2015/07/12 のログ
■ラヴィニア > のんびりとした声が続く。
「『にしても、せめてな……ザデルハイメスはどうしたのかな?月新は?
ウェインライトとオーランドって死んだんだっけ?
ヴェルミアも連絡途絶えたきりだったしなぁ』」
アリアンロッドは理解していた。その言葉の示すものを。
ただしかし、それを口にするよりも……
「異能を止めてくださいませッッ
これは――――ハッキングされていらっしゃるのですか!?」
先に同じ口が、呼んだ。
「…………グランド、マスター…………」
■ラヴィニア > 「どこだ。今のは、何処…………くそっ、何故……
『高いところから見ているからだろ?
避雷針みたいなものさ。
なぁに一度は共に集った相手なら、世話ぐらい焼くのが首領の務めって……もんじゃないか?』
」
知る声と知らぬ声が、同じ口から交互に放たれる。
その重みを左手に感じながら、“アリアンロッド”は迷った。
彼女が自分から干渉を遮断できないのなら、意識を昏倒させてでも今止めたほうがいいのではないか?
だが、どこまでいってもおして外に出した重体の人間だ。
■ラヴィニア > 「『おぉ……なんだここ……こんなとこにアイツ来てたのか?』
か、あ、あ…………」
呻く声がして、少女は決めた。
「“贄をささげ、安息日を覚えてこれを聖とせよ”
“牧を置くはここに。それがあなた方の助けとなるなれば”」
詠う。
しかし相手は笑う。
巫女の口角がゆっくり上がった。
「『やめとけよ。今は効かないから』」
「……っ、試させて頂く価値は……“Clericis Laicos”っ!」
周囲に光が広がり、魔を撃つ衝撃となる。
グランドマスター。
魔術師の大首魁を名乗る者。
「『…………病人なんだからもう少し休ませてやれよ』」
■ラヴィニア > 何も起きない。
ただ聖性の光が二人を照らし、開けた塔の上で影が濃く刻まれるのみ。
「『だから……ま、天の災いの果てを見に行くさ
あいつの印は消えたのかな?』」
用は済んだ。そんな声が途切れて、巫女の体ががくんと重くなった。
支える腕に力を入れれば、動きもなければ言葉もない。
「気絶……されていらっしゃいますか……」
早急に病室へ戻さなければならないだろう。
相手を自分にのしかからせるように支えたまま、片手で携帯端末を取り出す。
■ラヴィニア > 繋がる。
「――――こちら、アリアンロッドです」
ご案内:「大時計塔」からラヴィニアさんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に楓森焔さんが現れました。
■楓森焔 > 「はっ、はっ、はっ、はっ」
荒い息のまま階段を駆け上がる。長い、長い階段。
いつもなら壁を垂直に走ってなお息切れとは無縁だった場所。
そこを、勢いのままに登っていく。
――強いってなんだろう。
同じ授業を受けたトモダチに聞いても、やっぱり納得いく答えは返ってこなかった。
どうすれば守りたいものを守ることができるのだろう。
焔は弱い。少なくとも彼女はそう思い込んでいて。
だからこそどうしたらいいか分からなかった。
俺流。その力があっても、人の心までは守れない。
自分が目指してきた「守る」ビジョンを失って、
焔は葛藤のままに走っていた。
ここが立入禁止だと知っていても。ここから島を見下ろせば、何か分かるんじゃないかと思って。
息を切らせながら最後のスパート。
三段、二段、一段!
勢い良く扉を開け放つ。
ぶわ、と屋上から吹き込む風が焔の髪を揺らした。
ご案内:「大時計塔」に矛海 遼さんが現れました。
■楓森焔 > 大時計台の屋上は強い風が吹き付けていた。
赤い夕陽が、放課後を報せている。
「あー……」
ただ、綺麗だ。そう思いながらゆっくりと屋上の淵へと歩いていた。
■矛海 遼 > 立ち入り禁止になっている……ハズの屋上。
気分転換に、風を受けに足を運んでいたが、何やら走ってくる音が聞こえてくる。
がむしゃらに、そして真っ直ぐだ。
無言で佇み、飛び出してきた少女に視線を向けている。
■楓森焔 > 「うおっ」
人が居た。しかも大人だ。もしかしたら教師かもしれない。
「あ、いや、これはそのー。あのー……」
途端にしどろもどろになる道着の少女。
この学園に来たばかりの時、しこたま反省文を書かされて怒られたのだ。
真面目な彼女は二度とここに来るまいと誓ったのだが……。
どうしたものか、と。
■矛海 遼 > 「気にするな、此処にいる以上は私も共犯のような物だ。」
表情は冷たいが、何処か温かみの声で言葉を返す。
何より、本来禁止するというのならばもっと警備を濃くするだろう、それを行っていない以上、この手の物の管理と言うのは最初から放棄しているような物だ。
【自己責任】ならば、破るためのルールのような物だ。
「君は、何をしに此処へ?」
ロングコートの男は静かに質問を落とす。
■楓森焔 > 「あー、えーっと。そうか、それならいいん、だけど」
生真面目な彼女はいまいち共犯、という言葉になれないらしい。
少しだけ指先を合わせてもじ、と逡巡した後、すぐに腿を叩く。
スイッチが入ったように、表情は戻って頭を掻く。
「えーっと……強いってなにかなーって。
そう思って……こっから学園を見下ろせばなんか分かるかなーって……そういう?」
彼女も確かな確信があるわけではない。
彼女は彼女なりに突き動かされてここにきた。
しかしながらその気持ちを具体的に表現することはできなくて首を傾げる。
ご案内:「大時計塔」に日恵野ビアトリクスさんが現れました。
■日恵野ビアトリクス > ゆったりとしたペースで、靴音を鳴らして階段を上り屋上へと一人現れる人影。
スケッチブックを小脇に抱えている。
見間違えようもない道着姿が時計塔に入ったのをたまたま目にして、
なんとなく後を追ってみたのだ。
「なんだ、不良ばかりか」
何度か話した少女と、よく知らない教師をつまらなさそうに見比べる。
■矛海 遼 > 「強い、か………」
どうにも、目の前の少女は自身の様な所謂【不良】では無く、
真面目な生徒のようだ。目と声、そして言葉を聞けばそれはわかる。
「そうだな。強いとは、強さとはまず、何を持って考える?」
一口に言っても、いろんな見方、視点がある。
それは力、それは信念、それは財、それは心。
「こう言った物はお互い様という物だ」
スケッチブックの少年をちらりと見ると、ひとつ言葉を溢す。
■楓森焔 > 「俺はさ、誰かを守れりゃそれでいいんだ……です?」
結局目の前の彼が教師なのか生徒なのか分からなくて、最後は疑問。
もう一度首をかしげながらも話を続けて、
「だから俺は、そのために俺流を……ってうおっ!?」
背後から聞こえてきた声。それにはつんのめるようにして何度か片足でふらついて。
なんとか落ち着きを取り戻してくるりと回ると、何歩か後ずさった。
「び、びっくりした……ビアトリクスか……い、いや、うん、不良というか、なんというか」
再び指を遊ばせた。
■日恵野ビアトリクス > 「悪いな、話し中に邪魔して。
……ああ、多分その人は教師だったと思うよ」
軽く手を挙げて挨拶。
この三人の中では自分が一番不良かもしれない。
「なんだか小難しい話題らしいな。
焔はそういう面倒なことは考えないタイプだと思ってたけど。
――疑いなく“強い”し」
考古学試験のあの動きはいまだ記憶に新しい。
縁から身を乗り出してあちらこちらと眺めている。
あまりここには立ち入ったことがないらしい。
■矛海 遼 > 「あぁ、言葉は気にしなくていい。君の話しやすいように、な?」
この際、教師と生徒との関係は敢えて外して考えるとしよう。
其れが出来るくらいには、器用ではある。
………俺流ってなんだろう?
「守りたい、か。力を持とうとする事ではよくある答えだな。
………何故、守りたいと思ったのかな?」
少々意地の悪い質問にはなるが、致し方あるまい。
初対面ではあるが目の前の少女の言葉には思う所があったから、と言うのもあるが。
■楓森焔 > 「強い、強いか……そうなのかな」
そう言って腕を組んで悩む姿は、
いつもより幼く見えるのか、それとも大人びて見えるのか。
確かにいつもならシンプルに答えを出すタイプだったのだが――。
「友達がさ、泣いたんだよ」
ぽつりと漏らす。武力だけではどうにも出来ない、心の問題。
そこに焔の強さは関係なかった。
「昔さ、お袋と親父が死にかけたんだよ。いろいろあってさ」
ただの都市で、大きな門が開いた。バケモノが溢れかえった。空から隕石まで降ってきた。
もうだいぶ昔のことだ。六年前か、七年前。それぐらいの昔。
新聞にも報道されたほどの大事件だったようだ。
「そんとき俺、すげえがんばってさ。なんとかなったんだけど。
……まあ、でも。力さえありゃ守れるかなと思って」
危険が迫ったら殴り飛ばせばいい。そんなシンプルな価値観だった。
俺流は大事な誰かの危機のために駆けつける足と。
そのトラブルを吹っ飛ばすための拳の二つの技が基礎である。
「でも違ったんだよなあ。……俺がいくら殴るのが強くっても。
結局あいつの涙は止めてやれなかったんだ」
■矛海 遼 > 家族や仲間を失うという【痛み】。それは呪縛とでも言えるほどに染みついている。
単純に生き死にでは無い。心に負った傷も同じ物だ。
「守るために力を振るったとしても………」
いつの間にか、掌に収まらないようなサイズの石を手に持ち、軽く上に投げてはキャッチするのを繰り返すようにしている。
刹那、投げた石を右手での一撃で粉々に粉砕する。
「痛みをわかるだけでは意味が無い。その痛みから救い出す事が出来なければな」
粉々になった石は風に混ざり、そのまま消えてゆく。
右手の拳には撃ち貫いた跡が残り、煙を吹いている。
■日恵野ビアトリクス > 「…………」
聞いてはいけないことを聞いてしまった――
そんなふうに顔を背けて、目を伏せた。
縁に腰掛ける。ぶらぶらと脚を揺らす。
スケッチブックをぱらりぱらりと広げた。
しばらく鉛筆を取るでもなく、
白紙のページに視線を落として。
やがて、ぽつりぽつりと。誰に向けるでもなく。
「誰かのためにしてやれることなんて
とんでもなく少ないんじゃないか……って思うんだよ。
たとえ、そいつのことをどれだけ大事にしていたとしても」
「なんというかさ……鍵のついた檻みたいなものなんだよ。
それにずっと閉じ込められてるんだ」
主語の抜けたひとりごと。
■楓森焔 > 「……………」
矛海の言葉に耳を傾ける。ゆっくりと、ゆっくりと考えて。
続くビアトリクスの動きにもまた、注視する。
ぽつりぽつりと紡がれる言葉にも、ただ焔はじっと聞き入っていた。
「俺は」
拳を握る。いつの間にか力が失われてしまった拳。
ここに来るだけでも汗だくで。だからといって登ることはやめなかった。
「俺は弱いんだ。泣いてる奴にさ、何も言ってやれなかった」
焔という少女は自罰的な少女だ。
普段からは想像もつかぬほど、彼女は自分自身を責めている。
「そいつが閉じ込められててさ。
泣いてるなら、その鍵をぶっ壊して大丈夫だ、安心しろ! 俺がいる!
って言ってやりたいんだ」
「でも。……俺は」
守ってやることができなかった。掛ける言葉が、見つからなかった。
それができるのは余程のスーパーマンだ。
けれど、せめて手の届く友達には。自分の[拳/想い]を伝えたかった。
■矛海 遼 > 何故にと問う――――――――故にと答える
「あぁ、限りがある。誰かの為に振るう力と言うのは。
【誰かの為と言う名目】で【自分の為に力を振るえる】のが、強さの一つではあるだろう。
あくまで一例の中の一例だが。」
嘗て、一人の男がいた。その男はその理想を抱いて、守った存在から撃たれることになっても戦いを続けていた。
「少し、手を出せ。」
目の前に一人の男は、カツカツと靴の音を響かせ目の前に立ち、右手を差し伸べる。
■日恵野ビアトリクス > 動物園で、檻で飼育された動物を見て人間は、
閉じ込められてかわいそうだと嘆く。
しかし動物のほうではこう考えている。
人間が檻に閉じ込められていてかわいそうだ――と。
そういうジョークがある。
「…………」
(なあ焔……)
(誰かのために何かをしたいっていうのはさ)
(とても罪深いことなんだよ)
――ビアトリクスは口を開かず、矛海と焔のやりとりを横目で見守る。
■楓森焔 > 「……誰かのためという名目で……自分のために……?」
矛海の言葉。その一例。焔は理解できなかった。
理解したくなかったのかもしれない。
彼女の思いはいつだってシンプルで、その思いに辿り着くまでは迷路のようだ。
自分の気持ちを確かめながら、彼女はただ手を差し出す。
横に座っているビアトリクスの表情は見えないし、その表情もどうせ読み取れないだろう。
■矛海 遼 > 差し出された手を握る。何処か、冷たさを感じるかもしれないが、芯からは人と同じ暖かさを感じるだろうか。
「心の鍵を開くというのは、修羅に落ちるよりも難しく、そして簡単な事だ。一人では手が届かないとしても、誰かと手を繋げば何処までも届く。」
力だけでも無い、想いや意志もつなげて行けるものだ。
一人ではたどり着けない答えでも、誰かがいれば目の前の少女は答えにたどり着けるかもしれないし、彼女が救おうとする者の心に触れることだって出来るはずだ。
「もっと、君は悩め。悩んで悩んで道に迷って、
いろんな人に会って、そして答えを探せ。」
何処までも、それでもと訴え続けるんだ。そう続けて手をゆっくりと離す。
■楓森焔 > 「!」
自分の手が握られると、少しだけ驚いて。しかしすぐに握り返す。
「そうか……うん、そうかもな……」
なにしろ自分は弱い。だけれども、それでも手をのばそうというのなら、誰かに頼る他ないのだろう。それもまた一つの答えだ。
「応、ありがと、先生。もうちょいがんばって悩んでみるよ」
手を離すと、ビアトリクスにも笑いかけて。
「ビアトリクスもさ。ありがと。
……少なくとも、さっきの言葉はもうちょい、俺なりに何か考えられそうだしさ」
■日恵野ビアトリクス > 「……」
白い頁を切り取る。そして手で折っていく。
鍵と鍵穴に優劣は存在しない。鍵穴のない鍵、またはその逆に意味は無い。
握り返されない差し伸べた手も、同じこと。
手の中に紙飛行機がひとつ出来上がり、
それをひょい、と外へと投げる。
首を横に振る。
「おまえは自分勝手なやつだよ」
冷水を浴びせかけるような言葉。
顔をそちらには向けようとしない。
「……だから“強い”んだ」
そう小さく付け足す。
■矛海 遼 > 「何かの方針になれたのなら幸いだ。」
目の前の少女は弱さを知っている。
間違った方向に進むという可能性は、恐らく無いだろう。
「握れない手も多くあるだろう。中にはすり抜けて落ちていくこともある。
だが、君はそれを黙って見ているだけでいるという事は出来ないはずだ。」
紙飛行機を横目に見つつ言葉を吐く。
「それが君の今持っている力だ。それをどう扱うかは……君次第だ。」
■楓森焔 > 「…………そうだな。うん、やっぱ、立ち止まってるのは性に合わない」
思えば、最初に打ちのめされてから、ずっといろいろな人に背を押されていた気がする。
その度にその度に走ってきた。だから、もう少し走ってみよう。
次は背を押されても転ばないように。
だからこそ、ビアトリクスの言葉も。
「強い、か」
輪をかけて難解だった。でも、彼なりの想いが詰まっているのだ。
「……うん。俺は自分勝手なんだ」
だからこそ、ビアトリクスに歩み寄る。しゃがみこんで、横に座って。
そこでようやく、眼下に広がる景色を見た。
「強いかどうかは分かんないけど、それだけはわかってる」
自分が悪い。自分は弱い。そんな言葉で自分を縛り付けながら、けれど。
ビアトリクスの言葉も受け止めたい。
「迷惑かけてるかもしんないけどさ。自分勝手かもしんないけどさ。
俺はお前の友達でいたいし、悩んでるならなんとかしたい」
答えは出ない。相変わらず。
ビアトリクスの痛苦もきっと彼女は理解できない。
でも、だからこそきっと、彼女にとってはビアトリクスもまた、真剣に向き合うべき一人なのだ。
今回の件には関係ないが。それでも。恐れるように、ゆっくりと手を伸ばす。
■矛海 遼 > 風を受けて髪とコートが踊るように靡く。
沈む陽の光を受けて黒が赤に、赤が黒に染まり始める。
矛海は何も言わない。
あくまで教師が生徒に与えられる物は選択肢を増やすことと、
過ちを正すことだ。
過ちの定義はそれぞれの裁量と視点に寄る物だが、決して不幸な物で終わってはいけない。
存外甘い男なのだ、矛海は。
■日恵野ビアトリクス > 紙飛行機は大して遠くに飛ぶこともなく、
ふらふらと旋回しながら無様に地へと落ちていった。
「世界っていうのはさ、
ぼくやおまえがいなくたって変わらずに回るんだ。
勝手にある誰かは死ぬしある誰かは救われる……」
伸ばされた手を、握るでも払うでもなく、ぺち、と手のひらを軽く叩く。
押し殺したような、不機嫌そうな表情。正確な感情を読み取ることはできない。
「それはわかってるんだろ?」
握り返されないかもしれない手を伸ばすその姿勢こそが“強い”――
だなどと、ビアトリクスの口から言えるはずもなかった。
「……なら、応援してやるよ」
不敵に笑む。
■楓森焔 > 「――――」
ビアトリクスの言葉に息を呑んだ。
世界は焔がいなくても変わらずに回っている。その言葉は焔の脳天を貫いた。彼女にその自覚はない。
何故なら彼女は、それに起因している出来事を記憶の底に封じ込めているからだ。
だけど、だからこそ。
笑みを浮かべて手を払われた。
「なんだよ! そこは握り返すところだろ!」
その払われた手。元気を受け取った気がしたのだ。
「しゃあねえなあ! 応援されたなら、男じゃねえ……じゃねえ……うーん。……俺じゃねえ?」
首を傾げながら、がばっと立ち上がって、拳と手のひらを牛合わせる。
「うおぉおーっ! 悩むぞおおおおーーー!!」
答えはまったくかけらも見えていなかったけれど。焔は心の底から元気を取り戻した。
空元気じゃないし、彼女はまだ衰えたままだ。
だが少なくとも、心の底から前を見据えることができるようにはなった。
だからいつものようにばしばしと、もちろん時計台から落ちないように。ビアトリクスの肩を叩いてから、
「一年、楓森焔、そこそこ復活ッ!」
腕を掲げた。
■矛海 遼 > 「楓森焔、それが君の名だったか。」
以前、どこかで聞いたり、見たりした記憶が無い事も無い。
素性を知らないという事に変わりは無かったのだが。
「ここは名乗っておくべきか?いや、知っているのならばそれでいいが。」
たかが一教員だ。知らなくても、知っていても変わりは無い。
■日恵野ビアトリクス > 近くで叫ばれて思わず耳をふさぐ。
さすがに肩や背中を叩かれるのには慣れてきた。
「そこそこか……いまいちしまらないな」
呆れたように言って、立ち上がる。
「ぼくはそろそろおいとまします。
矛海先生、ありがとうございました。
ぼくにとっても興味深い話でした」
軽く会釈して。
「おまえは強いよ、焔。だけど、もっと強くなれる。
強くなってくれ。
……ぼくは、おまえの……ファンだから」
少しだけ恥ずかしそうにそう言い残して、ビアトリクスは屋上を後にした。
ご案内:「大時計塔」から日恵野ビアトリクスさんが去りました。
■矛海 遼 > 「興味深いと言われるほど整っていない稚拙な物だったがな」
少し表情を崩し、頬を掻く。
そこにあったのは安堵か否か。
「気を付けて帰るようにな。」
何処か変わった自称不良の少年を見送って行く。
■楓森焔 > 去り際のビアトリクスの言葉。完全に硬直していた。
「お……あ……」
こらえきれずに声を出し。こらえきれずに涙が流れた。
それは決して悪いものではない。笑顔を浮かべて、ぐっと握りこぶしを作って。
硬直から戻る頃には、ビアトリクスはいなくなってしまったけれど。
だから、代わりとばかりに大地を踏み込んだ。
「全方位必殺型格闘術、流派・俺流。開祖にして師範! 楓森焔、現在門下生募集中です、押忍!」
その足に、まだ十二分な力は乗らない。
しかし、彼女の身体にエネルギーのようなものが満ち溢れている。
涙を拭わず、笑顔のままでにっと歯を見せて。
「いや、全然知らないっス! えーっと、矛海先生、ですっけ?」
ビアトリクスの言葉を思い出して繰り返しただけだ。
■矛海 遼 > 「ふっ、やはりか」
自然と微笑がこぼれてしまう。
それがこの少女良い所なのだろうな。
「あぁ、矛海。矛海遼だ。ごま塩程度にでも覚えておいてくれ。」
俺流となかなか興味深い物も聞けた、次の期会に見せてもらうとしよう。
表情と瞳は、何処か優しげだ。
「さて、私はそろそろ行くとするよ………ばれないようにな。お互いに。」
この場は立ち入り禁止故。
■楓森焔 > 「うっす、ありがとうございました! 矛海先生!」
そう言って、彼女は走りだす。少しばかり、ほんの少しだけ。
彼女の力が前へと進んだ。彼女が自分の道を定めるのはもうすぐかもしれない。
恥ずかしげに鼻の下をこすって、柔らかい視線を受け止めると。
「ばれたらそんときゃ正面から謝るだけですから!」
生真面目にそう言うと、手を振りながら去って行った。
ご案内:「大時計塔」から楓森焔さんが去りました。
■矛海 遼 > 「なるほど、強かだ。」
軽い笑いを残し、去ってゆく少女に続く様に自身も降りて行く。
言い訳をどうしようか、などと下らない事を考えてみるのも悪くない。
「今日の風は心地良い」
ご案内:「大時計塔」から矛海 遼さんが去りました。
ご案内:「大時計塔」に春日 真央さんが現れました。
■春日 真央 > (時計塔の最上、眼下に島を一望できる場所。膝を立て、壁にもたれて座り、息をつく)
失敗したなあ……。
(小さなバッグを脇に置き、上には文庫本。スマホを握った手を、床に投げ出して)
■春日 真央 > (せっかくの夜景を楽しむことはせず、眠そうに瞼を半分下ろした目で、上ばかり見ている。
星空を楽しむと言うふうでもなく、ただぼんやりと。
読書をするには暗すぎるから、本を手に取ることはない)
相変わらず……なのかな、きっと。
(再び、大きく息をつく。ため息と呼んだ方が良さそうなそれを、ここに登ってから何度繰り返したかしれない)
■春日 真央 > (渡っていく風は地上より少し強く、温度も低く感じられて、気持ちよさそうに目を閉じる。
風が通りすぎて、何か思い立ったようスマホを顔の前に上げ、画面を眺める。
指が滑り、繰り返し言葉を綴って)
……うまくない。
(ふうと、ため息を声にしてみて、床にスマホを下ろす)
足りない。
■春日 真央 > 資料は、前よりずっとたくさんあるんだけど。
……足りないよ。何も思い浮かばなくなっちゃったよ。
(膝を抱き、頭を埋める。数えるのもやめたため息をついて)
言葉が、欲しいなあ。
(ぎゅっと膝を胸に押し付ければ、繰り返す鼓動が足から伝わる。
一定のリズムを刻むそれがやけに大きく聞こえて、周りで音がしているような錯覚すら覚える。
けれど当然そんなことはなく、独り言だけが空気を震わしている)
■春日 真央 > (膝の間から顔を上げる。前髪に少し癖が残っている。スマホの画面をまた眺めて、置く)
ちょっとホームシック、かも。
(自分で言った言葉に、片眉を下げて苦笑する。
言葉を否定するように、ゆるゆると首を振る)
無害、とか。
(気になってるんでしょと、続きの言葉は口には出さずに心のなかだけで呟いた)
なんで、あんなこと言ったんだろ。
(思い返すと、胸の中がざわついて、トントンと胸を叩いた)
てゆか……またって言うなら、連絡手段くらい確認すべきだったんじゃ。
■春日 真央 > (スマホを一時バッグの上に移動させ、両手を床につくと、力を込めて軽く跳ねるよう立ち上がり)
失敗、ばっかり。
(ハッ、と力を込めて大きく息を吐き出すと、上体を屈めながらスカートのお尻を払う。
膝を屈めて、文庫本とスマホを拾って、バッグを拾って中に入れながら膝を伸ばし、小さく声を漏らして背中を反らせた)
……忘れる。やり直し、できるといいな。
(明かりの滲む夜景を目に収めて、ぎゅっと目を閉じて閉じ込めると開き、下へと戻っていく)
ご案内:「大時計塔」から春日 真央さんが去りました。