2016/11/04 のログ
ご案内:「学生通り」に斉藤遊馬さんが現れました。
斉藤遊馬 > 昼下がり、人通りの多い街路。
時折路面電車が音を立てて通り過ぎる。
靴底から伝わる振動と、遅れて吹き付ける風。
何かが少年の鼻先を擽った。
「っ、へくちっ、ぅえーい」
首を右下に振るようにして、くしゃみ一回。
鼻を啜って、溜息一度。
徐に己の背後を見た。
完全に破壊された一つの店舗。
入り口には黄色と黒から成る、keep outのテープ。

斉藤遊馬 > 恐らく元は飲食店だったのだろう、形を保った外枠の中。
丸テーブルや椅子が転がり、スツールが壁に突き刺さり、
カウンターらしき板が90度角度を変え、トイレ使用中のランプは付きっぱなしである。
それらの間で、風紀委員の生徒たちがしゃがみこみ、何かを調べている。
少年は入り口の見張り番のようだ。
とはいえ、学生街であれば珍しいものの、落第街まで行けば珍しいものでもない。
気にした様子で目を留めるものは居れど、人が集るほどではなかった。
時折肩を落とした様子で通り過ぎる人は、この店の常連だったのだろうか。
「……ご愁傷様」
店から通りへ視線を戻したと同時、また一人がっかりした様子の生徒が見えれば、少しだけ表情を緩めた。

斉藤遊馬 > 「しかし……」
酷い話だ、と独りごちる。
ポケットに手を突っ込んで、取り出した一枚の紙。
「痴情の縺れで店一件と二人ぼろぼろって」
紙面上、書かれた名前、被疑者一人と被害者二人。
よくある話、二股浮気、結果としては刃傷沙汰。
異能が被害を助長しているが、まぁ、異例の事態というわけでもない。
「いや、ある意味では被害者一人と被疑者二人……?」

斉藤遊馬 > 法と心情。情状酌量の余地。学生という年齢。
「うーん……」
紙を手の中で小さく折りながら、暫し考えて。
「ま、そういうの考えるの、しいて言えば公安の仕事だわな」
完成した折り紙鶴をポケットの中にしまい直して、少年は笑った。

『アホな事言ってるんじゃない』
後頭部に衝撃。思わずよろける。
「あいたぁ!つつつ……あ、終わりました?」
後頭部を押さえながら振り向けば、バインダーを持った男子生徒の姿。
少年の頭を叩いたそれで、自身の肩をとんとん、と叩いて。
『終わったよ。俺らは引き上げる』
「お疲れ様っす。ここどうします?」
話す隣、調査していた風紀委員たちがぞろぞろとはけていく。
事務所に戻るか、次の現場に向かうのだろう。
『交替で保存のできるやつが来る筈だから』
「それまで待機っすか。わかりました」
慣れた様子で右手を軽く上げた少年。
先輩らしき男子生徒は頷けば、少年の胸元を手の甲で軽く叩いてから、その場を去った。
後に残された少年は、先輩の姿が見えなくなれば、調査の終わったその場所を覗き込んで。
「……うわ。血痕ある」

斉藤遊馬 > がこんがこんと通り過ぎる路面電車。それを背にしたまま、現場を改めて検める。
記憶の中では被害者は二人だけだったはずである。
「えーと犯人の女子が獣化してでかくなって」
上を見上げた。抜け落ちた天上が見える。
「逃げようとした彼氏を掴んだところで浮気相手の女が電撃放って」
壁に所々残されている、焼け焦げた痕跡。
「握られたまま一緒に感電した男子が異能暴走させて周辺ズタズタだっけ」
鋭利な力場で断ち切られ、歪な月のような形になっている元丸テーブル。
「……これもう誰が加害者で被害者かわからんな」

ご案内:「学生通り」にギルバートさんが現れました。
ギルバート > 「あえて言えば男が加害者だろう。
 想いを躙らなければ、こんなことにはならなかったんだから。」

献花を済ませ、しゃがみ込んでは手を合わせる。風貌からは似つかわしく無いような、和の方式で。

すくりと立ち上がれば、遊馬の方を見やる。

「お疲れ様。相変わらず手早いことだ。」

同学年の二人は学業ではあまり言葉を交わしたことはない。
もっぱら接するのは、こういった現場でのことだ。
ただし今日は以前とは状況が違っていた。
ギルバートはもう、公安委員ではない。

「……一人は、うちの依頼主だったんだけどな。
 髪の長い、痩せぎすの子だった。
 『昔の彼に戻ってほしい』とのことだったが、"昔の彼"は本来の彼だったのか、それとも彼が本来の姿を現したから、こうなったのか……。」

事件性のないものや、危険性の薄いもの、例えば今回のように、浮気の相談のような。
そういった委員会が受けぬ依頼を受けるのが、特別対策部の、今のギルバートの役割であった。


「……後片付けをする、生活委員のことを思うと気が重くなるよ。」

斉藤遊馬 > テーブルの切断面が光を反射しているということは、
余程切れ味のある刃物で断ち切られたか、
あるいはその場所が”そういうもの”にされたかだ。
すれば結果として、周辺に居た女子二人も被害にあっていると見るべきだろう。
「獣化してたやつは再生できそうだけど、浮気相手の方はどうなんだろな……」
すっぱりやられたらくっつきやすい、という話もあるものの、
パーツが欠けていればどうしようもないだろう。
それでも直せる異能者も居るとは思われるけれど。
「……あー。先輩たちがずっと探してたのって」
斉藤は考えることをやめ

たところで。
「うわっ、ジャンプ漫画の死神みたいなのきた……と思ったらギルか」
隣から掛けられた声に、一瞬ビックリした様子の後。
見覚えのある姿に、ホッとした様子で笑った。
「そりゃうちの方が人数は多いしな。見回りしてた奴が、すぐに本署に通報……っと」
言葉を途中で止めた。
「そっか。もう公安じゃないんだっけか」
がりがりと後頭部を掻きながら、視線を一度そらして。
それから再度、相手へと目をやった。
「依頼主、って。結局今、何やってるんだ?探偵みたいなやつ、って話はどっかで聞いたけど」
首を右、左、と傾げながら問いかける。

ギルバート > 「探偵か。確かに、言われてみれば探偵業だな。
 ただ部活だ。部費も出るし手当もある。流石に合宿なんてないけれど、まあ……今後次第かな。
 なんとかやっているよ。名前もわからん上の上は、今度は俺に後方指揮をさせたいらしい。
 来年の今ごろは、スーパーパイロットでもさせられそうだ。」

冗談めかして鼻を鳴らす。
落とした視線の先には、凝りに凝った劇セットよりも複雑怪奇な現実世界。
わざわざ検分する程悪辣な趣味はしていないし、何よりそんな権限もない。
吐き出す吐息は、うすらに白く、空へと消える。

「……それで、一人居残りで探し物か?」

斉藤遊馬 > 「ははぁ。なるほど。詰まるところは便利屋とか何でも屋みたいなやつ」
相手の言葉に納得した、というように、腕を組んで。
「それならまぁ、依頼主に肩入れしても悪いことじゃないか」
うんうん、と数度頷いた。
「ロボット乗るのは良いけど、荒野でやってくれよ……街破壊するのは勘弁してくれ……」
うへぇ、とうんざりした表情をするのは、間近で破壊されたものの規模がでかくなるところを想像したくないからだろう。
忘れようとするように首を振ったところで、投げられた質問。
眉を上げてから、笑って。
「いや?交替人員が来るまでの居残りだよ。現場保存の能力者。多分見たことあるだろ」
こう、ぴしーって、と言いながら、建物の中を指差して線を描くように動かす。
空間隔離の異能者は、風紀委員でも重宝されている。

ギルバート > 「ああ、あの手品氏みたいな奴ね。
 馴れ馴れしくてあまり好きじゃなかったな……女の話が多すぎる。
 そのくせ会うたびに違う女に切り替えてるときた。
 女をスーツか何かと勘違いしてるよ、あれは。
 そして、そのうちこうなる。」

視線を外す。

 「……。」

再びため息。

 「……いや、不謹慎だな。忘れてくれ。」

そしてばつの悪そうに頭を掻いた。



「それじゃ、邪魔したね。
 風邪をひく前に帰れるよう、祈っておく。」

ご案内:「学生通り」からギルバートさんが去りました。
斉藤遊馬 > 「…………」
自身の同僚を評価する相手の言葉に、少年は固まって。
去っていく相手の背を見送りながら、緩々と手を振った。
それから一度、溜息を吐いて。
「ギル。あいつも女だ」
見えなくなった相手の背中へと告げた。
これ言ったほうが楽しいか言わないほうが楽しいかどっちだろう、と首を傾げている間にやってきた交代要員と入れ替わり、
少年もその場を去っていった。

ご案内:「学生通り」から斉藤遊馬さんが去りました。