2016/07/18 のログ
ご案内:「商店街」に美澄 蘭さんが現れました。
美澄 蘭 > 「…はあ…」

昼下がりの休日。
商店街の通りの、木陰のベンチに腰掛けてペットボトルのお茶をぐいっと呷ってから、溜息を一つ。

用件は例によって例のごとく、である。まだ水着が決まらないのだ。

美澄 蘭 > 「…海はもう海開きもしちゃったのに…」

うなだれて、へろへろとした泣き言を一人呟く。
保健課の手伝い業務は夏期休業に入ってからと申請しているので、まだ間に合いはするのだが。
…自分の「決められなさ」に、いい加減泣きたくなっていた。

美澄 蘭 > 無論、試験が終わった後、ただひたすら商店街を歩き回って無駄な時間を過ごしている…というわけではない。
だが、勉強とか、術式の改良とか、そういうのは夜、帰ってからでも出来るのだ。
教師に聞きに行くにしても、もう少し自分で考えを練ってからにしておきたいし。

そんなわけで、もっぱら最近の午後、天気が許す限り蘭は商店街をうろついているのだが。

(…とうとう、水着コーナーのスタッフさんに顔を覚えられ始めちゃったし…)

なんか、色々な意味でくじけそうなのだった。

美澄 蘭 > (…とはいっても、中学校のときの指定みたいなやつとか、それに近いくらいの感じの野暮ったいタンキニは出来れば避けたいわけだし…)

カバーアップは、あの後色々考えてレース地のものの方が好みだ、ということにはなったのだが…

(…そういえば、肝心の水着の方、「イヤなもの」は考えたけど「これがいい」って、あんまりなかったかも)

肝心の部分の考えを整理していなければ、悩むのは当たり前過ぎるほど当たり前なのだった。
うなだれるのをやめ、顔を上げて、もう一方の腕を支えに頰杖をついて、思案顔。

美澄 蘭 > (まあ、暖色系か寒色系かなら寒色系よね、爽やかな感じだし。
濃い色合いの方が透けにくそうで安心だけど…下はアンダーショーツ穿くし、上はパッドとかあるだろうからあんまり気にしなくていいかしら。
カバーアップとか、柄とかの好みとの兼ね合いで良いわね)

色の好みはすぐ固まる。
夏の蘭の私服を見ると、分かりやすいくらいの好みの傾向だった。

(…胸元を強調するとか、ボリューム感を上乗せとかは…あんまり好みじゃないかなぁ。
あそこのお店ではスタッフさんに勧められたりもしたけど…ちょっと、恥ずかしいし)

『華奢ですから映えると思いますよー』なんて勧められて、恥ずかしくなって適当な相槌を打ちながら逃げ出したのは割と記憶に新しかった。

「………」

思い出して、再び頭を抱えてしまったり。

ご案内:「商店街」に界雷小羽さんが現れました。
界雷小羽 > 「あの、そこ、退いてくれませんか?
 具合が悪いなら、保健委員会の人を呼ぶくらいはしてあげてもいいですけど。
 
 ………熱中症?」

美澄 蘭 > …と、そんなことをしていると、かけられる声。

「え?」

声をした方に顔を上げると、そこには自分と似た色の髪をセミロングにした、女子学生。

「…あ、ごめんなさい!ちょっと、考え事しちゃってて…」

「どうぞ!」と言ってあたふたと立ち上がり、ベンチを譲るジェスチャー。
ベンチに入れ替わりで座る際にこの少女と近くですれ違うことがあれば、魔術耐性によって個人差こそあるものの、よほど魔術耐性が高くない限りは場違いにひんやりするだろう。
蘭は生来魔術耐性が高いため、かなりの強度の冷却魔術を使わなければ、夏らしい日に涼感を得ることが出来ないのだ。

「熱中症にならないように、ちょっと魔術で細工してるから、大丈夫。
…寧ろ私が保健課だから、倒れてる人が近くにいるなら助けられる範囲で助けないとね」

相手の女子生徒がベンチに座れば、そんな事を言って少しだけ笑みを見せた。

界雷小羽 > 商店街を歩いて居た小羽は、道すがら頭を抱える女子、恐らく年代的には生徒、を見かけた。
目を凝らしてみると、何やら苦しそうな顔をしている。

海開きがはじまって、いよいよ夏本番、という時期だ。

小羽は自分の事なかれ主義と、声をかけなかった時に感じる無視したという罪悪感を天秤にかけて、
その生徒、美澄 蘭に歩み寄り、声をかける事にした、のだが、

近寄ると、小羽は、妙にひやりとした感覚に襲われた。
内心でこっそりと「確かにそういう季節だけど、幽霊ではないよね」というような事を考えていたが、
美澄の反応でそうでない事を確かめると、そうですか、と頷いた。

横を通りすがる時に尚の事強まる冷感に首を傾げながら、小羽はベンチに腰をかけた。

美澄 蘭 > ベンチから立つのに伴って、白いレースの日傘を広げる。
梅雨ながらも日差しのある日が珍しくない昨今、左右で色の違う瞳を持ったこの少女の透き通るような白い肌は、自然体で生きる人間には若干の違和感を与えるかもしれない。
…単に肌が紫外線に弱いので、日焼け止めを欠かしていないだけなのだが。
自分とすれ違う際に、首を傾げる相手を見て、こちらはこちらで不思議そうに、

「…?何かあった?」

と。割と急に話しかけられてびっくりした後なので、「そもそも自分が理論上割と強力な冷却魔術を使っている」ことが、すぐに頭に浮かんでこない様子だ。

界雷小羽 > 「ああいえ、何だか、あなたの近くは涼しく感じたので………異能か魔術、ですか?
 もしそうなら、暑さにまいってこのベンチに休憩に来た身としては、羨ましい限りなんですけど。」

小羽は、曖昧に笑いながら、どうしようかと考える。

「……さっき何か苦しそうな顔をしていましたけれど、悩み事ですか?」

美澄 蘭 > 「ええ…魔術言語を使った冷却魔術なの。
効率を上げるために冷却した空気が外に漏れるのを防ぐ触れない障壁を作ったり、空気がある程度循環するように組んだのよ。
…魔術言語の基礎を教えてくれた先生には、空気の形で周りに影響を与えるのは問題じゃないか、ってつっこまれて、服の部位をピンポイントで冷やす形も練習中なんだけどね…加減が難しくて」

わざわざ魔術の仕組みを丁寧に説明してから、少しはにかんで笑う少女。
…が、「悩み事」を指摘されると、その笑みが少し引きつる。

「ええ………ちょっと、夏に向けて欲しいものがあるんだけど…決まらなくて。
改めて、自分の希望をまとめてたところだったの」

「夏に向けて欲しいもの」。「決める」必要のあるもの。
微妙にぼやかすが、実際のところ自由回答でも選択肢はそこまで多くないだろう。

界雷小羽 > 「いえ、何もそこまでは聞いていないんですけど、聞いても、私には出来そうにないですし。
 そうやって相手には出来ないような事を喋るのって、結構相手からすると傷つくんですよ?」

 
「………こっちは暑いの我慢して歩いてるのに、文字通り涼しい顔で、憎々しい。」

顔を背けると、ぶつぶつと零す。
助けようと思って声をかけた相手が、そんな事を心配する必要が無い程に魔術に長けていて、
心配した自分が馬鹿みたいだと思ったからで、ようするに八つ当たりのようなものである。

「夏に向けて、決める………。」

小羽は、うぅんと首を捻る。
夏に向けて決めるというと水着だろうが、もう海開きがはじまった時期だ。
水着を決めるにはいくらなんでも遅すぎる、
この時期では、売れ残りが多い店では安売りがはじまっているくらいだ。

ここでふと小羽は、暑いとかき氷が食べたくなる事を思い出した。
学生として実家を出ると意外と無いかき氷の―――あれは、なんと言うのだろう。

「私はペンギンの形をしたやつを買いましたけど、確かにあれは悩みますよね。」

美澄 蘭 > 「…ぁ、ぅ…ごめんなさい。
…最近、私より魔術が凄い人とばっかり話してたから…つい、考えが及ばなくて」

顔を背けられ、ぶつぶつと何かを言われると、身体を縮こめて俯き。
…分野こそ違うが、中学校で何度もやらかし、そして敵を増やした蘭の悪い癖だった。
…が。

「………ペンギン?」

相手が、自分の「悩み事」に対して考えたらしい答えが、あまりに想像の外で。
萎縮も一気に大分解けて、そのまま顔を上げて、きょとんと首を傾げた。

一応、水着のラインナップは、夏期休業前の駆け込みでまだギリギリ選択肢がある、らしい。

界雷小羽 > 「凄い人は凄い人とばかり知り合えていいですね。
 将来も約束されて、エリートエスカレーターコースって感じじゃないですか。

 ……なんて、冗談ですよ、素直に謝っている相手をこれ以上甚振っても仕方ないですし、
 私もそんな凄い人とは是非知り合いに、いえ、お友達になりたいですからね、今後の為に。」

まだ少し怒っている小羽はちくちくと嫌味を言いながら、
ふぅ、とため息をつく、小羽も小羽で、過去に沢山の敵を増やしてきた悪い癖だ。

「―――え、はい、ペンギンです。
 夏らしいですし、涼しげでいいかなと、思って。」

小羽は、指でペンギンの形を作りながら説明する。

美澄 蘭 > 「エスカレーターで上る気なんてないわ、何したいかも決めてないのに」

「もう…」と言って困ったように笑うが、敵意を表明する様子はない。
嫌味満載でも、腹黒目的があからさまでも。
「今後のためにお友達になりたい」のであれば、露骨な敵対はないだろう、と踏んだのだ。

(…そう考えれば…「あいつら」よりは、よっぽどましじゃない)

それでも、比較対象が過去のいじめっ子なあたり、基準は相当低いスタートだが。

「………そうね、ペンギン、涼しいイメージよね…南極イメージだし」

「…でも、ペンギン…どれのことかしら…」なんて、悩ましげに空いた手の指をこめかみに伸ばしながら。
流石に、イメージが噛み合っていないところまでは見当がついているらしいが。

界雷小羽 > 「そんなに魔術が得意なのに何をしたいかも決めてないなんて、魔術が出来ない人に失礼じゃないですか?
 出来るなら魔術関係の職業につけばいいじゃないですか。………何か不満でも?
 出来る事をやるのって、大変に立派な事だと思うんですけど。ほら、それこそ人類とかの為に。

 たとえばその魔法を私みたいな凡俗一般人が使えるように改良すれば、
 夏の度に少なからない人間が熱中症でこの世を去ってしまう、
 そんな悲しい悲しい事件を減らすことが出来るんですよ?
 
 自分だけが涼しければいいって言うなら、仕方ないですけどね。

 ………これだからこういう人種は嫌いなんですよ。
 ほんとは自分の事しか考えてなくて、それでいて、
 自分は余裕でへらへら笑って他人を見下すんですから。」

はぁ、とあきれたようにため息をつく。
小羽が自分の評価が下がるような事を言っている事に気が付くのは、もう少し後の事だ。

「………?

 それに、可愛いですからね、ペンギン。
 その形のアレがあったら思わず買ってしまいますよね。

 昨日少しだけ試してみて、良い感じなのは確認できましたから。

 あなたはどんなのを買うつもりなんですか?
 本当、どれも可愛くて、色々種類があって悩んでしまいますよね。
 実用性重視で選ぶ、という手もないわけではありませんけど。

 どうしたんですか?
 こめかみに手を当てて、やっぱりこの年にもなってペンギンの形をしたアレというのは変でしょうか。」

小羽は、美澄の様子を見ながら同じく、いや、逆方向に首を傾げた。
確かに、高校生にもなってペンギン型というのは少し子供っぽいかもしれない。
少し恥ずかしくなって、小羽は耳が少し熱くなるのを感じた。

美澄 蘭 > 「…一言で「魔術が得意」って言っても、何でも屋になるわけにいかないでしょ。
いくら《大変容》があったとはいえ、職業とか、社会のあり方は近代以降がベースなんだから。

…この島の外に「融和」を持ち出せなきゃ、意味ないんだから」

相手の物言いに、少しカチンときた様子で。反論の声には、それなりに敵意の刺が感じられることだろう。

実際、「魔術関係の職業に就く」と言っても、内容は多様だ。
魔術を用いて治安維持等を勤めるのか、治療職に就くのか。
そもそも、現場で動くのか、研究を生業とするのか。
いや、「魔術を学んだ」ことを活かして、そこで身につけた考え方をどう「融和」に役立てるかも、この学園の設立の趣旨に問う道だ。
「学んできた」者には…漠然としているとはいえ、この程度の選択肢は見えているのである。
おまけに、蘭は「魔術以外の」学びを活かす選択肢だって、まだ消してはいなかった。

「…それに、「自分だけ」なんて思ってないわよ」

そう言って、ポケットから取り出して差し出すのは…何やら円形に数式のようなものが書かれた、紙。

「私が今使ってるのほど出力はないけど、その分魔力の消耗も少ないわ。
理論上、周囲の空気より5度くらい冷たい空気を8時間くらいあなたの周りで巡回させられるの。…あなた個人の体感までは保証出来ないけど。
魔力を流せれば、それだけで発動するわ。…あげる。
ないよりはマシなんでしょ?魔術学びたての人間が作ったものでも」

少女の声が冷たく聞こえるのは、彼女が纏う空気のせいではないだろう。

界雷小羽 > 小羽は、紙を受け取って、へぇ、便利ね、ありがとう。とばかりに頭を下げる。
早速うきうきとした様子で発動させながら、美澄に瞳だけ向ける。

「なんでですか? なればいいじゃないですか。何でも屋。
 
 社会の在り方とか、職業とかは確かに今は近代以降がベースなのかもしれないですけど、
 それを変えて行くのは、私を含めた、この学園の人達だと思いますし、
 
 「融和」って言いますけど、今の社会に溶け込む形の進路に進んで、
 あなたの出来る事の最小限をやって死ぬより、それこそ何でも屋になって、
 こういう凄いものを沢山作って、他にもあなたがやれること全部やって死んだ方が、
 よっぽど世の中の人は魔術だとか魔術師っていうものに親しみを持つと思いますけど。

 それが「融和」を持ちだすって言うんじゃないですかね?
 
 それに、何でも屋になるわけにはいかないーって、
 あなたが何でも出来るって、自分で思ってないと言えないと思うんですよね。
 出来るならやればいいじゃないですか。出来るだけ。

 ………5度変わると、結構涼しいですね。
 正直、これを売り出すだけでも、十分クーラーカイロ屋になれると思いますよ。」

美澄 蘭 > 「「何でも出来る」人が専門分野を持ってそこに力を注ぐ方が、よっぽど凄いことが出来ると思わない?
…まあ、私は自分が「何でも出来る」なんて思わないけど」

気のない様子で、肩をすくめてみせる蘭。
専門職の家族がいるのもあるだろう、「特化」するまでもなく活躍可能ということは、社会においてその分野が未発達ということも意味すると、蘭は考えていた。
そして、「専門性」の意義も、それなりに重く見ていた。

「…空気を冷やすっていうのが周りに影響与えてよくないんじゃないかって言われて悩んでる話、さっきしたわよね?」

「売り出すだけでも役に立てるのではないか」という旨の言葉に、そう言って苦笑する。
…が、相手の役に立ったと認識出来れば悪い気はしないようで、敵意は結構緩んだ。

「…まあ、服の部位にこだわらないって意味での使いではあると思うけど。
考えとくわ」

そう言って、少し悪戯っぽく…少女らしく、笑みを零した。

界雷小羽 > 「それは忘れてました、そんな欠陥品をさも使いなさいとばかりに渡さないでくれませんか?」

小羽は美澄に聞かれれば、ただそう答える。
暑さが和らげば、少しだけ、不機嫌も収まる。
小羽は自分で人にあれだけご高説をかましておきながら、利己的で、自己中心的な人間だ。

忘れていたのは確かだけれど、今は今で、
影響があろうがなかろうが、内心では涼しくなればそれでいいくらいの気持ちでいた。

「一つの事しか出来ない異能と違って魔術は色々出来るんですから、
 役割分担したほうがいいと思うんですよね、異能者の就職先がなくなりますから。
 
 ですが、どうしても特化したいなら、そうですね、
 これをしっかりとした物にして、クーラーカイロ屋さんとして歴史に名を残してはどうでしょうか。
 地味ですけど、確実に便利だと思いますよ。

 もっと派手な事で歴史に名前を残したいというのでしたら、仕方ないのかもしれませんけどね。」

小羽は、勢いよくベンチから立ち上がると、美澄に詰め寄る。
小羽には、美澄どうしても聞いておかないといけない事がある。

「ところで、話が逸れてしまいましたけど、ペンギンの形のアレはどうでしょうか?
 やっぱり、この高校生にもなるような歳になってペンギンの形は変だと思いますか?」

美澄 蘭 > 相手の変わり身の早さに、脱力しながらも失笑し。

「………だったら使うのこれ一回きりにしといたらいいんじゃない?
私も、そっちの術式だと除湿くらいの体感しかないし」

なんか凄いことを言い出した。相手との体感の差がとんでもないんじゃないだろうか。
まあ、相手の様子から、涼しくなったことで嫌味が幾分丸くなったのは感じないでもないし。

「これ、魔術言語の文字と構造を写すだけだから、特化するほどのものじゃないわよ。
大元にしても、今の私が使える程度の文字と論理構造しか使ってないし。

…魔術って、結構普通の科学の分野の理論とも足並み揃えて発展してく部分もあってね、そういうところが面白かったりもするし、極めるやりがいにもなるのよ?」

そう言って、悪戯っぽくも楽しげに笑う。
魔術の理論の上級を極めるには、物理とか数学とか、化学とか生物とかやっといた方がよかったりするのである。現代社会は世知辛かった。
そして、この少女にはその世知辛さも「楽しみ」にある程度転換出来る程度の知的好奇心があって…だからこその「エリート(他称)」なのであろう。

…そして、「ペンギン」の話を、再度振られれば。

「………あなたが何の話をしてるのかピンと来ないけど…
私が探してるのは「着るもの」だから」

「その意味でも、ペンギンはちょっとね…」と、柔らかい苦笑いがこぼれた。

界雷小羽 > 「人が凄いと言っているものを、そうやって凄く無いよって言うのも嫌味だと思いますし、
 私が褒めているんですから、素直に聞いたらどうなんですか?
 そういう時は素直に「ありがとう」って言えばいいんですよ。」

小羽は、内心で特別暑い日はこっそり使おうと思いながら、ふん、と鼻を鳴らした。

「………着る?」

小羽はようやく、美澄と自分の思っているものは、かなり違うという事に気が付いた。
美澄が探しているものが水着である事にも気が付いた。
そして、気が付いて、どうしようと途方にくれた。

かき氷のアレと今更言うのも、なんとなく、恥ずかしい。
ペンギンの形のかき氷のアレを買ったのも、なんとなく冷静になれば恥ずかしい話な気がして来ていた。

悩んだ末に、カキ氷のアレのハンドルのようにぐるぐると回った言葉は、変な所に飛んで行って―――。

………ぴかっと空の方で、雷の音が閃いた。

「そう、ペンギン。着るんですよ、ペンギンの形のアレ!!
 はい、やっぱりどうかと思いますよね、私も少しそんな気がしてたんですよ!!

 夏ですし夕立ですかね、雷も鳴ってきましたし、私、帰りますね、帰りに新しいアレを買って!!

 あなたも、いい感じのものが見つかるといいですね!!」

そう早口で捲し立てると、その場から逃げるように走って去って行った。

ご案内:「商店街」から界雷小羽さんが去りました。
美澄 蘭 > 「…今まで散々に言っておいて、それはそれでダブルバインドじゃない?」

困ったように笑うが、なんか相手に対する扱いが「言うこと聞かない子ども」っぽい。
なんか、相手が素直じゃないタイプの人間であることが割と見えてきて。
蘭は、目の前の女子学生をさほど憎めなくなっていた。

「…ま、ありがとね。
少しでもあなたの身体の負担を軽く出来たなら、悪いことじゃないとは思ってるわ」

そう言って、肩を軽くすくめつつも笑った。

「………いや、その、うん。ぼかした私も悪いから、勘違いは別に良いから…
………そのこじつけは、ちょっと、どうかと………」

相手が勘違いに気付いたらしく…それを誤魔化すために、相手の言葉が明後日に飛んでいく。
その飛び具合に困ったように笑いながらも、相手のためになってるんだかなってないんだかなフォローを。
…そんな言葉を躊躇いがちに零している間に、相手は逃げるように立ち去ってしまった。

「………ええ…それじゃあ、気をつけて…」

若干呆気にとられながらも見送り。
そして、自分もまた出直すことにしたのだった。

(夏期休業に入る前に選べれば、何とかなるわよね。
…まずは、もうちょっと希望を練っとかないと)

さて、蘭が水着を選ぶ「覚悟」を決めた時、選択肢はどれほど残っているのだろうか。

ご案内:「商店街」から美澄 蘭さんが去りました。
ご案内:「商店街」に加賀見 初さんが現れました。
加賀見 初 > 「これは参ったね……どうしようもない」

商店街に食材やら消耗品やらを買い足しに出たものの、帰り際に思い切り降られてしまった。
家を出たときは天気が良かったので、雨具などの用意はなく。
走りたくとも、足が欠けているので走れもせずに……結果として、濡れ鼠である。
Tシャツ(白地に大きく黒抜きで無念と書いてある)が肌に張り付いてキモチワルイ。


急場を凌ぐ為に、店先の一角を拝借しているわけだけれども。

「……夕立を失念していたあたり、ボクも駄目だね。
 まぁ外出があまり多くないというのもあるんだけれど」

ご案内:「商店街」に永江涼香さんが現れました。
加賀見 初 > 張り付いて気持ち悪いので、少しだけ引っ張って空気を入れてみたり。
浅黒い二の腕や、鎖骨周りがチラリと覗く。
裾をちょっとだけ絞ってみたり。
こちらは、まだ引き締まっているお腹が見え隠れ。
まぁ、ほとんど気休めではある。

(夕立だからすぐに止むとは思うのだけれど……)

バケツをひっくり返したような夕立はまだ続いている。

永江涼香 > 「あーもー!なーんでこういう時に降っちゃうわけぇ!?」

たったった。
濡れながら店先の一角に走ってくる影一つ。

「あ、そこの人、隣借りるわよ!」

そして、遠慮なしに隣に駆け込んで、雨宿りをし始める。
小さな鞄と竹刀袋を持ってはいるが、特にそれ以外に何か持っているふうでもない。買い物帰りではないようだ。

加賀見 初 > 「ああ、うん。どうぞ」

声をかけられれば、少しだけ横にずれる。
いまさらちょっとくらい濡れても気になるものでもないし。
店先もまだ余裕はあるし。

「お互い、災難だったね」

永江涼香 > 「ほんっとよもー。ちょーっと散歩出てたらこれだもの、もう梅雨も明け頃かなーって思ってたのに」

むー、としつつ上を見上げている。
夕立なのでそこまで雲もしっかりかかってはいないが、それでもそれなりに曇って、雨は降り続けている。

「で、アナタは買い物帰り?災難ねー、買ってきたのも濡れちゃったんじゃない?」

加賀見 初 > 「ああ、まったくだよ。
 濡れて駄目になるものは買ってないからそこが救いだよ。
 ボクは日ごろの行いには自信があったんだけれどね。
 知らない間に、雨女にでもなったのかな?」

冗談を混ぜながら会話を進める。
なお、学校をサボるというの行動の是非はおいておく。

「まぁ、せめてこれで気温が少しでも下がれば過ごし易い夕方になるかもしれない」

袖が張り付いて気持ち悪かったので、少し絞る。

永江涼香 > 「私もよ、これでも晴れ女度には自信あったんだけどねー。
あーもう、こんなに降ってちゃ、日輪の力もだだ弱りじゃない」

めんどくさー、と言いつつ、しかし涼香の周囲がわずかながらぽかぽかとしてくるのを感じるかもしれない。
周囲だけで言えば、気温が下がるどころか上がっていた。

「あーでもアレかしら、私は日頃の行いそこまで自信ないしー……あれ、案外それだったり?」

当人は、しょうもない事を言いながら首をかしげているが。

加賀見 初 > 湿度のあるところの気温があがるとどうなるか。
単純に蒸し暑いのである。
雨だか汗だかわからない水滴が頬を伝う。
それでも、気温の上昇は肌で感じるので少しでも空気が欲しくて胸元をパタパタする。
Tシャツの特権である。
慎ましい何かがチラリと見えるかもしれない。
下着はつけているけれど。

「なるほど、ボクが悪いかと思ったけれどキミのせいだったか。
 必殺のサンアタックする前に弱ってくれて熱帯夜の回避ができるなら、ずっと素行不良でいてくれた方がボクは助かるね」

ふふっと笑う。

永江涼香 > 「あー、いや私、どっちかって言うと熱帯夜呼ぶ方……でもないか。夜は力半減だし。
でもあれ、必殺のサンアタックってんなら得意分野得意分野」

よくわからない様な事を言いつつ、初の方をちらり。慎ましい何かもチラリ。
……自分の胸もぱたぱた。もっと慎ましい何かがチラリ。

「……くそぅ」

何かに勝手に悔しそうになっていた。

加賀見 初 > 断言しておくが初も大きくは無い。
あるかないかで言われると ある とは答えるが。
年相応よりは小振りだろう。

「できれば、その力は冬に出し切ってもらいたいね。
 例えばビニールハウスの中とかコタツとか。
 ……今は我慢大会にしかならないだろうけど」

なんとかアタックが得意分野らしいし、きっとこの子は光や熱に縁の深い子なのだろうと察する。
だからどうするつもりもないけれど。
何せこの身は―――

「?
 どうかしたかい?」

急に悔しそうにしたので聞いてみる。

永江涼香 > 「んー、太陽が出てれば余裕余裕。今は微妙ねー、色んな意味で」

ざーざー。まだ夕立は止む気配も無く、太陽は雲に隠れている。
日輪の力を行使する涼香も、その日輪がお隠れになっていては流石に力が半減。
それに、いまそれをやっても蒸し暑くなるだけである。

「いや、いやね……その……くそぅ」

どうかしたか、と問われれば言葉を濁す。
が、その手は自分の(貧相極まる)胸をさすさすと撫でていた。
膨らみが全くないわけではないのだが、ほとんどない。
ほぼほぼ平地なのである。

加賀見 初 > 太陽発電でもしているんだろうか。
そんな感想が脳裏をよぎる。

「まぁ、キミの“ちから”はよく知らないからお節介になるのだろうと思うけれど。
 “ちから”は頼らない方がいいのかもしれないよ。
 後でどんなツケを払わされるかわかったものじゃない」

見ず知らずが本当にお節介だったね、と付け足して謝る。
疲れたのか、壁にもたれ掛かった。
その際に右足の義足が音を立てる。


胸あたりをさすっているのを見て、なんとなく察したらしい。

「ええと……その、苺とかいいらしいよ?」

永江涼香 > 「ふふん、私の力は特別よ。なんせ、アナタも常日頃、その一端にお世話になってるんだから。
ツケも何も、私の『特別』は多少のことじゃ揺るぎはしないわ」

ふふん、どやー。
にやり、と笑ってそんな事を口にする。
自分の力に絶対の自信をもって疑わない、そんな口調、表情。
が、その表情は、その後の言葉によってかんしゃくを起こす子供のそれに変わる。

「……っさいわね!試したわよ全然ダメなのよそもそも変わるわけないのよこれ!
くそぅ、天照大御神様が巨乳だったならぁ……!」

永江涼香の先天的特性『天性の巫女』。
天照大御神と親和性の高い肉体を有して生まれた涼香は、その親和性により、天照大御神の神威を一部行使する事が出来る。
日輪全ては涼香の味方であり、涼香の力。
自然にある陽光も、涼香にとっては己の使役物と変わらないのだ。
……が。それはつまり、与えられた特性から体が逸脱しない事を指す。
つまり……彼女の胸は、恐らく今後ずっと平坦なのである。神と親和性が高いが故に。
まさに神の平地。実り無くして神々しい不毛の聖域が、そこにはあった。

「ん……あれ、アナタ、その足?」

義足の音に反応して、首をかしげて問い掛ける。
単純に興味津々、と言った様子だ。

加賀見 初 > (かなりの自信家なのだなぁ……自負というかなんというか)

そんな事を思った次の瞬間に火がついて驚く。

「け、継続は力也 とも言うけれど。
 一朝一夕には変わらないんじゃないかな、ほら星座だって夏から冬に一瞬で変わるわけではないからね。
 それに……ボクはわからないけど、大きくても凝ったりイヤらしい目で見られるだけとも聞くしね?」

なんでフォロー入れてるんだろうと疑問に思う。

「アマテラス……確か、日本の神様だっけ?
 詳しくは知らないけど、隠れてからお祭りに誘われて姿を見せたっていう」

詳しく知りたい人は岩戸隠れとかで検索だ。


「ああ、事故で少しね。
 ……“ツケ”ってやつかもしれないね」

魂などを見る力をもっていれば、その右足首から先がそっくり無くなっているのがわかるだろう。
義足をつけても、作用しない。『失われて』いるのだから。

永江涼香 > 「変わんない、変わんないのよこれ……。
私、生まれつきの巫女でね。生まれた時から天照大御神と親和性の高い体をしてるの。
私が特別って言うのはそー言う事。でも、それって要するに、体型も多分大きくは変化しないのよねー……」

ある日を境に天照大御神が急に巨乳になったとかならまだしも、普通はそんな事はあるまい。
つまり、高い確率で神の平地は神の平地のままなのである。神の山地とはならないのだ。

「ああ、成程ね……って、なにそれ。『殺され』た?」

意識を集中して右足を見る。
元々巫女、神に仕える者。魂などを感知する能力は高い。
そして、その右足首から先は、単なる事故の欠損にしては異様なくらいに、その魂そのものが消え去っていた。
そこに最初からなかったのが自然であるかのような、それくらいの完膚なきまでの消失。
明らかに異様であった。

加賀見 初 > 「……まぁ、その。
 成長もしてるんだし、ひょっとしたら……?
 考えようによってはずっと若いのかもしれないし」

今現在若いのだから将来は救いにはるかわからないけど。
アメノウズメとかなら、山脈ができていたかもしれないね!!

「どうかな。ボクは『捧げられた』のだと思っているけれど。
 “ツケ”は怖いよ。
 だからボクは“力”を使いたくない」

表面上は義足の履いた右足である。
粗末な義足ではあるのだけれど、棒切れ程度の役には立っているらしい。
一瞬だけ、その右足に蛇が見えたかもしれない。

永江涼香 > 「うー……永遠に若いかとか、そこら辺は分かんないのよねー」

なにせ前例を知らない。
不老不死と言うわけではないのだろう、過去に今持っている神剣『天照』を振るえた人が生き残っていないのだから。
だが、若さを保ったままだったのかと言うと謎なのである。体型も。

「ふぅ……ん。成程、そりゃ厄介ね……神の威光でも、失われた物は取り戻せない。
確かに生贄系の呪術は止めといた方がいいわね、絶対」

ちら、と見えた蛇。
それも合わせて、やはり対価を要求する呪術系の能力なのだろう。蛇はそう言う役割を与えられがちだ。
人を呪わば穴二つ。誰かを呪った者は、自分の墓穴も用意しておく必要がある。
いつか『ツケ』を払わされ、己が墓穴に入ることになるのだから。

加賀見 初 > 「まぁ、そうだね。まだ四半世紀も生きてない小娘であるボクらにわかるわけがない。
 ……偶にいるすごい年上だったりしたら悪い事を言っているけれど」

感情の起伏具合とかも考えれば、年相応だと思うけれど。
この島はそんなの通用しないことが多いし。

「幸いにして、ボクは魔術を知らないからね。
 適正はあるのかもしれないけれど、知らないものは使いようが無い」

肩を竦めて。

「ただ、将来的に魔術を覚えるなら参考にするよ。
 誰かを犠牲にするっていうのも、趣味ではないんだけれど」

永江涼香 > 「あー、私16だし。小娘なのは確かよねー」

別に長生きしてるわけではない、思春期真っ盛りである。
そして現在進行形で反抗期だ。
家出娘だし。

「ま、私も呪術系はそーんなに詳しくないんだけどねー。って、アナタの力ってそー言うんじゃないの?」

話を聞いた限りではそう言うタイプだと思ったのだが。
違うのだろうか……?

加賀見 初 > 「この島では法的な事意外は自由だからね。
 年齢なんて小さい事かもしれないけれど、大人から見たらどうなんだろうね。
 やっぱりボクらは年相応の子供かな」

やわらかく笑った。

「ボクが使えるのは異能だけだよ。
 一応、偉いセンセーとやらが調べて名付けた名前もあるようだけど。
 ボクは自分の異能が嫌い……いや、怖いからなるべく使いたくない」

永江涼香 > 「その法も結構怪しいって聞いたわよー?
ただまあ、そーんなに逸脱はしてないんじゃない?寧ろ歳不相応だったらそれはそれで嫌よ」

折角若いんだし老けこみたくないわー、と笑う。
大人になれば、もしかしたら自分も両親みたいになるのかもしれない。
だが、今胸にある衝動、世界を見て回りたいという気持ちが今だけの幼稚な物であっても、それを今は大事にしたかった。

「ふーん……じゃ、聞くのも野暮よね、多分」

本人がここまで厭っているのだ、名前や内容を口に出すのも憚られるのだろう。
自分の力とは正反対だなあ、などと思う涼香である。

加賀見 初 > 「逆の意味合いで子供扱いも嫌だね。
 何せボクらは微妙な乙女のお年頃だもの」

と笑い返す。
さすがに発育具合で子ども扱いは自重した。自重した。
少年扱いは……まぁ、そのファッションで一つ。

「そうしてくれると助かるよ。
 秘密にしているわけではないけれど、進んで喋りたい事でもないんだ」

ふぅーと長いため息。
ああ、本当に。できることは似通っているのに。
ここまで質が正反対だなんて。
会ったこともない神様を恨んでしまいそうだ。
少し姿勢を変えてから再度、壁にもたれかかる。

永江涼香 > 「そうそう、大人じゃないにしても子供じゃないの!ってね」

過保護な親に反発気味の涼香としては、強く同意して笑う。
ついでに、胸の事でいじるとキレちゃう子なので要注意である。マジで。

「でしょーね、見てりゃわかるもん。ま、扱いには気を付けて。『敵を知り己を知らば百戦危うからず』よ」

使いたくない、と言って遠ざけていてばかりでもよくない。
その異能がどういう特性なのか、それを自分はどのように御する事が出来るのか。
嫌いだからこそ、向き合う必要がある。そんな意味を込めた忠言を軽く投げてみる。

加賀見 初 > 「できれば敵には会いたくないね。
 商売柄、どうしても敵はできてしまうかもしれないけれど。
 本当、どうにも上手くいかないね世の中は」

今度は苦笑した。

「でも、まぁ……そうだね。
 扱いには最大限に気をつけるよ。ガンパウダーと同じかそれ以上には慎重にね。
 嫌いと遠ざけていたら、弟に示しがつかない」

永江涼香 > 「私だってそうよー、前も変なのに声かけられたし」

何があったかと言うと、カフェテラスでナイフとフォークの使い方に苦戦していたところ、チャラい男子生徒にからかい半分でナンパされたのである。
外で『天孫降臨』ぶちかましてやった。先生に怒られた。

「そうそう、万一に備えておくといいわよ。
……へー、弟いるんだ。いいなー」

自分の事は棚の上に放り投げて忠告を投げた後、弟という言葉に食いつく。
この涼香、一人っ子だ。なので年齢の近い家族と言うものに少し憧れがあるのである。

加賀見 初 > 「……まぁ、ボクに声をかけてくるのはよほどの好き物でしかないだろうけれど気をつけるよ」

男子っぽいベリーショートカット。
浅黒い肌。
ホットパンツにTシャツというラフすぎる格好。
胸だって大きくない。
ナンパ目的なら、我ながらかなり疑問に思う。


「ああ、手のかかる弟だけれど可愛いね。
 もうじき後輩になると思うよ。
 その際は、手ほどきしてあげて欲しい」

永江涼香 > 「いやいやわっかんないわよ、世の中どんなのがいるかわかんないもの」

なんせ、神の平地にも声をかけるのがいたくらいである。
涼香の場合は、整った顔立ちと伸ばした髪に女性らしさがあるのと、ナイフとフォークの使い方が怪しいという点で『チョロそう』に見えたのが関係しているのであろうが。

「へー、そん時を楽しみにしてるわ。
ねね、弟がいる生活ってどんなもんなの?」

ずずい。
興味津々と言った様子で食い気味に問い掛ける。

加賀見 初 > 「……飢えた狼が多いね。ジャガーならまだカッコイイだろうに」

ため息をついたものの次の質問になると少し嬉しそうに答え始めた。

「そうだね、一人暮らしと比べるとやっぱり会話は多くなるね。
 まだ幼いようだし両親はいないから……母親の真似事みたいな事はしているけれど」

思い出して比べるように、答える。

「ああ、あと食事とかは考えるようになったかな。
 さすがにズボラご飯だけとか外食三昧はしないね」

永江涼香 > 「しかも、そう言うのに限ってチャラいのよねー。気に入らないからふっ飛ばしたけど」

そして怒られた。

「ん?あー、義理の、って感じ?でもいいなあ、私、家じゃあんまり会話多くなかったもん」

聞いていると、本来の意味での弟ではなさそうだ。少し込み入った関係なのかもしれない。
そして、家ではやはり、両親との会話は多くなかった。
何せ楽しくないのである、厳格すぎるのだ。

「あー、それ大事よね。確かに栄養バランスとか気になりそう。外食三昧だとお金かかるし」

一人暮らしだとついつい雑になりがちな点でもあるのだが、やはり誰かがいると意識が変わるのだろう。

加賀見 初 > 「……んー」

義理の と言われて少し悩む。
ある日いきなり沸いて出ました とか言ったらこのまま病院とかを案内されそうだ。

「そうだね、そんな感じだよ。
 小さな事に一喜一憂、退屈だった日々は色褪せたかな。
 会話はなくてもいいんだけれどね。必要なのは愛情がはっきりわかる態度だと思うよ」

それは本音だろう、嬉しそうな声音と顔。

「さて、そんな夕飯だけれど。
 雨も小降りになってきたしボクは戻ろうと思うんだけどキミはどうする?」

永江涼香 > 「そっかー。
んー……愛情があっても、その向け方がズレてるとキッツいわよ?」

両親が自分を愛してくれているのは十二分に理解している涼香である。
だが、それが生まれ持った資質込みである事、その結果が自分の束縛になっている事に関しては、やはり難しいものを感じてしまう。

「あー、確かにいい感じね。私はもう少し散歩して帰ろうかしら」

加賀見 初 > 「ああ、そうだね。
 そこは気をつけていきたいって思うところだね。
 うちの子がグレたら大変だ」

冗談めかしているが、ちょっと真剣。
こちらはこちらで思うところがあったのかもしれない。

「それじゃあね、お隣さん。
 機会があったら、歓楽街の外れに在る obsidian ってガンショップを訪ねてみるといい。
 安い珈琲と暇つぶしくらいは無料提供するよ。

 それと・・・・・・

 服が濡れたままだと風邪を引くから着替えに帰ることを強く勧めておくよ」

永江涼香 > 「気を付けときなさーい、反抗期に思いっきり反抗されたくなかったらね」

にひ、と笑う。
今現在全力で反抗期の涼香が言うと、無駄に強い説得力があった。

「おぶしでぃあん、ね。歓楽街の外れ、っと。わかったわ、暇な時に行くと思う。

……そだったわ、忘れてた!」

自分がびっしゃびしゃなのを今更思い出す涼香。
微妙に抜けている辺り、締まらない子である。

加賀見 初 > 「彼氏だっていたことがないのに、反抗期の子供の心配をするなんてね……」

肩を竦めて笑った。

「ああ、それじゃあまたいつか」

買い物袋を手に、えっちらおっちら歩いていきました。

ご案内:「商店街」から加賀見 初さんが去りました。
永江涼香 > 「はーい、まったねー」

手を振って見送り。
さて、雲は流れ、陽光差し込むいい天気になってきている。

「ま、言われた通り早めに帰っちゃいますかーっと」

竹刀袋を抱えて、こちらもえっちらおっちら帰って行くのでありました。

ご案内:「商店街」から永江涼香さんが去りました。