2017/05/20 のログ
ご案内:「大時計塔」にヨキさんが現れました。
ヨキ > 日が暮れてしばらく経った時計塔の階段を、独りひたすらに上ってゆく。

島の秩序は我にあり。

美術教師ヨキはそう自称して憚らない男である。
昼のお説教も夜半の見回りも、ヨキは進んで引き受けた。

てっぺんに辿り着くと、冬に比べて日の長くなった街がぽつぽつと灯りを点け始める光景が一望できた。

「侵入者なし……と。問題なさそうだな」

柵の陰、壁の向こう、階段の裏まで、くまなく見て回る。

ヨキ > 眺望のよい位置に立ち止まり、一息つく。
健脚で手分けをしているとは言え、この広大な学園を見回るにはさすがに体力を使う。
かつては不死の疲れ知らずだった身体も、今は負荷がありありと感ぜられた。

後ろ腰のバッグのホルダーから緑茶のペットボトルを取り出し、喉を潤す。

「……………………」

海の向こう、朧げに残る夕闇の赤色が夜に染まってゆく様子に目を奪われる。
何気ない光景のひとつひとつさえ、人間の色覚を得たヨキには未だ物珍しい。

視界が夜に満ち、暗さに慣れたあとも、さまざまな色をした光が動き回る街を見下ろすことはひどく楽しかった。

ヨキ > 「……少しだけ」

懐からスマートフォンを取り出して、一枚撮る。構図も色合いも、何の変哲もない夜景に過ぎない。
うまく焼けた鶏肉だとか、映画美術のような裏通りだとか、教え子の子どもだとか、
ヨキの写真と言えばそういうものばかりだ。

日常の一瞬を切り取ることそのものを新鮮に感じて以来、ヨキは写真を撮るのが好きだった。

「あまり満喫していては、忍び込んだ学生らと変わらなくなってしまうな」

言いつつも、表情は心地よい外気を浴びた充実感を隠せていない。

ヨキ > 「さて」

歩き続けた呼吸も整ったところで踵を返す。
元どおりの緩やかな、それでいてしっかりとした足取りで、時計塔を後にする。

扉を閉めた音が微かに響いて、あとには静寂が残るばかり。

ご案内:「大時計塔」からヨキさんが去りました。