2015/11/23 のログ
ご案内:「大時計塔」に茨森 譲莉さんが現れました。
■茨森 譲莉 > カフェテラスを後にしたアタシは、常世学園の中心にある時計塔の麓に立っていた。
目を細めて、前にも上ったその巨大な時計塔を見上げる。
あの時はこれっぽっちも知らなかったが、実はこの時計塔は生徒は立ち入り禁止らしい。
見つからなかったのは幸運と見るか、はたまた、その杜撰な警備体制を憂うべきなのか。
ともあれ、今はその警備員すら居ない現状に感謝する事になりそうだ。
見つかったとしても、最終日という事で多目に見て貰えることを願って、
アタシはまた、上った末に筋肉痛になって数日苦しむことになった、長い長い階段の一段目に足をかけた。
■茨森 譲莉 > ――――数十分後、いや、数時間たったかもしれない。
体感では何時間も上ってたとしか感じられないようなエベレスト登頂気分を味わえる階段を
見事上り切ったアタシは、夕日と、冷凍庫を開いた時のように顔に吹き付ける風に
目を細めながら時計塔の張り出た部分に体を這い出させた。
「エレベーターくらい用意しなさいよ。」
悪態をついてからぜぇぜぇと荒ぶる呼吸を深呼吸して整えて、
額に浮かんだ汗をアスリートのように手の甲で拭うと、眼下に広がる常世学園を見下ろした。
数か月前に見てひたすらに広いと感じた景色は、相変わらずどこまでも広い。
違うのは、アタシは実際にこの景色の中を数か月間歩き回って、
色んなものを見て、色んなことを聞いて、色んなことを感じたという事。
あの時はただ漠然と広い、としか感じなかった景色も、今見れば違う事を感じる。
怯えながらも足を踏み入れた異邦人街。クラスの友達と夜通し遊んだ歓楽街。
常世公園、カフェテラス、ファミレス、色んな思い出の詰まった学生街。
―――授業を受けて、学園祭で盛り上がった、校舎の数々。
……えっと、確か、学園地区とか言ったっけ。
「本当、色々あったわね。」
アタシはストールが風で飛ばないように手で押さえながら、
その景色を、ここであった様々な出会いと出来事を思い出しながら、
時間が許す限り、いつまでも、いつまでも眺めつづけた。
下を歩く人の所に風に流された涙が振って来ても、雨か何かだと思ってくれる事を祈りながら。
■茨森 譲莉 > そうして暫くの間時計塔の上で過ごしたアタシは、しっかりと時間に余裕を持って船に乗り込んだ。
買い込んだあらゆる酔い止めを飲んで、見送る人なんかそっちのけで客室に籠り、
船が動き出す前にベッドの上でぐっすり寝ようと努めた。
クラスメイトには、事前に断りを入れて、揺れない地面の上でお別れを済ませてある。
異邦人や異能力者が居る学園の酔い止めだ、きっと、行きに飲んできたものとは比べ物にならない効能を―――。
「………きもちわる……。」
残念ながら、そんな事は一切無く。アタシは結局、遊園地のアトラクションのように揺れる船の上で
船酔いに苦しみながら、別れを惜しんだりする余裕も一切無く。
常世学園から、常世島から、ゆっくり、静かに離れて行った。
「………はぁ。」
船の上というのは、異能者や異邦人がうろうろしている場所よりも遥かに、
アタシのような無能力者の住む場所ではないと感じながら。
ご案内:「大時計塔」から茨森 譲莉さんが去りました。