2015/09/10 のログ
ご案内:「学生通り」に日下部 理沙さんが現れました。
日下部 理沙 > 夕刻過ぎ。学生通りの隅にあるバス停留所。
黄昏時のそのバス停留所で、新入生、日下部理沙はただ途方に暮れていた。
ベンチに前傾姿勢で腰掛けて、自らの両膝に両肘を乗せたまま、ぐったりと項垂れていた。
背中の翼も首と同じく、力なく垂れ下がり、ベンチの背凭れに寄りかかっている。
視線はただうつろに地面のアスファルトに注がれ、茶髪も重力に任せるまましな垂れている。
 
日下部理沙は、迂闊にも路線バスの最終便を乗り過ごしたのである。

日下部 理沙 > 時刻表を確認したまではよかった。
当然運賃も確認したし、停留所の場所も確認した。
途中、道に迷って大幅に到着は送れたが、それでも見ての通り何とか停留所には辿り付けた。
そこまではよかった。
だが、理沙は知らなかった。
平日と休日で派手にバスの運行ダイヤが異なることを。
結果、ここで最終便も乗り過ごし、力なく項垂れるほかなくなったわけである。

日下部 理沙 > 「……どうやって帰ろう」
 
新入生、日下部理沙は常世島の地理には全く明るくない。
そのため、近所でも普段はもっぱら公共交通機関を使って島内を移動している。
お陰様で徒歩での移動となると理沙は未だにこれっぽっちも道を覚えていなかった。
 
即ち……新入生、日下部理沙は今まさに迷子であった。

日下部 理沙 > 一先ず、いつまでも此処にとどまっているわけにもいかない。
どうにかして帰宅するための手段を模索せねば。
そのためには、まずは状況確認である。
理沙は自らの額に手を当てて、現状を分析することにした。
携帯端末。無し。
資金。心許なし。
地の利。無し。
人材。まず知人がほぼ居らず。
状況……絶望的。
近場に委員会の詰め所でもないだろうかと思うが、さっき通った限り見覚えはない。
最寄駅も自分一人では皆目見当もつかない。
この状況、どうしてくれようか。

日下部 理沙 > 都合よく通行人でもいれば道を聞くところなのだが、今のところ残念ながら見当たらない。
当たり前だ、最終を過ぎたバスの停留所になど誰がくるというのか。
せめて人通りの多い場所に移動しなければ。
では人通りの多い場所とはどこか?
そんなもの、迷子の理沙に分かろうはずもなかった。

日下部 理沙 > それでも、此処にいて事態の解決が望めない以上、動くしかない。
行動あるのみである。
災害にあったわけでもないのに帰宅難民と化した理沙は、とりあえずアテもなく歩き出す。
適当に進んで大きな道に出たらあとはまぁ多分何とかなるだろう。
道路標識とかみながらどうにか恐らくできると思われる。
そんな淡い希望をもって、背中の翼を一度広げて伸びをしてから、第一歩を踏み出した。
とりあえず、目指すはなんか、大きな道路である。

日下部 理沙 >  
 
数十分後。
 
 

日下部 理沙 > 新入生、日下部理沙は二重遭難という単語を思い浮かべていた。
意味が全く違う事は分かっていたが、それでもそう思わざるを得なかった。
理沙は入り組んだ路地の小さな公園で、ぐったりと項垂れていた。
最初、バスの停留所のベンチでそうした時と同じように、それはもうぐったりと、力なく項垂れていた。

日下部 理沙 > 大きな道路に出たまではよかった。
だがその道路は何を間違えたのか産業道路であり、車は通るが通行人など通るわけもない殺風景なそれであった。
そんな道を数十分延々と歩いたのち、ついちょっと違う道を探そうと路地を曲がった。
結果、元帰る道すらわからなくなった理沙は延々と迷いに迷った。
そして、今は学生通りの一本裏の入り組んだ路地の公園で途方にくれていた。
常世学園校舎まで延々と続く表通りを歩くのも手だが、徒歩ではどれだけ時間がかかるかわからない。
だいたい、この時間に校舎に行っても多分校門は締まっている。
本当にどうしてくれようか。

日下部 理沙 > 気付けば日もとっぷりとくれてしまった。
何処からともなく、お店が閉まる時に流れる例のBGMが聞こえてくる。
もう店仕舞いだからさっさと出ていけといった感じで流れてくる例のアレである。
発生源をみてみれば、公園に備え付けれた小さなスピーカーからであった。
どうやら、ここからも出て行けと言われているらしい。
出ていこうにも帰り道がわからない理沙としては、若干困った顔でスピーカーを睨みつけるほかなかった。
無論、それで何か反応が返ってくるはずもない。
ただ、スピーカーは理沙などお構いなしにBGMを垂れ流すだけである。

日下部 理沙 > 理沙はこの曲が嫌いだった。
故郷の大きな公園でも流れる、その曲が嫌いだった。
帰れとただ無責任に促すその曲が、ただただ嫌いだった。
帰る先の有無など関係なく、そう突き放されるような気がして、嫌いだった。

日下部 理沙 > 誘蛾灯の無機質な明かりに照らされながら、ただそれを思い出して、理沙は頭を振る。
今はどうでもいいことだ。
何を思い出す必要もない。
ただ、自分にそう言い聞かせて、理沙は翼で顔を覆い、両手で耳をふさぐ。
蛍もいなければ、夕日もすっかり沈んだ公園で、ただ、理沙はそうしていた。

ご案内:「学生通り」から日下部 理沙さんが去りました。