2015/12/09 のログ
ご案内:「学生通り」に十口 風さんが現れました。
十口 風 > その少年はぼんやりと、炉端の座れそうなところに腰をかけて空を見ている。
傍らにはスポーツドリンクの2リットル。スーパーで買い込んだだろうバナナ。
首からボロボロに黄ばんだタオルを下げて、木枯らしの時期だというのにしきりに汗を拭いている。
どうやらトレーニング帰りであるらしいその顔は、あまり晴れやかではなかった。

十口 風 > 「また……冬が来るのか。」

彼はこの季節に気が気でないことが1つ、2つあった。
数え方を正しくするなら1人、2人……。になるだろうか。

汗を拭き終わり腰を上げると、ビニール袋を持った手をズボンにねじ込んで歩き出した。
旧市街の人通りの少ない方へ何かを決心したような目で。

十口 風 > このあたりも治安がいいとはあまり言えないが、
昔からある店や民家もあり、庭先では四季の樹や花が見られたりもする。

彼はこの通りが好きだった。
少し下水の泥の臭いと、夕餉の支度の匂いが交じり合うノスタルジックな道。

秘密基地を持てぬだけの年齢に育った彼にとっての、
それに値する風景といったところだろう。

十口 風 > 重い足取りの先に辿りついたのは、のれんを内側に下げた古臭い中華屋だった。
電飾看板は家屋と家屋の隙間にねじ込まれて役目を果たしていない。

「………。」

じ、とその外観を眺める。店の中は暗く、誰もいない。
ため息をひとつついて、少年は元来た道へ引き返そうと踵を返した。

十口 風 > 「俺は……どこまで無責任な男なんだ……っ、なんのための正義か……」

これでは、わからない。と路地を踏みしめる足に向かって声を落とす。
少年はあらゆる大人の事情の前に無力だった。
努力ではどうにもならない事柄を、毎日少しずつ学ぶ事で新しい靴を手に入れる。

ただ、彼の心に轟々と燃えるものが ならば裸足でいい と叫んでいるのだった。

十口 風 > 賑やかな学生通りに戻ってきた彼は、通りを見渡した。
知らない顔ばかりだ、と思った。

友人らしい友人も、仰ぎ見る恩師もいない彼にとって
現状の問題を解決する術はあまりに皆無である。

本日の晩飯のアテを外した彼は、
先ほどバナナを購入した学生街のスーパーへ向かって歩いて行った。

十口 風 > 醤油ラーメン。味噌ラーメン。塩ラーメン。五目ラーメン。とんこつラーメン。
魚粉つけ麺。担々麺。油そば。麻婆春雨。

といったレトルト食品をがこがことカゴに入れていく。
入り口付近に一旦戻り、野菜売り場を冷やかすように眺めて、何もカゴに入れずレジへ。

レジに映しだされた金額に目を通すことなく、財布から一番大きい札を出して渡す。
その額面をぼんやりと見ながら彼は、彼の家のことを考えた。

十口 風 > 首を横に振る――ことはなくとも、心境としてはそうだ。
断固、ダメだ。そんなことは許されることではない。

家に頼れば、現状思い悩んでいる事はどうにかなるのかもしれない。
いいや、なるだろう、おそらく。
問題はごくシンプルなことであるはずなのだ。

悩み、苦しみ、というものは誰かの手によって救われるものではない。
自らの行為によって昇華されねば――。

十口 風 > ――夕暮れ。
見事な夕暮れではない、日常の一幕。
彼の17年の生の中でも本日はなんら劇的ではない1日。

悩みを抱えたまま、少年はスーパーのビニール袋を手に、
男子寮のある方へと歩いて行った。

ご案内:「学生通り」から十口 風さんが去りました。