2016/10/10 のログ
ご案内:「学生通り」に化野千尋さんが現れました。
化野千尋 > 「ええ、切ってしまってください。
 短くなってしまっても、大丈夫なので。整えてもらえたり、しますか。」

化野千尋は、学生にそこそこ人気で、かなり安価だと評判の美容室に来ていた。
美容室によくある、上下する椅子に座って小さく微笑む。
不思議そうに、美容室のおばちゃんが化野に声を掛ける。

『これを綺麗に、って言われると、中々切っちゃうことになるけどいいの?
 ……失恋でもした? 女の子は、失恋するとそれだけでまた綺麗になるのよ。』

そんな言葉には、申し訳無さそうな笑顔と否定の言葉。
そんなことはなくって、ただ単に心機一転ですよう、と。

化野千尋 > ざくり、と黒髪に鋏を入れる音。
元来量の多い黒髪が、はらはらと清潔な床の上に落ちる。

『このくらいだと、丁度肩のあたりで結べるくらいになるわよ。
 どう? もう少し切っておく?』

「そうですねえ。……思い切り、切って頂けますか。
 きっと放っておいてもすぐに伸びるでしょうし、あまり手入れに気を使わなくてもいいので。
 このくらいまで切ってしまっても大丈夫ですよね?」

化野は、目の前に置かれていたファッション誌の表紙を指差す。
表紙では、化粧に服装にと彩りを重ねたボブヘアーの女性が、悪戯に笑っていた。

『きっとあなたの髪質だと跳ねちゃうかもしれないけど……。
 こういう冒険した髪型ができるのは若いうちよねえ。
 じゃあ、ここから7センチくらいまで切るわよ? いい?』

小さく頷く。足元の、やや短いスカートの裾が当たってこそばゆい。

化野千尋 > しゃきしゃきしゃき、と、小気味よく髪を梳く音。
この道何十年のベテランの腕は、疑う必要はまったくもってなさそうである。
暫く無言で、化野の髪に鋏を入れていたが、ふとおばちゃんが口を開いた。

『ね、もしおばちゃんでよかったらさ。なにがあったのか、教えてくれる?
 ここの学園の生徒にね、結構いるのよ。悩んで、髪を切りにくる子って。
 女の子が多いんだけどね、長かった子がバッサリ切っちゃったとか。
 だから、もし悩んでるとかなら、おばちゃんにちょっとだけ教えてくれない?
 先生には言わないでおくからさ。』

その言葉に、わかりやすく目を丸くした。
なぜわかるのか、なぜそんなに言われたかった言葉を簡単に言ってくれるのか、と。

「あ、はは。顔に出てましたかね。
 実は、願掛けの必要がなくなっちゃったんです。
 ずうっと、少し叶うたびに、自分で髪を切っていたのですが。
 もう、それも必要がなくなっちゃったので、貯金していた分を下ろそうかと。」

清潔な床に、またひと束、量の多い黒髪が落ちる。

化野千尋 > 『へええ。願掛け。……あんた、信じてそうな顔してるものね。』

興味ありげなおばちゃんの声に、苦笑いを浮かべる。
確かに、言われてみなくても地味で、決して派手な生徒ではない。
それこそ願掛けなんて、ちっぽけなおまじないのようなものだ。
今どき、そんなことを言い出すような生徒も少なかったのだろう。

「普通じゃなくなりますように、って、お願いしてたんです。
 叶ってしまったので、こうして髪を断ちに来たのですけれど。
 ……すみません、色恋みたいにおもしろいお話ができなくって。」

『いやいや、そんなことはないよ。
 学生の楽しみは色恋だけじゃないだろう? 勉強だって、友達だって同じじゃないか。
 で、あんたはどう普通じゃなくなったんだい?』

はらはらと舞い続ける黒い髪が、化野の鼻に寄った。
くしゅん、と小さなくしゃみ。おばちゃんが『動くんじゃないよ』と即座に言う。

化野千尋 > 「無理しないでいいよ、って、友達――だと、うちは思ってるんですけれど。
 友達に言われたんです。あんまり、無理しなくてもいいよ、って。
 うちらに合わせるの、大変じゃない? なんて言われてしまって。」

あはは、と思わず笑いが漏れる。
笑う化野とは対象的に、おばちゃんは少しも笑いやしなかった。
口を一文字に閉ざして、ただただ髪に鋏を入れる。断つ。落ちる。
化野の独白は続いた。

「だから、無理はせんようにしようと思ったんです。
 ……多少、馴染めるようにと思って気張りすぎていたのはありますし。
 無理せずに、したいようにしてみようと思って、ここに来たんですけどね。
 見た目だけだと、ずっと無理をしてるよに見えて我ながら笑えます。」

『何、友達と喧嘩したってこと?
 きっとその子たちも深いこと考えていったわけじゃないように思うけど。
 気を使ってた、とか、そういうことじゃない?』

手を止めて、おばちゃんが鏡の前の化野に向かい合った。
短くなった髪と、長い前髪が上手にアンバランスになっていた。

化野千尋 > 「そういうことやろな、とは、うちも思ってますけどね。
 普通にしてていいよ、って言われたので。なら普通にしようと思ったんです。
 ……きっと、うちのことを普通やない、て思ってる、んやろな、て。
 それって、もう叶ってますやんか、みたいな。」

化野の、無理のない自然なイントネーションに、おばちゃんは『あら!』と驚く。
当然、さっきまで何の変哲もない標準語を喋っていた姿を初めに見ていたのだから驚くのも無理はない。

『あんた、向こうの西の出身だったの?
 ぜんぜん気づかなかった。こっちには来て長いの?』

「いえ、全然長いわけじゃないんですよ。こないだ来たばかりで。
 ……こういうことなんです。
 普通でいようと思って、頑張って標準語も練習したのに普通に仲良く出来なくて。
 みんなと同じでいればいいのかと思ってたら、そうでもなくって。」

『でも、別に方言は関係ないんじゃない?』

「わかりません」、と、化野は困ったように眉を下げた。

化野千尋 > 「みんなとあだしのの違いは、出来るだけ潰しときたかったんです。
 同じになれば、目立つことも困ることも、ないじゃないですか。」

おばちゃんは、黙って鋏を動かす。
前髪に差し掛かるのを感じれば、化野は静かに瞼を下ろした。

「だから、普通にしようと思ったんです。
 ……でも、流石にこのスカートはやりすぎでしたね。
 似合う似合わないを考えてなかったです。こっちのほうが浮きますね。

 それに――、異能があるかもしれないんです。あだしのにも。」

おばちゃんは、『嬉しいことなのね、ならよかったわ』と相槌を打つ。
基本的に、異能が発現したかもしれない! 嫌だ! なんて言う生徒は少ないだろう。
「目、開けていいですか?」と問えば『どうぞ』、と。開けた視界に、赤い瞳が堂々と瞬く。

「だから、心機一転。普通の基準を、定めにきたんです。
 わかりやすいでしょう、髪の長さって。戻すのも、断つだけでいいので簡単ですし。」

化野千尋 > 『そう』、と、やや安心したようなおばちゃんの声。
目の前に置かれた雑誌のモデルと同じボブヘアーが、鏡の前で小さく揺れる。
雑誌に手を伸ばして、鏡と表紙を見比べる。おばちゃんの腕は一級品だった。
全く同じような髪型が、目の前に再現されている。

「これで、またいつも通りに戻れますっ。
 ……鋏の使い方、お上手なんですねえ。さすがその道三十ね――」

トス、と頭に軽いチョップが落ちる。『二十年』、とだけ短く。
そして、最後にと言わんばかりにおばちゃんも疑問を口にする。

『髪なんて切ったら、それこそ普通じゃないって言われるんじゃない?』

「いいええ、違います。
 女の子たちはいつだって、『髪切ったの? どうしたの?』……って。
 『普通』の会話を、髪型から導き出せる生き物なんですよ。」

なんでもないような世間話を繰り返しながら、化野の断髪式、もとい散髪が終わる。
1580円。学生のお財布に優しいお手頃価格。

「それじゃあ――どうも、おおきにありがとうございました。また来ます。」

いつも通り、普通に柔らかく微笑んで。
カランコロン、と鳴る古き良きベルの音。化野は、学生通りへと戻っていった。

ご案内:「学生通り」から化野千尋さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に化野千尋さんが現れました。
ご案内:「学生通り」から化野千尋さんが去りました。
ご案内:「学生通り」に斉藤遊馬さんが現れました。
斉藤遊馬 > あー。
(大口を開けて。)
んむ。
(齧りついた。)

(少年の右手の中、ハンバーガーからはケチャップが零れ落ちる。)
(んん、と口の中声を漏らし、視線で追った先。)
(追いつくよりも先に、べちゃり、と。小さな音が聞こえた。)
(地面に落ちていた赤い色を、靴底で擦って広げ消して。)
(道の端、花壇の淵に腰掛けている少年。顔を上げて、視線を戻した。)
(行き交う人の流れ、眺めて。)
(ハンバーガーを持つのと逆の手、もう一度スイッチを押した。)
(手の中に包んだカウンター、表示された数値は三桁と少し。)
……後一時間ちょっと、ってとこか。
(近くに建てられた時計をちらりと見て、昼過ぎの時間確認し、呟いた。)

斉藤遊馬 > (草を食む山羊の如く、咀嚼する。)
(不味いわけではない。ただ、意識が他に向いているというだけだ。)
(視線は固定されて、時々右左。)
(定期的にカチリ、カチリ。)
(時にテンポ外れてカチリ。)
下っ端ぁー……。
理由も知らずにカウントぉー…。
(己の境遇呟いて、へへへっ、と口元に微妙な笑い。)
(近くの店から聞こえてくるBGM、既に何周目だろうか。)
CD変えてくれないかな。無理だろうなぁ。
(頭の中に刷り込まれすぎて、時折親指がBGMのテンポに合わせてカウンターを押す。)
(あっ、やべ、と口にしてから、適当に帳尻合わせるように、押さない。)
(同じようなことが何回かあれば、次第に数に自信がなくなってくるのは仕方のないこと。)

斉藤遊馬 > (思春期男子の手元にあれば、ハンバーガーの寿命など長いはずもない。)
(少しだけ、周囲を気にするような様子を見せて。)
(視線がないことをざっくり確認すれば、包み紙の中に取り残されたケチャップを舐めた。)
ん。
(顔を上げれば、鼻の先に赤い色。どうやらケチャップがくっついたらしい。)
(包み紙を手の中でくしゃりと丸めてから、親指の腹で鼻の頭拭って、ぺろりと舐めた。)
こういうの、生活委員会に手伝ってもらえないもんかなぁ。
縦割り的なあれなんかな。
(丸めた包み紙、腰掛けたの己の隣に置いた紙袋に突っ込んで。)
(引き抜いた手、指先に摘まれたポテト。)
(口の前まで持っていって。)
(へにゃり、と折れた。完全に萎びている。)
冷めとるー……。
(口に放り込んだ。)

ご案内:「学生通り」にクロノさんが現れました。
クロノ > (秋の風が心地よい昼下がり。金属製の手元に提げた金属製のアタッシュケースと、どこかのお店の小さめな買い物袋が幾つか。ごくごく普通に買い物帰りなう、な状況なんだけど。)

 ……────。

(…なんだけど、この男の子が普通とちょっと違うのは、そのロボット感溢れたぎる風貌と、歩く度に足腰、全身の節々から「ジーガシャ、ジーガシャ、」と機械の動く音が鳴っていること。)

斉藤遊馬 > 萎びたのも味があると言えば味がある。……が。
暖かいうちに食べたかったよなぁ。
(左手はカチカチとカウンターを押し、右手は口の中にポテトを放り込む。)
(段々とポテトを食べている数を数えているような気になってきたところで。)
……えぁー。
(カウンターを押す指が止まった。)
(視線の先。ロボである。)
あの人……人……ロボ?
数えるべきなのか……?
(悩みつつも、指はカウントを再開した。)
(視線は人混みに戻しつつ、視界の端に姿を捉えたまま。)

クロノ > (…ジーガシャ、ジーガシャ、ジー、がしゃん。風紀委員さんの制服姿に、その前で立ち止まるロボ。)

… お務め、お疲れさま。

(通行人カウント中のお仕事を邪魔しないように、視界を遮らないように相手の真横あたりに立って手短に労いの挨拶を。そのまま少しだけ間を開けて、ロボも隣に腰を下ろしては道行く通行人を眺める。)

斉藤遊馬 > (機械の足音に合わせるように、カウンターは数を増して。)
(それが近づいてくるのを感じるが、別に憚られることをしているわけでもない。)
(ただ、右の手だけがポテトを摘むのをやめて。)
(そして緑色の機影が己の横に腰掛けたのと同時に、少年はカウントを、一つ、増した。)
ありがとうございます、えぇと。
……クロノ先生、でいいんでしたっけ。買い出しですか?
(視線は町並みに向けたまま、時にちらりと相手の姿を見る。)
(注意を二方向、様子を伺うようにすれば、手元、少し不確かに。)

クロノ > (隣の相手と並んで腰かけたロボ、手元のアタッシュケースと買い物袋は膝の上にちょこんと載せて、同じように道行く通行人を眺めつつ。)

 …ぁ、うん。どういたしまして。 …そうだね、ちょっとした小物を幾つか。 …あと、おやつ。

(…と、そう返事をしながら買い物袋から取り出すのは、小振りな紅茶のボトルとチーズケーキ。コンビニスイーツ、というアレだ。それらをごくごく普通な仕草で開封して、ちょっと嬉しそうにあーん、ぱく。もぐもぐ。見た目ロボだけど、挙動も仕草もスイーツ男子そのもの。)

 …お務めは順調?

(相手のお仕事を邪魔しないよう、視線は合わせず、会話は短め。カウント精度が低下しても大丈夫なように、ロボも通行人を眺めながら一応カウントをして、こっそりバックアップ。)