2015/08/07 のログ
ご案内:「常世公園」にビアトリクスさんが現れました。
■ビアトリクス > 「…………」
ベンチに腰掛け、俯いて地面に視線を落とす。
その相貌は憔悴に満ちている。
この数日、ビアトリクスは常世学園を離れ、神宮司ちはやの帰省へと同行していた。
楽しい日々だった。
それが終わり、再び常世島へと足を踏み入れたのが、本日のことである。
■ビアトリクス > ちはやと別れ、旅の荷物を背負って寮の自室に戻ったビアトリクスを待ち構えていたもの。
それは誰あろう、ビアトリクスの母親である女性――永久イーリスであった。
心の何処かで安心していた。
常世学園にまで彼女が姿を現すことはない、と。
甘い考えだった。あの魔術師にとって距離などというものは関係ない。
いや――むしろ、姿をわざわざ見せたのは彼女にとっての親切心だったのだろうか。
“常に見ているよ”、というメッセージ。
「…………」
スニーカーのつま先で、砂利をざりざりと踏みにじる。
■ビアトリクス > イーリスとの会話は、そう長い時間にはならなかった。
彼女は無駄な接触を嫌う。
本土でともに暮らしていた時も、幽霊のような存在感を見せていた。
姿は見えないのに、その気配を常に強く主張する……。
触れられた話題は『ネットの使い方』、そして、『神宮司ちはや』について。
前者については昔から度々口うるさくされていた。
一応、自分の身を案じているのだろう。
うっとおしくは思うが、素直に頭を垂れて聴いた。
後者については――……そもそも、別にそういう関係ではない、ということを必死に弁明した。
自分の気持ちはともかく、向こうはそんなつもりではないのだから。
それが通じたかはわからないが……イーリスは曖昧な笑みを浮かべていた。
顔の前で手を組んで、その親指を噛む。
ご案内:「常世公園」にヘルベチカさんが現れました。
■ヘルベチカ > ぬっ、と。
地面とビアトリクスとの間に突然現れた顔。
「生き物の動くところが嫌いだからって、描く人間が死んでたら、本末転倒じゃないか?描けなくない?」
喋りながら、顔を引いて。
ベアトリクスの隣、ベンチの上に腰かける少年。
ふぃー、と力の抜ける音。疲れた様子。
手に持った缶ジュース、蓋を開ければ気体の抜ける音大きく。
どうやら炭酸飲料の様子だ。
一口飲んで、咳払いして、もう一口。炭酸が強かったらしい。
「今日は描いてないじゃん。描かれる側に回ったから死んだ顔してんの?」
声が揺れている。炭酸のダメージから回復できていない。
そこで、はっと気づいたように周辺を見回して。
「もしかして撮影中なの?邪魔した?」
■ビアトリクス > 「どわッ」
のけぞって驚く。
接近してくることにまったく気付けなかったのは、考えに没頭しすぎたためか。
勝手なことを言いながら隣に座る様子を、
驚愕にはしゃぐ心臓を鎮めるべく胸を手で押さえながら、眺めていた。
「…………そんなに死人みたいな顔してた?」
額に浮かんだ汗を手で拭う。むすっとした声。
「あいにくと、四六時中絵のことばっかり考えているわけじゃないんだ。
……親のことを考えてた、さっきまでは」
■ヘルベチカ > 「どわっ、て反応する奴久しぶりに見たわ…思いのほかリアクション大きかったわ…満足度めっちゃ高い…」
口元目元、にやにやと笑いながら、炭酸飲料を口に含む。
猫の耳が、ぴぃん、と立ってから、元に戻って。
「ん゛ッ、……しにん゛、ッ、死人みたいな顔っていうと安らかさ否定しきれないから、死んだ顔」
良く見ればストロングの表記のある缶。この島基準のストロング、推して知るべし。
推さずとも声の荒れ具合でわかる。
「あんなとこでも書いてたから、結構常に考えてるんだと思ってたけど……あぁ」
ビアトリクスの言葉に、数度頷いて。
「何。エロ本でも見つかったの?ていうか男なの?メンズなの?」
相手の腿へと視線を飛ばした。先日の格好を思い出している様子。
■ビアトリクス > 「今は、あんまり絵について考えてる余裕もなくて。未熟だからね」
濁った声、立つ猫耳。顔と頭頂部を交互に見比べる。ちょっと面白い。
死んだ顔と死人の顔の微妙なニュアンスの違いを少し真面目に考えそうになった。
「エロ本……」
一瞬、微妙に厭そうに顔をしかめ。
「……まあ、似たようなもんか。
勝手に部屋に上がられて日記を読まれたんだ」
脚に視線を向けられて、無意識な所作できゅっと閉じる。
「……男性だよ。紛らわしい風貌で悪いね」
騙すつもりも隠すつもりもないので、素直にそう話す。
大して悪そうにも思っていなさそうな口調。
いつもは例の紛らわしい服装であることが多いが、そうでもなく普通に男物を着るときもある。
今日は常世に“帰った”ばかりだったし。
■ヘルベチカ > 「熟したから絵のことだけ四六時中考えます、ってのよりは、
色々なこと考えてます、って方が熟してる感じしない?」
缶に口をつけるが、缶を傾ける角度が、先程までよりも浅い。
舐めるように飲んでいる。さらば炭酸の爽快感。
甘いだけの砂糖水+カラメル状態のそれを舐めつつ。
「日記かぁー。いや、エロ本と似たものでは無いのでは……?エロ日記なの……?レベル高い……」
瞬きが増えて、どうしよう、というように視線が右左にキョロキョロと飛ぶ。
心持ちビアトリクスから距離を置くように身体が傾いた。
「でも其れは其れでやだな。出歯亀気分で、ってんならいいけど」
閉じられた相手の足、しかしその頃には視線を正面に戻して。
「こないだ胸元とかに眼が飛びそうになったの必死に抑えた俺に
『その努力無駄だからガン見していいけど後悔するがやらない後悔よりやる後悔。行け』
って伝えたい……別に悪くはないんじゃない?いいじゃん好きな服着たら。好きなんでしょ?」
緩く首を傾けながら、ビアトリクスの顔を見た。
■ビアトリクス > 「んーまあ、そうかも……そうなのか?」
それっぽい理屈を言われて未熟者でしかないビアトリクスとしては
同意するべきか、しないべきかなんとも言えない表情に。
「あの親の趣味が悪いのは確かだけど。
……なんというか、子供のことを把握してないと気がすまないんだよ。
なんでもかんでも」
微妙に距離が取られたのを見て少し慌てて。
「いや、エロっていうか。見られて恥ずかしいモノであるには変わりないだろ?
日記自体が猥褻ってわけじゃなくて――……」
言いかけて、極力思い出さないようにしていた、日記に書いた内容が頭をよぎる。
その内容は直截に猥褻だったり特殊Freeだったりするわけではないが。
しかし。誰の何について書かれた割合が大きいかというと、その。
「あああああ……」
再び頭を抱えて、世界の終わりのような顔で天を仰いだ。
どうリアクションしていいか図りかねて、怪訝そうな視線を返す。
「よくわかんないけどリベラルな意見ありがと……
…………ひょっとして困らせてた?
好き……まあ、好きな格好なのかな。少なくとも抵抗はないし」
■ヘルベチカ > 「なんかピカソとかゴッホとかそういうすごい絵描きのことは知らないけど、
普通に描く分には他のこと考えられないって、ゲームの事以外考えられないのと代わらなくない?」
少年とて、確固たる意見があるわけでもなく、なんとなく思った事を口にしただけのようで。
とりあえずわかることは、絵心や美術知識がそう在るわけではなさそうだというところ。
「あー、そういうの絶対無理だわ。そういうことしたいなら孕んだまま腹の中から出すなってやつ」
うへぇ、と口をへの字にして、眉間に皺。
相手の慌てた様子の弁明に、視線をやっていたものの。
言葉の途中で何かを思い出した様子のベアトリクスの様子に、不謹慎にも楽しそうな表情で。
「何。なになに。なんかエロいことした記録とかつけてたの?
あるよなそういうの。後で後悔する奴な。一日三回とかやり過ぎじゃない?とかそういうアレ」
元気だせよ、と言いながら、ビアトリクスの背中を、強すぎない力でばしばしと叩く。
「目の前で女子と思ってる生き物が胸元に風送り込んだりとかしてたら、男子はガン見するか見たいけど我慢する。
まー好きか性差気にしないかどっちかなら、着てていいじゃん。この島、もっとすごい格好のいっぱいいるし」
目をつぶって、何かを思い返すようにしながら、口元の缶を傾ける。
程度を探るように、傾きが少しずつ大きくなって、途中で止まった。
■ビアトリクス > 「まあ……そうか」
ようやく頷いてみせる。妙な説得力があった。
いつぞやある人物にした、額縁と額縁の外、芸術と現実についての話を思い出す。
「……だよね。向こうにしちゃ、まだ腹の中に収めてるつもりなのかもしれないな。
大昔は、それが普通の親かと思ってたけど。どうやらそうじゃないみたい」
母親への愚痴を聴いてもらって、少しは気持ちが軽くなる。
……しかし、こういった会話ですらも彼女の掌握するうちかもしれない。
その可能性を考えると、表情は晴れない。
背中を叩かれてますます、夏バテの進行したようなげんなりとした顔に。
「そういうのじゃ……そういうのじゃないけど……
こう……神聖で侵されべからざるアレが……」
ため息。
「そっか……そういう反応されたのはなんか久しぶりだな。
一般的男子の感覚って、理屈じゃわかってるけどいまいちつかめなくて。気をつけるよ」
やや恥ずかしそうに、顔を掻く。
■ヘルベチカ > 「まぁ、普通の親、ってのも、確固たる親制度とか親資格とか第一種親主任者認定状とかあるわけじゃないけどさ」
内容物の量が減って、上部に空間の出来た缶を、強めに揺らす。
中の炭酸飲料から、しゅわしゅわという音が聞こえた。気を抜こうとしているらしい。
「別に育った局所やら全裸やら好きなだけ見りゃいいけど、こっちも好きなことやるからな、ってのでいいんでない?」
缶に口をつける。まだ炭酸が強かったらしく顔を顰めるが、
先ほどまでより少しましになったようで、普通に缶を傾けた。
「何。クラスの女子でエロい妄想したことでも書いたの?」
妄想はいいけど書き始めると危ういなぁ、と顎に手を当てて、唸りながら。
頭の上の猫の耳、ぴくぴくと動いている。
口元に僅か笑み。完全に本人は楽しんでいる。
「男なら其れこそ着てる側は意識とかしないだろ。男の服の時は見られないだろうし」
気にすんな気にすんな、とからからと笑って。
「ていうか女子の服着た瞬間に『やだ…やらしい目で見られてる…』って思い始めたら病院行くべきでは?自意識過剰では?」
■ビアトリクス > 「まあ、何を以って普通の親かなんて言うのかはぼくだって知らないけど。
あんな親じゃなかったら、もう少し生きやすかったんじゃないか……
って、たまに思うんだよ」
手持ち無沙汰になるのを感じた。
とにかく男子寮から離れることだけを考えていたので、いつものスケッチブックすら持ってきてはいない。
とりあえず、指先で前髪を引っ張っては戻してみる。
「堂々と、生きていけたらいいんだけどね……ヘルベチカ先輩みたいにさ」
漏れる声にはぼやきの色が強まる。
このヘルベチカという少年には、揺らがない確かな個を感じる。
それを少しうらやましく感じてしまう。
「いや、女子じゃなくて……」
律儀にそう返事してしまって口を塞ぐ。言わなくていいことを言おうとしていた。
「とにかくエロじゃないから。エロじゃないから!」
先の言葉を塗りつぶすような必死な勢いで抗弁する。顔に血が昇っている。
ちなみに実際に書いていたのは、ポエムと呼ばれるたぐいの散文である。
■ヘルベチカ > 「そうだろうなぁ。そういう親じゃなけりゃ、生きやすかっただろうな」
笑いながらそう言って視線を飛ばした先、相手のなんとはなしに落ち着かない様子を見て。
ポケットに手を突っ込んだ。よ、ほ、と格闘した結果。
取り出したのは、少年の持っていたのよりも小さいサイズ、金色に光るコーヒーの缶。
ビアトリクスの前に、クレーンゲームのように、親指と人差し指で挟んでぶら下げて。
「飲むか?アイスノン代わりにしてたから、ちょっと温いけど」
相手からの己に対する評価に、少年は肩をすくめて。
「別に俺だって堂々とは生きてないんだけど……影でこそこそ生きてるよ。表舞台とかそういうのガラじゃないし」
評価ミスだ、と、ふるふると首を振った。
溜息一つ吐いて、空を見て。
「まぁ、だから気兼ねはせずに生きてるってのはあるな。関わってないから気兼ねしてない。
お前も、今別に親と同居してるってんじゃないなら、気兼ねしなけりゃいいんじゃない?」
足の裏、ざりざりと地面の上、砂を擦るように揺らして。
「昔は無料だったらしいけど、今は払わなきゃいけないとはいえ、働きゃ用意できるくらいだし、ここの学費」
「女子じゃなくて……え?彫像とk……死体……?」
先日の会話の中身を思い出して、事実よりも随分とアウトローな方向へ想像が進んだ。
「エロじゃなくて見られたく……あぁ、うん、色々と趣味は在るよな。格好だけじゃなくてな。いいと思うぜ、外に出さなきゃ……」
理解者の笑み的なものを浮かべて、彼我の間追加で3cm距離が空いた。
■ビアトリクス > 「ありがとう……いただくよ」
小さなコーヒーの缶を、恭しくいただく。
気を遣わせてしまったかな、と少し申し訳なくなり。
「堂々と、って言い方がまずかったなら……
後ろめたいところがない、とか、ふてぶてしい、とか。
ぼくはたまに、自分自身がどうしようもなく恥ずかしくなるから……」
ふてぶてしい、というのはビアトリクス的には高評価である。
伏し目がちになりながら、プルタブを立てる。
「……何らかの形で、母親とは決着を付けないとな」
表情を晴れがましくはできないが、重苦に苛まれるものではなくなった。
彼と話していると、思いつめていた自分の悩みも大したことではないように思えてくる。
「……あのなあ妙な偏見持ってるだろ!
ぼくだってそこまで極まってないよ! 人間だよ人間!!
あと猟奇趣味でもないからな!?」
空く距離を詰めんとばかりに身を乗り出し食って掛かる。唾が飛んだかもしれない。
■ヘルベチカ > 「どうぞめしあがれ。ちゃんと懐より大事なポケットで温めといたからな…冬場でも安心…」
真夏。蝉が鳴いている。煩い。
温い、とまではならない程度に低温を保っているのが救いか。
「ふてぶてしい」
目をカッと見開きながら、口をへの字に。歌舞伎の見栄染みた表情。
それから、げらげらと大きく笑って。缶の中身が零れそうになったところで、慌てた様子で笑うのを辞めた。
「あってるかもな。もっと空気読めよ、って前に言われたことあるし」
にやにやとした表情のまま、缶の口から跳ねた水滴、親指の付け根についた其れを舐めて。
「水は血にならない、とも言うけどさ。縁も絆も、壊せるし、繋げるから、名前がついてるんだ。思うままやってみなよ」
勝手な言葉。相手の事情を斟酌する様子もない。
「………………」
わんわん、と耳元で響く相手の声に、少年は目を閉じて耐えて。
途絶えたところで、上腕、夏制服のシャツの袖で、唾液の飛んだ頬を拭ってから。
「大丈夫。男が好きでも、世界は君を許してくれるさ……」
悟っていた。
■ビアトリクス > 「無用な安心すぎる……」
ともあれ口をつける。ゆるやかに缶を傾ける。
多少温かくなっていようがなんだろうが、スムーズに喉を潤し、身体へと染みわたっていった。
「その好き勝手な態度とかもね。ぼくにとっちゃ好ましいよ」
皮肉げに口元を歪めた。声の調子から、悪くは受け取っていないと察される。
「リベラルな意見ありがとう」
愛想のない声。二度目のセリフであった。
瞬間湯沸されていたビアトリクスは、あっという間に冷めて戻った。
缶を持っていない手を、自身の胸元に添える。
「世界が許してくれなくたって結構さ。
彼が許してくれるなら、ね」
流し目に語る。
ビアトリクスは、美術に携わる人間の多分に漏れず気取り屋だった。