2018/08/20 のログ
アガサ > 「なんだ異能だったのか。てっきり異星人が遂に攻めてきたのかと思ったのに。
で、頑張って捕まえたと……荒野で練習する必要があるようなってなると、中々凄いものを連想するけれど……おおぉ?」

特別SFが好きな訳では無いけれど、宇宙人では無かったかと口端を尖らせて見せた所で瞳を数度瞬く。
まるで手品か何かのように物が生まれ、転じ、最後には塵のように消えてしまうなら、目撃者は鳩が豆鉄砲を食らったような顔にもなる。

「すっごいな君!?よっぽど魔法みたいだなあ……ぅわぁいいなあ。
私もそういうのが良かったなあ!……なんて言っても仕方ないんだけどさ。
あ、ちなみに私のはね。こういう奴──周りが驚くからあんまり街中でやってはダメってセンセイには言われてるんだけどね。」

えへん、と徐に空咳なんかして勿体ぶって、さてと視線を巡らすと丁度良く木製の掲示板などが立っている。 
私は靴を脱いでからその側面に足を着け、段差でも上るかのようにひょいと身体を浮かせてみせて、
次の瞬間には、掲示板の側面を下──地として立っている。

「──と、まあこんな風にね。壁とか天井を地面に出来る感じ。
道往独歩《ルールブレイカー》なんて言うそうだけど、ちょっと名前負けを感じるなあ」

傍目には壁に立っているようにしか見えないけれど、如何な不思議か髪の毛やスカート、缶ジュースの中身は
足の着いている所を地面と認識し、乱れず零れる事も無い。少しだけ頬を不満そうに膨らませるのは
目の前に本物のルール無用がいるからって所。

アリス >  
「異星人、実はいるのかもね。私たちが知らないだけで…」

すごいとか良いなぁと言われると、照れて頭に片手を置いて謙遜のポーズ。
えへへ。当然だけど、悪い気はしない。

「錬成の異能、万能の異能と言われてはいるけど。何もかも取り返しがつくわけじゃないしね…」

いじめられていた日々も。
異能に目覚めた日に仕返しをした後の、砂を噛むような日々も。
この異能で取り返しがつくわけじゃない。

相手の異能を見ると、真っ先に何かが壊れたり零れたりする心配をした。
ルールブレイカー。
重力という地球上の生物に課せられたルールを破る
異能だろうか。

「……すごい! 映画やトリックアートを見ているみたいだわ!」
「髪やスカートやジュースもそういう横紙破りに付き合ってくれるのね」

へええ、と興味津々にじろじろ見る。

「…あなたがつけたわけじゃないのね、その異能の名前」
「でも、ぴったりだと思うわ。物理法則を破る異能だもの」
「それに、異能にはファーストステージやセカンドステージというのがあるそうよ?」
「私も、あなたも。まだまだ異能に先があるのかも」

手を伸ばす。彼女に触れたら、どうなるのだろうとか考えつつ。

アガサ > 「私達が知らない事のが、世の中にはずっと多いだろうし居ると思う方が楽しいよね。
だからなんでも取り返しが効くような素敵な異能だってあるのかもしれないよ」

有ったらいいな、と思う。そうすればママは今でも元気で居るし
小さい頃に死んだ本当のパパだってそうだ。
ああ、でも今のパパも好きだから、そうなるとそれは困っちゃうな。
少し、難しい顔をした所で、アリスの感嘆の声で我に返る。
サファイアみたいに透き通った。或いは夏空のように鮮やかな、そういった碧眼が忙しなくしていて
少しだけ面映い。

「うん。横紙破りでルールブレイカー。名前は、この島に来てから付けて貰ったんだよ。
実習区で最初に何だか色々やらされてさあ……ってそうなんだ?これ以上ってなると、どうなるんだろうなあ。
ちょっと想像つかないや」

視線を逸らして頬を掻き、その折にアリスの手が肩に触れるも──何も起こらない。

「お、気になる?でも何にも起きないよ。どういう訳か生物は影響されないみたいでね。
例えば私が両手で猫を抱えたりしても、猫だけは本来の重力が適用されるんだ。
だから……例えばこうすると──」

口端を悪戯な猫のように歪めて手を伸ばし、アリスの白衣をはっしと掴む。
すると、白衣だけが法則を無視し、私の足が着いている方向を地面としてはためく。
それこそトリックアートのようでもあり、道ゆく人々の目線が少々を超えて集まりもしたので

「……というわけ」

ぱ、と手を離して私も歩道に降り立って。靴を履きなおしてから、肩を竦めて舌を出した。

アリス >  
「……あったらいいね。きっと後悔なんてない人生を歩めるよ」

それが正しいかは、まだわからない。
まだまだ自分が子供であることを感じる。

「ふーーーーーーん…」

不思議そうに白衣の裾の行方を眺める。

「面白いわ、アガサ! 山登りとかすれば、見たことのない景色が見られそう!」

そう言ってジュースを飲む。
異能は基本的に街中で使ってはいけないことになっている。
それでも守っている人はあんまりいない。
だってそのほうが便利だし、面白いから。

「命って不思議ね。あなたの異能の効果が及ばなかったり、私の異能で作れなかったり」
「きっと生きていること自体が特別不思議な、異能みたいなものなのよ」

ふと彼女と視線が合う。

「そういえばあなたって年はいくつなの? 私は14歳」

アガサ > 「無いよりは有る。そう考えたほうが人生は楽しいもの……
って山登り。いや君の言う山登りって、それロッククライミングじゃあない?」

訝しげな眼差しと共にそんな事を言われると嫌な予感しかしない。
脳裏に想起されるは、大荷物を持って岩肌を歩く己の姿だ。
思わず思って、頭を振って掻き消そう。

「生きているだけで異能。なんだか哲学的なお話になりそうな……うん?私?
私は14歳──同学年だけじゃなくて同い年かあ!」

振った後に手櫛で髪を整えて、飛んだ質問に応えた所で奇遇な結果。
ついついと快哉の如き声が上がり、ジュースを持ったままアリスの手を握って喜んでしまう。
だって、この学園。中々同い年の同級生なんて恵まれないのだもの。

「なんだかいい友達になれそうな気がするなあ!うんうん、同級生でも年長相手となるとね
どうしても敬語とか使わないと悪いかなあみたいな、そういう気苦労がね……
あ、良かったらメールアドレス教えてくれる?LINEでもいいけど!」

鼻先がぶつかりそうなくらいまで近付いて、振り子のように戻っていって
握った手を離したかと思えばポケットより折り畳み式の携帯端末を取り出し開き、
黒地に金縁のホロモニタを浮かび上がらせて、答えを待つより早く入力準備が万全の様子。

アリス >  
「そうそう、鬼スラみたいなところも歩いていけるよ?」
「もちろん、それは冗談にしても見える景色が変わるというのは、良いことの一つよ」

何気なく年齢を聞いたけど。まさか同じだったとは。

「えー、本当!? 私も同い年の知り合いはなかなかいなくて…!」
「友達!」

素っ頓狂な声を上げてしまった。
こんな風に友達ってできるものなのだろうか。
わからない。ただ、嬉しい。元ぼっちにはとても嬉しい。

「そうなのよねー、私この学校に来て友達が三人できたけど全員年上で…ああでも大体タメ口だわ」
「敬語難しいし……」
「ええ、もちろん! メールアドレスはalice-in-wonderland……」
「LINEも大体同じで、それから……」

アドレスを教えあってから、携帯端末をポケットに入れて。

「これからよろしくね、アガサ!」

満面の笑みで言った。やった、四人目の友達しかも同い年!
もうこれはぼっちではない。
友達が四人いてぼっちを自称したら過去の孤独な私に絞殺される。

「それじゃ、後でメールするから! 私、今日は帰るね!」
「また会いましょう、アガサ!」

犬に追いかけられて、友達ができる。
因果関係はともかく、良い一日だったなぁと思いながら帰っていった。

ご案内:「学生通り」からアリスさんが去りました。
アガサ > 裏返るような声で発言を反復されて脳裏に一つの危機が湧く。
勢い余って友達に!なんて性急過ぎたかな、と先走った行為に顔が赤くなるのを感じた。

「……はっ、よかった……。うんうん、アドレスは……」

でも杞憂だった。
心裡で安堵の溜息を一つして、教えて貰ったアドレスを入力してOKを押す。
軽やかな音が鳴ってホロモニタはぱたりと消えて登録完了!

「んふー、こっちこそ宜しく!帰り、犬に気をつけてね~!」

同い年の友人。やっぱり何処と無く特別な雰囲気だと思う。
本土に居た頃は同級生ならそれが普通だったのに、私も案外島に馴染んだなあと、
笑顔でアリスを見送ってから頷いて、反対方向に歩いて行って、
さてはてメールの第一弾は何を送ろうかな、なんて思案する。

「やっぱり使ってるシャンプー辺りかな……うーん綺麗な髪だったものなあ」

本を買いに来て友人を経る。なんだか似たような格言、どこかにあったような気がしたけれど
生憎思い出すには至らずに、私は鼻歌交じりに本屋へと向かうのでした。

ご案内:「学生通り」からアガサさんが去りました。