2015/08/12 のログ
ご案内:「常世公園」に倉光はたたさんが現れました。
■倉光はたた > 夏の陽の差し込む公園。
ぺた、ぺたとそこに足を踏み入れる少女がひとり。
この場にそぐわない、薄桃色の病院着。
加えて、日差しを反射する白い髪、黄金色の瞳。
どこか人間離れした雰囲気は、この空間自体から浮いた異界めいたものを感じさせる。
倉光はたた。
数日前までそう呼ばれた少女は、情緒の伺えぬ瞳を――どこにも向けていない。
どこに向けていいか、彼女は知らなかった。
ぐらり、ぐらり、とふらつきながら入り口の付近を歩く。
歩き方すら慣れていないようだった。
■倉光はたた > 数日前、落雷の直撃を受けて、死んだ少女がいた。
遺体安置所で、通夜や葬儀を待つばかりの身であった彼女の遺体は、
なぜか忽然と消えてしまった。
それが今、ここ常世公園を闊歩している。
両腕を前に出し、どうにかバランスを取りながら、歩を進める。
ベンチを見つけ、そこに、身を投げ出すようにして座る。
じた、ばたと両脚をばたつかせた。
数秒後。
姿勢の制御に成功し、落ち着いて座ることができたはたた(そう呼んでおこう)は、
足を持ち上げ……その、足裏を見る。ずっと裸足でここまで歩いてきた。
細かい砂利や小石が張り付いている。微細な傷だらけだった。
「…………」
相貌になんの感情も浮かべず、なんの感想も口にせず……
足を元に戻し、座り直す。
ご案内:「常世公園」に平岡ユキヱさんが現れました。
■平岡ユキヱ > 「ぬわぁ…あっつぅぅい…」
コンビニの買い物袋を片手に、ぺたぺたとゾンビのように歩くユキヱさん。
公園に涼みに来てみれば、いやに不自然な人影。
「…あの、大丈夫? 熱中症ですかぁー?」
職務質問…ではないが、相手の病院服からしてどうにも穏やかでないと考え、
倉光の座るベンチに近寄って声をかける。
■倉光はたた > ユキヱが近づいてくるのに、はたたは素早く反応した。
だん、と木製のベンチに手をついて立ち上が――
ろうとして、勢い余って顔面から地面にダイブした。
「…………」
そのままジタバタと、スイッチが入りっぱなしのおもちゃのように
手足をでたらめに動かした。
転んだのは初めてだ――と、言った風に。
立ち上がろうと頑張っているように見える。
あ、とか、う、とか意味のなさない呻きが聞こえた。
黙って見守るのであれば――少しの間はそうやってもがき続けるだろう。
■平岡ユキヱ > 「うわっ!? ちょっ…おおーい!?」
地面にダイブする相手を見て迷うことなくすぐに駆け寄った。
買い物袋を放り投げ、肩を貸すように抱き起そうと身を寄せる。
はた、と相手が素足である事に今更ながら気が付いた。
そして相手のうめき声。
件の誘拐事件か何かは知らぬが、どうもキナ臭くなってきた。
顔つきが真剣な風紀のそれになり、倉光に声をかけ続ける。
「おーい! あなた喋れる!? 日本語OK?
ハッピーうれピーよろピくねー!
…。病院から脱走でもしてきたの?」
他の人呼んでもいい? とスマホを取り出した。
■倉光はたた > 肩を貸して助けようとするのであれば、
服や体にしがみつくようにして強く引っ張って立ち上がる。
「……!」
掴んでいるモノ――ユキヱがはたたの目に入る。
一瞬走る痺れ。
微弱な静電気が、はたたの身体からユキヱへと伝わるだろう。
一瞬でも怯めば、バッと身を離す。
そして数歩距離を取る。
日本語を正しく解している雰囲気はない。
「ハァーッ、ハァーッ」
口を開け、でろんと舌を出して荒く呼吸する。
ユキヱをじっと観察するその表情には、明らかな警戒が見て取れた。
確信の篭った動きで、右手を突き出す。その指先がちりちりと鳴る。帯電していた。
■平岡ユキヱ > 「いたぁっ!?」
びりっ、と不自然な電気を感じる。
その隙に距離を離されてしまうが、深くは追わない。
ホコリを払うように体をたたきながら、わずかな痺れを逃す。
「…」
じっ、と、濃い栗色の瞳で相手を観察する。どうも、何か、おびえているような。
声を発しようと思った刹那、相手の指先の閃光を見た。
正体不明、ならばそれは大砲の筒先と思うべし。
じりっ、と猫のように髪が逆立つが、すぐに構えそうになるのを堪える。
「…話せないの? …わかった。それならそれでいいわ。
でも別にあなたにひどいことするとか、そういうつもりはないの」
だから、落ち着いて…。と言葉でなくとも、声の調子で伝わるようにと静かな声で語り掛ける。
■倉光はたた > そのまま、動こうとはせず――ただ黄金の瞳が見つめ返す。
語りかける、ユキヱの一挙一動を観察する。
やがて、ユキヱに害意のないことを感じ取ったのか――
帯電する指先をゆっくりと下ろす。
だらり、と両腕を垂れ下げた、前傾姿勢に。帯電は消えた。
汗の浮かぶ、怯えに似た表情。しかし警戒の色は弱まり、消えていく……。
「はな――せ――ない」
おもむろに、意味のある言葉が紡がれる。
しかしたどたどしい――人真似のようなしゃべり方。
困惑している。
ただ自分の置かれている状況、それすら理解できていない――
そんな雰囲気が、見て取れる。
■平岡ユキヱ > 「んー、訳ありか…。まいったね、ユキヱさん一応
風紀なんだけどなあ…」
しかしこの正体不明病院着ガールを有象無象の上の人間に投げるのはどうかと思う。
平岡ユキヱはこの場面において、正義ではなく人情と仁義を選択する事にした。
落とした買い物袋を拾いあげ、頭をかく。
「よくわかんないけど、病院は嫌なのね?
なら学生寮は? 名前は言える?」
まあ座りなよとベンチへの着席を促しながら、そんな質問をいくつかぶつけてみる。
■倉光はたた > 促されるままに、ベンチに乱暴に身を投げ出す。
がたんとベンチが揺れた。
「がくせいりょう……びょういん
よくわかんない……」
「な――まえ、なまえ、なまえ、なまえ……」
ユキヱの言葉に反応し、単語を何度か繰り返す。
はたたの瞳が天を向いた。
「なまえ」
ぴた、と口が止まる。
「く――ら――……み――つ――」
一度苛立ったように、ばち、とベンチに付いた手から白光が奔る。
「は――た――た ……?」
自分の名前らしい、音の連なりが紡がれる。
ただしかし彼女自身も、いまひとつ信じきれていないような、そんな言葉。
それはきっと本当の自分の名前ではないとでも言いたげに。
■平岡ユキヱ > 「アイス食う? 溶けかけだけど」
彼女の横に座り、パウチ容器に入った飲むタイプのアイスを袋から差し出す。
ニッ、と朗らかに笑っていた。
「クラミツハタタ? それがあなたの…」
スマホで風紀用のデータベースにアクセスし、登録生徒の検索をかける。
「…えっ?」
しまった。と思ったが声が思わず出てしまった。倉光の方を横目で見るが、すぐに黙る。
―倉光はたた 3年生 死亡(死因:落雷)
「…」
この陽射しとは別に、嫌な汗が首筋を流れる。いかにすべきか。数秒の間黙った後。
「倉光センパイ、誰かに追われて逃げてきたんですか?
さっきはずいぶんと私を怖がってましたけど…」
ただの偶然か、あるいは何かの事件性があるのか。背景を確かめるべく、質問をぶつけた。
■倉光はたた > 飲むタイプのアイスを受け取り、その冷たさに目を一瞬見開く。
それが飲食物だとはすぐに判別がつかなかったらしく首を傾げてそれを眺める。
噛み付いてみたり叩いてみたりする……どうしていいかわからないようだ。
「……おわれ……だれか……?」
質問を向けられ、がくがくと上下左右に首を揺らした。
「――ない――……よくわかんない」
追われていたのは確かだった。病院関係者に、ではあるが。
はたたと名乗る少女は何もかもわからなかった。
だから、その質問に答えるすべを持たない。
「あ、あ――……!」
バン! と音を立てて白くまばゆい電光がはたたの全身からほとばしる。
無秩序なそれはユキヱだけを避けて――茨のように、
はたたの身体から逃れようとするように、あたりを焦がしながら広がっていく。
だが――それはかなわず。数秒で収束し――
はたたの身体へと戻っていった。
擦りむいて傷ついた肌は赤く、病院着は汗に濡れている。
死体のようにはとても見えない。
しかし彼女の肉体は間違いなく死を経験していた。
■平岡ユキヱ > 「おわぁぁぁ!!?」
色々ほとばしってますよ倉光センパイ!!
と叫びながらのけぞるが、さすがに光速相手では分が悪い。
ほとんど何もできないままにただ電光を見るだけで精一杯だった。
が、見ることによる発見もある。
「光…いや電撃が戻って…る!?」
戻るとはどういう事だろう。と異能や魔術的な分野から遂行してみる。
1、彼女は生き返った? しかし不安定
1、彼女は電撃を発する
1、その電撃は彼女の体へと戻った
…。一つの嫌な推論に達する、もしかして。
「倉光センパイ…あの、あんまり電気は撒き散らさない方が…」
全てを放電したら、もしかして、彼女は、今度こそ、『絶命』するやもと一人思う。
「…うーん、どうしよ。私も寮だしなあ…。
倉光センパイ、今日寝るところとか決まってるんですか?」
死んだはずの存在が寮に戻れば大騒ぎになりそうな気もするが、一応尋ねてみる。
■倉光はたた > 「…………まきちらさない……」
自分の行い、のけぞるユキヱ、そしてただならぬ響きの声を、
率直に受け取ってやや怯えるような表情を浮かべ、立ち上がる。
そのまま落ち着かない様子で、がじがじ、とパウチ容器をあらためてかじり始めた。
あまりおいしそうには見えない。
「ねるところ……」
がくがくと首を上下左右に揺らした。
しばらく見ていると左右オンリーになった。
上下と左右、どっちが肯定でどっちが否定か、思い出せたらしい。
■平岡ユキヱ > 「あー、いやそれ吸うんですよ。冷たいの、出てきますから」
あーだこーだ手とり足とり教えつつ、アイスの食べ方を伝授する。
ちなみにこのタイプのアイスは大抵頭が痛くなることはあえて言わなかった。
ククク…とこの非常時において結構余裕かますのがユキヱさんスタイルだ。
「なんすかそのグラ○ィウスみたいなコマンド入力は…」
コンマイかな? と冷静に観察してから。
相手から否定の反応が返ってきたことに困惑し…
「じゃ、私の部屋に泊まります?」
コンマ5秒程悩んでから。いいよこいよ! と決断して満面の笑みで親指を立てた。
旅は道連れ、余は情け。ほどほどに適当でなければこの世はあまりに息苦しすぎる。
■倉光はたた > 「…………!!!!」
アイスの食べ方を教えてもらって瞠目しながら
ズゾゾゾゾと無心に吸い始めるはたた。
容器はあっというまに吸い尽くされてカラになった。
水分が足りていなかったのかもしれない。
寝るところ、などという計画的な思考ははたたにはもちろんなかった。
「……」
その提案に数秒ほど固まる。
言葉をうまく使えている様子はまったくないが、
言葉を完全に解せないというわけでもないらしい。
「(ユキヱを指差し、)……のへや、(続いて自分を指差す)……」
そしてまた数秒ほど固まった後、おずおずと、硬い面持ちでユキヱに歩み寄った。
■平岡ユキヱ > 「わあお、本当に熱中症気味だったのかな…?」
こりゃいかん。とまだ明けていないペットボトル(麦茶)も差し出す。
「一年、平岡ユキヱです。よろしくどうぞ。
最近変な誘拐事件も増えてますから、ちゃんと寝床は確保しないとダメですよー?
っま…私の部屋にいる間は、変な奴とかは来ないと思うんで安心してください!」
女子寮ゆえに怪しい野郎どもは事前に抹殺されるであろう、とノンキに考えながらガハハと笑う。
相手が言葉に詰まったり迷ったりしているのは何となく感じていたが、
だからこそ敢えて自然に話し掛けるようにする事にした。
過剰な気遣いや優しさは、むしろ相手に対して失礼だというユキヱの持論からなる行動だった。
「基本鍵はかけてないんで、自由に出入りしてくれていいっすよー?
寮のおばちゃんには話しておくんで」
そんな感じで。と笑いながら、ふいに真顔になる。
「…でも、困ったことがあったら言ってください。
風紀委員は、この島の生徒の、困っている人たちの味方です。
一人で抱え込むのはナシですよ?」
■倉光はたた > 麦茶のペットボトルのフタは例によってがじがじと齧りだした。
サルでももう少し賢くペットボトルに向き合えるだろう。
「ゆきえ。……ゆきえ」
対象に指を差す。相手の名前を、口に含んで咀嚼するように繰り返す。
「…………」
ユキヱの言葉に、(フタをがじがじしながら)
黙って耳を傾けるはたた。
彼女の言葉をどこまで理解できたのか。それは誰にもわからない。
曖昧模糊な認識の中でそのニュアンスに手探りで触れることが
現状のはたたにできる理解だった。
ただ、悪意や害意の有無だけは、はっきりと感じ取ることができた。
幼子が母親にたいしてそうするように、
ユキヱの言葉のいずれかに対しがくがくと首を縦に振った。