2015/08/24 のログ
ご案内:「常世公園」にリヒットさんが現れました。
リヒット > 残暑の続く、お昼過ぎの常世公園。
陽光は容赦なく降り注いで白砂を熱し、公園を囲む林の中ではセミ達が過ぎ行く夏を惜しんでけたたましく鳴いています。

広場には立派な噴水を備えた円形の池があり、夕方を過ぎると涼を求める若者のたむろする場となりますが、昼間は子供たちの楽園です。
薄着に着替えた小さいお友達が、母親の監視のもと、噴水のそばで無邪気に走り回ったり、何人かは池の中に立ち入って水遊びとしゃれこんでいます。

「……ひやひやー」

暑さもなんのそので暴れまわる児童たちに混じって、ひとりの男児もまた、冷ややかな水に足を浸し和んでいました。
その髪は海のように青く、女の子のように長く伸ばしていますが、どうやら男の子のようです。
なぜ分かるかって? 全裸だからです。
さすがに公園で裸んぼになっている子供は他にはいませんが、周囲の子供も大人も特に気にしている様子はありません。

……いや、気にしてる人もいるようで、何人かの子供連れは、噴水から離れて遊んでいます。
やはり、『異邦人』というのはそれだけで警戒されてしまうものでしょうか?

リヒット > そんな周囲の大人の好奇の目は一切気にする素振りもなく、リヒットはタイル貼りの人工の池の中でくるくると回ったり、ぼーっと空を見上げたり。
あるいは、ステンレス製の水の噴出口をじっと眺めたり。

「……てつ? さびさびしないの?」

不思議そうに首を傾げるリヒット。
故郷の『異世界』にも、似たような噴水のからくりはありました。少し大きい街に行かないと見れませんでしたが。
こんなに幾筋も水が吹き出し、たまに脈動するように強弱がつくような、楽しげな噴水は見たことがありません。
リヒットは、銀色のおちんちんのようなソレから水が吹かれ、高く弧を作り、虹を描いている様を飽きることなく眺めていました。

「……くさい」

……ただ、池の水から嗅いだことのない臭いがするのが、鼻につきましたが。消毒用の塩素臭が残っているのは、リヒットにとってはちょっぴり苦痛なのでした。

リヒット > そんな、如何にも『馴染めない子供』然とした青髪の少年に見かねたのか、あるいは親に言われたのか。
ひとりの男児(水着姿)が、おずおずと近づいてきます。

 「……ねぇ、あそぼ?」
「……んー」

声を掛けられ、ぼんやりとした表情のまま振り向くリヒット。
顔立ちなどは明らかに、話しかけてきた男児のほうが幼さを残しており、実際に歳下なのですが、背の高さはリヒットのほうが低いようです。
……というより、スケールそのものが約半分と言ったほうが適切ですが。文字通りの『小人』で、奇妙に見えても仕方がないでしょう。

「うん、あそぼー」

リヒットは笑顔を浮かべることなく、かといって不満という風でもなく、表情を変えないまま頷きます。
その様子に、話しかけてきた男児もやや困惑の色を浮かべます。リヒットは表情があまり顔に出ない方なのでしょうが、話しかけてくる相手からすれば対処に困る物。

とはいえ、リヒットは子供と遊ぶのは大好きなのです。

リヒット > 「ぷわぷわ~……」

イマイチ張り合いのない、気の抜けたような擬音を呪文のように口にしながら、男児の前で両手を広げるリヒット。
すると、彼の指の間から……いいえ、腕全体から羽根のように、無数の小さなシャボン玉が生まれ、広がっていくではありませんか。

 「おー!! すげー!!」
 「なにこれ、きれいー!」

男児が大げさに叫ぶと同時に、周囲で遊んでいた児童たちも振り向き、空に舞い上がるシャボン玉の群れに目を奪われていました。
子供たちの、そして親たちの楽しげな反応に、リヒットの口の端も少しだけ吊り上がっています。どうやらリヒットの最大級の笑顔のようです。

「……ぷわ~」

そのまま、くるくると竹とんぼのように噴水の中を回り、どんどんとシャボン玉を振りまいていきます。
子供たちはその美しい光景に見入ったり、あるいは追いかけまわして壊そうとしたり。
噴水の周囲は、たちまちさわやかな石鹸の香りに満たされていきました。

リヒット > 不自然な方法で、ありえない量のシャボン玉を作り出す少年に、はじめは警戒の色を見せる母親もいました。
しかしシャボン玉がごく普通のシャボン玉で害がないことを察すれば、徐々に彼女たちも顔をほころばせ、その美しい光景に眼を細めていました。

「シャボン玉、きれいきれい~」

呟くように、歌うように、女の子のような甲高い声で唱えながら、シャボン玉を飛ばし続けるリヒット。
疲れなど感じません。これはリヒットの能力……というよりも、『仕事』に近いものなのですから。
風が吹き、火が燃え、水が流れる。それと同じコトのように、シャボン玉は球体となって風に乗り、きらめき、彩るのです。

……リヒットが転移荒野に放り出され、川を泳いで『居住区』に行き着いたあと。
『人間の村』だと思っていたそこは、想像以上の光景に包まれていました。
地面も家々も見慣れない素材で色とりどりに塗り固められ、土も緑も点々としか認められません。
広い道では馬の代わりに妙なカラクリの箱が轟音を上げて走り周り、夜になっても不気味に白い光があちこちに灯っています。

確かに、そこに住んでいたのは、故郷と同じような『人間たち』でした。でも、『自然』が異様に少ないのです。
漫然とした不安に包まれるリヒットは、しかし、ここ常世公園に一応の安息を得ることができたのです。
塩素くさくはあるものの水場があり、自然も土もあり、そして一緒に遊べる子供もいる。とりあえずホームシックは避けられそうです。

……まぁ、ホームレスなんですが。