりませんか)
学術書の記述で、今までは気にしていなかったところに新たな要素が転がっていた事に気付く。そして、楽しげな微笑を口元に浮かべながら、ノートにシャープペンシルを走らせる。
この島での様々な経験は、間違いなくクローデットの見識を広げ…そしてそれは、クローデットの魔術の向上にしっかりと貢献していた。
少なくとも、「魔術の探究」という、表向きの…しかし、偽りではない目的には、クローデットは邁進出来ていると言えただろう。
■クローデット > (…しかし、魔術の探究はこれはこれで楽しいのですけれど…
なかなか、「大願」の方が捗りませんわね)
ノートにさらさらとまとめを作りながら、そんなことを考える。
委員会組織も決して無垢ではない…特に、秘密要素の強い公安は…と思っていたのだが、ここしばらく、暴発はなりを潜めているようだ。
おまけに、「分断」から予期される「破綻」の足音は、意外と遠い。巨大な「パイ」は、「分断」が招く「破綻」をどこまでも先送り出来てしまうのであろう。
…かつて、《大変容》前の世界もそうだったように。
■クローデット > (…今回の作戦で随分魔力の痕跡を残してやりましたから…
少しくらい、燻りが表に出てくれれば良いのですけれど)
基本的に、広範囲で展開した浄化術式は、「あえて」大物までは浄化出来ないレベルに抑えて扱っていた。
大物は個別撃破すればいいのと、何かの間違いでそういった属性の正規の住人を浄化してはいけないから、という名目で。
それらの名目も嘘ではないが…クローデットとしては、「裏」の住人が持つ、「表」の住人への反感を煽ってやりたかったのだ。
いくら「浄化」されないとはいえ、広範囲に展開した浄化術式は、その手の属性を持つ「大物」を多少なりとも不快にしただろうし、そうでなくても、委員会所属者が大規模な魔術を展開したとなれば、良い思いをしない住人は多いだろうから。
…もっとも、クローデットがそんなまどろっこしいことをするまでもなく、「善意の」討伐参加者…ただし、退魔の技を持たない者達…が、随分、「妖怪もどき」討伐のついでに街を破壊してくれたようではあったが。
■クローデット > …では、何故クローデットも「彼ら」に倣って浄化ではない破壊の手段を取らなかったのかといえば。
1つは、当然ながら委員会との兼ね合いだ。既に白魔術を得意な術式系統の1つとして申告しているのに、余計な破壊を伴う術式を選択したらまた問題になっただろう。
2つ目に、術効率の問題。やはり、「あの手のもの」を相手取るならば、浄化術式の方が圧倒的に効率が良い。
そして、3つ目は…「彼ら」にとっては、「浄化」の方が苦痛がないからだ。
「彼ら」は、まごうことなく「弱者」だ。
実体はもちろん、個々の存在すら確立出来ておらず、ただ悪意と、怨念だけで動くもの。
そして…「裏」の住人は卑しい同胞達との繋がりで生きているのだろうが、「彼ら」にはそんなつながりすら期待出来ない。
ならば、せめて「包容」して「送って」やるのが慈悲ではないのか、と。
■クローデット > 無論、そんな思惑の諸々は、外部に悟られる事はないだろう。
「魔術の腕に自信がある、悪名高い公安委員が、効率の良い手段で自分の仕事を果たした」
以上のものには、見えなかったはずだ。
(………さて、良い時間ですか)
魔術的防護を施しておいた携帯端末で、時間を確認する。
クローデットは、閲覧していた学術書を元あった棚に戻した。
■クローデット > さて、クローデットの「慈悲」の対象に、「裏」の住人は入らないのかと言えば…
当然、入るわけがない。
わざわざこの島に来るような連中で、その多くは異能者(バケモノ)で、異邦人(ヨソモノ)で…そして、犯罪者なのだから。
他人の命を、財産を…尊厳を、踏みにじるような連中なのだから。
(…本当に、先日の魔術の痕跡で、「奴ら」があぶり出せれば良いのですけれど)
「個人的に引き受けた案件」を頭の中に思い浮かべるが…
まずは、ハウスキーパーが用意してくれている夕飯だ。
学術書を元の棚に戻した後のクローデットは、後ろで響くうめき声にまるで頓着せず、禁書庫を立ち去る。
クローデットが禁書庫を去って…1時間もしないうちに、「彼ら」はその悔しさを忘れてしまうだろう。
ここは見る者が見れば「宝の山」なのだ。新しい「獲物」も、きっとすぐ…。
ご案内:「禁書庫」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「禁書庫」に奥野晴明 銀貨さんが現れました。
■奥野晴明 銀貨 > 卒業論文作成のために特別に許可を得て訪れた禁書庫。
ここには数多くの封印指定にされた魔術書や生半な実力では扱えない力のある禁書などが多く眠っている。
書物の保存に適した暗所と湿度をひんやりと感じながら、
目的の文献が眠っている保管棚へとゆっくりと歩いてゆく。
時折、目にする書架に保管された本の背表紙を無防備に指でなぞったなりしながら。
目指す書物は『異能や魔力を永続的に押さえる封印術』の分類である。
■奥野晴明 銀貨 > 目当ての分類の書架にたどり着くと、必要な魔術書を吟味していく。
まずは自分の視線の位置近くにあるものから、めぼしいものを抜き出そうとするが
残念ながら、少し分野が違ったり以前少しだけ読んで参考にしたものばかりである。
そうなると少し高い位置にある本へと手を伸ばさなければ望むものは手に入らなさそうだ。
周囲に首を巡らせて、備え付けの脚立を探し始める。
こういうとき飛行能力やら念動力やらがあれば便利だろうが、残念ながら銀貨にはどちらもない。
もしくは背が伸びたりすればいいのになー、などとどうでも良さそうに夢想する。
ご案内:「禁書庫」に化野千尋さんが現れました。
■化野千尋 > 奥野晴明がその禁書庫に来る前に、先客がひとり、禁書庫にはいた。
息を殺して、音を殺して、まるで泥棒のように周囲に気を配りながら。
黒いセーラー服の化野が、禁書庫にこっそりと忍び込んでいた。
彼が訪れたのと同時に様々な葛藤が胸の内にあったが、彼女は今回、
許可を得た生徒のふりをすることを選んだ。
「どうもお。
……もしかして、高いところの本をお探しですかあ。」
ひょこり、と顔だけ出して声を掛ける。
■奥野晴明 銀貨 > 先客の気配には気づかず、ひょっこりと書架の隙間から顔を出した化野におや、と片眉を動かした。
「はい、こんにちは。
そうなんです、ちょっと欲しい本が上の方にあって。
そちらの方に脚立か台がありませんか?」
化野の胸中の葛藤などちっとも知りもせず涼しい顔でにっこりと微笑み尋ねてみる。
彼の両手にはノート、筆記用具、参考書が抱えられている。
■化野千尋 > 「ええと、向こうの方にありましたので。
ちょっとお待ち下さいねえ。持ってまいります」
にこりと小さく口元を緩ませ、ぱたぱたと音を立てて奥のほうへと行く。
暫くして、ぎちぎちと鳴く脚立と共に再び顔を覗かせる。
「こちらでだいじょーぶでしょうか。
……、興味本位でお伺いするのですけれど、魔術のお勉強かなにかでしょーか。」
彼の傍に脚立の脚を広げて、倒れないように開き止めの確認をする。
きちんとロックがかかっているのを確認すれば、「どうぞ」、と一声。
■奥野晴明 銀貨 > 身を翻して奥へと去っていく化野が再び脚立と共にこちらへ戻ってくれば
さらに笑みを深くしてありがとうございますと一礼した。
「ええ、卒業論文の参考に封印術の勉強が必要なので……。
でも表の図書館の本は殆ど紐解いてしまいましたから、許可を貰ってこちらの禁術を参考にしに来たんです」
さらりと特に隠すこともなくこちらの事情をかいつまんで話す。
化野によってきちんとロックがかけられた脚立にお礼を言ってから
一歩足を乗せればぎしぎしと独特のきしみ音が鳴った。
「そういうあなたは……ええと、差し支えなければ聞いても?」
一番上まで足を乗せて立ち、本を探りながらそう相手に尋ねてみる。
■化野千尋 > 「禁術が必要な卒業論文ですかあ。
なんだか難しそうで大変そうですねえ。
あだしのは図書館の本でも難しかったのに、ちょっと尊敬してしまいます。」
また人当たりのいい笑顔を浮かべるも、問われたことにぎくりと表情を固くする。
化野は、嘘は吐けどどうにもバレやすいという欠点を抱えていた。
「えっと、――……。
そうですねえ。探し物。そう、探し物を、しているんです。
どうにも見つからないので、ここなら見つかるんじゃないかと思ったんです。
上手く見つからないのですけど、ね。」
困ったように眉を下げて。
奥野晴明の手繰る手の先をじいっと見つめていた。
■奥野晴明 銀貨 > 書架は少し奥深く、残念ながら銀貨の手には届かない場所に本が滑り込んでいた。
仕方ないと、胸の内で嘆息すると人差し指を棚板にのせ、その指先から一列の軍隊アリを沸き立たせる。
アリたちはまっすぐに目当ての本へと群がると軍勢の力でヨイショと本を持ち上げて銀貨の方へ徐々に本を運んでいく。
ようやく指先が本の角につくと、あとは普通に持ち上げて取るだけだ。
化野に見えないようにアリたちを『仕舞って』脚立から降りていく。
「ええ、難しいんですよねぇ。だからもっと魔術に精通した人に助言を貰ったほうがいいなぁと考えているんです。
それが出来ない間は、自力でなんとかしないといけないなって」
再び床に足を付け、取ってきた本を持ち上げてみせる。
が、自分の質問にどうも歯切れの悪い返答をする化野をじっと見つめた。
「そうでしたか、”探し物”。
あなたの探しものもなかなか厄介と見えますね。脚立のお礼がまだですから
よければ僕が一緒に探しましょうか?」
善意からの申し出、先ほどと同じようにニッコリと微笑んで。
■化野千尋 > 「あだしのなら、そうですね。
たぶん、さっさと詳しい人に聞いて解決してしまおうとすると思います。
……ご事情あるのかわかりませんが、自分で探せるのは、えらいと思います。」
口元に手を当てて、緩やかに微笑む。純粋に、敬意を向けての表情であった。
彼が無事に足を付けたのを見れば、ほっとしたように胸を撫で下ろす。
誰かに自分のせいで怪我をさせるのは何よりも嫌だったからだ。
「えっと、それほどでも――」
じいっと覗き込むようなタンザナイトの双眸に、僅かに視線を逸らす。
それでもどうにも居た堪れなくなったのか、ようやっと目を合わせて、申し訳なさそうに笑う。
「ないんですけれど。
せっかくのお言葉、甘えさせていただきますねえ。
その、ここにあるかはわからないんですけれど。…………そのですね。」
そっと、内緒ごとを打ち明けるかのように、少しばかり声量を落とした。
「死ぬとは、どういうことなのか知りたくって。
探しているのですけど、見当たらなくってですねえ。
なにかないかと、何度かこうして探しには来ているんですが。
どうにもこうにもあだしのは探すのが下手みたいで。」
■奥野晴明 銀貨 > 敬意を向けられるのは慣れている。もっともそういったものを求めて行動したことはないし
今ここでもそうした覚えは無かったのだから、純粋に向けられたものにはやや照れたようにはにかんだ。
「”死ぬとはどういうことなのか”ですか……厄介ですねぇ」
ふむ、と口元に手を当てて化野の捜し物について考えを巡らせた。
「死にも色々有りますよね。
生きながらに死ぬ、壊死、狂死、焼死、言葉も様々です。
あなたの探している『死ぬ』がどういったものなのかがまずわかりませんと
なんともいえませんけれど……」
そこで言葉を区切って苦笑する。
「まず死んでしまってはそれがどういったものなのかを伝えるすべが無くなっちゃいますよね。
死んで生き返った、ならそれはまだ死んでいませんし、死霊術などの降霊術によるものでも
生前のどのように死んだか、という原因を話せるとしても死が具体的にどういったものかまでは言及できません。
何よりここは本を扱う場所ですからね、本って伝えるためにあるものですけど
伝えられないものにはどうしようもないのかなって僕は思いますけど」
と、ここまでずらずらと一方的に自分の考えを聞かせて述べる。
人が人ならまったくもってコミュニケーションが成り立っていない様相で
ただ、化野がどうしてそれを探しているのかについては一切気にかけていない様子だった。
■化野千尋 > ふむむ、とわかりやすい声を漏らして。
真っ直ぐに彼の言葉を聞いて、困ったように「そうですね」と笑う。
「確かに、この探し方では見つからないのも当然かもしれません。
ただ、禁書庫ともなればあるんじゃないか、って思ってしまって。
神様に縋る、じゃないですけど、禁書庫にも縋りたい思いになってしまって。
《大変容》の資料は、ご覧になったこと、ありますかあ。
財団が公開しているデータベースにあるもののひとつに、ある小説家の遺書がありまして。
……まあ、中身は言わずもがな、困っているひとの言葉なのですが。
それを読んだときに、まったく、これっぽっちもしらないのにですよ。
ああ、《大変容》って、そういうものなんだ、と思ってしまったというか。
だから、そういうものを探してたんです。」
唇に指を当てる。考え込んでいるときの癖らしかった。
何度か微妙な表情を浮かべながら考える。
人と話しているのにも関わらず、当たり前のように自分の思考の海にずぶずぶと浸かっていく。
「あだしの、死んでみたいんです。
そうすれば、わかると思ったんですよね。どんな人がどういう感情で死んでいくのか。
なぜ人は死ぬのか。あだしのの場合は、興味心に殺されることになるのでしょーか。
……なんて。冗談にしてはたちが悪すぎましたね。
ええと、おにいさんはどう思いま――……。」
そこまで言い切って、顔を真っ赤にして頭を下げる。
コミュニケーションの基本である、名前を問うことをしていないことに気づいた。
「す、すみません! 名前も言わずにずけずけと!
あだしのです。化野、千尋です。千を尋ねると書いて、ちひろ。
1年で、この間この島にきたばかりでして。」
■奥野晴明 銀貨 > 「なるほど……確かに死んだ後の文献なんて禁書庫にでも無くてはおかしいかもしれないですね」
どうやら彼女もまたマイペースな質らしい。唇に指を当てて自分の考えに耽りながら
それを口からつらつらと語る化野の様子に目を細めてみる。何か面白いものを観察しているように。
「ええ、かなり前に読んだから内容の大部分は飛んでしまっていますけれど。
確かに小説家ならばあるいは擬似的にでも死ぬことについてを書き出して
読んだものに知らしめてくれる筆力があるかもしれないですねぇ」
が、それに続く化野の言葉におや、と眉をひそめた。
興味本位で死んでみたい、殺されてみたいなどと。
そこでやっと彼女が何故そのような事を口にしているのかを知りたくなったというか……
ようやく疑問を浮かべたような顔をした。
「生きているから、死ぬんですよ、としか言いようがありませんね。
ずっと生き続ける、不滅の生き物の存在をこの世界は許していない……いえ、それは
《大変容》以前の話でしたね。でも今でもこの世界の理は概ねそのような形になっているかと。
あは、ごめんなさい。つまらないことしか言えなくて。
はい、化野千尋さんですね。僕は3年の奥野晴明 銀貨です。どうぞよろしく」
真っ赤な顔で頭を下げる相手にいやいや遠慮なさらずと手を振ってこちらも名乗る。
3年、とは言うものの化野と見た目の年は変わらないか下手をすると下にも見える気がする。
■化野千尋 > 「いえいえ、とんでもないですよう。つまらなくなんかありませんもの。
おくのせいめいさん、ですねえ。
かっこいいお名前をしてらっしゃるのですねえ。」
ふふ、と柔らかく微笑んで、奥野晴明の言葉には「当然です」と眉を下げて笑う。
生きているから死ぬ。それはそうだろう。それはそうにして、真理でもある。
それが当然、生きていれば出て来るだろう言葉。当たり前である。
「あだしのは、その。
死んでしまったものがみえるといいますか。霊感が強いといいますか。
それって、ほんとうに死んでいるのか、と思ってしまってですね。
……すみません。くだらないお話なので、笑ってください。
死んだ先にも、なにかあるのではないかと、思っているんです。
それが何なのか。死んでしまって失うものとは何か。
死んでしまってから、反対に――得るものは何か、だとか。」
苦笑を添えて、思い出したようにぽんと掌にグーを載せる。
「おくのせいめいさんは、どんな研究をなさってるんですかあ。
差し支えありませんでしたら、教えてもらえないかなあと思うのですけれど。」
■奥野晴明 銀貨 > 「ふふ、ありがとうございます。よくそんな風には言われます。
よければ銀貨、って呼んでくださる方が慣れていますのでどうぞそのように」
奥野晴明の名字は元々銀貨のものではないのだし、下の名前で呼ばれる方がずっと親しみがあった。
化野が続ける話には笑ったりなどはせず、
彼女が何を抱えているのかをつぶさに聞き取るように真面目に頷いて聞き入った。
「笑うなんてそんな、この学園に来る人はみな大体人には言いづらい事情や力があって当然ですから。
むしろ僕に話して頂けて光栄です。会ったばかりですのに。
霊感が強いとおっしゃいましたね。ならば気をつけたほうがいいでしょう。
例え霊魂や幽霊が見えたとしてもそれは生きては居なくて『死に続けている』だけなのですから。
死んだ先に何があるか、得られるものがあるのではなどと生きている側からはそう見えてしまうこともあるでしょうが
彼らの結末・結果に『その先』はなくて『ただの行き止まり』なのだと僕は思います。
あくまで彼らはこの世に未練のある幻影でしょうから」
なんて、こんなことを言えば彼女が怒ってしまうかもしれない。
だが言わずに居られなかったのは、そう言った幽世のものと交信できるものは常々
現し世よりも幽世に惹かれがちであることが多い。
彼女もまたそうかどうかはまだ分からないが、どうにも銀貨にはそのように思われた。
「僕の研究ですか?研究と呼べるほど大したものではないのですが……
そうですね、異能や超常の力に困っている人たちをちょっと助ける魔術の研究、みたいなものですよ」
そう言って先程掴んだ本の表紙を見せてみる。
化野に判断できるかはわからないが、その表紙の魔術文字は封印術に関連するタイトルが記されているようだった。
■化野千尋 > 「それでは、ぎんかさん、と。」
何度かぎんか、と繰り返す。
どうにもこの化野は、人の顔と名前を一致させるのが上手とは言えないのだ。
真面目な奥野晴明の表情には、申し訳無さそうな表情を返した。
「そんなに隠すようなことでもございませんし、
向こう――本土でも、たまあに言っておりましたので。
ここのみなさんみたいに、言うと手の内を明かすようなことになるわけでもございませんから。
……『死に続けている』、ですかあ。
なるほど、たしかに、……そうなのかもしれませんねえ。
言われてみると、あだしのは死後の世界というものに期待を抱き過ぎているのかもしれません。
『死に続けている』。すごく、はっとしました。」
ありがとうございます、と丁寧に頭を下げる。
化野は、怒ることも感情を大きく動かすこともなく。ただひたすらに感銘を受けたようだった。
そして、本の表紙を読もうとじいっと見つめるも、浅学な化野には読めなかった。
「異能や超常の力に困っている人たちをちょっと助ける魔術……ですかあ。
そういうのがあれば、きっと本土でどうにも馴染めない子だとかが生きやすくなりますねえ。
あ、あとは自分の異能がお嫌いなひと、とか。
……誰か、助けてあげたいひとでもいらっしゃるんですかあ。」
能力のセーブかなにかをするのだと、なんとなくで感じたらしい。
もしくは、そうでいてほしいという願望だったのだろうか。
浮かんだ疑問を、奥野晴明へと向ける。
■奥野晴明 銀貨 > 「すみません、つい真面目になっちゃって。
どうにも異能やそういったものに敏感になっちゃうせいですね、気を悪くされたならごめんなさい。
ここの人たちも色々特殊な人が多くて、慣習になっちゃっているのもありまして」
申し訳無さそうな化野の表情にこちらこそ畏まってと侘びた。
表紙をじっと覗き込み興味のありそうな彼女に中身を開いて見せてみる。
禁書の類なのだからそう安々と取り扱っては危ないはずなのだが、
何故か銀貨には開くそのページが二人にとって安全なのを理解しているようだった。
「ええ、まさにその通りなんです。化野さんって察しがいいんですね。
本当はこんな風に抑える形ではなくて、他人は他人、人それぞれで皆が持っているものを
そのまま活かせるのが理想の形なのでしょうけれど、そこまで至るにはまだ難しいので……。
助けてあげたいひと、というか……『たちばな学級』ってご存知ですか?
そこに通う子たちはそれこそ自分の力の加減が出来なくて大変な日々を送っているので、
僕の研究がそういう子達の役に立てたらと考えているんです。
化野さんは、自分の力がセーブできたらいいなって感じたり考えたりしたことは有りますか?」
■化野千尋 > いえいえ、とまた首を振る。
開かれたページにずい、と顔を近づける。
魔術の基礎の基を勉強している最中の彼女には、些か早かったのかもしれない。
「勘ですよう。
ほら、異能となると、大事にしている人が多いように思いますから。
それをどうこうしよう、となると、困っている人かな、って思ったんです。」
たちばな学級、と聞けば、「お話だけは」と返す。
入学時にそんな話も、たしか聞いていた。
「ひとのために何かをしてあげられる人は、やっぱりすごいと思います。
あだしのは、あだしのの視野でしか物事を見られませんから。
そういえばあったな、くらいにしかたちばな学級のことも覚えていませんでした。」
続いた質問には、これまた目を丸くした。
はて、やらええと、やら困ったような様子が伺える。
そうして暫くあたふたした後、また困ったような笑顔を浮かべて口を開く。
「考えたことがなかったですねえ。
正直、あだしのは霊感が強いくらいで、あとは大した能力も魔法もありません。
なので、セーブする、というのは少しも考えたことがなかったです。
それがあだしのにとっての、あたりまえでしたから。」
「セーブするもなにも、ただの霊感ですからねえ」と笑う。
■奥野晴明 銀貨 > 化野の顔がページに近づけば、よく見えるようにと配慮して彼女の方へ本を近づけ
ページを捲ってやる。中身はたぶん術式についてああだこうだと書かれているのだが
ゴマ粒のような大量の文字の間に時折魔法陣や実際の実験の様子などを書き記した図案が載っているようだった。
「勘、にしては随分と道筋だった考えをしてもいるんだなって思いました。
勘は勘でも、それこそ霊感というやつなのかなぁ」
大体本の中身を見せ終わった所でぱたんと本を閉じた。
これ以上はあまり見せても影響が出る強いページばかりと判断したせいかもしれない。
「人のため、というわけではなくてこれも自分のための延長に過ぎないんです。
僕自身、こうして化野さんと楽しくお喋りするにはこういった能力をセーブしないとならなかった人間なので
研究はその副産物というか……僕に適応出来たものを他の人にも通用できないかということを
試したかっただけかもしれません」
再びの涼しげな笑み。困った様子であたふたする化野を楽しげに眺め
出てきた回答になるほどと頷いた。
「『たちばな学級』もそうですけれどたぶん殆どの人にとってこの研究は必要ないものなのでしょうね。
だけど大多数に必要ないものでも研究してはならないわけではないし、それが実際役に立っている人間もいますからね。
化野さんが困っていないのならそれはそれで幸いなことです。
例えばこれでお化けが本当は怖くってでも霊感が強すぎて無視できないし大変な思いをしている
とかであれば僕も力になりたいしこれが必要にもなると思いますけれども
そういうわけでもなさそうでしたしね」
なんて、冗談めかして笑ってみせる。
■化野千尋 > 「こうやって考えるといいよ、って教えてもらったんですよ。
限られた言葉の中で、どれだけ相手のことがわかるか、って。
母う――母が、そう。昔はあだしのも、喋るのがとっても苦手でしたから。」
閉じられた本から顔を離す。
重たい前髪をしっかりと耳に掛け、赤色の瞳が覗く。
余裕気な表情に、どこか視線を逸しながらも小さく「すみません」、と一言。
「あだしのも、随分ずけずけと聞いてしまって。
すみません。デリカシーがない、とか空気が読めない、とはよく言われるんですよね。」
視線を持ち上げ、ミルクティの揺れる前髪をじっと見つめる。
どうにも目を合わせるのは苦手だった。
目を合わせているように見える小細工を化野に教えたのも彼女の母だった。
「研究とは、往々にして大多数には必要のないものであることが多いと聞きますから。
大多数に直接の関わりはなかったとしても、何れどこかで繋がることがあるかもしれませんし。
……もしかしたら、異能者という存在がいなくなるかもしれませんしね。
その研究が実れば、みんなが同じ、公平な社会になるかもしれません。
どうなるかはわからないですが、あだしのはぎんかさんの研究、成功するよう祈っていますねえ。
たとえそれが自分のための延長線だとしても、誰かを救うことには変わりありませんから。
『たちばな学級』のヒーローはぎんかさんなのかもしれませんねえ。」
にこり、と小さく微笑んで、今更になってやってきた緊張につう、と冷や汗をかいて。
自分がどんな考えをして、何を持っていたとしても禁書庫に忍び込んだ悪い生徒であることには変わりない。
ちらちらと出入り口を伺って、最初の困り笑いを浮かべる。
禁書庫の冷たい印象は、人がいるだけでどうにも雰囲気が変わって思えた。
「すみません、お時間とらせてしまって。
お喋り、とってもたのしかったですよう。ありがとうございました、ぎんかさん。
もし機会があれば、ぜひに。脚立は、あちらにお返しすればよかったはずですので。
お先に、あだしのは失礼いたしますねえ。」
禁書庫の奥、脚立や台が並ぶ場所を指差してあそこですあそこ、と繰り返す。
そうして、丁寧に頭を下げる。もう一度、重ねて感謝の言葉を伝えて奥野晴明の傍を通り過ぎる。
何度か振り返って「ありがとうございました!」、と。やや駆け足で、禁書庫から去っていった。
ご案内:「禁書庫」から化野千尋さんが去りました。
■奥野晴明 銀貨 > 「化野さんのお母様は苦手を克服させてくださる良いお母様だったのですね。
いえ、こちらこそ探しものを手伝うと言いながら結局お話に終始してしまって申し訳なかったです」
畏まる化野に首を振って笑った。
彼女の視線の先が自分の前髪付近に注がれていることなど気にもとめていない様子であった。
視線を合わせて話すのが苦手な子は『たちばな学級』にも多くいた。
だからそれが不快という事も決して無かった。人の事情は人それぞれなのだから。
「ありがとう、化野さん。そう言ってもらえて研究を続ける気力が湧いてきました。
ヒーローなんて恐れ多いけれども、少しでも自分の力に悩む人が少なくなれば
それは各々が生きやすい社会になるかなって」
急に焦りだした相手の方に首を傾げ、浮かんだ困り笑いにこの子は困り笑いが癖なのかもしれないと思う。
特に引き止めることはせず、そのまま見逃す形になった。
「いいえ、こちらこそとても有意義なおしゃべりをありがとうございました。
脚立の件もありがとうございました、助かりました。
またどこかで、お気をつけて化野さん」
繰り返された脚立の返却場所を確認した後、手を振って化野を見送った。
何度も何度も頭を下げる彼女に律儀な子だなぁと微笑ましく思いながら。
結局のところ、彼女が探したかったものを見つけるのは叶わなかったのだが
彼女ならまた別のところを探しに何処かへ行くのだろうとなんとなく思う。
死ぬことがどういうことか、
改めて聞かれて銀貨は自分の方こそ知りたかったのではなかったのではないかと思い至る。
死の形、手触り、一度だけしか味わえない極地、それを生きている内に味わいたいと思う人の業。
かぶりを振って考えを追い払い、再び自分の資料探しに戻った。
ご案内:「禁書庫」から奥野晴明 銀貨さんが去りました。