2015/10/13 のログ
ご案内:「大時計塔」にライガさんが現れました。
ライガ > 太陽がいつもの勤めを終えて西の空へ去り、星が瞬き始めたころ。
人気のない大時計塔の屋上に、一人の男が足を運んだ。
片手にランプ、反対側の脇に抱えた袋包みからガチャガチャと音を立てて、転ばないように気をつけながら、歩く。

「っと、ここらへんでいいかな。幸い人気もないみたいだし。
なんかデートスポットらしいけど、この寒い時間に来るやつもなかなかないだろ」

足を左右に動かして床を払うと、ランプの光を自分の方にだけ向くように調整し、斜め右側に置く。その灯りの範囲内に収まるように、包みの中身を、一つ一つ、並べていった。

ジャムを入れるような透明の小瓶。
黒い粉の入った袋。
赤茶色い土の入った袋。
何か呪文を書き連ねた符が一束。
真鍮の皿が三枚。
10cm四方の、茶色の厚紙が一枚。

「えーと、忘れ物はない、よな。
公園と迷ったけど、あっちも邪魔が入らないとは限らないし、遮蔽物も多いしなあ。
場違いだけど、程よく高所で場所とれるとしたら、ここか屋上だな」

まあ何処にしたって、あまり物騒なことはできないのだが。

ライガ > 「えーっと、未知の呪術対策は金と銀でよかったっけ……
“これより先に悪意なし、これより後に悪意なし”
“西天に昇りし銀の王、東天に見えし金の王、遠く異界に至りてわが声を聞き入れたまへ”」

ぼそぼそと呟くように、呪文を唱え始める。
それは声のようで声でない、異界の呪言。言葉を音に変換し、抑揚と音階だけで紡いでゆく。慣れてきたら、呪言を2つ、3つとずらし、重ねていく。

この世界ではヒューマンビートボックスといったか、体器官で音を表現し、多数多彩な音を織り交ぜていく技術。存在を知ったのは最近だが、良い多重詠唱の鍛錬にはなっている。

袋から黒い粉を指でひとつまみ出し、胡坐をかいた自身の前に、円を描く。
赤茶色い土を袋から取り出し、小瓶に入れる。茶色の厚紙を折って人型を作り、髪の毛を1本引き抜いて巻きつけると、土中に埋めて蓋をした。

術者を保護する魔法陣を維持する術、術式を固定し強化する術、外部からの詠唱妨害を軽減する術、そして──二重に混ざり合った風水、2属性の解呪術を唱えながら、それらの作業を素早く行う。

ライガ > 小瓶を自身の目の前、円の向こう側に置き、円の中に二枚、呪符を貼った真鍮の皿を配置する。
ちょうど小瓶とライガの間に、皿が二枚並んだ状態になると、残る一枚を小瓶の上からかぶせて、隙間を呪符でふさいだ。

「……“応えよ疾風、応えよ流水、軛を亡ぼしたまへ”!」

左腕をぐいっと捲り、バン、と皿の上から小瓶をたたけば、バチバチと音を立てて赤い光がライガの胸元から迸り、引き攣る左手を伝っていく。
[2d6+5→2+3+(+5)=10]値が9以上なら成功、12以上なら反撃
ライガ > 黒い粉がばぁっと辺りに勢いよく散らばり、風に吹かれて跡形もなく消え去る。
痙攣する左手の下でガタガタと皿が揺れ、しばらくするとそれも収まっていく。なおも震える左手をそっとひっこめて、さすりながら、ライガは荒い息をついた。

「ぜはっ、はぁ、はぁ……。
い、一応、成功……かな?」

真鍮の皿に付いた呪符が、火の気もないのに焼け焦げてぼろぼろになっていく。
ごろんと横になり、仰向けに空を眺める。
まだ多少のしびれはあるが、何とか左腕は動かせる。
ランプの灯りだけではハッキリとはわからないが、心なしか体が軽くなった気がする、刺青になっていない方の呪いの一部はこれで大丈夫だろう。

ライガ > 右手でずるずると体をひっぱり、向きを180度変える。
伸ばした指先には、伏せた真鍮の皿。呪符をぺりぺりと剥がし、その陰から小瓶を取り出す。透明だったそれが、今は血のように真っ赤な液体で染まり、ごぼごぼと泡を立てていた。
残った呪符を小瓶の上から幾重にも貼り付け、蓋が開かないように、不気味な赤が見えないようにする。符だらけの円柱となったそれを眺め、ため息をついた。

「で、これ、どうしよう。
その辺に捨てるわけにもいかないしなあ……産廃扱いにしていいのか?」

ライガ > 右肩、それと両かかとに力を込め、だんっと床を蹴って無茶な起き上がり方をする。
案の定腰からグキッと嫌な音がした。

「っててて。
準備運動もなしにやるもんじゃないなあ。
とりあえず、変な儀式してるって疑われるのもヤだし、帰るかな」

腰をさすりながら、ゆっくりかがんで皿と紙くずを袋に詰め込む。
ランプを消し、火の後始末をしっかりしてから。
魔術学の授業で量産される失敗作が、突っ込まれている専用の廃棄場。
紛れ込ませるならそこでいいか、などと考えつつ、時計塔を後にする。

ご案内:「大時計塔」からライガさんが去りました。