2016/01/27 のログ
ご案内:「常世公園」にリヒットさんが現れました。
リヒット > 時刻は、午後7時ちょっと前といったところでしょうか。
日もとっぷりと暮れ、空は真っ暗。公園内も街灯がまばらに生えてはいますが、決して明るいとはいえず。
そして今夜は一段と冷え込み、じきに氷点下に至ろうかという気温。ぴゅうぴゅうと冷たい風も吹いています。
人影は全く無いとはいえませんが、まばら。そしてどの通行人も家路を急いでいるようです。

そんな中を、ふらふらと風に舞う風船のように浮遊しながら漂う人影ひとつ。
己の身長よりも長い青髪がさらさらと揺らめき、風を捉える帆のように拡がっては閉じ、そのたびに街灯の光を反射して水面のように輝きます。

「ぷー……暗い……。風強い………からから……」

リヒットは浮遊能力を持っていますが、風に乗って大雑把に行き先を決めたら後の移動速度は風の気分しだい。
しかし、今夜のリヒットの浮かび方にはどこか力がありません。少し油断すると、くるりと宙返りしそうなほどに、ふらふらと。
どうやら、学園でのお勉強に熱が入りすぎたようです。

リヒット > 真冬の屋外、それも気温が下がり始める宵の入り。
道行く人は皆何枚も厚い布の服を着重ねて寒風を防いでいるというのに、リヒットは相変わらずのスモック一丁。
靴も靴下も履いておらず、真っ白な脚がスモックの裾からぷらぷらと伸びています。

リヒットは水の妖精です。だから……かどうかはわかりませんが、この程度の寒さは平気な様子。
しかし、常世島の冬はリヒットには厳しいものでした。それは温度ではなく湿度の問題。

「……うー……乾くぅ……。かさかさする……」

風が1つ吹いてスモックの中を抜けるたびに、肌から水分が、すなわちリヒットの生命力が奪われていきます。
故郷の冬はここまで寒くもなければ乾燥することも稀でした。
いつもならこうして外を闊歩するときには、いくつもシャボン玉を浮かべて引き連れながら浮遊していたもの。
しかしここまで乾燥がきついと、リヒットがシャボン玉を作り出しても、すぐに水分が飛ばされて割れてしまうのです。
そして、こうしていつまでも夜風の中にぼーっとしていては、リヒット自身さえも乾ききって割れてしまうのは時間の問題。

「……いほーじんがい。とおいなぁ……」

リヒットは一応まだ、異邦人街の池に棲んでいることになっています。この島では転々と棲家を変えるのは混乱のもと。
しかし、今夜の乾燥具合のなかを、区を越えて異邦人街まで到達するのは難しそうです。

リヒット > 「ぷー……もうダメ。今日はここでねる……」

苦渋の決断です。くるりと髪を翻して身体をひねると、公園の広場の真ん中に建てられた人口の池へと素早く飛行していきます。
リヒットがはじめて常世島に来た頃にもお世話になっていた噴水池です。
いま棲家にしている異邦人街の溜池よりも浅く、透き通っていて、しかも溜まっているのは何か変な匂いがする水です(塩素でしょう)。
居心地がよいとは言えず、通行人にも見つかりやすくて要らぬ騒動を招きかねないと、学園側からは基本的にこの池は使わないようにと言い含められています。
しかし命には替えられません。着の身着のまま、ふわりと一つ宙返りをして池に飛び込むと、パシャ、とその体格に見合わない僅かな水音だけが上がりました。

「………ふあぁ……。しみこむ……きもちいい……」

外気に冷やされ、摂氏0度に近い水。一応まだ凍ってはいないようですが、しっかり循環させていなければ凍るのは時間の問題。
そんな水でも、リヒットには命の糧でした。もともと水は冷たいものです、この程度の冷たさなんて屁でもありません。
乾燥した外気のなかを放浪してきて消耗した身体に、じわじわと力が戻ってくるのを感じます。

リヒットは水の精霊なので、完全に水に潜ってしまっても窒息することはありません。
要らぬ乾燥を防ぐために、そして人目を避けるためには底近くまで潜っているべきなのですが……。
リヒットは何を思ったか、背泳ぎの姿勢でぷかりと水面に浮かび、紺碧の瞳をまんまるに開きながら、空を見上げています。

ご案内:「常世公園」に真乃 真さんが現れました。
リヒット > 「………おほしさま」

薄暗い公園の真ん中、噴水池の水面に軽い身体を預けたまま、天頂を見上げるリヒット。
空に浮かぶ星々を眼で追い、数を数えます。

この島に《転移》し、居住区までたどり着いた夜にも見上げた夜空。
冬の空気は澄んでいて、残暑のころよりは多くの星をその眼に捉えられますが、それでもやはり故郷の空よりは明らかに星が少ない。
……いえ、見えないのです。地上から空へと放たれる光のあまりの多さと広さと強さに、空そのものが薄ぼんやりと灯りを帯びているのです。
その人工の光に隠されて、星が霞んでいるのです。
リヒットはこの『薄まった夜空』を見上げるたびに、どこか寂しい気持ちになります。郷愁というやつでしょう。
故郷の世界へと戻る見込みはまだ、欠片も見いだせていません。

「……いちいちが、いち。いちにが、に。いちさんが、さん」

ぽつぽつと呟くように、あるいは歌うように、学園の『おべんきょう』で習った文言を唱え始めるリヒット。
九九です。リヒットは自分よりも大きい人間の生徒たちとともに、算数の勉強を続けていました。足し算引き算程度ならすぐ飲み込めたので、次は掛け算です。
数字と数字をかけあわせた積の数だけ、空の星を眼で数えています。

「さんご、じゅうご。さんろく、じゅうはち。さんなな………にじゅう、いち? ……さんはち……さんはち……」

積が20を超えるあたりから、星を眼で追うのが難しくなってきたようです。
そもそもそんな大きな数の何かを数えた経験がないのです。その必要もなかったのです。
『さんはち』の答えは『にじゅうよん』であることは、散々習いました。でも、数えられない数を、数えられないまま唱えることが、リヒットにはできません。
九九をマスターするには時間がかかりそうです。でも、勉強そのものは楽しい様子。