2015/07/24 のログ
ご案内:「委員会街:公安事務室」に夕霧さんが現れました。
夕霧 > 雑多な作業場。
今は一人、PCと書類に向かっている。
何せ本当に何も無い。
部屋にあるのはデスク、この事務課で働いている人数にも満たない数のPCで、私物の影すらない。
飲み物を飲もうと思うならいちいち部屋から出て、買いに行かなければならない程の。
殺風景極まりない一室だ。
来た書類をただ区分けし、各々各部署へ届けるだけの事務方。
それが公安委員会事務。
裏方であり、実働班やら他に比べて圧倒的に人数も少なく、そして知られていない。
知られていないといっても色んな意味がありるが、これに関しては単純に目立たない、そういう意味だ。
一応、腕章は貰うもののよっぽどな事が無い限りつけることは無い。
一回もつけずに任期を終えた者もいれば。
そもそも自室に置きっぱなしだ、などと豪語した者もいた。
仕事も書類をただ分けるだけだ。
彼女たちが何かをする事は無い。
それは届けられた各部署の仕事だ。

ふう、と一つ息を吐き。
ギッ、と椅子を軋ませて少しだけ休憩を取る。

夕霧 > 紛れてくる宛先を間違った書類も分ければ。
宛の無いものまで。
多種多様な書類。
宛の無いものはしょうがないのである程度の保管期間を置き、その後は廃棄処分される。

モノによっては当然内容が目にもつくものは幾らでもある。
封筒に入っているものから、生身の書類だけの物まで様々だ。
目についたからと言って、何をする権限も無いのではあるけれど。

目下増えるのはフェニーチェという単語が入るモノ。
全公安通達の物もあれば報告書という体のものも。
当然、封筒にはいってみる事は敵わないものも。

それでも状況などは逐一ある程度は入っている。
状況としては既に調査などの段階は終わっているようで。
事務方にはもはや縁の無いものだ。
わざわざ事務方を前線に引っ張ってくるような事ももう無いだろう。
強いて言えば、その単語が踊る封筒が増えるぐらいで。

休憩を止め、書類分けを再開する。

ふと、宛をどこにすれば判断しかねるものが出てきた。
「……これは、どこでしたかなぁ」
呟き、過去のケースを纏めたファイルを取ろうとして。
ばさり、と別のファイルを落とした。

夕霧 > 拾おうと椅子から立ち上がる。

落としたのは事務のメンバーの名簿ファイル。
顔写真から、経歴まで乗っているいわば履歴書みたいなもの。
一応、事務の物のみ、事務室で保存されている。
当然己のものも。

「……」
拾い上げる。
見た覚えのある単語ばかりだ。
自分で書いているのだし、当然の事であるが。

「そういえば、本土に連絡もしてないですなぁ」
呟く。
たまには連絡するのも悪く無いだろうか。
そんな事を考えつつ。
ファイルを拾い上げ、適当に机に放り、椅子に座り直す。

過去のケースを確認し、場所を確定させ、そちらへ振り分けた。
残る書類はもう少ない。
昨日一日、休んだ程度ならばそれほど仕事も溜まらなかった。
引き継ぎも上手くいっていたようで一安心だ。

再度立ち上がる。
どうにも今日は余り集中出来ないらしい。
買ってきておいたペットボトルのお茶を飲み下し、少しだけ伸び。

残り少ないとはいえ、しばらくはこの場で書類をする必要があるだろう。

夕霧 > しばらくぼんやりと伸びなどを続け。
流石にとまた椅子へ座りPCに向かう。

さっさとやっつけてしまおう。
そう結論付け、カタカタとPCを操作しながら書類を処理し始める。

極力PCにはデータは残さない。
ただタイトルと宛先、間違えて来たやらを備考に書いていくだけのリストだ。
内容に関しては触れない。

他にも事務の仕事はあるが、まあ雑用程度である。
その雑用も、誰かがやらなければならない事だ。

カタ、と最後の一文を打ち終わる。
上書き保存を押し、そのままファイルを閉じる。
物の数分もかからなかった。
わかって居た事ではあったが休まずにやればよかった、など少しだけ考えて。

ギ、と再度椅子を慣らし、伸びをする。
昨日休んだせいか、身体がまだ休みを欲しがっているようで。
すぐに疲れる気がした。

夕霧 > 後は各部署への配達になるが、これはまた別の子の仕事だ。
任せるとしよう。
保管場所に鍵を掛け、全てに鍵が施錠されて居る事をチェックする。

飲み干したペットボトルをゴミ箱へと落とし、椅子に掛けておいたジャケットを羽織らずに拾い上げる。
既に日は沈み、すっかり辺りは暗い。
日によって涼しい日もまだある。
そう思い一応ジャケットは持ってきているものの。
恐らくここ数日の気温を鑑みれば、もう着る必要は無さそうではある。
そろそろシャツだけでいいかも知れない。

などと考えつつ、電気を消し、施錠を確認する。
忘れた事は無い、と改めて胸の内で確認をして。
そして彼女は出て行くだろう。

一つだけ直し忘れたモノを置いて。

ご案内:「委員会街:公安事務室」から夕霧さんが去りました。
ご案内:「委員会街:公安事務室」に緋群ハバキさんが現れました。
緋群ハバキ > 受付で鍵を受け取り、事務室を開ける。
暗室めいた室内に入れば、手探りになるまでもなく場所を覚えた照明と空調のスイッチを人差し指が押していく。
グレアが明滅、蛍光灯に光が灯る僅かな音と、エアコンが唸る音が唯一の音となり――

時刻は朝八時。
公安委員会事務室の事業開始の時間である。
入り口横の前日施錠責任者欄の名前と時間を確認し、吐息を一つ。
我らが先輩は仕事熱心なものだと、少年は心中で感嘆した。

緋群ハバキ > さて、始業とは言っても未だこの部屋に人は己のみ。
とりあえずやることといえば事務室内のゴミ箱に設置されたゴミ袋を回収し、また新たなゴミ袋へと換えるであるとか。
事務室の隅のロッカーから取り出した普及品の夜間自己発電式静音掃除機を用いて床に落ちた種々様々なゴミを掃除することであるとか。
夜間帯に事務室ポストに突っ込まれた各種書類を分類したりであるとか。
そういう細々した雑事のみであるが故、基本的に任されるのは己のような一年坊主の下っ端である。

既に習慣となり、如何に素早く、そして美しく職場環境を整えるかに腐心する段階となった仕事に無心に勤しむ。
職場の乱れは心の乱れ――なんて言うのは少々前時代的だが、ともかく掃除する余裕も無いような状態では平常の業務にも支障が出がちである。
これはこれで、己の大事な役目なのだ。

「……ふぅ」

消しクズ一欠片残さぬと言わんばかりの気迫での掃除を終え、爽やかな笑顔で汗を拭く仕草。
程よく上がった体温に、効き始めた空調が心地良い。

緋群ハバキ > 先輩達がやってくるまでいま暫く時間がある。
ささやかながら己一人でこの空間を独占する優越感――が、まぁ浸りすぎても仕方がないし、何よりこの部屋殺風景極まりない。
別に一人で居ても嬉しい事は無いのだ。

給湯室で茶でも沸かしてこようか。
そんな風に考えた折――つと、一つのデスクに目が行った。

昨夜の施錠責任者は、かのデスクの主。
右も左も分からぬ自分に何くれとなく世話を焼いてくれる、二学年上の先輩。

先日の海の事もあり、どうしても意識してしまう。
勿論そんな浮ついた態度を仕事に持ち込めばやんわりと、しかし有無を言わせぬ勢いで注意訂正されるのであるが。

「ううむ、いかんいかん」

水から上がった犬のようにブルブルと首を振り、雑念を振り払う。
と、長いマフラーの端がデスクのプリンタへと蛇のように伸び――

「あ、あぁぁー……」

ばさばさと音を立てて、コピー用紙が床へと零れた。

緋群ハバキ > やれやれと頭を振ってしゃがむと、コピー用紙を拾い集める。
丁寧に四辺を整え元のプリンタへと返すと――

なんだか、デスクに少々違和感が。
基本的に件の先輩のデスクは整頓され尽くし、始業・終業時には私物もやり残しの書類も残る事はない。
故にその物腰の柔らかさと裏腹な完璧な仕事ぶりが合わさり事務方男子諸兄に女神のように崇拝されたりもするのだが。

そんなデスクに、ぽつりと取り残されたファイルが一冊。
事務の仕事に就く公安委員。それもこの部屋で仕事をする者の名簿を載せたファイル。

仕舞い忘れ? 
確率は低いが、それが一番あり得る可能性であろう。
今のコピー用紙崩落に巻き込まれたという事でも無さそうである。

何の気なしに拾い上げ、ぱらぱらと捲る。
目を落としたのは己のページであった。

緋群ハバキ > ダブルピースで写った顔写真。
我が事ながらよくもまぁ公安通ったもんだと思う。
出生地・経歴・年齢。どれも己で書いた文字であり、其処に嘘はない。

――嘘をつく必要がない。
氏名:緋群鈨
本籍地:日本国三重県
保有技能:緋群流忍術
家族構成:父…緋群中心(なかご)
     母…緋群切先(きさき)備考:継母・既に他界
     妹…緋群鎬(しのぎ)

三つ目は出来れば隠したいが隠せるような性格でもない。
バレてないといいなぁ、という希望的観測。

「……。」

つと、好奇心が湧いた。褒められたものではないが、別に部署内であればアクセス可能な情報だ。
ページを捲る。手前へ。
高学年次の委員のものへ。

緋群ハバキ > そこに貼られた写真は、今の彼女と然程変わる事はない。
少しばかり幼いかとも思ったが、当時から不思議と成熟した気配がある。

名前。
彼女は常に仮称を名乗る。
それが問題となった事は少年が知る限り一度も無いし、そもそも仮称を名乗る事を義務付ける部署すら公安委員会には存在するのだ。
名前とは他者がその人を認識するアイコンであり、タグである。
もし真名というものがあるのなら、それはその人自身と、明かすべきと判断した者のみに明かせばよい。

果たして、その真名は。
別段変わる所の無いものだという印象を得た。
音の響きも、字面も。
ただ連想させる季節が冬か、秋かという差はあるが。

その下、出身や保有技能もまた己が知る以上の事が書かれている訳ではない。
続く家族構成に視線を落とそうとし――

「んん、んんん……流石に、プライバシーの、アレとかアレが、ソレかなぁ……」

下世話な好奇心と敬愛の念が鬩ぎ合い、青少年の心をかき乱す。
既に時刻は九時前。そろそろ誰かが訪れてもおかしくはない。

緋群ハバキ > 意を決するまで数分の時を要した辺り、少年が出自に見合わぬ性格だという証左となるであろうか。
最初は無駄に薄目で、週刊誌の際どいグラビアを見るが如くの態度でその家族構成を視界に入れ――

「――あれ」

父一人弟一人妹一人。母は既に他界。
弟を除けば自身とよく似ている。が、それに親近感を得る前に。
脳裏に浮かんだ既視感に、少年は首を捻った。

自営業。
名前。
出身地。

引っ掛かるものが無いでは無いが――

その引っ掛かりが思考となる前に、少年の鋭敏な聴覚は廊下を歩む足音を捉えていた。
時間を見れば、いつの間にやら八時四十五分を過ぎている。
後輩の掃除が終わった頃合いを見計り、先輩が始業に訪れる頃だ。

「うぁやべ」

別に見られた所でどうというものではないと頭で分かっていても、密やかに他人の個人情報を閲覧していたというバツの悪さがそうさせたのか。
勢い良く、しかし極力音を立てる事無くファイルを閉じ、普段在る場所へと仕舞う。
一流の手並みであった。

緋群ハバキ > あとは、深呼吸。
相伝の呼吸法で早鐘のように打つ心臓を宥めた頃に、引き戸が開く音。

毎朝の掃除の労苦を労う男子先輩の声に恐縮しつつ、少年の脳内では件の先輩の本名がリピートしていた。
他者が彼の脳内を覗けたなら、そのあまりに青少年な思考に微笑ましい目を向けつつも呆れ果てたであろう。

結局。
何に引っ掛かったのか、そもそも引っ掛かりがあったことさえ忘れ。
少年はその日も、日常に己を埋没させるのであった。

ご案内:「委員会街:公安事務室」から緋群ハバキさんが去りました。