2015/10/04 のログ
ご案内:「商店街」に夕霧さんが現れました。
夕霧 > 『とある商店街のスーパー』

ふむ……、と彼女は思案の声を漏らす。

目の前にあるのは飲みなれた飲料水。
そしてその横には「本日限り!大特価~~円!」とPOPの貼られた余り飲まない飲料水。

なんてことは無い、どっちの水を買おうと数円の差ではある。
が、その数円の差も積もれば数百円、数千円になる。
いつもならさっさと飲みなれたものを買って行こう、と思ったのだが、現状手持ちに余裕は無く、余裕が出来るのはしばらく後、となれば結果こうして迷う事となった。


飲料売場でものすごく難しい顔をして腕を組み、顎に手を置き、思案に浸る。
そしてすぐに選べない理由もある。
―――安いの方は余り味が好きではないのだ。
微妙な差、とはいえどうせならしっくりしたものを飲みたいもので。

「んんー……」
とはいえ背に腹は替えられないもの、少しでも浮かせるべきか。
それともたかが数円。
されど数円。

故に、答えは決まらず。

夕霧 > 迷えば迷う程時間というリソースも削られる。
時間が経過すると言う事はそれだけ疲労・空腹も進むもの。

余り迷っている時間は無い。
というか、流石に数分も立ち止まっている訳で。
「……しょうがありませんなあ」

決める。
安い方にしよう―――。
そうして手を伸ばす。
そこでふと、気付いた。
その安い水の隣。
普段は少しだけ高く、値段のせいもあり、余り飲まない水。
こちらも一度飲んだが割としっくりくる味であった。
普段飲んでいるのよりも好みであると言えよう。
―――それにもPOPが張られている。
「―――っ」

伸ばした手が止まる。
安くなっているにはなっているが。
それでも価格は何時ものものより高い。
だが普段よりは圧倒的に安い。

夕霧 > 二択が三択へ。
「……ふう」

落ち着こう。
まずは整理しよう。
手持ちは心許ない。

何時もの:味・中 値段・中(いつも通り)
安いもの:味・低 値段・低(只今セールで何時も以上に安い)
高いもの:味・高 値段・高(只今セール中で相当安い)


普段なら一択だというのに。
ここに来て迷った分、せめて己の中でのベストアンサーを出したいと言う、よく分からない思考も手伝い、脳内思考は更に混沌とした様相を見せる。

傍から見れば10分近くその場で立ち尽くし、ずっと唸っている図である。
非常にアレであった。

夕霧 > ―――そもそも数円の差なのである。
他の事で節約すればどうとでもなるものだ。

だがもはやその域は過ぎている。
ここまでくれば運命の三択であろう。

その数円で何か変わるかもしれない。
例えば、だ。
何かを買う時に1円の単位を綺麗に出せると少し嬉しいなどと思った事は無いだろうか?
逆に1円足らずに10円を崩し9円になり、それに少し悔しい思いをした事は?

どうでもいい思考であるものの、遂にそこまで考え始める。

全く以てどうでもいい事であった。

「高い方……いや、一番安い?ああ……でもいっそそこまで悩むならもう何時も通りに……」
ぶつぶつと呟く。

時間はもう残り少ない。

と言うのもセール対象の二つはセールなのである。
当然、彼女が悩んでいる内もその数を順調に減らしており、残りは少なくなっていた。

夕霧 > 極論すればその数円を募金すれば恵まれない子供たちが救われるかもしれないのであり。
そう考えれば数円も大金である。

「……あ、いや」

という所まで考え。
そもそも募金する余裕があればこんな悩みはしていない。
と思考を戻す。

三択。
悩むうちにも数は減る。
時間も減る。
いっそどれかが無くなってくれれば……。
などと考えるも、それでは『何かに敗北した』ような気になる。
それだけは却下だ。

よし、と小さく声を上げ。
更にたっぷり数分ほど思考した後に。
初志貫徹。
最も安いものに手を伸ば―――。






既に目の前に最も安い飲料水は無かった。

夕霧 > 「……えっ?」

そんなバカな。
さっきまであったはず―――。
と戦慄してみるものの、目の前のPOPには『売り切れ』と無情にも追加のPOPが張られている。

気付かなかったはずがない。
目の前の出来事である。

などと本人は思っているが思考に没頭するあまり全く気付いていなかった訳であるが。(目も瞑っていた)


―――とにかく、無くなったものを悔やんでも仕方ない。
結果として二択だ。
どちらも味としては全く問題ない。
―――消極的な選択肢が消えたと思おう。
そう自分に言い訳をし。

どうせここまで来たのなら。
気づけばもう残りわずか、というか一本だけになったそのセールの飲料水。
それに手を伸ば―――。


 『あ、すいません』

ほぼ同時に、手を伸ばし、手が当たる。
手が当たった女性が謝ってくる。
「あ、いえいえ、こちらこそすいません」
どちらも手を退く。

『そちら買われるんです?』
手がぶつかった女性がそう、聞いてくる。

……。
……。
「あ、いやうちはそう言う訳でも。……ちょっとパッケージ見ようかと思って手を伸ばしただけで―――」


気づけば。
どうぞ、と譲り最後の一本も手にする事の出来なかった公安委員会事務員がそこに一人。

夕霧 > 「……ふふ」
しばらく本当にしばらく立ち尽くした後に。
目を細め、軽く笑い。

結局何時もの飲料水を拾い上げ。
会計を済ませスーパーを出る。

―――そもそも最初からセールなんて無かったですし。
―――最初からこれを買うつもりでしたし。

最大級の言い訳を心の中で呟き。
その場を後にした。

ご案内:「商店街」から夕霧さんが去りました。
ご案内:「商店街」にリルー・ロネットさんが現れました。
ご案内:「商店街」からリルー・ロネットさんが去りました。