2015/11/28 のログ
ヨキ > 「判った?」

(細めた金の瞳は、瞼の陰が落ちてその光が目立った。
 頭蓋の奥でロウソクが揺れているかのような眼差し)

「そう。ヨキは誰より『生徒』を愛しているんだ。
 だから実際のところ、ダーリンと呼ばれても刺されてもあまりピンと来ない。

 ……ただ、今はその姿勢を直そうとしている最中」

(目を伏せて、アイスの陰に潜り込んだ白玉を拾い上げて口に含む。
 咀嚼しながら考える。空にした口で、続きを話す)

「色々あってな。
 そういう姿勢はよくないと言われた」

(ヤエの仏頂面を構成する顔のパーツを、ひとつひとつ見分するような目。
 小さく笑う)

「ヨキほど学園に忠実な犬は居ないと思うがね。
 ……そうだな、『猟犬として忠実』と言った方が正しいか。
 シュッとしたフォルムの猟犬よりも、コロコロと君に懐く忠犬の方が好みかね?」

鏑木 ヤエ > 「おや、ダーリンは言い出したら聞かないタイプかと思ってましたよ。
 さあて、どんな色女にそんなこと咎められたんです?
 それともやえより大事で愛している生徒?
 さてはわかりました、学園のエライヒトですか」

(両手を組んで薄く笑った。
 君が自分の姿勢を曲げるというのが想像できなくて、どうにも可笑しかった)

「まあ恋愛沙汰になった時に困りましょうて。
 あ、職場恋愛のセンもありますね。
 新聞部も面白いゴシップはさっさと見つけてきてほしいモンですよ」

(一拍)

「でも、間違ってるとは思いませんよ。
 寧ろ、それが一番カンタンで考えなくていいですから。
 やえだって誰とも寝るようなクソビッチですからね。
 自分の"好き"に文句言われたら速く死なないかなー、って思いますし」

(つらつら台詞を暗唱するような言葉。
 一息で吐ききる言葉は実に正直で、実に薄汚れている)

「やえはポリッシュ・ローランド・シープドッグが好きですよ。
 あの愛らしいフォルムに目つき。
 昔よく見ましたしねえ、猟犬はそこまで好きじゃないんですよ。
 愛玩動物万歳、ってヤツです。 もっと好きなのは頭のいい牧羊犬」

ヨキ > 「君より大事な生徒なんて居ないさ」

(みんな平等。)

「ただもう少し、『人間らしく』なろうと思った。
 なってみよう、で一朝一夕になれるものとは思わないが。

 犬だって、たまには反省くらいする。
 もう女性に刺されるのは御免なのでね」

(多くは言わずに、ふっと柔らかく笑った。
 クソビッチ、という呼称に、わざとらしく眉を顰めて)

「何だ。金に困っておるからと、売春はいかんぞ。
 そうでなくば、君は夢魔の類であったか?
 まだ若いのだから、性病はやめておきたまえ」

(下世話な話はパフェの味に何ら影響を及ぼさなかった。
 すっかり少なくなったパフェの、溶けかけたアイスを掬う)

「君の母国の犬か。
 ……ふうん、君のふわふわの髪さながらに、牧羊犬が好きなのだな。
 頭の良さは到底叶わないが、頭の隅に留めておこう」

(尨毛めいた黒髪を揺らして、スプーンを口へ運んだ)

「男も頭の良いのが好きか?」

鏑木 ヤエ > 「ええ」

(問いにはすぐさま首肯を。
 これ以上なく明確な回答だった)

「勿論頭が好いのと悪いのどちらかと言われれば前者でしょうて。
 やえはね、やえの回答にペケを付けられる人が好きですよ。
 何故やえの回答が間違っていて、何故君はやえを否定するのか。
 そんな人が好きですよ。
 考えねーで頷くだけの阿呆ならこけしに向かって話していたほうが幾分もマシです」

(ふう、と一息つくように温くなった水を呷った)

「ははあん、女性に刺されたと。
 まあ当然といえば当然というか。なるほど、ってトコですかね」

(無感動に、溢した)

ヨキ > 「こけしに向かって呟く鏑木君……なかなかに可愛いな。
 いや、ともかく君らしい話で安心した。
 誰とでも寝るクソビッチなどと宣うから、てっきり向こう見ずな男でも好んでいるのかと。
 ますます君が労働ばかりに精を出しているのは勿体ないな」

(女性に刺された話については、平然として背凭れに寄りかかる)

「……昔の話だがね。
 刺されて去られて、それきりだ。今やヨキもぴんぴんしている。
 それに比べれば、君の言葉の方が随分と直截で好ましい」

(水を飲み干す。
 フロアを立ち回る女生徒が水差し片手にやってくる。
 水のお代わりを注ぐのを呼び止めて、)

「イチゴのタルトをひとつ。
 それから紅茶をストレートで……、君は?」

(ヤエに向けて、首を傾げた)

鏑木 ヤエ > 「節穴にも程がありますね。
 石に向かって話掛けるやえなんて七不思議でもなければあり得ませんよ。
 だからやえは、誰と話すときだって意味を探します」

(瞼を下ろして肩を竦めた。
 何やら余計なことまで言った気がするけれど気にしちゃいけないのだろう)

「……お冷のおかわり。
 借りを作りすぎても返済の目処が立たねーのは困りますから。
 外に放られたときに取り立てに来られても困るんですよ」

(先刻の言葉を思い出しながら、意地悪く笑う)

ヨキ > 「君は言葉を、会話を好いているのだな。
 ……だからヨキも、金属に向き合うのと同じほどに生徒と話すのが好きさ。
 『愛している』というのは、何も嘘ではない。
 本当は、」

(首をこきりと動かす)

「『鏑木ヤエ』と話すことが好ましいと――言い切れればよかったが。
 この心地よさが教師としてのヨキが感じているのか、それとも一人の『ヨキ』という男が感じているものなのか、
 今は見当がつかなくてな」

(注文を済ませた生徒が去ってゆく。
 新しく注がれた水を飲んで、笑い返す)

「ケーキのひとつやふたつ、いちいち取り立てに回ってなるものか。
 ヨキが牙を剥くのは、『悪い子』相手にだけさ。
 常世島に集まる子羊たちを、学園へ追い込む牧羊犬でもあるのでな」

鏑木 ヤエ > 「…………、」

(言葉を手繰った。
 上手い『鏑木彌重』らしい台詞が出てこない。
 数瞬考えを巡らせている最中に同僚からの恨めしそうな視線が刺さるが、
 ひらりと右手を振っておいた。
 休憩を満喫しているのだから黙っておけ、と言外に込めて)

「会話はその人となりがわかりますからね。
 語彙に、表現に、その場その場で選ぶ類義同義の山。
 その一人一人が選んだ理由と選ばれた言葉をきっとやえは愛しています」

(君の囁いた言葉は、彼女であれど暫く思案を要するものだった。
 意味深な言葉。掘り下げるべきか、それとも聞かなかった振りをするのか)

(されど浮かんだのは疑問。
 多重人格でいやがりますか――そんな言葉を飲みこむのは当然不可能。
 彼女が抱えた異能は『堕落論』。嘘がつけない、それだけの異能。
 それは当然のように作用する。相手にどんな葛藤を与えるのか、傷つけるかも知っているのに。
 愛した言葉を自分が一番凶器にしているのを知っているけれども、
 吐き出さずにはいられない)

「タジュージンカクか何かですか、ダーリンは。
 もう一人の僕とでもいう訳ではないでしょうて」

ヨキ > (ヤエと同僚のアイコンタクトが目に付く。
 言外に含まれたものは読めずして、生徒へ微笑みかけるに留めた)

「……“人の心を種として、万の言の葉とぞなれりける”。
 犬から人間に転じて言葉と共に生きてきたヨキの、その話が君に愛してもらえるのは幸せだな。
 君の豊かの、腐葉土の一部になれるとしたら」

(相手の目を真っ直ぐに見る。多重人格か、という問い。
 傷ついたとも心動かされたとも知れず、燃えていながらにして冷たい瞳。
 ヤエから向けられた言の葉の、刃先を呑み込むように和やかな微笑み)

「……いや。ヨキが長いあいだ、『人間』になり損なっていただけの話だ。
 ヨキは教師として、正しく生きることのほかにはないと思っていた。
 それが随分と――『獣』に寄った姿勢だとは気付かずに。

 今はその、人らしさを得ようとしている最中だ。
 律ではなく、自分の心に身を任せることの実感が未だ湧かない」

鏑木 ヤエ > 「どおしてそんなに"人間"に固執するんだか。
 やえには皆目見当つきませんね。
 やえはやえ。"ヨキ"は"ヨキ"。
 それがどうして気に入らないんだか、やえにはわかんねーですよ」

(ゆるく頭を振って、じろりと君を睨んで)

「獣でもニンゲンでも変わらないでしょうて。
 あなたがあなたであることに変わりはないのにどうしてそんなに区別したがるんだか。
 人らしさ?獣らしさ?
 そんなツマンネー柵の中に閉じこもってちゃダメですよ、きっと。
 羊ですら外に出ようとするのに学園に追い込む牧羊犬が柵に囚われるとは滑稽な」

(つらつら並べる口の悪い言葉は先刻と違って迷いがない。
 君の思想を、思考を否定するためだけの言葉)

「知らなかったものを最近にして知ったのならそうもなるでしょうて。
 なにをそんな素っ頓狂な。
 それが"人間らしい"葛藤であり、"人間らしい"違和感でしょう」

(皮肉なモンですね、と付け足した)

ヨキ > (ヤエの目線を見返す眼差しの柔らかさは変わらない。
 ガールフレンドと映画の感想でも話し合うような顔をして、テーブルに肘を突く)

「ヨキが人の子らを、愛しているからさ。
 こう見えて『自分は自分』という清濁併せ呑む態度をヨキは愛しているし、
 今までもこれからも『ヨキはヨキである』という自認に変わりはない。

 ここでの『人間』とは、子どもが『サッカー選手になりたい』と夢見ることと同じだよ。
 ヨキは君らと同じ『人間になりたい』」

(両の指を組み合わせてテーブルに置く)

「白黒ハッキリ断じて黒を白に塗り替えようとしてきたが、灰色をも愛せよと諭された。
 『獣』というのは、実にピーキーなものでね」

(運ばれてくるイチゴのタルトと紅茶。
 新しいカトラリで切り分けて、一口掬う)

「だから君にも、システマチックな貸し借りを作ろうとは思わない。
 『菓子を頬張る君の顔が可愛い』そう言ったら食べてくれるか?」

(どうだね、と、フォークの先のつやつやのタルトが小さく揺れた)

鏑木 ヤエ > (溜息ひとつ)

「人の子ら、なあんて言ってるうちはきっと『人間にはなれない』。
 だあって自分で線引きしているように、やえには見えますよ。
 ニンゲン同士なら『人の子』なんて面倒な呼び方をしないでしょうて。
 自分で線を引いて、人を高いところに追いやっているようにも見えますね」

(トントントン、と机を叩く。
 軽い音と共にゆるく、テンポを合わせるようにして首を振った)

「ああ、違う。 ――――、言葉が見つからない。
 獣というのはヤッパリわかんねーモンですね。
 やえは改めて、自分が骨の髄までニンゲンなんだと実感しましたよ」

(艶やかな赤色がこちらを向く。
 赤と紫が交差すれば、また溜息をついてぱくり口にした)

「狡いモンですねえ。それが獣とやらですか。
 ホントにダーリンはやえに刺されることなんて考えてないでしょう」

(遠くから、鏑木、と呼ぶ声がした)

(無視)

ヨキ > 「人間の姿になって、真っ新な心持で人間になれると思っていたが……
 生憎と、言葉でものを考えぬ獣のうちから心は固く強張っていたらしい」

(指先で、テーブルに見えない三角形を描く)

「純然たるヒエラルキーの――真ん中。ここがヨキ。
 その上が、君ら生徒。そうしてその更に上が、常世財団。
 …………、

 ヨキの中に引かれた線は、恐らくはそれのことだ。
 ヨキは決して上層には行かんし、高いところへやられた『飼い主』たちとは並べないという意識」

(ヤエへ寄越したより幾分か大きく切り分ける。
 今度は自分で頬張って、もむもむと頬を膨らませる)

「君が喋りたいように喋るのと同じで、ヨキは自分でしたいと思ったことをするだけだ。
 ……君に、ヨキを刺す心算などあるのかね?それは考えてもみなかったな」

(あっけらかんとして紅茶を啜った。猫舌。
 フロアの奥から相手を呼ぶ声に、目線だけで反応する。
 ちらとヤエを見る)

「いいのか」

鏑木 ヤエ > (犬なのに猫舌とはこれいかに)

「……、自分で自分の限界を決めるというのは。
 自分で自分の区切り線を引くのは大層ツマンネーとやえは思います。
 あくまで、やえは」

(見えない三角形をジイと睨んだ。
 自分も自己評価は低い方だが、人が自分を低く言っているのを見るのは不快だと知った。
 人前では慎もう。 そんなぼんやりとした思考が渦巻く)

「やえは中々嫉妬深いですからね。
 ダーリンが他の女といい空気になっていたらすかさず刺し殺すかもしれません」

(これは嘘なんかじゃなく、)

「やえのダーリンに触れんじゃねーですよ、って。
 相手の女を――女以外でも刺すかもしれねーじゃねーですか。
 確率はゼロではないですよ。気まぐれでニンゲンは人を殺します」

(獣も殺せるかはしらないですけど、と薄く笑った)

「行きますよ、随分と休憩以上にサボっちゃいました。
 それじゃあまたね、ダーリン。
 またパフェ、食べに来てくれなきゃやえ許さないんだからねっ!」

(裏声駆使して甘ったるい声色)

(無表情なウインクを君に飛ばして、駆けた)

ご案内:「委員会街」から鏑木 ヤエさんが去りました。
ヨキ > 「うん」

(テーブルから手を放す。真っ白なクロスの上から、まぼろしの三角形が消える)

「君につまらないと思われるのが嫌でな。
 だから余計に、こうすることは辞めようと思える」

(ヤエの不穏な言葉に、口元で微笑む)

「流血沙汰は止めてほしいところだがね。
 何てったってヨキは教師で、猟犬だ」

(見えないヒエラルキのいちばん下――『犯罪者』)

「このヨキひとりが刺されるならばまだしも、ほかの女性に害が及ぶのは困るな。
 ヨキは君に牙を剥くようなことはしたくない。
 自分勝手なものだろう?刺されたくないからではなく、君を噛みたくないから自制するなんて」

(可笑しげに笑う)

「また君が居る日に食べに来る。
 君のお給金が減らない程度に、付き合ってくれよ」

(耳に残る甘い声に、手を振り返す。
 テーブルにひとり残されて、タルトの続きを口へ入れる。
 薄い頬を膨らませて、舌鼓を打つ)

「癖になりそうだ」

ご案内:「委員会街」からヨキさんが去りました。