2017/04/12 のログ
久藤 嵯督 > 少しだけ。

ほんの少しだけ、期待していたのかもしれない。

風紀委員を通して結果的に人々へ与え続けてきたものを、
もう一度自分自身が掴めるかもしれない。あの日に似た夕焼けに包まれたかもしれないと。
実際には違った。
どこに行っても、誰と話しても、まるで違う時間の流れの中で生きているかのようで。

全てが通過点でしかないならば、先に進むべきだ。
暗闇から暗闇へ飛び移るのを恐れられようか。

久藤 嵯督 > 点滴の針を引っこ抜くと、皮膚と血管に開いた穴はすぐさま塞がっていった。
予定ではあと三日の入院。しかし再生の為の血液は十分に造られた。

ここにはもう何もない。ならば、誰よりも前に進むのみ。
炎の果ての、乾いた大地へ。

ご案内:「委員会街医療棟402号室」に七海さんが現れました。
久藤 嵯督 > -
立ち上がり、青白い電流に身を包む。
それはけたたましいく鳴り響きながら、炎のように燃えさかる。
青い炎は風に誘われるかのように揺らめき、その道を示す。

進む道は暗闇だが、せめて自分自身が光であれるように。
進んだ先が凍てつく世界ならば、自らが熱となれるように。
どこまでも進んでいく。全てを振り切って、誰も辿りつけないような場所へ。

窓の外の、虚空を睨む。

七海 > 研修のために、委員会街の医療施設を訪れた日。
主に器具の使い方や治療に関することなど調べていたのだろう。

廊下を歩む足音は微かなもの。見舞いに訪れた子供のようにも見えるが、
床を擦る丈の不格好な白衣は仮装のようで滑稽だった。

施設内の案内図を眺めながら廊下を歩き
402号室の前でふと足を留める。

僅かに開いた扉の隙間から、意図せず部屋の中の様子が見える。
丁度、室内にいる人物の腕から、点滴の針が抜かれた前後のタイミング。

(……血が出てない。)

それから暫くの後、

「 …… 何か見えるのですか? 」

相手の背後からそっと掛けられる声。
この娘の目線は、同じく窓の外へと向いている。

久藤 嵯督 > 声のした方を振り返りそうになって、動きを止めた。
わずかに覗いた横顔はニヒルに笑い、それでいて寂しさを感じさせられる。

医者か、看護師か、あるいは僅かな見舞いの者か。
何にせよ、よりにもよってこのタイミングで来るとは何とも皮肉なものだ。

もうここに用はない。
しかし、何か一言返してやろうと思えるようになったのは、きっと―――


「 ―― いいや、何も 」

それだけ言い残すと、男は窓に足を乗り出した。
今にも外へ飛び出んとするように。

七海 > (あ。)
垣間見えた表情といい、窓に踏み出した行動といい
今の時点で想像できることは、
目の前の人物が飛び降り自殺をしようとしているのでは、ということだった。

筋力増強タイツを履いていてよかったのだろうか。
目を見開いたと同時にふっと娘の体がベッドの付近へと飛び、腕を掴もうとするだろう。

漠然と凄そうな雰囲気のある人だ。空を飛べる可能性はある。
もしくは4階の高さから着地しても傷一つ付かないという可能性も。
その位ならば普通にやってのけるかもしれないが、そうでなかった場合は

(施設側の人に監督責任とか色々出て来るんだもの)

見てしまったからには、事情を確認できるまでは飛び降りさせるつもりは無かった。

久藤 嵯督 > (お…意外と速いんだな)

質量に見合わぬパワーが背後から踏み出した時、調子を取り戻した神経系が瞬時に反応する。
くるりと身体ごと振り返り、掴もうとしてきた手に、自分の手を差し出してみる。
が、それもすぐに引っ込めてしまった。

「あばよ!」

最後に見せたその顔は、いたずらに成功した子供のように笑っていた。

そして青い光の軌跡を残して、そこにはもう何もなくなった。



もはや何処を探しても、男の姿は見つからないことだろう。
その代わり枕の下から旅に出る由がシンプルに書かれた紙が出てきて、
どこか遠くでは、雷の鳴る音が聞こえたはずだ。

ご案内:「委員会街医療棟402号室」から久藤 嵯督さんが去りました。
七海 > 消えたのか、窓から去ったのか。
その日病室にいた患者らしき人は、跡形もなく消え去ってしまった。
最後に差し出された手は何のつもりだったのだろう。
久しぶりに受け止めきれない事が起き、呆気にとられ立ち尽くしていた。
病室を訪れた看護婦には、止められなかったことで注意を貰ったのかもしれない。

「 大丈夫かなぁ…。」

(……?)

今の時点で枕の下の手紙は発見する事はできなかったが、
帰り際にテレビボード端に投げ置かれた針金を見つけて拾い上げる。
治療器具の一部かと問えば、少なくとも病院側のものではないらしい。

去り際にその針金で雷の形を作り、施設の看護婦に手渡し、娘はその場を後にした。
枕の下に隠された紙については、後ほど部屋が清掃される時に、担当者が発見するのだろう。
学園への届け出など細々とした事は、施設側がしてくれたようだ。
もしも紙に友人への宛名などあれば、そちらへも届けられたのかもしれない。

本人が作ったものよりは遥かに拙いだろう針金細工が
手紙と一緒にどこかへ届けられたのかは分からないけれど。

ご案内:「委員会街医療棟402号室」から七海さんが去りました。