2018/08/02 のログ
ご案内:「学生通り」にアリスさんが現れました。
アリス >  
私はアリス・アンダーソン。
今年から常世でお世話になってるの。
でも今はそんなの関係なくて。

「こんのぉー!!」

今は虫取り網を振り回して小さなUFOを追ってます。

それもこれも、道端でベビーカー、ひいては赤ちゃんの前で母親が泣いているから気になって声をかけたら。
赤ちゃんが異能に目覚めてミニUFOを放出した、ということで。

皆さんはセス・ルーズヴェルト事件を知っているだろうか?

3歳児のセス君が突如として放った蝶々の群れ。
両親は綺麗な異能だなと見送ったらそれには彼の知性と精神が詰められていて。
2年後に全ての異能蝶がつかまるまでセス君が曖昧な状態のままだったという事件だ。

それから後、幼い子供が生物・物体生成系の異能に目覚めたらまず現物を全て回収するのが鉄則となっている。
だから学生通りは大混乱。
誰も彼もが低空を飛び交うUFOを捕まえようと虫取り網やら籠やらを振っている。

「待て待てー!!」

アリス >  
一つのUFOの中にはグレイみたいな小人が3、4人ほど詰まっているらしく。
大人の人差し指ほどの大きさのリトル・ヒューマンは私たちをバカにしながら周囲を飛び回る。
多くの場合、UFOが落ちたら観念するのだけれど。

もし、UFOまで丸ごとあの赤ちゃんの精神の塊だと推察すると壊したり撃墜するわけにもいかない。

だから、私は。

「待ちなさーい!!」

物質創造の異能、『空論の獣(ジャバウォック)』を使って周囲の人に虫取り網を作り、与え。
自分もまた、虫取り網を振っているのだ。

ミニサイズのUFOが散歩途中の飼い犬をUFOに向けて斥力(あるいは引力?)を発生させて引っ張る。
入りきるサイズでもないようだけど、とにかくはた迷惑だ。

「アブダクションはやめなさーい!」

大きく振りかぶって虫取り網を振るうと、
ひょいと避けたUFOの代わりにおばさんのリードの先の誘拐されかけ犬の頭が網に入った。

「あ、ご、ごめんなさい!」

こちらを辟易とした表情で見るコーギーに向けてぶんぶんと頭を下げると、UFOから顔を出したグレイたちがこちらを嘲笑う。
くう。む、むかつく!

アリス >  
赤ちゃんが放出したUFOは本体の周囲をぐるぐると回るように低空飛行している。
どうやら本体から離れるとコントロールできないタイプ。
しかし、プチUFOは動きがトリッキーで落ち着きがないため、半分も捕獲できていない。

かくいう私もふたつ(二台? 二両?)のUFOを捕まえたきり戦果がない。

赤ちゃんから離れようとしないのだから、いつかは解決する事件だとは思う。
しかし能力の限界を超えたら脳に負担がかかる異能だったら?
赤ちゃんが精神力を使い果たしたら死んでしまう異能の持ち主だったら?

時は一刻を争う。
UFOを全部捕まえて、赤ちゃんごと研究施設で調べてもらうまで事件は終わらないのだ。

「ふぅ………ふぅ…」

息が切れてきた。
まだ暑い夕方の学生通りで虫取り網を振り回していればこうもなる。

アリス >  
夜。夜が近い。
でも夜が来れば銀の飛行物体は捕獲困難になるかも知れない。
都合よく、自分から光を放ってくれるとは限らないのだから。

「あーもう! 風紀委員でも生活委員でも式典委員でもいいから誰か来てよー!」

頭を抱えながら、打開策を考える。
ぼんやりしていると、UFOも可愛いのだけれど。

日陰で休みながらTwister(SNSの一種、ぼっちが言葉の不法投棄に使うツール)を開く。
学生通りの大騒動は、どうやらすごくミクロな問題と看做されているらしくて。
誰も話題にはしていない。

「ああ、もう! 送信! 学生通りでシリアス・プロブレム発生!!」

書いても書いても、何も反応は返ってこない。
だってぼっちだから。
フォロワー数少ないから。

自分がフォロワー数大爆発の社会的影響力・特大の人間ならよかったのに。
いつものぼっち特有の妄想を働かせながら、呼吸を整えた。

アリス >  
「はぁー……」

溜息を吐くと、荷物の中からすっかり温くなったレモン炭酸のペットボトルを取り出して飲んだ。
事態は膠着状態。
しかしこのまま赤ちゃんを見捨てていくわけにもいかず。
困ったなぁ。

すると、目の前にUFOが下りてきて。
上の部分(と、表現していいやら)が開いてリトル・グレイが私の飲み物に手を伸ばしてきた。

「……あげないわよ!」

そう冷徹に告げながら虫取り網を振る。
すると、あっさりと目の前のUFOは捕まえられた。

「え? こんなあっさり……」

もしかして。
目の前のUFOの、グレイの精神は赤ちゃんの幼児性を保ったままで?
甘そうなもの、可愛いものに触れようとしているだけなのでは?

「こ、これだわ!!」

立ち上がって周りで悪戦苦闘している人たちに声をかけた。

夜が来る前に、解決しなければ。

アリス >  
私が周囲の人に話した『プロジェクト・アブダクション』はこう。
私が甘いもの、可愛いもの、とにかく赤ちゃんの気が引けそうなものを開けた場所に大量に作り出す。
それにUFOが群がってきたら、ネットランチャーを撃ち込んで一網打尽。
そういうプラン。

説明しながら男性陣にネットランチャーを渡して、使い方を説明する。
時間がない、決行は今。

駆けつけた風紀の人が封鎖した交差点の真ん中に、ファンシーグッズと果物やジュースなど、大量に作り出す。

そこにUFOは一斉にやってきた。
ここまでは作戦通り。

「今よ!!」

掛け声と同時にネットランチャーから放たれた網が、UFOたちを取り押さえてしまう。
おっと、私が作った食べ物はまだ食べていいという検査結果が出ていないから早めに捕獲、捕獲。

こうして全てのUFOを捕まえた私たちにお礼を言って、母親と赤ん坊は研究施設の特殊車両にUFOごと乗り込んでいった。
あとは彼らの幸せを祈るだけで。

おっと、もう夜が来る。
お土産話は十分、あとはパパとママの下へ帰らなきゃ。

ご案内:「学生通り」からアリスさんが去りました。