2017/10/01 のログ
鈴ヶ森 綾 > 「と言っても、具体的に何ができる、というわけではないけれど…」

人差し指を自分の顎にあてて、出来ることについて軽く考えを巡らせてみるが、
あまり真っ当な答えは出そうになかったのですぐに思考を打ち切って。

「ありがとう、じゃあ…」

手元の筆記用具やら本やらと一緒に席を一つ横にスライドし、
相手が引いてくれた椅子へと腰を降ろす。
ついでに椅子を少しばかり相手の方へ寄せて、より近くへ。

「そう言えば、さっき師匠って言っていたけれど…その師匠さんはこの学園の教師なの?」

図書館なので声はひそめたまま、
それでも先程より互いの距離が近くなった事で声はよりはっきり聞こえるようになった。
どんな人なのかしら、と相手が先程口に出した人物に興味を示して。

藤巳 陽菜 > 「私もそこまで頼れるわけじゃないからお互い様ね。」

具体的にこうこう助けて欲しいと思って近づいた訳じゃないのだ。
助けられる時にそっちを向いて手を伸ばすくらいでいいと思う。

「ええ…って言っても最近忙しいみたいであまり会えてないんだけどね。
 えーと、魔女の魔術の授業してるミザリーっていう先生なんだけど…。
 一目見て魔女だって格好の先生が職員室とかにいたらその人よ。」

三角の帽子に黒いマント魔法の杖も持ってたりする。
見るからに古いステレオタイプの魔女。この常世島でもあんまり見ないレベル。

「でも、忙しいみたいで最近は授業もあまりしてないみたいだから…。
 会える機会は少ないかもしれないわね…。」

鈴ヶ森 綾 > 「ミザリー先生、ね。うーん…確かに、そういう格好の先生は見た覚えがないわ」

名前、容姿の特徴、共に覚えのない教師だった
いや、そもそも教師の名前自体数える程しか記憶に留めていないのだから当然か。
しかし相手の話からあまり偶然の遭遇には期待できないようで、少しばかり肩を落として。

「そう…忙しい方なのね。この先行き詰った時に、頼れる人が多ければと思ったのだけど…あ、もしお会い出来てそういう話になった時、藤巳さんの名前を出しても構わないかしら?」

それで話が円滑に進むようなら、そんな思惑を抱きつつ、
あるいはそれで相手に迷惑が掛かったりしないかという確認も込めて。

藤巳 陽菜 > 「この島は目立つ先生が多いけどあの先生なら見たら覚えてると思うし…。」

そして、あの先生が私服を着ているところも見たことがない。
家でもあの魔女の格好のままだった。つまりきっと、会ってないのだろう。

「ええ、もちろんいいわ。
 あっでももし、会った時は私が読んでた本のタイトルとかは内緒ね。
 …きっと、怒られちゃうから。絶対よ。」

念を押して言う。
『変身魔術基礎』とか『亜人魔術一覧』とかそんな感じのタイトルの本。
師匠に隠れてこそこそと色々調べていたらしい。

鈴ヶ森 綾 > 「本の…タイトル」
「変身魔術基礎…亜人魔術一覧……もしかして、その身体を隠すために?」

タイトル、そう言われて相手が持ってきた本に目を向け、
表紙や背表紙に書かれているタイトルを見たままに読み上げて。
自分の身体を忌まわしく思っているらしい相手、そこに本の内容がそうくれば、
推測するのは難しくなく。
その推測を口にするべきか僅かに逡巡した上で、そう尋ねて。

「ええ、内緒にしておく。…でも、分からないわ。それを知ったら、どうして先生は怒るのかしら?特に危ない術というわけではないように思えるけど…あっ、もちろん、言いたくなければそれでいいのだけど。」

藤巳 陽菜 > 「ええ、まあ…。
 無駄に大きいから色々と不便だし…。
 人をむやみに驚かせたりするし…。」

…この身体でいるの嫌だし。
一時的なもの、嘘みたいな手段ではあるけどしないよりはマシだ。

「師匠、ミザリー先生が教えてくれてる魔女の魔術では変身魔術は禁術らしいのよ。
 姿を変える魔術って使おうと思えば悪い事にも使いたい放題じゃない?
 それと変身魔術を使っている魔女が元の姿を忘れて怪物になったりしたから…?だって…。
 あまり詳しくは聞いてないんだけどね。」

自らの姿を変えれば悪行は行い放題だ。
誰かに罪を擦り付ける事すら易いかもしれない。

もう一つの方は良く分からない。
こっちの方が重要そうに言ってたけど…。

鈴ヶ森 綾 > 「そう…そうよね、隠せるものなら、隠しておきたいでしょう。良いことなんて、何も無いわ」

相手の言に不思議な実感を伴う同意の言葉。
小さく首肯して、足元の蛇体を一瞥する。

「怪物…そう、そうかもしれないわね。…でも、先生にそう言われても、貴方は止まらなかったのね」

その師匠の言うことは、なるほど確かに正しい。
あまりに的を射すぎていて思わず笑ってしまいそうになる程に。

「…ねぇ、藤巳さん。そうまでしてその身体を元に戻したいのなら、先生の言う本当の怪物になる覚悟はあって?」

微かに耳に届くような囁きで相手の名を呼ぶ。
同時に相手の手を軽く握り、上半身を大きく乗り出すようにして
下方から顔を覗き込む形で身体を寄せる。

藤巳 陽菜 > 経験して来たみたいな言い方に少し違和感。
不思議と味わってもいないのにとかそんな感想は浮かんでこない。
…まあ、ただの言い方の問題だ。

「…止まれる訳ないじゃない。
 私は元の身体に戻りたい。普通の生活を取り戻したいだけなのよ。」

今まで持っていた普通。
この異能に目覚めた時にこの蛇の身体から滑り落ちたそれを取り戻したいだけだ。
家のお風呂に入りたいし、足を伸ばして眠りたいし、可愛い靴だって履きたい。

普通を…当たり前を願う事が何の罪であるというのか。

(…近くない!?)

手を握られて、身体を寄せられて
少し離れれば簡単に振りほどけるだろうけど何故か
捕まった。捕えらえたそんな風に感じてしまう…。

「…分からない。」

囁く声にこたえたのはそれと同じくらいに小さな声。
何とか届く弱弱しい声。
覗き込む視線に瞳をそらしてしまう。

「…私はそんな風な怪物になるのは嫌。
 でも、この姿でいるのはもっと嫌。」

…怪物になる覚悟はない。現状を受け入れる強さはない。

「でも…前に前に進まなくちゃって…何かしないとって…。
 私はひとつでも可能性を増やしていきたい…そうは思うから。
 絶対に元の身体に戻る事はやめないから。」

一度逸らした視線を再び合わせる。
覚悟はできていないし、強さもない。

…それなのに絶対に諦めないという。

鈴ヶ森 綾 > 「そう…我儘なのね。でも、それで良いと思うわ。ごめんなさい、変なこと言って。冗談だと思って忘れてちょうだい」

互いの呼気を感じる程寄せられていた身体がすっと遠ざかる。
最後に少し、戯れに指を絡めるように撫でてから重なっていた手も離れて遠のく。
冗談と言うには、あまりに真剣味を帯びた態度であった。

「貴方が人間のまま元に戻れるように応援してるわ。それじゃあね」

自分の荷物を手早く片付けて立ち上がると、小さくお辞儀をしてから出入り口へと向かっていき、
その途中一度振り返って口を開く。

「さっき言った…困ったときには力になるというのは冗談ではないから、何かあったら遠慮なく、ね」

最後にひらりと小さく手を振って再び相手に背を向けると、そのままその場を立ち去っていった。

藤巳 陽菜 > 「…当たり前の事を願うのが我儘だって言うならそうなのかもしれないわ。」

普通なら考えなくても良かった事。
怪物になる事なんて、怪物のままでいる事なんて…。

「冗談って…びっくりさせないでよ。
 …ちょっと怖いくらいだったわ。」

身体が離れて少しからめられた指が解れて。
冗談と思えなかった空気が解れていく。

「ええ、私は人間だから。」

姿がどんなでも心が人間であるならばそれは人間…。
友人の言葉が頭をよぎる。

「ええ、鈴ヶ森さんも。
 私じゃ頼りないかもしれないけど…。」

少し、笑いながら手を振り返す。
相手の背中が見えなくなるまで見送れば。

(少し変わった感じの子だったな…。)

とかそんな風に思いながら魔術の勉強を始めるだろう。

ご案内:「図書館」から藤巳 陽菜さんが去りました。
ご案内:「図書館」から鈴ヶ森 綾さんが去りました。