2016/01/17 のログ
ご案内:「委員会街」に倉光 はたたさんが現れました。
倉光 はたた > 風紀委員会の施設から少し離れた通り。
街路樹に寄りかかって、ぼうっとしている倉光はたたの姿があった。
委員会街。
なんらかの委員会に所属している人間でもないかぎりは用の無い場所である。

無所属の倉光はたたが何故そんな場所にいるか。
簡潔に言えば彼女は風紀委員へなろうと赴いたのである。
そして適性なしと認められて追い返されたのである。

「…………」

相変わらずの感情の読めない顔で、
手慰みにペーパーをぺらぺらと広げる。
風紀委員会施設からもらってきた、委員会の活動についての案内であった。

倉光 はたた > 風紀委員会。
警備、違反生徒の逮捕や拘束、違反部活の取り締まりを責務とする組織。

自分の攻撃的な異能をもっとも活かせる場所があるとすればどこか。
それは常世の保安や警察を担う風紀委員会に他ならない。
異能をほぼ自分の意思で制御できる自信のついたはたたは、
迷うことなくそこに向かい、自身の異能の強力さ、応用の広さを語った。
デモンストレーションもしてみせた。

しかし結果といえば面接役に一蹴されるだけであった。
上部に持ち帰られ検討されることすらなかった。
彼がなんと言っていたのかは、あまり理解できなかった。

おそらく何か致命的な欠陥が自分に存在し、
彼がそれを見ぬいたのであろう、ということはわかる。
だから大人しく引き下がったのだ。
しかし、はたたの中に、彼女の語彙では表現できない何かが積り、
歩いたりものを考えたり息をしたりするたびにそれを邪魔した。

倉光 はたた > 背を預ける街路樹から異音と異臭がし始めた。
はたたの背中と街路樹に挟まれていた翼状突起から、彼女自身も気が付かないうちに
放電が始まっていたのだ。
彼女の異能のちょっとした暴走だった。
すぐに止める。

「…………」

どうやら彼女自身が考えるよりも、この異能は制御しきれていないようだった。
彼はそれを悟ったのかもしれない。
あの短時間の面談で大した慧眼だな、とはたたは素直に考える。

振り返ると、街路樹には小さな焦げ跡ができていた。
はたたの雷電によるものである。さきほどの異臭もそれだ。

「…………中途半端」

自然な調子でその言葉が唇からこぼれた。
半端に傷ついたものが、目の前にあった。
それを完全なものにしたい、と思った。
しかし、はたたの能力では、この焦げを取り除くことはできない。

倉光 はたた > 街路樹をじっと見つめて、もう一つの手段を実行に移しかけて、やめる。

「ブタバコいき」

公共のものを壊してはいけない。
自動販売機とか。街路樹とか。
壊して良いのは、演習施設でいくらでも生えてくるターゲットだけ。
そういう『決まり』になっていて、それには従わなければいけない。

――なんで風紀委員会に?

先ほど、施設で行った問答を思い返す。

――わたしは強いから、悪い人たちをやっつけられると思ったからです。

確かそんな感じだった。
対面する相手が、呆れるような表情になっていたのを思い出す。
『話にならない』と言いたかったのかもしれない。

ペーパーを丁寧に折りたたむと、コートのポケットに入れ――
ずに、道の脇に放った。
風に舞ってくるくると円を描いたあと、ぺたりと落ちる。

倉光 はたた > にしても、困った。
風紀委員になれないとすると、『正しさのための戦い』ができなくなる。
公安委員は……おそらく、似た結果に終わるだろう。

ふいに、組織に参加せず、
『正しさ』のために戦っている、ある一人の教師のことを思い出した。
なぜ彼は、組織に所属していないのだろう。
組織の正しさと、彼の正しさは、違うのか……それともはたたに想像も付かぬ理由があるのか。

わからないことが増えていく。
世の中の仕組み。他人の考え。そして自分のこと。

とにもかくにも、未練がましく委員会街にとどまっている理由は、なかった。
ここははたたのための場所ではないのだから。

ご案内:「委員会街」から倉光 はたたさんが去りました。