2015/08/11 のログ
ご案内:「学生通り」に渡辺慧さんが現れました。
渡辺慧 > (暑い)

日が高い。
普段、湯につかる温度と比べれば、さほどでもないという気温なのに。
こうも暑く感じる人体の構造というものはひどく脆弱だ。

だというのに、この学生通りには、多くの人でにぎわっている。

その日差しから逃れるかのように。――どちらかというと人込みから逃れる様に。

雑踏を避け、立ち並ぶビルの陰、路地へ入り込んだ。

渡辺慧 > 同じようなことを考えた人達だろうか。
影に数人。ビルの陰になるように、そっと休む人達。

同じように、ビルの壁へ、身体をもたれこむように預けた。

右手には、先程かったばかりの、ソフトクリーム。

――暑い。

人込みを横目で眺めると、夏季休暇。盆。そして、この暑さ。
だというのに――。
実家に帰ったりはしないのだろうか、等という疑問は、少しばかり浮かばなくもないが。
自分とて、人のことは言えないし。
此処は、そういう場所ではないのかもしれない、と。

此処での生活様式を思い浮かべながら一つ納得する。

額を流れる汗を拭って、一つ。その手にもつ、それを舐めた。

渡辺慧 > 暑い。
陽炎のように揺らぐ、コンクリートの上の何か。
その上を歩く人たちは常に変化している。

暑さからか。それとも元からか。益体もない考えを浮かべて。

先程より涼しくなったとはいえ――。

自分の身の周りでも。もしくは、自分の知らないそれでも。
常に変化がある。

ぼんやりと、ソフトクリームの甘味に思考を溶かしながら。
益体もなく。
――少しだけ。
置き去りにされるような。

そんな感覚を持ってしまった。

事実。
此処で休んでいる自分を置いて。
少しずつ――同じように日陰で休んでいたはずの人達も、少しずつ。
その姿を消している。
そしてまた、誰か現れ、消えて。

ご案内:「学生通り」に春日 真央さんが現れました。
春日 真央 > 「あっつー……」
片手に大きなビニール袋を3つ持ち、反対の肩から小さなバッグを提げて歩く少女。
言葉とともに犬のように舌を出してみたけれど、ちっとも涼しくならずに引っ込める。
日差しの照りつけるコンクリートの上を歩いていたが、じりじりと焼かれることに限界を感じて、道から外れていく。

「……あ゛」
参ったと言いたげに眉が寄り、きょろきょろと首を振ると、人目を避けてビルの影へ入り込んだ。
存外に居る先客。
さてどうしたものかと人を見るのだけれど、涼し気なソフトクリームに目が止まり、つい凝視する。

渡辺慧 > ――変化はしているはず。
いや、確かに、その自覚をしたはず。

明らかに変わった。
置き去りに、される感覚を覚えてしまうのが、その証拠ともいえる。

――だけれど、それは。
正しいのだろうか。

ぼんやりと、そんな思考をしていたからか。

ふと気づけば。なにやら――見つめられている視線。

「……んー?」
ぼんやりとした声を残し乍ら、首を傾げ。
ぼんやりと。のんびりと、その視線の先へ、視線を動かした。

春日 真央 > ゆうるりと動かされた視線が、自らのものと重なる。
不躾に見つめていたことに気づき、誤魔化すよう、目をそらし、頭を掻いてみようとすると、肩からバッグの紐が外れて腕を滑った。
「っと、っと…!」
滑り落ちていくバッグを慌てて反対の手が追おうとするも、手はビニール袋で塞がっていて、ぶうんと袋を振り回した形になり。
無駄に足に当たっただけで、結局バッグは地面に着いた。
「あー……」

見ていたことを誤魔化そうとして、結局目の前でバタバタとしただけで、何もうまくいっていないなあと。
思って、気まずげにへにゃと笑って、会釈した。
「ども……えっと……生徒、ですよね?」

渡辺慧 > その、妙な動作――いや、どことなく。意図が分からないわけではないが――。
おかしげな動作に、暫し、呆けた顔をした後。
思わず小さく笑った。

ビルの外壁に背を押し付けたまま、視線をしっかりと。
顔を向けて。

「うん。こんにちは」
「正真正銘、根っからの。勤勉で、真面目な。この常世学園の生徒ですよー?」

なんて。気まずげなそれを和らげる意図があったか、どうか。
それは分からない所だが。楽しげに、適当に。
そう自らを呼称した。

春日 真央 > 渇いた笑いが自分で漏れていた。
傍目に、明らかに珍妙だろうと自分で思っていたから。
かけた言葉も、なんと言ったか迷った末に唐突なことであったと思うし。

軽い響きで返してくれる言葉に、瞬きして、一瞬不思議そうに目を見開いて見つめ。
「あ、良かった。あたしも、生徒です」
この島で遭う同年代なら、だいたいそうだろうと、唯一の共通点と感じた柔らかさにほっとして。
「勤勉だと、夏休み中は、困りますね?」
授業がなくてと続けながら、のろのろとしゃがみこむ。
地面に着いたバッグを、一度片手の荷物を置いてから拾おうと。

渡辺慧 > そうねぇ。

なんて呟きながら。背を、よ、と軽い声を上げながら離した。

その、荷物をおかんとする動作の前に、のんびりと近づき。
バッグを拾い上げる。

「とはいっても。勤勉は勤勉でも、社会から見ればどうやら不真面目にとられるようでね」

不思議そうな、その表情に、もう一度楽しげに笑って。
あいもかわらず適当な言葉を紡ぎながら。

「そっちも、何か大変そうね」
そう言って、その抱えた荷物に視線を送りながら。
バッグを差し出した。

春日 真央 > 近づく気配を感じて、一瞬身体が緊張して力がこもる。
腕に絡まるバッグの紐が軽く引かれる感覚。
と、差し出されたのは自分のそれ。
あれっと繰り返し目を瞬き、見上げる。
「ありがとーございます」
拾ってくれたのだと思えば、力が抜け、紐を絡めたまま右手で受け取った。

しゃがみかけた足を、しゃがもうとしたのと同じ速度で伸ばし。
背を伸ばすけれどやはり視線の高さ的に見上げる姿勢になるのは変わらなくて。
「頑張っても、点数上がらないとか?」
不真面目と取られると、その評の理由を推測して、首を傾げ問う。
「今週のご飯、まとめ買いしすぎちゃって」
と、荷物の理由を答えてやはり困ったように笑いながら。

渡辺慧 > それを見届けると。
ふっと、一歩下がる。
――不躾なのは、拾ったからと言っても変わりはない。――

「ん」
満足そうに、口元を少しゆがめ、頷いた。

「学習の効率を上げようかと思って」
「ゆっくり自宅で寝てたら、講義が終わってた、とか」

――そう。ここまで聞けば、理解できるだろう。
ただの冗談であり、そして、社会の言う、不真面目、という言葉の方が正しくある、ということを。

それを実に楽しそうに言っている自分は、実に。
勤勉そのものだろう、なんて冗談でしかない思考をしながら。

「あら。家庭的」
困った笑いとは対照的に、楽しそうに笑いながら。

「その、お買い物の休憩、って感じかな?」

春日 真央 > 離れる。その距離の変化に瞬きが増える。
少年の動きを、意外と気にしているようで。
緊張しているのかもしれない。

けれど、続いた台詞の意味を理解しようと、眉根がむつかしく寄り。
意味を理解すると、つい吹き出して、苦笑のよう、眉を寄せたまま笑って。
「保健室で寝ればいいのに。講義の合間に。寝心地、いいですよ?」
サボりを咎めることもなく、常習犯の入れ知恵を、声を潜めもせず。
意外とドジですかなどと、合わせた風でもなく笑って言う。
昼寝を愛する少女は、なんとなく親近感を覚えて。

「煮るだけとか焼くだけしかできないですけどね。節約しようと思って」
ゆるく首を振り、家庭的を軽く否定し。
「あんまり暑いから、直射日光来ないところでちょっと休んでから帰ろうかなと思って」
そして、ふと思い出したように視線が少年の手に。
「そしたら、美味しそうなものが見えたんで、つい」
と、出会い頭の不躾な視線の意味を、漸く告げた。

渡辺慧 > その瞬きに、不思議そうに小首を傾げた。
機微に疎い、と自称している自分だけあって、その瞬きの意味を理解するには。
少しばかり難しかった。
だけれども、いや、だからこそとでも言うべきか。
自分はいつも通りに、それこそ、猫のように、とでも言うべきか。
シシシ、と笑う。

へぇ、と感心して呟いた後。
「今度やってみる。…………君、結構やってるな?」
その苦笑に、楽しげに。
なにか、悪事を――と言っても、それは、いたずら小僧のソレ――たくらむかのような声音で。

「それでもじゅーぶんでしょー」
その否定を、更に否定。

「俺なんて、外食しかしてないもんね」
そして如何に自分の、そのなさを。
なぜか得意げに嘯いた。

そして続く言葉に。
「…………これ?」
もう一度。
小首をかしげると。
それの視線の先であったソレを、見つめて。

「食べる?」
何の気兼ねなく。
何の疑問を持つでもなく。そう、普通に尋ねた。

春日 真央 > 「チェシャ」
感じた感想が、ぼそりと口から漏れた。
先ほどから感じていた不思議な雰囲気をなんと呼称したものか、すとんと腑に落ちて。
ほっとしたように、くすりと笑う。

「あたし、能力使うと眠くなるんで」
常習犯を理由つきで真顔で肯定し。
「使わなくても眠いですけど」
理由をすぐさま放り捨てる。やはり、真顔で。
そのすぐ後に、唇に指を当てて、おかしげに肩を震わせる。
眠そうに閉じがちな瞼を、涙を拭うよう指でなぞって、笑いを表して見せる。

「自分で作ったものって、美味しくないですよ。でも、お金貯めたくて」
胸を張るような、彼の主張に、やはり笑ってしまう。
「あたし、笑い袋になった気がしてます」
なぜか、この少年の冗談めかした言葉におかしくなってしまうことを、そんな風に訴えた。

続いて、あまりにも普通に尋ねられるそのことに、一瞬固まり。
寄り目になって、しばし考え込んだ後。
「一口もらっていいですか?」
きっと暑いからだなあと考えながら、肯定の返事を問の形で向けて。

渡辺慧 > 「……?」

笑いの、その形のままだが。不意に飛び出したその台詞に。
首を傾げた。誰に向けられたものだろうか。
――いや、この場で言うならば、自分か、彼女自身。
考えても、あまり。答えが出せず――。
まぁ、いいか、とばかりに。

「眠り姫とでも呼んでほしいのかいな」
呆れと――いや、自分は人のことを言えないのだから、あきれとはまた違うのかもしれない。――
笑みと、からかいと。

「…………公園とか、時計塔で寝るのも結構気持ちいいよ」
そう言って、自らの巣を言うかのように。
やはり、人のことは言えない。そして、むしろ。
彼女の言うそれより、呆れられる内容なのかもしれないと。
頭の片隅で思い乍ら。

「そりゃ結構」
「俺は、一緒にしゃべってる人が笑ってる方が好きだからね」
――その方が、自分の気分もいいから。
なんて、ひどく自分勝手なことを言っている自覚がありながらも。
それは、事実だから。しょうがない、そうやってまた笑う。

「どーぞ」
普通の問いかけの後には、普通にそう答え。
そっと、右手に持ったそれを差し出した。

春日 真央 > 「なんだか不思議な人だなあって思ってます」
目の前の彼への感想を、本人へと、そんな一言で告げてしまう。
「だから、眠り姫なんて呼んだら、チェシャ猫って呼びますよ?」
軽い口調で報復を宣言し、続いた言葉に笑いながら。
「眠り姫は、……ええと……そっちの方じゃないですか」
名指ししてやろうとして、まだ名乗ってもいなかったことに気づく。
「……あたしは、ハルヒといいます。1年のハルヒ マオです」
よろしくと、今更ながらに名乗って、軽く会釈する。

「なんででしょーね。別に、漫才とかしてるわけじゃないのに」
本当に不思議だと感じながら、やはり、台詞の端々につい笑みがこぼれてしまう。
「……なんか、すごくたらしなこと言いませんでしたか、今」
言葉を聞いてからやや遅れて、人が笑っているのが好きだと言うその言葉をたらしと認定して。
非難がましい口調で、けれど笑ってたらしと評価する。

「いただきます」
ソフトクリームに顔を近づけ、舌を出しかけるけれど、少し考えて引っ込め。
噛むように一口いただき。
「天国が見えた……」
甘さと冷たさに、幸せそうに瞼を下げる。

渡辺慧 > 「……………」

その言葉を。暫しながら自分の中で吟味して。
噛み砕いて。飲み込んで。理解して。

「……あれ」
「これ褒められてるの?」

確かに。猫と呼ばれることはある。
あるし――。それは、いいとして。
チェシャ、というと。どうにも胡散臭い、何かを。
それとも、自分は胡散臭かったのだろうか――。

うぅん、と唸り乍ら。唸りながらも、やはり。
それは、遠慮しとく、とばかりに笑いなおして。

「オーライ。マオね」
馴れ馴れしくも、いつも通りに。
「ワタナベ ケイ。2年だよー」

よろしく、と。ソフトクリームを持たない手で、ひらりひらり。
片手を揺らした。

そして。
やはり。またしても憮然げになって。

「…………」
「なんででしょーね。別に、そんなつもりの言ったわけじゃないのに」

と、彼女が言った言葉を、真似乍ら。
その非難に、非難がましく。
だからこちらも、笑ってそう返す。

天国が見えたらまずいのではないか、と無粋なことを言うつもりはないが。
「帰って来れるなら、十分天国を味わいな」

その、なんだか。
ひどく、率直なのに、ありきたりで。だけれど、おかしげな。
そのセリフに。少しばかりの苦笑を漏らした。

春日 真央 > 「褒めてますよ?」
間髪入れず、目を丸くして、何度か頷きながら褒め言葉だと繰り返す。
気だるげで物憂げで、けれど軽妙――そんなとらえどころのない印象を、説明するのにこれ以上ぴったりな言葉はあるまいと、勝手に満足していた。
遠慮されても内心の印象を変えることは無理だろうと思ってしまって、唇と頬が笑いをこらえてぴくぴくと震える。

「ありゃ。同学年かと思ってました」
同年代に見えたから勝手に同学年と思っていたが、この学園では年齢と学年が揃わないことを今更ながらに思い出す。
「ワタナベ…先輩ですね」
呼称を迷う間があって、学年が上なら先輩でいいだろうと着地する。
「いいじゃないですか。人たらし。たらせないより」
魅力的ってことですよと、飽くまで軽い口調で笑いながら言って、肩を揺らす。

「天国、ごちそうさまでした」
一息つけたと、よいしょと声をかけてビニール袋を持ち直して。
「お礼に、そですね……栄養ドリンクのお世話になってもお疲れモードの時には声かけてもらえれば」
うんと、自分の言葉に真面目くさって頷き、あれと不思議そうにして、バッグの紐を握る。

渡辺慧 > うーん? と、褒められてると言われれば、首をかしげる。
チェシャ猫といえば、それはプラスイメージになるものだろうか。

――が、しかし。それは自分の言い分だ。
彼女が、そういうならば、恐らく。いや、きっと、褒められているのだ。
その笑いをこらえた、何かに、憮然げに笑いながら。
「……ありがとー」

と。

「…………………」
先輩、という呼称に、少しむず痒くなる。
恐らく、年齢的には、かわらない、いやむしろ――。
「……あれ、君、いく……」

つ、と聞こうとして。そういえば。
女性に年齢を聞くのはだめなんだったか……? 等という、空気を読めるのだか、読めないのだか。
場違いなのか、不躾なのか。――まぁ、どちらにしても。
一度止めた言葉を、もう一度吐き出す、というのもなんだか。

この目の前の彼女から感じる、眠たげなそれと。
見た目、からではなく。言動から、何となく感じる――。
まぁ、それこそ。

「人聞きが悪いでしょーに」
少なくとも、自分はそんなものにはなった覚えはないのだ。
そう言いながら肩を落とすも。楽しげな雰囲気は、いずれも、途絶えることはない。

ごちそうさま、と聞けば。
いえいえ、と返すのが道理。そう模範的な事をしながら、手元へそれを引き戻すと、自分も一口食べ。おいしそうに目を細めた。

「おきになさらずー」
といって手をひらひらとさせながらも。
不思議そうな動作に。不思議そうに小首を傾げ。

「…………おかわり?」
いる?

春日 真央 > 「どういたしまして」
不服気なものを感じる謝礼に、型通りの返礼を。
頭を下げたその下で、痙攣しそうな頬を解放して息とともに笑いの形にさせてから、顔を上げる。
若干、戻りきっていないけれど。

「はい?」
最後まで聞こえなかった問いを、首を傾げ問い返す。
けれどさして聞き出すことに執着した様子もなく。
「人聞き……いい言い方だと…………じゃあ、魅力的ってことで」
言い換えを検討して、結構長い間があったのだけれど、結局思いつかず。
投げやりにも聞こえるように、先ほどと同じ一言で片付けてしまおうと。
真面目くさった表情をして、それだけで乗り切るつもりで。

離れていくソフトクリーム。
そろそろ溶けないか心配になってきて、動きにつれて目が追ってしまって。
おっとと目を離し。
「一回お試し券みたいなものなんで、気が向いたら使ってください」
お気になさらずと、なぞってこちらも返す。

不思議そうな仕草、その理由をやや考えて、手が紐を握って力がこもっていたことに気づき、ほどいて。
「……営業してたこと、自分でびっくりしちゃって」
自分で不思議だったのだと説明する。
「体力チャージ、アルバイトみたいなもんなんで、はい」
と、先ほどの栄養ドリンクのあたりをあやふやに説明し。

「いえ、お陰様で再び歩き出す気力がわいたから、これ以上奪わない内に寮に戻ろうかなって」
とても魅惑的なお誘いだけれど、さすがにこれ以上は辞退して、ありがとうございますと頭を下げる。

渡辺慧 > やっぱり人聞き悪い言葉なんじゃないか。
やっぱり憮然げに、呟く。
検討する、ということは、彼女自身もそれをわかっているという事だろう。だけれども。
それを考えてる動作。その長い間。
そして、それを投げやりに、そして、ひどく短絡的に聞こえるその言葉に。

クック、と喉の奥を鳴らした。
それは、実に可笑しかったのだ。だから、もう一度。
「ありがと」

「……むしろ、なんか俺がお礼を上げなきゃいけない気もしてるけど」
気が向いたら、という言葉にそうつぶやくが。
もし、彼女の気がそれで済むというならば。それを受け入れてもいいのだろう。
――まぁ、もし。その機会があれば、何かしらの返しを考えておいてもいいのだろう。それが、自己満足で。――

「ふぅん……」
よくわからない、といった調子。
だけれど、初め、ここに来た時に考えていたことは、霧散した。
そういう意味では既に、元気をもらったと言えるのかもしれない。
ならば、彼女が言うことも真実なのかもしれない。
まるで関連性はないが、そうとらえたほうが――。

「天国が欲しくなったらまた言ってくれよな」
「その時は――もしかしたら蜃気楼にかわってるのかもしれないけど」

溶けそうになるアイスを見て、おかしげに嘯くと。

「またね」
そう言って、ひらり、と片手を振った。

春日 真央 > 「はい?」
今度は何の謝礼かわからず、覚えず、間の抜けた声が漏れた。
「あたし、お礼をもらうようなことは何もしてないんですけど……」
困惑に眉間が寄るけれど、すぐにへにゃっと解かれて。
やはり不思議と言う感想を抱きながらも、つられたよう笑って。

「怪我治すのとか、疲れた人に体力注入するの、アルバイトみたいにしてるんです。
 あたしの能力、そっち系なんで。
 部活動……ですね、ここだと。一応」
様子に、そう言えば説明を何もしていなかったことを、また、今更ながら気づく。
若干、動悸が早くなるのを感じて、トントンと左胸を叩く。
「その宣伝ていうか、営業っぽいこと、したの初めてだなって」
気がついたらちょっとどきどきしていると、情けなく小声で告げた。
伝わったかなと、ちらと表情を見上げてみる。

「……アイスの人って、覚えることにします」
また言えと、言ってくれることに。
そんなにいつも食べているのだろうかと、おかしくなって、今日何度目かわからず吹き出してしまって。

「熱中症、気をつけてくださいね」
それじゃと頭を下げると、荷物を力を込めて少し持ち上げ、照りつける道に戻るため踵を返す。
ビニール袋の方に傾いて、何度か振り返りつつ、歩いて行く。