2017/11/19 のログ
ご案内:「学生通り」にセシルさんが現れました。
■セシル > 「…よし、あの子は自分の名前も名乗れたし、大丈夫だろう」
常世祭。街の賑わいの質はいつもと違っており…また、催し物を見るためか、学園に縁のある人間が島外からやってきたりもしているらしい。
セシルは今日は学生街の警邏の担当で、ついさっき、家族とはぐれたらしい子どもを実行委員会の詰め所まで案内したところだった。
祭りの喧噪の中に異質な騒動や不穏な気配がないかを確認しながら、ゆっくりと歩き始める。
■セシル > 故郷では、幼い頃以降祭りにはあまり縁がなかった。
あれは基本的に「民衆」のもので、「良家の娘」には相応しくないとされていたのだ。
男の装いでお目こぼしされたのは、性別ごとの特徴が強くなり始める頃合いになる前の間だけだった。
歓楽街ほどのけばけばしさの無い学生通りの喧噪は、セシルにも心地いい。
この心地よさを守るために自分が働いているのだと思うと、充実感もあった。
■セシル > 『…!……!』
と、そんな折、セシルの耳が諍いの気配を捉える。
距離があるので、まだ何が起こっているのかは分からないが…
「どうした!」
張った声で喧噪を割って、諍いの気配がした方へ向かう。
■セシル > 『てめえが悪いっつってんだろうが!』
『ぁあっ!?』
向かった方向では、やんちゃそうな青年2人が言い合いをしている。
周辺の人々がやや遠巻きにしていたのもあって、セシルが彼らに近づくのにさほど労力は要しなかった。
「学生通りの往来で、随分剣呑な言い合いだな」
『『ぁあっ!?』』
セシルが彼らの傍に歩み寄って声を張ると、彼らは凄みの声をハモらせてセシルの方を見て…風紀委員の制服に、やや面食らった顔をする。
「諍いの気配を感じて来てみたが、随分周囲の人々を威圧していたようなのでな。声をかけさせてもらった。
経緯を聞かせてもらえないだろうか?」
青年2人の背丈はセシルとさほど変わらず、2人とも、細身なセシルと比べて筋肉が乗っているのが幾分分かりやすい体格をしている。
それでも、セシルは淡々と対応する。その平静さがある種の凄みとなりうることを、経験上知っているからだ。
■セシル > 『『………、』』
セシルの平静さと、周囲の状況を確認して、2人組はどんどんトーンダウンしていく。
やがてぽつぽつと語り出したのは、ぶつかったのはどっちが悪いかで言い合って、収拾がつかなくなったという、あまりに些細な切欠だった。
『せっかく評判のクレープ買ったのに、台無しになっちまって…』
片割れがそんな言葉をぼそぼそと吐き出す。
あまりに可愛い怒りの動機に、セシルは噴き出したくなったのを堪えて、息を吐き出し…
「なるほどな…気持ちは分からんとは言わんが、不運の憤りを他人に…しかも攻撃的にぶつけても良いことは無いぞ。
近しい者に後で愚痴るくらいにしておけ」
そう、作った声と地声の間くらいの柔かさで、青年を諭した。
■セシル > そうして、何だかんだで落ち着いた青年2人はお互いに謝罪すると、そのまま連れ立って「話題のクレープ」の出店に向かっていった。
どうやら、2人揃って甘い物好きだったらしい。
「………。」
平和に済む事案であったことに安堵の息を吐いて2人の背中を見送ったセシルは、再び警邏に戻る。
学生通りの喧噪は、その日セシルが見た範囲では友好的に連なっていた。
ご案内:「学生通り」からセシルさんが去りました。