2017/03/19 のログ
和元月香 > 「…ん?」
だが…苦笑を溢す目の前の生徒を見て、声の感じに少し首を傾ける月香。

…妙に高かった。

「ん、んんん~…?
えーっと、もしかしてですけど女性の方で…すか?」

何か長年の勘も告げている。
だが確信を持つとまで行かず、おそるおそるそう尋ねてみる。

…しかも、どうやら魔術は寧ろ得意な方だったらしい。

「あー…なるほど。
………元素魔法……魔法剣、ですか…」

納得したように頷くと、不意に考え込む月香。
…魔術の適性は大抵あるし、魔術なら異世界の物なら特に沢山知っている。
並べた二つに似て否なる異世界の魔術になら、適性はあるかも知れない。

この人は一生懸命だし、出来る事なら力になりたい。

「えーっと……力になれるかも、しれないんですけど」

…とりあえず、そう切り出してみようか。

セシル > 「積極的に自覚しているわけではないが、少なくとも男ではないよ」

恐る恐る尋ねられれば、鷹揚に笑って頷いた。
誤解され慣れているのか、丁寧に「よくあることだから、気にしなくていい」とまで付け加えてきた。

「ああ…だが、「守る」仕事は攻め手だけではどうにもならんからな。
守る術を、緊急手段として、簡単なものでも良いから覚えておきたいと思っているんだが…」

元素魔術などからは大分離れた方面の術式をあげて、少しだけ困ったように笑うが…
相手からの提案に、目を見開いて。

「………良いのか?」

そう、驚きの表情で尋ねた。

和元月香 > 「…あっなんか理解しました。ご馳走様です」
(これはあれだ、男として育てられたとかそういうやつですね)

アニメ脳な月香はつい真顔で口走ってしまった。
…多分間違っていないであろう推測も全部アニメ脳のおかげだ。別に異能でも何でも無い。

「…守る…ですか…。ううむ…」

脳フル回転、とばかりに眉を寄せ険しい顔になる月香。
膨大な記憶を探れ、そしてこの麗人の王子様の喜んだ顔を見る。絶対麗しい。

(…いや、待てよ!そもそもこの人多分私の知ってる元素魔術と違うか…)
…そう結論を出す。

「もちろん!…なんで、ちょっとその元素魔術について詳しい事教えてもらえませんかね?

…あ、あと名前も。私は和元月香です、よろしくお願いしますねー」
と、月香はにっと人当たりのいい笑顔を浮かべた。

セシル > 「…ご馳走様です…何か、こちらでは「寧ろそれが良い」みたいな風潮があるらしいな」

「よく分からん」と、軽く眉を寄せて困ったように笑う。
実際、たまーにいるのである。性別を把握した上で割と本気でアプローチしてくる女生徒が。

「…多分、そこまで珍しいものではないと思う。
元素を望む形で具現化させて、攻撃や補助に使うようなものだ。炎を飛ばして攻撃したり、風…というか空気の塊を生み出して身体を浮かせたりとか…そんな感じだ」

「貴殿の知識と違わなければ良いが…」と呟いたところで、相手の名乗り。

「ツキカか。私はセシル・ラフフェザーだ。来年は2年になる。
よろしく…と言っても、ツキカのその様子では握手は出来んか」

そう言って、こちらも朗らかに笑い返した。

和元月香 > 「…知らなくていいですよ…。私らが勝手に言ってるだけなんで…」

無駄に決め顔。確かにそうかもしれないが、変に悟った顔である。…まぁとどのつまりイケメンに性別の壁は必要無いのだ。

「なるほどなるほど…。ちなみに得意な属性とかあります?」

出来ればやり易い方がいいですよね、とへらりと緊張感無く笑みを浮かべる。
…ただ、心の中ではかなり大袈裟にホッと胸を撫で下ろしていた。

(あ"ーっ、良かったぁ…。大抵の世界のと一緒だな…。良かった…。
たまに「それ元素魔術ちゃうやん」ってのあるからなぁ異世界じゃ…)

「セシルさん、ですか。…名前までイケメンっすね」

握手は流石に出来そうにないので浅く頭を下げた後、笑顔のままボソリと呟いた。

セシル > 「………そういうものか………」

無駄にキメ顔の月香とは対照的に、こちらは腑に落ちない顔をしているのだった。

「得意なのは、あえて言うなら風だな。あまり防御向きではないと思うんだが…」

得意な属性を聞かれれば、そう答える。
セシルは普段攻撃には回避で対処していることが多く、それにはそぐうのだが…。

「まあ、音だけだと男か女か分かりにくいな。綴れば判別は出来るんだが」

そして、月香の呟きはしっかり拾われていた。
ははは、と大らかに笑いながらそんなことを言う。

………本当は、ミドルネームがとても分かりやすいのだが。名乗りたくないのである。

和元月香 > 「風……。
……ふっふーん、問題無いです。思い当たるのがいくつかあります……」

ニヤリ、と悪巧みするように口元を上げてからいそいそと本のタワーを床に降ろす。
…握手する時に降ろせば良かった、と内心猛烈に後悔しながら。

「ちょっと紙持ってますか?…ペンはポケットに入ってたんですけど」

スカートのポケットから取り出したのはシャーペン。
カチカチとペン先を出しながら尋ねる。

「ですねー。でも、素敵な名前だと思いますよ」

これは本心中の本心だと、笑顔を浮かべてそう告げる。
…綴るってお洒落だな、と中学生並みの感想を抱きながら。

セシル > 「おお、本当か!」

月香の提案に、瞳を輝かせる。
声は、張らないように気を付けつつ。

「紙か?メモ帳ならばあるが…」

「これでも問題無いか?」と言って、胸ポケットから取り出して、付けていたボールペンを抜いて差し出す。
胸ポケットに入っていただけあって、あまり大きなものではないようだ。

「………ありがとう」

素敵な名前と言われれば、柔らかく笑んだ。
それでも、口角を上げるというよりは横に開く印象の強い笑顔は男性的な様相だろう。

和元月香 > 「大丈夫ですー、ありがとうございます…よっし」

渡されたメモは心良く受け取り、何故か気合いを入れるため拳を握る月香。
カチ、ともう一度シャーペンを鳴らしてから、凄い速さで魔術式らしきものを書き始めた。

いっぱいになるまで書き尽くせば、次のページへ。
そのページもいっぱいになるまで書き尽くせば、また次のページへ。

それを何回か繰り返す月香は眉間に皺を寄せて真剣な表情だ。
時折「何これむずい」などと呟きながらも、遠すぎる異世界の魔術だと大変分かりにくいものもある魔術式を、分かりやすく書き直す。

「…よっし。出来ました」

満足げな表情で渡すメモに記された魔術は、合わせて5つ。

とある忍術と魔術の融合した世界の魔術、魔法と呼ばれる類いの物、精霊魔法に近い物、ちょっとした黒魔術に近い物、そしてありふれた元素魔術。

どれも元素魔術の風属性の、防御魔術だ。
…全く異世界のものなので、どれか1つは適応性があればいいのだが。

セシル > 「お…おおお…」

ノリの軽さからすれば意外なほどに、猛然と書き付けていく月香の様子に圧倒されるセシル。
時折呟いている迷いも、元々理論が苦手なので気にならない。

「…あ、ありがとう…」

圧倒されたまま、渡されるメモを受け取って、ぱらぱらと眺める。
当然理解度に差はあって…セシルにとっては、ありふれた元素魔術の術式が一番理解しやすかった。

「これは…私の見慣れた元素魔術に近そうだ」

確かな手応えに、口元が綻ぶセシル。

「一応、参考用のテキストを借りた方が確実そうだがな…ツキカが薦めるテキストがあれば、参考にしたいのだが。元素魔術のテキストならば、中級くらいは読めると思うし」

「より理解を深めるには、どれが良いと思う?」と、元素魔術のコーナーの辺りを指差して。

和元月香 > 「お安い御用ですって!」

真剣な表情から一転、先程のように軽い調子でだらしない笑みを浮かべる月香。

(明日手筋肉痛だなー。…あ、知恵熱も出るかもー)

笑顔の裏で、そんな事を現実逃避のためか、軽い調子で考えながら。
…こんなに無理矢理記憶を引っ張り出したのは久しぶりだ。
魔術理論も魔術式も、得意は得意だがここに来て読むだけで書いていなかった。

「おぉ、良かった!それ比較的使い勝手いいし、結構練習してコツ掴めばかなりクオリティー上がりますよー」

(個人的に一番かっこいーしね!)
…まぁつまりそういう理由だ。

「…えーっとですねぇ…」

指差された元素魔術のコーナーを眺める。
…入り口から大分近いこの辺りは全部読んだし、ある程度中身は分かる。

「これとかどーですかね?結構オードソックスなんですけど、説明分かりやすいですし書いてる内容も充実してますよー」

そう本棚から抜き取ったのは、表紙に«元素魔術辞典»と書かれた少し厚めの本。…とある世界では、有名な魔術のテキストである。

セシル > 「いや…ここまで書いてもらうのは慣れていても骨だったろう?
思い出しながら書いていたようだし。

何か、礼が出来れば良いんだが」

真面目な顔で、メモにびっしり書き付けられた術式と月香の顔の間で視線を動かしながら。

「そうなのか…しっかり学ぶとしよう。
…本当に…何と礼を言えば良いか」

力強くうん、と頷いて。
馴染みのある領域であれば身にもなりやすいというものだ。

そして、月香が持って来た厚めの本を見て…

「『元素魔術辞典』か…確かに、知識を網羅していそうだな」

「借りても?」と、月香の方に手を差し伸べる。

和元月香 > 「本当に大丈夫ですってばー。
礼…なら一つ頼みたい事があるんですけど」

痛みを覚える手。…つまり軽い痛みだ、大丈夫、うん。
けらけら笑って礼も遠慮しかけるも、この図書館に来たそもそもの意味を思い出した。

「…セシルさんの世界の事、ちょっと教えてくれませんか?」

にこりと穏やかな笑顔で、そう持ち掛ける。
…純粋な興味があった事もあるが、一粒の希望も乗せて。

「どーぞ」

辞典を差し出された手に重ねる。
少し重みはあるだろう。

(文字の大きさは比較的大きいし、読みやすいといいなー)
と月香は考えながら手渡した。

セシル > 「ありがとう」

そう、柔らかく笑って差し出された辞典を受け取る。
それなりの重さはあるが…体力のあるセシルにとっては、そこまで負担感のあるものではなかった。
…が、相手から頼みを聞かされれば、きょとんと目を瞬かせ。

「………私は、地方の出だから祖国の外側にはあまり詳しくないんだ。
それでも良ければ…どこか、飲み物でも飲みながら話すか?」

「丁寧に話せば、長くなってしまうから」と。少し、戸惑った様子で。

和元月香 > 「大丈夫でっす。…セシルさんの知ってる事、できるだけ教えて下さい。
私ちょっと目標があるんで、そのために」

目標、という割にはお粗末な物かもしれないが、月香にとっては大きな試みだった。
目に何処か楽しげな光さえ宿してそう話す。

「ありがとうございまっす!お願いします!」

何故かガバッと垂直に頭を下げる。
そして「…ちょっと待って下さいね」と思い出したかのように振り返り、本のタワーに目配せする。

少し考えた後、ばばっと素早く印を結び、両手をタワーに向けると、タワーは金の光を帯びてそのまま宙に浮き、ふわふわと本棚の奥に移動していく。
…異世界の魔術のため、少なくともセシルには見覚えはないだろう。

その姿が見えなくなって1箔置いたのち、

「さーて、行きましょうか!」

と何とも軽い調子で、セシルに向かって声を掛けた。

セシル > 「目標か…そうだな。
私も自分の目標のためにツキカに世話になったわけだし…私も、力になろう」

そう言って、楽しげな月香に笑いかける。

「いや…こちらこそ。
少しでも、ツキカの目標の力になる話が出来れば良いんだが」

そう、苦笑を浮かべて返すが…本が勝手に動いて本棚の奥に移動していく様には、目を丸くし。

「………本当に、ツキカは魔術に堪能なのだな。羨ましい…」

そう、呟いた。
それから、軽い調子で誘われると…

「…ちょっと待ってもらえるか?貸出手続きを済ませてくるから…」

そう言って、貸出カウンターに向かう。
少しして、手続きを済ませたセシルが月香の元に戻ってくるだろう。

「待たせてしまってすまない。…それでは、行こうか」

そう言って、柔らかい…それでいてどこか男性的な笑みを、月香に向けた。

和元月香 > 「まぁ正直興味って感じもあるんで、あんまり気負わないで下さいね!」

ははははっと自分もセシル元気つけるように半ば無理矢理明るく笑い声を上げる。

そして、セシルの呟きには苦笑いしながら振り向いて。

「大体適性はあるんですけど、本職には程遠いんですよね。
この魔術も完全に使いこなすまですっごい時間掛かりましたし」

(うん。5回分。700年だっけ?)

器用なのか不器用なのか分からない年月を思い浮かべながら、少し笑う。
…決して楽はしていないし、適性のあまり無い人に気負いが無い訳では無いが、そういった感情はおくびにも出さずに。

…貸出し手続きを済ませたセシルの笑顔には、眩しそうに少し目を細めて。

「…はい行きましょう!」
(やばいなー、私女の子に睨まれそうだなー)

内心遠い目で思いながらも、月香は満面の笑顔だった。

セシル > 「…そう言ってもらえると有難いな」

「あんまり気負わないで」と言われると、そう言って、少し力の抜けた笑みを零す。
声の柔らかさと相まって、女性として低めながらも男らしさはそこまでではなかった。

「…本職、なぁ…私も本職はこちらだから」

そう言って、軽く笑いながら腰に差す剣の柄に触れる。

「…しかし、それほど時間をかけて魔術を学ぶとは…ツキカは熱心だな。私も見習わねば」

「すっごい時間かかった」の桁がまさか違うと思わないセシルは、素直にそう受け止めて朗らかに笑った。

「ああ…喫茶店なら、道から見えない席が良いな」

そんな風に笑って、月香についていく。自覚はあるらしかった。

そうして、飲み物を飲みながら。
セシルは月香に色んなことを話しただろう。

魔術や異能がこちらの世界よりは一般化しているが故に、社会制度や科学技術の発達は遅れている世界。
それでも、邪術が戦争に使われて引き起こされた災厄と、その後整備された戦争法の話。

性差別的な階級社会である、祖国。
月香が尋ねれば、「貴族の非嫡出子が幼い頃に反対の性別の格好で育つことがある」という、奇妙な文化についても大まかに話すだろう。
その一人が自分だとは言わないが…察するのは難しくないはずだ。

和元月香 > (普通に笑っても別の意味で綺麗…。ある意味チートだなこの人…)

ごくり、と戦慄したように息を飲む月香。その思考は、人によってはただのアホにしか見えない筈だ。

「そうだ…。魔法剣…。かっこいいですねぇ」

ずっと腰に差してある、二振りの剣。
惚れ惚れとするように眺めた後、うっとりと呟く。

「あっはっはありがとうございますー」
(生きるためなんでねー)

乾いた笑い声は内心でも上げる。
…何故か良心が軋む音がした。痛みが無かったという事は、かなり大きな痛みだったのだろう。
大きな痛みを感じない月香ならではの判断基準だ。

「じゃあ学生街の外れんとこいきましょー。確かあそこに喫茶店ありましたし」

けらけら笑いながら、楽しそうに歩いていく。

…そして。

セシルに聞いた世界の話に、聞き覚えがあった月香は大きく目を見開く事になる。
全く違う国だが、確かにその世界で自分は生きていた。セシルより時代はかなり前の話だが。

そして続いたセシルの話にはこっそり「やっぱりな!」とドヤ顔する月香がいたとかいなかったとか。

セシル > 「…?どうした?」

ごくりと息を呑む月香の様子に、不思議そうな顔をするセシル。
中性的ということは、振る舞いなどでどちらにも寄せられることを意味する(そして、過去の女装経験でそれは立証済みな)のだが…普段は、そういう自覚が希薄なことこの上ないのだった。

「ああ…魔法剣というか、剣術かな。
魔法剣の話も、良ければしよう」

「ツキカほど魔術に長けていれば、必要はなさそうだが」と笑いながら。

月香の乾いた笑い声には、鷹揚に頷くのみで、深く追求はしなかった。
…厳密には違うだろうが、そんな風に笑うしかない諦観には、身に覚えがあったから。

そうして、その日は月香とのティータイム(セシルはコーヒー派だが)を楽しんだのだろう。
月香の背負うものも、彼女が自分の出身世界と無縁な存在でもないことも…そして、内心のドヤ顔にも気付くことなく。

ご案内:「図書館」からセシルさんが去りました。
和元月香 > 「無敵だな…」

ぼそりと呟いた後、「いやなんでもないですよ」と早口で弁解して。

(何かこの人、いつか凄いモテ期来そうだよな…いやもう来てるか)

…潜在モテスペックに戦慄しながら、そう悟る。

「いや!むしろ!して!下さい!」

完全な興味で食いつく。周りから見ればどう見てもアホだ。
魔法剣術、なんてアニメ脳を刺激する言葉だろうか。

…そして、穏やかだが楽しい時間はゆっくりと過ぎて行く。

少しずつ、少しずつ。
…無限に近い世界の中、偶然重なった奇跡のような出逢いに月香は違和感を覚えながらも。

ご案内:「図書館」から和元月香さんが去りました。