2015/07/16 のログ
ご案内:「公安委員会本部事務室」に緋群ハバキさんが現れました。
緋群ハバキ > 組織に属する者が職務中に死亡した場合、それは殉職扱いとなる。
遺族への通達や特別手当の支給などの各種手続きを行わねばならぬのは、あくまで学生が組織を運営する公安委員会に於いても変わらない。
無論、実際に於いて手続きされた処理を実行するのは学園の運営母体である常世財団であるが、手続き自体を行うのは事務方の生徒である。

「……。」

今まさにデスクに向かい、顔写真の貼られた学籍証明書を隣に置き、PCのモニタに表示された事務手続き書類に必要事項を記入している少年のように。

緋群ハバキ > 住所・氏名・年齢・本籍地。
キーボードを叩き故人の生前を規定する各種情報をテンプレート書式へと入力する作業は淀みない。
一般の事務手続きと変わらぬ作業。既に、それらの作業は何度と無く行っている。

だが続いて必要とされる書類は、本来ならばその学生に縁があってはならないものであった。
検視調書。
その生徒の生命が既に亡く、「死亡した」と定義づける書類たち。

「……、」

暫し、その内容を検めて。
淡々と文章を写しとり、入力する。

緋群ハバキ > 犯罪によって失われた生命は、真相究明の為に死体の状況を検められる。
『外』においても、或いは常世学園においてもそれは変わらないのだろう。
それらの実際を執り行う者が誰なのか、少年は知らない。
ただ、業務上必要であるから書類という形で情報を知り得るのである。

「なんだか、なぁ」

かたかたと、キータッチの音を響かせながら。
少年はぼやくように声を発した。

常世島において警察組織として運用される公安委員会に所属していると言っても、彼らは生徒であり、その多くは子供なのだ。
殆どの遺族は、その親である。
騒乱の世紀である現代において犯罪や怪異に巻き込まれて人が死ぬ確率は、今世紀初頭に比べ格段に跳ね上がってしまったとは言え――

――子を失った親の悲しみが変わる事など、在りようはずもない。

「……なんだかね」

極めて事務的な処理を行いながら、だからこそやり切れない思いを得て。
少年は、重い溜息をついた。

緋群ハバキ > 遺族に対面し、通達を行うのが常世財団という「大人」であり。
ある意味最も心理的重圧のある役目は彼らが担っているという理解があるとは言え。
その死に対して、極めて事務的に接する必要が生まれるというのは、中々に堪えるものがあった。

書きかけの通達書が表示されたモニタの一角へ、陰鬱な視線を向ける。
テンプレートのお悔やみを告げる文章の末尾には、遺体の検死解剖に同意するか否かという文字。

「……まぁ、抵抗あるよなぁ……」

本来この書類が必要となる事自体、忌むべき事ではあるが。
大半が未成年でありながら多くの国家主権から独立した存在であるこの常世学園において、例え死因の犯罪性が明確であったとしても行政解剖を執行する事は難しいのであろう。
故に、遺族の承諾を得て事件解決に活かすべくこのような文言が存在するのであるが。

「自分の子供を殺されて、その上切り刻まれるのをよしとする親御さんなんて……そう居ないよな」

少年とて、検死解剖の有効性は理解している。
が、それ以上にその有効性の前に立ちはだかる心理的ハードルの大きさもまた、分からない話ではなかった。

緋群ハバキ > そして、何よりも。

ハバキは改めて、デスクに並んだ学籍証明書へ視線を落とす。
こちらを見つめ返す写真の顔のどれもが、僅かな緊張を滲ませた笑顔を浮かべる、入学当時のもの。
過去の中から笑いかける彼らを、自分は知らない。
中にはこの建物ですれ違った者もきっと居たのだろう。
だが彼らがどんな人物で、どんな学生生活を送り、どんな話をして、どんな風に職務に就いていたのかを実際に知る事はない。

ただ、書類に記されているから知識として自身に入力されるのみで。
実感としてそれを知る事は、もう叶わないのだ。

「……はぁ」

誇りたくもないが、十六年の人生に於いて人が死ぬという事自体には慣れてしまった。
だが、自身の与り知らぬ所で死んでしまった者の死を、他人事としてただ処理するという行為が。
まるで故人を冒涜しているようにも思えるのだ。

この手続が無ければ社会は彼/彼女が死んだ事すら認めず、遺族が彼らの死を受け止める事も出来ない。
だから、必要な職務なのだ――そう分かっていたとしても、自分はこの作業を行うに相応しいのか。
彼らの死を定義する資格が、自分にあるのか。

そんな疑問を抱いてしまう。

緋群ハバキ > 考えた所で答えは出ない。
答えを求められる質の疑問でも無い。
そもそも、たまさか彼/彼女の死とこのような形で関わったというだけの自分がそう考える事自体、生者の傲慢であるのかもしれない。

ぐるぐると思考が周り、がしがしと頭を掻く。
気分の重さに負け、いつの間にか手が止まっていた。

「まぁ……結局今出来んのは、自分の仕事をしっかりこなす事だけだよな」

せめてそれが、故人に対し礼を尽くす事とならんことを。
そう願いながら少年は、もう居ない誰かの死を告げる作業を再開する。

誰も居ない事務室で、キーをタイプする乾いた音だけが暫く響いていた。

ご案内:「公安委員会本部事務室」から緋群ハバキさんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本部会議室」に五代 基一郎さんが現れました。
五代 基一郎 > 資料を整えつつ鞄に納め、冷めたコーヒーを啜る。
明日にでも風紀の各部署にも出されるだろうフェ―ニチェに関する資料。

先までここにて公安と風紀による連絡会、最も今回は案件が主たるため
報告会という形となったものが行われていた。
尚会場は都合が空いていたからというだけで、その他に理由はない。

かつて公安員会により介入があった組織の再結集。
そしてそれからの一連の流れ。首謀者と思わしき中心人物と
現在も尚存在し姿を見せた者達。
公安との間で交わされた司法取引の概要
(概要として、内容の詳細がどうのとならない理由は彼らの領分となるから。
功績というとりわけのパイがどうのではなく、その内容の性質上彼らの得意とすることだからであることは言うまでもない。)

そしてその反故、実働員に対する被害の発生を以って
監視調査案件から実働により対処案件、治安維持組織による犯罪者の取り締まりに移ったことが主な流れである。

五代 基一郎 > もう一つ流れがあるとするならば、これもまた一つ大きい。
それは『いつも通り』だが今必要なものである。
予てより再びとしていた風紀と公安の合同捜査である。

治安維持組織であり、その同質的な組織であるから
反目し合っているというイメージが今では持たれているが
実情で言えば全く違う。本来公安と風紀が合同で案件に赴くのはいつものことなのである。

こと違法違反組織が湧いて出ることの多い常世島では
公安が調査、監視を行い実働が必要な段階で風紀と共に赴くというのが大体だ。
蓋を開ければ諜報組織と実働組織、同じ方向を向いているのだからそうであるのだが。

尚、公安にもいくつか実働組織はあるがそれがどういう存在であるか。
どう運用されるかを考えれば何をしたか等見えているわけもなく。
何をしているか等考えるまでもない。
ただ一つ言えるとしたら、それは常世の平和と公共の安全のために動いているということだ。

もちろん、今回の件でも表として動いている公安の実働はいる。
それが報告会に先んじて現場の物として実働を任された……今まさに
合同捜査を行っている者らのことだ。
風紀と公安から選抜された一年が合同で捜査行動を行っている。

五代 基一郎 > 報告会でも出た対象組織の確保目標。

公安員会のからの情報から
首謀者であり中心人物だろうことが判明した
『脚本家』一条ヒビヤ

公安委員会より出頭を要請し、受けたが野に出た
『死立て屋』

裏方として活動を支えていたと思われる
『墓掘り』

異能者であること以上に演者として強力な力を持つ
『七色』

が挙げられた。他にも情報には『癲狂聖者』という演者が確認されている。

また一条ヒビヤが渡した後援者”スポンサー”や違法な物品の出所の情報も開示されたが
それらの対処は公安の方面となることになった。
彼らが今どうなっているか、公安の実働が出る段階となった時点で察するなど易い。

それらの情報が報告会よりも先に内々に現場では渡っていたので
この報告会で何をどうするか、という決断は速かった。
風紀が刑事課、警備部として行うだろうことは簡単。

上に出た、内偵で判明した人物のうち”演者”を確保、あるいは退場させることである。
裏方連中がいなければ劇団は成り立たない程に重要だが、演者はそうはいかない。
彼らはいなければ上演どころではないのだ。
現在フェニーチェには劇場がない。だからこそ、舞台がなくても演者がいればという状況を砕くことが早期解決のための一手となる。

五代 基一郎 > フェニーチェの組織としての現状調査報告。
見れば既に組織としての体裁は整っていない。
かつての劇の為に犯罪を犯す者達、無政府的な芸術主義者から
犯罪を行うための狂気的な者達が寄った烏合の衆となっている。

ならば今尚残存する劇団が劇団たる主要な演者を確保、退場させれば
それはもう劇団でもなんでもなくただの犯罪者らだけとなる。
中心、頭を砕いたあとは各個で対処かそのまま衰退させ干上がらせて枯らし尽くすのみだ。

だからこその風紀はこの方針をまず早期解決に向けての一手とした。
しかしかといってその演者達がそう簡単に確保されるか、といえば違う。

公安の実働員に対して被害を出せる程の裏方的な連中も連中だが
表立って動く演者の方はより実行的な面で危険が付きまとう。

よって対ロストサインの元マスターの時同様に、選抜してまず
突入する人員。今回もだがレイチェル・ラムレイには特殊装備の許可が下りることとなった。
それはゲート弾も含め、である。かつての公安が作成した資料にも正体不明ともある程度に危うい連中がいるのだ。
それでもまだ心もとないと思う。

五代 基一郎 > だが現状出来る手は打っている。
あとは現場に任せ、かつ現場がやりやすいように出来るだけの
サポートを行うだけだ。報告書や始末書、顛末書や調達書類の作成などいくらでもやろうじゃないかと。

合同対策本部に場所を移動していく刑事課の人間とぼやきながら
自らも空になった紙コップを掴みつつ椅子から腰を上げた。

現場はまだ動いている。
求められること、やらねばらないことはまだあるのだ……

ご案内:「風紀委員会本部会議室」から五代 基一郎さんが去りました。