2017/04/29 のログ
ご案内:「古書店街「瀛洲」」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 晴れた休日の昼下がり。
立ち並ぶ古書店街の一角で、軒先に並べられた本を物色するヨキの姿がある。
一冊五十円とか百円と書かれた棚の、日に焼けて黄色く染まった文庫本を手に取る。
買うと決めた本を右手に、次に選ぶ本を左手に。
ヨキの気持ちの良し悪しは、すぐに顔に出る。
「おお……!」
“好きな作家の、たまたま持っていなかった絶版の短編集”が
こうした破格の安値で見つかった瞬間などは、それこそ顔中が光り輝いていた。
■ヨキ > 軒先の箱を覗いて、店内をくまなく巡って、もう一度店頭を見て隣の店へ。
この広い瀛洲をこんな風に一軒一軒回るのだから、回りきるにも一日がかりだ。
だからヨキがこの古書店街を回るのは、今日のようにぽかぽかと温かく、雨の気配もない、散歩日和の休日と決めている。
「……おっ、これは」
とある店内の棚にふと見つけたのは、獅南蒼二の授業で参考資料として挙げられている書籍――と、同じ著者の教本だ。
教師でありながら他の学生に交じって授業に参加するヨキであったが、彼の魔術学だけは一向に受けようとしない。
詰まるところ、彼に自分の未熟さを見せるのが恥ずかしいのだ。
そういう訳で、ヨキの瀛洲巡りのいちばんの目的はと言えば、独学のための魔術書探しが大きかった。
■ヨキ > 本を探す目的はあれど、脇道も長い。
尊敬する工芸家の作品集、好きな画家の画集、行ってみたい海外の写真集、オンライン上でちらと評判を見かけた幻想小説。
あれも欲しいこれも欲しい、が、自宅の書棚にも限界はある。
「今日はあと一冊……いや二冊までにする……」
悩むと、顔が梅干しのようにくしゃくしゃになった。
■ヨキ > ――そして結局、四冊買った。
人間になってからというもの、何かと堪え性に欠ける。
我慢しなくなったとも、欲望に素直になったとも言える。
早い話が、犬だった頃には『待て』が出来ていたのだ。
本を詰めた袋を抱えて通りを歩くヨキの顔は、福々しくほくほくしていた。