2018/06/06 のログ
ご案内:「図書館」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 閲覧席のひとつにパソコンを持ち込んで、じっくりと書き物に励む大きな背中。
時刻は午後、日没にはもう少し猶予がある。
学生らは未だ多くが授業に出席している時間帯であるから、館内には空席が多い。
現に、ヨキの左右もがらりとして静かだ。
端末上にに表示されているのは、異能を用いた芸術に関する論文だった。
キリのよいところまで書き上げると、画面から顔を離して椅子に凭れる。
「――ふう」
画面と睨めっこしていた目を深く瞬きして、鞄の中から取り出したペットボトルの茶で喉を潤した。
■ヨキ > ペットボトルを規則通りにすぐ鞄へ仕舞い込むと、背後に広がる書架を見渡す。
端末にロックを掛けておくのも抜かりなく、座席を立つ。
もう少し文献が欲しいと思い立ったらしく、整然と並ぶ本の合間をのろのろと歩き出した。
目的の分野へ一目散に向かうのも悪くないが、こうして背表紙を眺めて歩けば、掘り出し物も見つかるというものだ。
ご案内:「図書館」に朝宮 小春さんが現れました。
■朝宮 小春 > 元々、元来の資質は文系寄りだった。
昔から小説の類が好きであったし、語学分野にもそれなりに強い。
ただ、どうしても家系が、血筋が……理系の研究職であったから、それに憧れて理系に進んだ人間である。
彼女が科学を愛していても、科学があんまり愛していない。
新しい研究結果の論文が出るたびに読み進めるのだが、読み流すようにスラスラ読むことなどなかなかできない。
難解な言葉を辞書で引きながらコツコツと。
外の蒸し暑さと違う、そこそこの陽気の中で辞書を捲って論文と向き合う……
勝敗は先に決していたと言ってもいい。
辞書のページを捲りながらその場で硬直して、一切動かない生物教師がそこにいた。
目を閉じたまま、すー、すー、とほんのわずかな寝息が聞こえる。
メガネは顔から外れ、机に落ちていた。
■ヨキ > 片手で持てるだけの、いくつかの本を見繕って座席に戻ろうとしていた頃。
見覚えのあるシルエットを見かけて、んん?とそちらへ足を向ける。
「やあ、朝み――……」
微動だにしないその様子に、眠っていることはすぐに知れた。
かといって、女性の身体をみだりに触れるようなヨキではない。
背を丸めて相手へ歩み寄り、その耳元にそっと囁き掛ける。
「朝宮。風邪を引くぞ」
口元に手を添えて、内緒話のように。
もしも目を醒ましたなら、以前よりも少しだけ雰囲気の明るんだ、まるきり人間の姿かたちをしたヨキの顔がそこにある。
■朝宮 小春 > こっくりこっくり。熟練の技のように殆ど動かないままの彼女であるが、声を耳にかけた瞬間にぴくり、と身体が震えた。
「ふぁい、寝てません。大丈夫です。大丈夫です。」
がばりと顔を上げて、脊髄反射の言葉が飛び出す。
背筋がピン、となって慌ててメガネを探し、ぱたぱたと手を伸ばしてそのメガネを弾き飛ばして床に落とす。
絵にかいたようなダメ学生(教師)は、……メガネの落ちる音ではっ、と我に返った様子で。
………ヨキの方を見ることができぬまま、耳が急に赤くなっていく。
「………ん、っんん。」
取り繕うような咳払いが出た。
■ヨキ > まるで自分の学生を見ているような顔をする。
彼女が赤くなるまでの一部始終を見届けたのち――くつくつと、喉を鳴らして笑った。
「く、ふふ……ふふふ。相も変わらず、君は目が離せんな。退屈しない」
床に転げた眼鏡を拾い上げ、レンズが割れていないことを確かめてから相手へと差し出す。
「今度こそ、おはようございます。朝宮先生?」
冗談めかした声からして、堪えた笑いが滲んでいる。
■朝宮 小春 > 「………ぅう、す、すいません。」
メガネを受け取ってまず出てきた言葉がそれだった。
ここは学園で、自分は教師であり、そして相手は先輩である。
これ以上に失態はあろうか。いや本当はたくさんあるけどそれは置いといて。
情けない教師と言われても反論などできまい。
「……お、おはようございます。 いや本当、さっきまでは起きていたんですけど。
…………いえ、結構経ってますね。」
慌てて言い繕おうとして時計を見て、その目が一気に曇る。
肩を落として……いうなればいつもの彼女である。
それこそ、様々な人間の入り乱れるこの学園の中で群を抜いて鈍感な彼女が、ヨキの変化に目敏く気が付くはずもなく。
何かいいことあったのかな、程度の収まりである。