2016/05/05 のログ
ご案内:「医療棟601号室」に久藤 嵯督さんが現れました。
久藤 嵯督 > ケルベロスの針金細工を作り終えてストックに手を伸ばした時、
次の作品を作るだけの針金が無くなってしまったことに気付いた。

入院中にやれることと言えばこれ位しか無いというのに。
甚平姿の風紀委員は完成したケルベロスを、テレビ台にあるヤマタノオロチとジョウログモの間に並べる。
その周囲にも無数の作品が並べられており、この入院生活がどれほど退屈であるか訴えかけている。

(―――いかんな。とうとうやれることが無くなった)

見舞いに来る者など当然おらず、血液が出来るまではずっとこのまま。
血がなければ自己再生もままならないのでトレーニングも出来ず……
いうなれば、ライフワークの9割を封じられていた。

久藤 嵯督 > ずずず……と20度ほど起こされたベッドに沈み込む。
白い天井の模様をぼうっと眺めてみるが、眺めてて面白いものでもない。

本来なら窓の外から綺麗な夕陽が差し込んでくるのだが、生憎と今日の天気は曇り空。
入院生活唯一の希望を絶たれ、嵯督はひどく落胆していた。

久藤 嵯督 > テレビの上に載っていたリモコンを手に取って、テレビの電源を入れようとする……が、反応はない。
電源スイッチを数回押したあたりで違和感を覚え、一度体を起こして、テレビ周りの状況を確認する。
するとテレビの下の方に、カードらしきものの挿入口が見えた。

(ああ、そうか。テレビカードとやらが要るのか……)

自販機で購入すれば済む話だが、生憎と歩くことも困難なのだ。
だから、車椅子に乗るしかない……のだが、それも一人では難しい。
いつものように飛んだり跳ねたりすればすぐに傷が開いてしまうので、体は慎重に動かさなければならない。

壁にかけられた車いすに手を伸ばす……

久藤 嵯督 > 「―――って、届くか馬鹿野郎」

……肝心の車椅子は、明らかに手の届かないところに立てかけられていた。

最終手段のナースコールを行おうとして、その手を止める。
大して面白くもないテレビを見るためだけにわざわざ人員を割くなど、労働力の無駄でしかない。
ここはぐっと堪え、今は白い天井に甘んじるのであった。

久藤 嵯督 > ふと、上体を起こす。何か理由があるわけでもなく。
右手をまっすぐ、車椅子に向かって伸ばしてみる。

何故、手が伸びたのかを考えた。
無くした何かがそこにあるような気がした……と自己分析する。
無くしたどころか、そもそも手にしていたかどうかさえも怪しいものであるが。

きっとそれは、自分が手に入れられなかったモノなのだろう。

久藤 嵯督 > そこには何もない。掴める者は何もない。
そう自分に言い聞かせて、ゆっくりと右手を膝の上に下ろした。

鼻で深く呼吸をして、再び見飽きた天井を仰ぐ。

(―――歌でも歌ってみようか)

あまりにもヒマ過ぎて気が触れたのだろうか。
わからないが、何故だかそういう気分になった。

久藤 嵯督 > 『♪――Suddenly the lights go out...
 ♪――Let forever drag me down...』

最近聞いて、耳に残っていた曲だ。
だがお世辞にも、きれいな声だとは言えない。
しかしその歌声には確かに感情が籠っており、少なくとも自分で聞いてて悪い気分にはならない。

『♪――I will fight for one last breath...』

感情をにすることで、何かが落ち着いていくのを感じている。
あるいは、自分の中の自分と対面しているかのような、そんな気持ちに。

『♪――I will fight until the end...』

歌声は、鼻歌のようにひっそりと奏でられる。

久藤 嵯督 > 『♪――Dear Agony...』

退屈の一つは、紛れただろうか。

ご案内:「医療棟601号室」から久藤 嵯督さんが去りました。
ご案内:「医療棟601号室」に久藤 嵯督さんが現れました。
久藤 嵯督 > 「 」

ベッドの上で、男が溶けていた。

死んだ魚のように黒く濁った眼をぎょろりとさせて、無心で天井を見上げている。
暇だ、暇だ、暇過ぎる。
ほんの数日我慢すればいい話だとたかを括っていたが、ここまで何かを得る余地がないと気が狂いそうになる。
医療棟の外が全て滅んでしまっていたのなら諦めもついたが、”退院すれば”の前提が消えない限り苦しみは続く。

「 」

慣れない長時間の安眠を行ったせいで頭が痛い。
昼と夜の感覚がぐちゃぐちゃになる。
嗚呼、規則正しい生活なんて糞くらえだ。

久藤 嵯督 > 「 」

ぎ、ぎ、ぎ、ぎ……―――窓の方を向く。
どうやら今日は夕陽が綺麗だったらしい。

「 …」

これで少しは気が紛れるというものだ。
うん、やっぱり人の手の届かない場所にある光はいい。
この世でもっとも純粋に見られる。

久藤 嵯督 > (……これをあと…何日続ければいいんだったか)

感覚的には大体あと1~2日といったところだが、医療スタッフが何と言うかまでは保障しかねる。
過剰に軟禁―――もとい病室に置いておくということはないだろうが、過度な信用もまた危うい。

自分が期待したよりも長くこの生活が続いてしまうともなると、気が滅入ることほかない。
希望的観測は捨てるべきだ。うん、きっとそれがいい。

久藤 嵯督 > いいことを思いついた。

自分の中には、7つの異なる思考回路が備わっている。
それを利用して、右手と左手に別々の思考パターンを読み込ませ、ひたすらじゃんけんを繰り返すのだ。
ああ、あっち向いてホイを入れてもいい。
両手の人差し指が同じ方向を向いた時、じゃんけんに勝った側が真なる勝利を得るのだ。

この際何でもいい。どうせ人っ子一人来やしないのだから、好きに遊んでしまえ。

(じゃーんけーんぽん。あーいこーでしょ。あーいこーで……)

一人っきりの病室の中で、右手と左手が高度な心理戦を繰り広げている。

久藤 嵯督 > (流石は俺だ……読みが鋭い。しかし俺の方も負けてはいないな。
 相手の猛攻に対しても、しぶとく生き残ってみせている)

形勢は右手が有利。しかし左手はただ一つの勝ち点も許さない。
中々いい試合を見ているのではないかと、軽い高揚感を覚える。

と、ここで勝負が動いた。
左手がじゃんけんに勝ち、その次のあっち向いてホイを制し、勝利した。

熾烈な戦いを制した両者……もとい両手に拍手喝采を送ろうとする。
そこで戦っていたのが自分の右手と左手であったことに気付き、数十分ほどうつ伏せになり、唸った。

ご案内:「医療棟601号室」に伊都波 凛霞さんが現れました。