2016/12/11 のログ
飛鷹与一 > 「……止そう。また本土で肩身の狭い思いをするよりずっとずっとマシなんだから」

思い出したくも無いクソのような思い出。父は死んだ、母も死んだ。
兄は檻の中で妹は精神病院で植物状態もどき。ありふれた家庭崩壊の図。
親類縁者から疎まれてこの島に来たが、まぁそれで良かったのだろう。

「…むしろ、最初から一人だった、と」

そう思った方がいいくらいだ。その方が多少なりともスッキリする。
家族なんて思い出の片隅に少しくらい残っている程度で丁度いい。
死んだ瞳が、何処か深く暗い色を帯び始めた所で我に返る。
そういうのと決別する意味も兼ねてこの島に来たのではなかったのか。
深く溜息を零して緩く首を振る。静かな場所は好きだが、時々こうなるのがいけない。

「……”自分を律しろ、歯車を噛み合わせろ、過去は振り切れ”」

何かの暗示のようにボソリ、と呟いてから両手で己の頬を軽く叩く。…切り替えた。何時もの自分だ。

ご案内:「大時計塔」にエルさんが現れました。
エル > 階段をのぼる度に、体感できる温度が少しずつ下がって行く。
頭のどこかでこの階段を上りきることはできないと思っていた。
ここまで誰に逢う事もなく、気付くと目の前に景色が開けている。

どっと流れ込む空気が、全身に巡っていた。

表向き禁止されているとはいえ
警備はそこまで厳しいものではないのかもしれない。
「当たり前にある筈の何か」が無かった事への、
安堵と不思議な欠乏感を覚えるのは何だろう。

「 ……ついた…? 」

安っぽい色の双眸がぱちくり瞬きながら
街の景色を眺められそうな場所を探し
くるり…と最上階の様子を見渡している。

飛鷹与一 > 「……ん?」

気を取り直し、何時もの己に戻った所で少年は気付く。足音が聞こえる?
否、正確には階段を昇る音。だが、音はそんなに大きくない…小柄な人物か、もしくは女性か。
さて、これが同じ風紀委員会の人間だったら流石にバツが悪い所ではないだろう。

念の為、そっと右手を近くに置いたライフルケースへと伸ばしながら足音の主がここに辿り着くのを待つ。
ややあって、姿を現した人物を覇気の無い双眸で見据え――…。

「……子供?」

現れた人物は、一見すると少女にも少年にも見える。が、制服姿を見る限りは女子…なのだろう。
幼い顔立ち、癖の強そうな黒紫の髪。やや薄い褐色の肌が見て取れる。
少年が佇む場所は、少女から見て一番大きな窓の傍。背中を壁に預ける形で彼女を見つめているだろう。
もし、視線が合ったのならば緩く会釈を一つ返すだろうか。

「……どうも、こんばんわ。…先にお邪魔してます」

エル > 先に誰かが居るかもしれない、とは途中で予想をしていた。
自分ですら立ち入ることが出来てしまうのだから。

少年、にしては落ち着いた声だった。
どこか型にはめ込んで作られたような
不自然な表情のまま、目をあわせる。

「 ……こちらこそお邪魔をしています。
  こんばん、………まぁ、 」

いつものように笑顔を浮かべ、いつものように挨拶をする。
機械的な一連の流れが、不意に狂ってしまったのは
その人物の特徴を捉える前に、風紀委員の制服を、目にしたからだった。

とっさに会釈を返すこともできずに
目線と同時に眼球がころりとライフルケースの方へ動く。

ゆっくりと両手を、上にあげていた。

「 悪い事をした生徒は うちますか? 」

飛鷹与一 > 「……?………あぁ」

目線が合えば、互いにそれぞれの態度と表情で挨拶を緩やかに交わ…せなかった。
原因は、何故か不意に少女の挨拶に唐突な狂いが生じた様子からだ。
どうしたのだろう?と、若干だが不思議そうに少年は彼女を眺めていたが…。
ややあって、彼女の視線の先、己の服装に合点が行ったのか頷いた。

「……いや、俺も風紀委員だけど不法侵入してる身なんてお会い子様です」

と、そこは緩く肩を竦めてみせる。ライフルケースに伸ばしていた右手は既に引っ込められており。

「……そういう事なんで、取り合えず両手は下ろして普通にして下さい。
別に注意するつもりも他の風紀委員に知らせる事もしませんので」

何せこちらが先に不法侵入していたのだ。咎められる事はあっても咎める事は出来ない。
そもそも、まだ人に向けて狙撃銃を撃った事はないし撃てる自信も無い。

エル > 「……そうでした、か…。」

この場では二人とも不法侵入であり、注意するつもりも、他の風紀委員に知らせることもないという。
こういう時は、どうしたらいいのだろう。
様々な選択肢の中から「何か事情があったのでしょう」と、深入りをしない方向に傾きかけている。

ライフルケースから手が離れたことに安堵しながら頬を緩め
無言の間に目を合わせ、思い出したように会釈を添える。普通に手も下していた。

「 ……ええと…少しだけ景色を見てもよろしいですか? 」

こちらといえば必ずしも報告をされないとは、思ってはいなかった。
ならばせめて景色を見ていこうとでもし、窓辺の方へ歩み寄って行く。

飛鷹与一 > 「…嗚呼、俺は構いません。…と、いうよりもそちらの好きにして下さっていいかと」

別に自分に許可を取る必要も無い。好きに外の景色を見ていいのだと告げる少年。
実際、自分も気分転換でここに来て、そして外の景色を眺めてたりもした。取り合えず、窓側に居ると景色を見る少女の邪魔になりかねない。
少しだけ窓辺から離れた場所にズリズリと背中を壁に預けたまま移動して。

(…まぁ、俺は報告しなくてももし他の風紀委員か誰かが目撃してたらどうしようもないけど…)

と、心の声で呟きつつ。窓辺に移動する少女を何となく横目でボンヤリと眺めていようか。
世間話でも適当に振る事も考えたが、景色を眺める邪魔をするのも悪いか、と無言の儘で。

エル > 「 ………は、はい…では少しだけ。 」

窓辺に両手を添え、街の景色や、行きかう人を見渡していく。
今は催しの最中でもあるから、普段より賑やかなのだろうか。
初めこそ少しおどおどしていたものの、
次第にきらきらした街の輝きに吸い込まれるように、ぼんやりと見つめていた。

「 お祭りは今日までなのですよね。もう行かれたのでしょうか? 」

場所を空けてくれたことに気づいたのは、その後だった少女。
はたと顔を上げ、少年の方を見た時に目が合ったなら、
他の風紀委員に目撃されているかもしれない事も知らずに
今日は景色を見る目標が達成できたことを嬉しそうに、微かに笑みを浮かべている。

飛鷹与一 > 「………。」

少しの間、少女が窓辺から外の景色を眺めているのを何となく見ている少年。
最初こそ何処かおどおどした感じだったが、それも落ち着いたのか景色に見入っているように思えて。

(…と、あんまり初対面の子をジロジロと眺めるもんじゃない、か)

フと気付いて視線を彼女から一度外す。彼自身は既に景色は眺めたので見る事はしない。
と、こちらもこちらでボンヤリと宙を眺めている所で彼女から声を掛けられた。

「……一応、風紀委員でしかも新米なので…巡回とか道案内とか色々と雑務をしてました。
多少、空き時間が出来た時は個人的に少し回ったりもしましたが…」

と、そう答えながらも微かに笑みを浮かべている少女と視線が合っただろうか。
しかし、少年の方は相変らず目が完全に死んでいるかのような目付きで。
実際、ゾンビのようだと例えられる事も多い。生気や覇気が本当に希薄なのだ。

「そちらは……祭には出向いてないんですか?」

と、今度はこちらから短く質問を。明らかに見た目が年下の少女に敬語なのは理由がある。
この街…いや、この島の住人に限っては、外見年齢=実年齢とは限らない。
もしかしたら、自分なぞより年上だという可能性も考えての事で。

エル > 問いに肯定の意味で頷いた。「お祭りには行っていない」
というより行く理由が今の少女にはなかった。
何をしたいという目的が、あるわけでもない。

初めに言葉を交わした時から、気になっていた。
外見はまだ若い少年は、緩いというよりどこか達観したような、諦観したような雰囲気がある。


「 巡回や道案内もされるのですか…?
  風紀委員の方は、委員というより、お仕事をされているようですね。 」


酸素が通っていないような目は、どこかで見たことがあるような気がした。
誰かに似ているような気がしていた。
不思議そうにきょとんと瞬く少女の目もまた
中に入っている生気すらつくりものの硝子のようで、人のことは言えないのだけれど。


「 ………まるで呼吸をしていないような目をされるのですね。
  何かを置いてきてしまったような、 」


突拍子もない、失礼なことだったかもしれない。
十分に景色は眺めることが出来たので、窓辺に背を向け少年の目を見つめた。

飛鷹与一 > 無言だが頷く様子から肯定と受け取る。行く意味を見出せなかったのか、行けない事情でもあったのか。
だが、初対面の相手に根掘り葉掘り尋ねるのは趣味じゃない。それ以上は尋ねず。
視線は先ほどから全く変わらない。別に感情が無い訳でも変に不器用な訳でもなく。
少なくとも、その無感情や死人を思わせる視線は静かに停滞したままだ。

「……風紀委員はまぁ、この島の警察機構の代替、みたいなものですからね。
そういう雑務もあるって事です。祭の期間は何処も何時も以上に賑わうでしょうし…。
だからこそ、あちこちトラブルやら何やらが増えてくるので」

緩く肩を竦めてみせる。まだ新人ではあるが流石に仕事にはもう慣れてきた。
まるで、別の自分かのように同じく何故か生気を感じ取れない少女の視線。
とはいえ、理由が無くそういう瞳を持つ者も居るだろう。だから深入りしない。

「……そう見えますか?一応、元からこんな目付きではあるんですが。
まぁ、動く死人(ゾンビ)みたい、とかはからかい混じりに言われたりもしますけど」

彼女の唐突な質問に、本当に僅かだが息が詰まる。不意に意識してない核心部分を突かれたかのような。
だが、直ぐに何時もの無表情と死んだ視線でそう静かに答えようか。

エル > 「 ……そういうこともあるんですね。きをつけてくださいね。」

気分転換といっていたことも納得できるものがあり
コクと頷きながら委員会についての話を聞いていた。
よく気味悪がられてしまう目ではあるけれど
種族的なもの以上に理由あってのものではないので
聞かれないことに内心は安堵する。

「 考えすぎだったのなら良かったです。」

唐突な質問の後、この間も、覚えがある。
言ってはいけない事を言ったあとの間だ。
悪意があっての事ではないけれど、気分のいいものではないだろう。

「 ではこれからは、なんとなく気になる目、ということも、一つ加えていただけますか? 」

なんとなく空気を代えようとしそんな事を言って
一方でゾンビの目を知らなかった為に、こういう目なのか…と知識を蓄えていたのだった。
変なところが真面目すぎて、面白みがないかもしれない。

飛鷹与一 > 「……ええ、まぁ無理はしません。自分の事は把握してるつもりなので」

実力、性格、その他諸々含めて。とはいえ、体が勝手に動いてしま事もある。
気をつけるのは勿論としても、意図せず体が動いて怪我を負う可能性は捨てきれない。
だが、性分でもあるので簡単に治す、という訳にも行かない。難儀なものだ。
一度目を閉じて緩く頷く。まるで自分自身を律しているかのようで。

「……分かりました。まぁ、ある意味で目立つ目つき…かもしれない、というのは自覚してます」

少女に気取られただろうか?とはいえ、直球で尋ね難い事ではある。
少年としても、あまりこれ以上踏み込まれると普段抑えている感情面が少し危険だ。
今のこの態度も、落ち着いたり老成したり冷静沈着、という訳ではない。
単に常日頃から自分を律して押さえつける事に慣れているだけだ。
あまり感情を荒立てないように。心を強く保つ。その分、無表情が増えてしまったが。

しかし、話が暗い方向に転がるのは矢張り避けはしたいもの…フと気付いた。互いに名乗っていない事に。

「……あ、今更ですけど名乗ってませんでした。俺は1年生で新米風紀委員の…飛鷹与一、といいます。飛ぶ鷹に与えるに漢数字の一で「ヒダカ・ヨイチ」です」

エル > ゆるりとした青年は、初めこそ老成した印象ではあったけれど
そうではないのかもしれないと自分の認識を改める。
熱さと、若さも、内側に波立つものを秘めている。
それは容易に触れてはいけない、踏み込んではいけない領域でもあるのだろう。
何も分からずも今日は、それを感じ取る。

「ヒダカ・ヨイチ。さん。雰囲気のあるお名前ですね。
 よろしくお願いします。
 ヨイチ…遠距離の武器の達人の方を、思い出しました。
 あれは何の本で読んだのか…?」

ぼんやりとしそうになる矢先、良い時間と知り、改めて彼の方へ体の正面を向ける。

「私は漢字も苗字もありません。エルです。
 ……短くて呼びやすいやすいでしょう?」

ぴょこり、とお辞儀をした表情をあげ、
あらためて気分転換を邪魔してしまったことをお詫びし
それからお礼も告げて、別れ際になり微かな笑みを残し戻っていったようだ。
階段へ向かう足取りは、ゆっくりと、定期的に展望台の上を渡って行く

ご案内:「大時計塔」からエルさんが去りました。
飛鷹与一 > あくまで見た目や雰囲気、この目付きでそう誤解されがちなだけで…人並み、年齢らしさの感情は或る。
それを如何に律するか、如何に押さえつけるか、如何に悟られないようにするか。
まだまだ未熟ではあるが、同時に副産物として地味に鉄壁なメンタルが形成されつつあるが。

「……昔の日本の合戦で居た弓の達人と名前は同じですね。
…と、エルさん、ですね。よろしく御願いします。」

と、お互い自己紹介を済ませればこちらも頭をもう一度緩く下げて。
先に戻るであろう少女を見送るように、こちらも無表情を微かに笑みに変えてもう一度会釈交じりで見送る。

「……勘が鋭い、というか聡い人なのかな…」

人の本質を見抜く眼力があるのだろうか?と、エルと名乗った先ほどの少女の事を思いつつ。
さて、こちらもそろそろ引き上げる頃合だろう。傍らのライフルケースを拾い上げて担ぐ。

「……もうちょっと自分をしっかり保てるように努力しないとな」

動揺してしまうのはしょうがないとしても、そこからフとした弾みで感情が暴発しかねない。
押し込めているソレを表に出す気は今は無いのだから。
一度、窓の外の景色を一瞥してからゆっくりと少年も歩き出し…階段を静かに下りていく。

ご案内:「大時計塔」から飛鷹与一さんが去りました。