2016/06/22 のログ
ご案内:「学生通り」に蘆 迅鯨さんが現れました。
蘆 迅鯨 > 夕刻。放課後の学生通り、その一角。
この日、迅鯨は待ち合わせのため、ある人物を携帯端末のメールで呼び出していた。
街灯の傍で端末に目を遣りつつ、時折周囲を行き交う生徒らの様子も眺めながら、じっと相手の到着を待つ。

――しばらくして、彼女は現れた。
顔の左側でまとめた長いポニーテールを揺らし、
両手には大きな黒いキャンバスバッグを抱え、ゆっくりと近づいてくる。

「……早ェよ。まだ十分前だ」

彼女の姿が視界に入るや否や、迅鯨はいつものように、軽い調子でそうぼやく。

蘆 迅鯨 > 「迅鯨さン……あナタの方かラ、私を呼んでくれるなんテ。……うレシイ。うレシイワ」

そう。迅鯨が待ち合わせていたその人物こそ――剣埼麻耶である。
商店街のショッピングモールで再会を果たしてから、寮内の自室にまでわざわざ訪ねてきた剣埼であれば、
放っておいてもいずれは迅鯨の前に現れるだろう。
しかし、迅鯨は彼女のことについて、ただ待つことをよしとしなかった。
迅鯨が剣埼を呼び出した目的はただ一つ。
ショッピングモールで再会を果たした彼女の「迅鯨を恨んでなどいない」という言葉を疑い、
拒絶する態度をとってしまったことを、まず謝りたかった。
そして、剣埼が本当に望むことを知りたかったのだ。

蘆 迅鯨 > 「あのさ、剣埼」

迅鯨が言いかけると、剣埼は顔を覗き込むようにして迅鯨を見つめる。

「何かしラ?」

そう尋ねる剣埼の顔は、かすかに口角が上がっているのが窺えた。

「すまねェ。俺……あの時、お前の言ってることが、信じられなくて……俺が悪くないとか、あれは不幸な事故だとか、そんな風にお前が言ってたのを聞いて。俺……お前が無理してんじゃねェかって、思ってた」

俯き加減になりつつそう言い終えた迅鯨は、視線だけを剣埼の方に向ける。
そして迅鯨の言葉を聞き終えた剣埼が、ゆったりと優しい笑顔を浮かべた。

「……何ダ、そんな事だったノ」

蘆 迅鯨 > 「いいノ。信じられなくてモ、よかったノ。迅鯨さン、たぶン、私が傷つかないようにっテ、おモッテくれてたのよネ。だから距離をおコウとしてくれてたんでショ?」

「どうして、そんな事……俺はあの時、そんな事までは……」

剣埼の前では、はっきりと心の中で声に出していないはずの迅鯨の感情。
それを見透かされたような剣埼の言葉を受け、迅鯨がどこか言葉に詰まったのを察すると、
剣埼はキャンバスバッグを肩にかけ、その白く細い両腕で迅鯨を思い切り抱き締める。さながら聖母のように――。

「……わかるワ。心の声を届けてくれなくてモ、そのくらいなら。私にだっテ、わかるノ。……おトモダチだもノ」