2018/02/07 のログ
ご案内:「商店街」にアリスさんが現れました。
■アリス >
先日の路地裏での『血腐れの鈴音』との戦闘から数日。
魔力に起因する爆発と斬撃の傷により重傷を負ったはずの
私、アリス・アンダーソンは。
商店街のチョコレート・ショップの店頭販売のバイトをしている。
■アリス >
というのも、重傷を負ったその日のうちにパパとママが回復魔術を使える魔術師を呼んだ。
これを魔術的処置、というらしい。
この島ではコネクションとお金さえあれば、怪我は一瞬で治るというわけで。
とはいえ、数日は風紀からの事情聴取に費やしたし、経過観察もあった。
自由になった私は誓った。
復讐? そんなことは望んでいない。
それはパパとママにお金を返すこと。
魔術師を呼ぶというのは、とってもお金がかかるらしい。
そんな様子をパパもママも私にカケラも見せない。見せてくれない。
だけど、心が痛む。だから、パパとママに内緒でバイトしてお金を返そうとしているわけで。
■アリス >
「寒い……」
表情をくしゃり、と顰めて呟く。
今日は雪がちらついている。
チョコレート・ショップ(店の名前はスマイル・スマイル)の制服は可愛いけど、スカートで。
とっても寒い。
気合を入れなおす。
ただ突っ立っていてもバイトにはならない。
「バレンタインデーに向けて、スマイル・スマイルのチョコレートはいかがですかっ」
笑顔で道行く人に声をかける。
もちろん14歳でバイトはできないので書類では17歳にしておいた。
異能の特性で加齢が遅いとか、そういうことを書いて。
それでも難色を示されたので、パパとママのためにお金が必要なの!と懇願したらOKが出た。
合否より/人の情けの/ありがたさ。
■アリス >
異能で靴の中に貼り付けるタイプのカイロを作り出す。
ほんのり温かくなったけど、まだ寒い。
それにくわえてさっきから異能で温かい空気を作り続けているけど。
一瞬で散ってしまい何の効果もない。
頭の中で昨日パソコンで見ていた『ヒューマンVSネイチャー』というサバイバルドキュメンタリー番組が再生された。
過酷な自然の中で人間はあまりにも無力。
「自分へのご褒美に、恋人への贈り物に、家族へのプレゼントに」
「スマイル・スマイルのチョコレートはいかがでしょうか?」
売れない。
笑顔空振り。
■アリス >
モノを売る時の日本語は敬語というのが妙に難しい。
日本語は堪能なつもりだけれど、丁寧な言葉遣いはニガテ。
デスとマスさえ最後につけていれば大丈夫という考えで乗り切ってきた。
バイトを始める前の簡単な練習で直されました。
笑顔の練習から始まり、丁寧な言葉遣いの反復。
お金を稼ぐというのは、楽じゃないんです。
「いらっしゃいませ、チョコレートをお探しですか?」
「ありがとうございます! こちら600円になります!」
ようやく一個売れた!!
これは……大変。
こんな思いをして稼いだお金をおてんば娘の治療代に使ったパパとママ。ごめんね。
パパとママは接客業じゃないけど。
ご案内:「商店街」に筑波 察さんが現れました。
■筑波 察 > 「普通のチョコはあるかな?」
2月、街はバレンタインだなんだとイベントに夢中で騒がしい。
クリスマスが終われば正月、正月が終われば節分、節分が終わればバレンタイン。
本当に日本人というのはイベントが好きなようだ。
そんな雰囲気にのまれることもなく、店の店員に声をかけた。
バレンタイン向けのチョコが並ぶ店で店員に問うたのは普通のチョコはあるか?という内容。
何をもって普通というのか。そういう詳細は一切なしの質問だ>
■アリス >
声をかけられて、振り向く。
顔立ちこそ幼いように見えるけれど、私にとっては見上げるような上背の少年。
問われたのは、普通のチョコ。
「いらっしゃいませ、普通……普通のチョコレートですか…」
思わず難しい顔をした。
価格帯にして300円から2000円くらいのチョコを幅広く売っている。
純チョコレートから準チョコレートまで、種類も様々で。
普通というと……?
「一番売れているスタンダードなチョコレートはこちらです」
と、ハート型のチョコレートを見せた。
価格にして600円。バレンタインデー仕様すぎるけど、今の時期はこれが普通。
■筑波 察 > 「ああ、そうか、この時期の普通はそうなるんだねぇ。
なんていうかな。バレンタインしようじゃなくて、
本当に普段売られている板チョコみたいなやつはあるかい?」
見た目幼い店員が見せてきたのはハート形のチョコ。
それを見て自身の質問の仕方に問題があったことを自覚して、質問しなおした。
「別に誰かにあげるとかじゃないから、変に飾りっ気のあるやつじゃなくていいよ。
たまに食べたくなるんだよ。チョコ。」
とはいえ、スーパーやコンビニで売られているようなチョコレートでは味気ない。
飾りっ気はいらないが味気は欲しいというわがままのもと、この店に足を運んだのだ>
■アリス >
「なるほど、そういう意味の普通のチョコレートをお探しでしたか」
手をぽんと叩いて笑顔で簡素なテーブルに配置されたチョコレートを探す。
あった。
多分、お客様が探しているのはこういうの。
「こちら、スマイル・スマイルの職人が作り上げた……普通のチョコレートです」
チョコレートとしてはお高いけれど、スマイル・スマイルの売り物では安めの一品。
シンプルで飾り気がなく、素朴だけど美味しそうなチョコ。
「450円になります!」
笑顔で梱包された甘い香りのする品物を見せて。
「私も時々食べたくなります、普通のチョコ!」
■筑波 察 > 「そうそう、そういうやつ」
彼女が取り出したチョコレートを見ればうんうんと頷いて見せる。
「コーヒーとか飲んでると時々甘いものが欲しくなるしねぇ。
何よりも頭脳労働ばっかりだから。
じゃあそれを2ダースお願いしようかな」
頭脳労働。事実、僕の頭は構造的に睡眠を必要としないので、常に稼働しっぱなしである。
ゴーグルで目元は見えないだろうが、目的のチョコがあり満足げな表情。
それをサラッとダース単位で注文した。
場合によっては迷惑な客である>
■アリス >
「頭脳労働の際には甘いものが一番ですよねー」
「その点、スマイル・スマイルのチョコレートは飽きの来ない上品な…2ダース?」
うん?
今、なんて?
「Two dozen?」
イギリス的発音で2ダース?と聞き返してしまう。
に……にじゅうよんこ!?
「しょ、少々お待ちくださいっ!」
店に飛び込むように駆け込んで店長に確認する。
このタイプのチョコレートを24個注文されている方がいます、と。
店長の話を聞いてから店の外に飛び出してきた。
「ええと……今すぐ用意いたします、少しだけお待ちください…」
「その間、わたくしがお客様と会話して場を持たせるよう申し付かって参りました…」
真顔で息を呑んで話しかける。
「ねえ、24個よ? 大丈夫? 間違いとかでなく?」
敬語も忘れた。それくらいの衝撃。
■筑波 察 > 「ああ、24個。Tow dozenであってるよ」
この時期に売れないチョコをたくさんストックしているほうが珍しいだろう。
まま、あたりまえの反応といえば当たり前の反応だ。
むしろ断らずに準備してくれるとは。とてもいい店だなぁなんて吞気な感想。
「いや、焦らなくてもいいよ。注文の内容のほうがおかしいんだから。
ん、そうなの?じゃあチョコがくるまでお話ししようか。
だって、一つ二つだとまたすぐに買いに出なきゃいけないだろう?
どうせすぐ消費するってわかってるならまとまった数買ったほうがいいでしょ」
敬語も忘れて今一度確認してくる彼女に、まるで道理はこちらにあるといわんばかりに受け答えをする>
■アリス >
「二十四個だったら一個450円でも一万円超えるわよ…?」
店の中は閑散としていたのに、今は修羅場で。
それに関わらずに済むのなら、今はバイトという立場がありがたい。
「た、確かに……必要なら、まとめ買いはするけれど…」
「我がアリス・アンダーソン王国一か月分のお小遣いを軽く上回るわね…」
「でも、味と品質は保証するわ。ここで働くのが決まった時に少しチョコレートを食べさせてもらったの」
手に息を吐きかけてから、顔を上げて笑って。
「とっても美味しかったわ、だから良いチョイスよ」
■筑波 察 > 「僕がここに来るまでに30分。往復で1時間、交通費もかかった。
一回の来店で3個買うとして、24個買うなら8往復。
君の時給と交通費に8を掛けたらいくらになるかな?」
つまりそういうこと。
間違いなく消費するとわかっているチョコレートを、
小分けにして買うとさらに24個買えてしまう計算になる。
あくまで目的を成すために効率を突き詰めただけなのだ。
「君の小遣いがいくらなのかはわからないけど、安い金額でもないのは確かだね。
不味いのがわかってたらこんなに買わないよ。
知り合いがおいしいって言ってたからね」
そんな雑談をしていると、彼女が手に息を吹きかけているのが目に付く。
ああ、そうか、ここは寒いのか。
彼女の動作を見て初めてそれを感じ取った。
能力柄、外気温に左右されないため鈍感だった。
「ちょっと寒かったりするかい?」
一言確認するように効くと、周囲の空気の振動をいじくりまわして気温を少しだけあげて見せる>
■アリス >
「あっ」
効率、そのためには時として大胆な選択も必要だと学んだ。
「今日は大事なことを学ばせてもらったわ」
「必要なものにお金を出し渋ると時間とお金というコストがもっとかかるというわけね」
「でも、これで私も外でぼーっと立ってたなんてことにはならないし」
「お店的にもバレンタインデー前に良い感じの取引って感じで、みんな喜ぶわ」
手を擦りながら話す。
「知り合い? 誰かしら」
並んで喋っていると、急に周囲が暖かくなった。
まるで春の陽気のようで、とっても心地がいい。
「……驚いた、炎熱系の能力者なの?」
■筑波 察 > 「そう、何か目的があるなら手段や規模を選ばない選択も時には必要ってことだねぇ。
ぶっちゃけ、バレンタインとかはあまり興味がないんだ。
騒がしいイベントが苦手ってのもあるし」
いつからこんな風にイベントを楽しめない性格になったのだろうか。
「君は知らないんじゃないかな。ずいぶん昔のことだし。
いや、僕は振動を操作できるんだ。
数学的に言えば関数として表現できる現象なら振動してなくても良かったりするけど」>
■アリス >
「そうなの? とはいっても、私もバレンタインデーなんて縁がなかったけど」
「ぼっちだったし。男友達どころか女友達がいなかったし」
「スクールが友チョコとか本命チョコとかで浮かれてる間に机で寝たフリしてたし」
こんな話をしてもどうしようもないけれど。
でも、この時期に騒いでる人がちょっと羨ましくもある。
「昔のこと……ああ、いや、でも私も17さいだし!」
「へえ……振動を操作できる異能…」
「ピンとこないけど、こうして空気を冷やしたり温めたりできるなら、羨ましいわ」
店の中を横目で見る。
大量のチョコを紙袋に積んでいる段階だった。
■筑波 察 > 「そう、昔はもう少しこういうイベントではしゃぐってこともあったんだけど、
ここ数年はすっかりそんなこともないね。
君は嫌われ者だったのかい?それとも嫌いになる側?」
彼女の話をしばらく聞いて、何となく浮かんだ質問。
なぜ嫌われ者か嫌うものかを問うたのかは、あまり深い意味を持たなかった。
「17、じゃあ僕と同い年だ。
君の言ってることが本当なら。
温度だけじゃないさ。
物を宙に浮かべることもできるし、『君と同じ声で話すこともできる』」
少しおちょくる様に彼女の声をまねる。
真似るといっても、ほとんど同じ声だ>
■アリス >
「何それ、学生なのに少し草臥れていないかしら、お客様?」
「私は周りを好きになる努力をしたわ。でも、嫌われ者だった」
「努力は無駄だったし、その努力に対して無駄骨以上の対価を無理やり支払わされていたわ」
「多分、日本の中学生たちは私みたいなタイプの女が嫌いなのよ」
やれやれと肩を竦めて。
「ほ、本当だし……17さいだし…常世学園の二年生だし…」
「あら、あらあらあら」
言い訳は途中で途切れた。
その声は、確かに。
「携帯デバイスで撮った私の声にそっくりね!」
「ということは、他の人は私の声をそう聞いているのね!」
「すごいわ、あなたすごい異能を持っているわ!」
そう言って喜ぶ姿はとても17歳ではなかった。
「あ、チョコレートが用意できたみたい。…用意できました」
「お代が10800円になります」
屈託のない笑顔で。
「そのチョコレートがなくなる頃には、バレンタインデーと私のバイト期間ももう終わっているだろうけど」
「とっても楽しい時間だったわ、ありがとうございました!」
■筑波 察 > 「一ついいことを教えてあげよう。
嫌われるってことは相手の"特別"になるってことなんだ。
嫌われ者が嫌われものじゃなくなった時、
それは相手にとって"無関心"になった瞬間だ。
そこから行為を含んだ"特別"になるのは相当にしんどいものだよ」
君は彼らの特別だったわけだ。
そういう本人は実に楽しそうである。
嫌われることもまた特別であると、そう考えて生きてきたのだから。
「じゃあ、同い年同士、今後もよろしく頼もうかねぇ?
僕の異能は極端な話何でもできちゃうんだよ。
僕自身が異能にまだ追いついてないだけで」
まるで幼い子供の用にはしゃぐ彼女、
本当に17才だろうか。
いや、自分に比べればよほど年相応かもしれない。
「じゃあ11000円で。
おつりはコーヒーにでも使ってよ。
バレンタインが終わってもチョコは買うからね。
そのうちどこかで会ったときはよろしく頼むよ」
支払いをすませてチョコを受け取れば、手を軽く振って立ち去る。
むろん、僕がいなくなれば気温は元に戻るわけだが>
ご案内:「商店街」から筑波 察さんが去りました。
■アリス >
「嫌われることが、トクベツ……?」
「難しいことを言うのね、あんなトクベツなら私は願い下げだわ」
「……むしろ、無関心のほうが良かったもの」
ぶつぶつ言いながら、昔のことを思い出した。
いじめられる特別より、いじめられない無関心のほうがいい。
「ええ、よろしくね!」
「何でもできる異能……」
万能の異能。それは自分の異能の評価でもあり。
異能は人が使う以上、マンパワーとも言われる本人の応用力や地力が重要になる。
…それでも、目の前の少年が使いこなせていないようには見えなかったけれど。
「え、いいの! ありがとうございます!」
「もちろん、あなたの話はとっても面白かったわ!」
「またね! またのご利用をお待ちしております!」
手を振って彼を見送ると、気合を入れて仕事の続きを……
「う、急に寒く……」
気合は若干、寒空に散った。
ご案内:「商店街」からアリスさんが去りました。