2016/02/07 のログ
ご案内:「常世公園」にリヒットさんが現れました。
■リヒット > ちゃぷ。
……公園の広場の中央に据え付けられた、小さめの噴水池。冬場は見た目が寒々しいということで水量は抑えめです。
その縁から、水色の髪の毛をまとわせた頭部が持ち上がり、ベンチのほうを伺っています。
今日も今日とて常世公園でこっそり水浴び中だったリヒット。
冬の水場に子供が泳いでいる光景が見咎められればちょっとした騒動にもつながりかねませんが、こちらとて水の精霊、冬の乾燥は大敵です。
そして、人通りがまばらになると、こうやって顔を出し、人間観察。異邦人街よりは人通りがあり、興味を引くものが多いのです。
そしてなにより、人間の居住区にいるほうが、リヒットは落ち着けるのです。
さて、池の縁からベンチに座る人影を見定めたリヒット。
座っている人間の様子は、この島にいる多くの人間……『にほんじん』というらしいですが……とはやや異なる趣の容姿。
髪はブロンド、装いも他の学生の『制服』からはやや離れた意匠。それでも一応人間には見えますが。
そしてベンチで読みふけっている大きい紙は……。
リヒットはふわりと池から浮かび上がり、湿りきった長髪やスモックから水を滴らせながら、浮遊して音もなくベンチへ近づいて行きます。
そしておもむろに後ろに回って、セシルさんの読んでいるものを覗き込みます。
「………ちず? おにーさん、旅人?」
小鳥が鳴くように甲高い、性徴の感じられない声が響きます。
■セシル > 「…ん?」
魔術の嗜みはなくもないが、セシルは基本的に剣士である。
精霊の類の気配の察知にはさほど強くない。
…というわけで、気がついた時には後ろに回られていて。
振り返ると、そこには小さな子どもが、浮いていないとあり得ないだろう位置に存在していて。
思わず、真顔になった。
「………魔物の類では、なさそうだな」
転移荒野帰りなので、内心気持ちは穏やかでない。
表向きはあまり動揺しないように努めながら(それでも、顔つきはちょっと硬いかもしれない)
「旅人のような要素はなくもないが…一応、学生だ。
来たばかりなので、あまりこの島に詳しくはないがな。
………あと、あえて言うなら「おねえさん」だ。そうは見えづらいのは分かるが」
真顔で応じます。
流石に、小さい子ども(に見える存在)にはさっさと事実を話しておくことにしました。
■リヒット > 「リヒットは、魔物じゃないよ。でも人間でもないよ。シャボン玉」
ベンチに座ったセシルさんの表情のこわばりを機敏に察知。そして、腰に佩いた武器にも気づきます。
リヒットの表情はボケッとしたまま変わりませんが、ふわりと風にのるように舞い上がってほんのすこしだけ距離を置きつつ、無害であることを弁明します。
シャボン玉であることを証明するように(?)、浮かび上がるリヒットの着衣の裾から数個のシャボン玉が放たれ、付き従うように位置を保っています。
「おにーさんじゃなくて、おねーさんだったんだね。わかんなかった。ごめんね。
リヒットはおとこだよ」
浮かび上がったことで、スモックの中身も見えてしまうかも。何も履いておらず、男の子の証がとても小さいながらもチラチラ見えちゃうかも。
冬の装いとしてはあるまじき薄着で、しかもズブ濡れという異様な姿。まぁすでに冬の風に吹かれて乾き始めていますが。
「………来たばかり? もしかして、おねーさんはいほうじん?
リヒットもいほうじん……だよ。来てから何ヶ月か経つけどね」
ふらふらと風に舞いながらも位置を大雑把に保ちつつ、紺碧の瞳をまんまるに見開きながら、セシルさんの容姿や物腰を注意深く見つめています。
■セシル > 浮かび上がった子どもが着衣の裾から無数のシャボン玉を吐き出す様に、
「………存在の軽さからすると、精霊の類か。
…きみに害意がないのは分かった。武器は使わないから、安心すると良い」
…と手をひらひらさせながら言い、こちらにも害意がないことをアピールする。
…がシャボン玉が放たれるべく裾が広がった瞬間、スモックの中身がちらりと見えて一瞬ぎょっと目を見開いた。
「いや、いい。分かりにくいのは分かっているからな。
きみほどの年齢ならば、余計に分からんだろう。
………ところで、その服の下、何も履かんのか?」
「ヒト」とは違うようだし、指摘して意味があるかは怪しかったが…かといって黙ったままでいると、小さくない問題が発生しそうで。
恐る恐る、確認した。
「ああ…ここでいうところの「異邦人」だ。
…きみもそうなのか。ただ、この島で過ごした時間ではきみの方が先輩だな。私はまだ1ヶ月も経っておらん」
そう言って優しげに笑った。それでも、口が横に広がる笑い方はどこか男性的である。
■リヒット > 害意がないという言葉と仕草に、リヒットは音もなく高度を落とし、相手が話しやすいように正面に周ります。
座っているセシルさんと視線の高さが合う位置ですが、それでもリヒットの足(裸足です)は地面から数十センチも浮いています。
「せいれい。……うん、たぶんそうだね。『向こう』でも『こっち』でも、そういう呼ばれ方はけっこうされた。
リヒットにはよくわかんないけど。リヒットはリヒットで、シャボン玉だから。
おねーさんは、にんげんで、いほうじん。きっとリヒットみたいに名前もある。呼び方がふえると、なんかこんがらがるね」
他人を名前以外の分類で呼ぶことにはまだまだ不慣れな様子。
「この服の下? んー……布はつけたくない。ごわごわするのは嫌い。ホントはこの『せいふく』も着たくない
でも、人混みに行くときはおちんちんは隠さなくちゃいけないし、学生はせいふくをつけなくちゃダメらしい。
おねーさんのその服は、せーふく?」
相手の着衣は、紺色という色合いこそ常世学園の制服とある程度一致してはいますが、作りが微妙に違うように見えます。
まぁとはいえ、学生のなかでもオトナに近づくほど服装は自由闊達に各々が選んでいるようにも見えます。
ましてや相手は異邦人、相手の故郷の世界の服なのかもしれません。
興味深げに、セシルさんの出で立ちや服の作りなどをまじまじと見つめるリヒット。徐々に顔が近づいていきます。
リヒットの艶やかな髪からは、ほのかに石鹸の……ラベンダーを基に柑橘の匂いを混ぜたような香りが漂っています。
「1ヶ月……おねーさんは、とこよじまに来たばっかりなんだね。
……おねーさんのいた世界って、どんなとこ? おねーさん、寂しくない?」
服を検分する視線を上げずに、尋ねます。
■セシル > 「………なるほど、「分類」というのがきみはよく飲み込めていないのだな」
元の世界でも「精霊」と呼ばれていたらしいことが本人の口から語られて、いよいよ安堵する。
セシルの世界の「精霊」は、よほど力ある存在に無礼を働かない限り、人間に害のあるものではなかったから。
「そうだな…人間で、異邦人だ。
名はセシルと言う。
…「人間」の「集まり」の中の、「異邦人」という「集まり」の中にいる、セシルだと考えてもらえれば…少しは、こんがらがらずに済むか?」
どうやらこの「精霊」には「分類」という思考法が浸透していないようなので、自己紹介ついでにその辺を噛み砕いて解説してみる。
…そして、「布をつけるのは嫌い」という発言に、悩ましげにこめかみを押さえた。
「………その…嫌いなことを無理強いするようで、申し訳ないのだが。
その「制服」だけだと…よく浮いているきみの…「おちんちん」を、隠しきれていない。
人の顔より高い位置に飛ぶと、その………見える」
正直言いづらいのだが、本人が口にして恥じないようなのなら、自分が我慢すれば指摘は適うと判断して。
沈痛な面持ちながら…真正面から、言い切った。
「ああ、私の服も制服だが…これは、元いた学校のものだな。常世学園のものではない」
服装について尋ねられれば、袖を軽く摘んでみせながらそう説明する。
普通の制服より生地が厚手で、かなり丈夫そうに見えるだろう。
リヒットがセシルに近づけば、ペパーミント系の爽やかな香りと…それに混じって、汗の匂いが微かにするだろうか。
セシルの方は、近づいてくるリヒットの香りに
(シャボン玉というには随分良い香りだ…女物の石鹸か?)
などと考えていたりした。
…が、「寂しくない?」と聞かれれば、少し困ったように笑って。
「そうだな…寂しいし、やり残したこともあるから、出来れば帰りたいと思っているよ。
私が元いたところは、魔法や異能が当たり前だった分、この世界ほど便利なものはなかったがな。それでも、生まれ育った場所は愛おしい」
そう、答えた。
■リヒット > 名乗られれば、顔を上げ、青く丸い瞳をくりっと開きながら見つめてきます。相変わらずの無表情。
「おねーさんは、セシルさん。にんげんの、いほうじんの、セシルさん。
これはリヒット。せいれいの、いほうじんの、リヒット。よろしくね。
……やっぱり、これ以上呼び方が増えたらこんがらがる。なんというか、面倒。でも名前がわかったから、だいたい大丈夫」
少なくとも、名前がない人には会ったことがありません。名前さえあれば、大抵のことは大丈夫なはずです。
リヒットも自分が『特別なシャボン玉』になってからは『リヒット』でした。それ以前のことは……覚えてません。
服の中身が見えていたことを婉曲なしに指摘されても、リヒットはとくに恥じらったり狼狽したりといった仕草は見せません。
とはいえ見せるべきでないものを見せていたことは理解できたようで、軽く頭を下げつつ、
「おちんちん、見えちゃってた。ごめんね。次からは気をつける。
セシルさんは元の世界でも学生さんだったんだね。あっちでもこっちでも勉強して、まじめなひと。
リヒットはこっちに来てから学生になった。勉強はたのしいよ」
リヒットはしばし、最近の勉強内容に思いを馳せます。算数は掛け算に入りました。言葉も『漢字』なるものをいくつか。
同時に、異邦人、異能、『地球』という世界の現状と文化といったものも、徐々に。
セシルさんが言う『便利なもの』とはおそらく、クルマとかヒコーキとかといったものでしょうか。あるいは今飲んでいるジュースを買ったジハンキとか。
「……ふーん、セシルさんの世界には、異能も魔法もあったんだね。リヒットのいたとこには……たぶんなかった。
便利なものはこの『ちきゅう』にはいっぱいあるってのは、勉強してる。でもまだよくわかんない。
……リヒットは、さびしいよ。もとのとこに戻りたい。セシルさんも、やっぱりさびしいよね。
どうしてリヒットやセシルさんは、『ちきゅう』に来ちゃったんだろう?」
セシルさんの衣服に顔を近づけたまま、ややすぼまり気味の語気で、言います。
時折鼻をひくひくとさせて、目を細めながら。ミントの爽やかな香りの中に漂う汗の匂い。
石鹸の精霊であるリヒットにとって、人間の体臭は馴染み深いものであり、そしてどこか落ち着ける匂いでもあるのです。
■セシル > 「そうだ、セシルだ。
こちらこそよろしく頼む、リヒット」
に、と、少しやんちゃな感じのする笑みを浮かべて、リヒットの方に右手を差し出す。握手のつもりなのは、伝わるだろうか。
そして…セシルの渾身の指摘は伝わったようで、安堵のため息を零しつつ。
「そうだな…もしそれ以上布をつけるのが嫌ならば、出来るだけ人の目の位置より高くは飛ばないようにすると良い。
「見える」ことは、大分少なくなるはずだ」
優しい苦笑い混じりに、そう助言をしたのだった。
「真面目…というほどでもないぞ。
元々は剣術を学ぶ学生だったし、ここではその身分がないと困るからそうしているだけだ。
…まあ、苦手なことでなければ勉強も悪くはないな」
「真面目」という言葉を、苦笑混じりに否定し。
当然、脳裏には「とある科目」が浮かび上がるのだった。
…そして、元の世界のことを語る口調から、少し落ち込み気味に感じられるリヒットに
「…ふむ…きみのようなものがいるなら、魔法はあったと思うが…
私は…元いた世界の魔法の事故か…それか、別の原因かな。実のところ、まだよく分からん。
………そうだな、寂しいな」
と声をかけ、自分は努めて穏やかな表情を保ちながら頭を撫でてやろうとする。
…精霊を撫でられるのか、専門の魔術師でないセシルにはよく分からないのだが。
汗の匂いこそあるものの、それは男性のものほどきつくはなく。
やはり、本人の申告通りセシルは「おねえさん」なのだと思えるだろう。
■リヒット > 笑みとともに右手を差し出されれば、リヒットはスモックの両袖をぐっと伸ばし、挟み込むように手を添えます。握手のつもり。
リヒットの手は人間の赤ちゃんのように小さく、しかしながら細くすらっと伸びていて、少なくとも乳幼児のそれとは違います。
しっとりとしていながらとても冷たいのでした。
「うん、できるだけ高く飛ばないようにする……風が強いと耐えられないけど。
それにこの島のひと、お外歩いてるときも下を向いて何か見ながら歩いてる人が結構いるから、リヒットもつい飛び越えちゃったりする」
彼らが見ているものも、いわゆる『べんり道具』の1つなのでしょうか。
リヒットは精霊とはいえ、実体はきちんとあります。髪を撫でることはできますし、リヒットは抵抗のそぶりさえ見せません。
しかしそれは精霊の髪。先ほど触れた手以上にひんやりと冷たく、まるで流れる水のようにさらさらと指の間から逃げてしまい、その向こうに透ける地面がゆらりと波打って見えます。
指を通すたびに、ふわりと新たな石鹸の香りがベンチのそばに漂います。
夏場に触れれば非常に心地いいでしょうが、冬真っ只中の屋外で触れ続けるのはきついかも。
「セシルさんは、もとの世界では、『せんし』だったのかな? リヒットのとこでも大きい街に行けば、そういう人はいた。
魔法のことはよくわかんないなー。
まぁ……大体は川の中か、近くのちいさな村くらいにしか行ったことないから、勉強してる人自体とてもすくなかったけど。
リヒットも、ここでは学生じゃないといけなかったから、学生になった。勉強は慣れないけど、しなくちゃね」
髪をなでられるのは好きなようで、セシルさんの手の動きに頭をふらふらと委ねながら、時折「ぷー…」と気の抜けた鳴き声を上げます。
「セシルさんは事故で来ちゃったんだ。リヒットも……事故なのかな? 川の中でなにかに飲み込まれて、気付いたらここにいたよ。
……セシルさんは、さびしいとき、どうしてる?
リヒットはわかんないから、とりあえず眠ることにしてる。ほかの人がどうしてるか、知りたい」
■セシル > しっとりとしていてとても冷たいが…一方で、赤子のような大きさの手。
セシルは、その手を優しく包み込むように…温めるように、そっと握った。
「ああ…あれは「携帯」というやつだったか?
この世界ならではのものだな…あれは私もよく分からん」
「下を向いて何か見ながら歩いている」の「何か」に心当たりがあったのか、そう言って苦笑する。
髪を撫でてみると…それは流れる水のような感触であり、かなり冷たい。
最初は驚いたように目を見開いたものの…それでも、リヒットが落ち着くまでは、優しく撫でているだろう。セシルは、多少の寒さ冷たさには耐性がある。
「「戦士」というよりは…「兵士見習い」だな。
…しかし、きみは随分のどかなところにいたのだな…魔法のことがよく分からずとも仕方ないか。
…学生になった理由は、今の私と同じようなものか?
しかし、「分類」もよく分からんのでは私の比ではなく大変だろうな」
「勉強の助けが要るのならば、躊躇わず周囲に求めるのだぞ」と、優しく笑った。
…そして、「寂しいときどうしてる?」と聞かれれば、その笑みに少しだけ陰を帯びさせて。
「…そうだな…大体、剣の訓練か、身体を鍛えている。
身体を動かしていれば余計なことは考えずにすむし…疲れれば、よく眠ることも出来るからな。
…きみは疲れるということがあまりなさそうだから、参考にはならんかもしれんな。
だが、「寂しい」と考える暇がないように何かをしてみる、というのは1つの方法だと思うぞ」
と答えた。
■リヒット > 「けーたい。学園の勉強で名前はきいたような。
リヒットは勉強っての自体したことなかったから、文字も、数え方も、『ちきゅう』のモノの名前も、いっしょに勉強中。
『よーちえん』と『しょうがっこう』の内容だってさ。
セシルさんとはきっと内容は違うけど、リヒットは勉強できてるから大丈夫」
まるで変温動物めいて、リヒットの手はセシルさんの手の熱を吸って徐々に暖まっていきます。
それが心地よいのか、リヒットの目はうっとりと細まり、スモックの袖や撫でられて棚引く髪の間からプカプカとシャボン玉が産まれて漂い始めます。
「のどか……そうだね、『とこよじま』よりはずっと穏やかな場所。
人はいるけど少ないし、でっかい鉄の塊が走ってたりしないし、『異能』や『魔術』でどっかーんとかバリバリーとかする人もいない。
ただちょっと、怖い動物はいるけどね。そのくらい。
………思い出したら、また帰りたくなっちゃった」
手を握られながら、髪を撫でられながら、リヒットは表情をわずかに濁らせ、郷愁にふけります。
元の世界と『常世島』のギャップはかなり大きく、半年近く居て『知る』ことはできても、容易に慣れるものではありません。
「身体を動かすのは、リヒットも好きだよ。向こうには人間の友達がいて、いっぱい遊んだ。
夜になって川に一人になっても楽しいきもちで、でも手足がだるくって、気持ちよく眠れる。
……でも、こっちに来てからは、子供もみんな勉強でいそがしい。みんな早く帰っちゃうし……『テレビ』が好きみたいで。
だから、あっちにいた時ほど遊べてない。ひとりで遊ぶのは……つまんない」
リヒットから産まれて周囲を漂っていたシャボン玉が、乾いた風に水分を奪われ、1つ1つと割れていきます。
「……でも、かわりに、勉強したことを思い出して考えてるのは楽しいかな。『ふくしゅー』ってやつ。
さびしいって思う暇がないようにする、ってこういうことでもいいのかな?」
■セシル > 「離れた場所にいる者と連絡を取ることが出来る道具らしいが…他にも色々出来るようだな。…やはり、それ以上のことはよく分からんが。
………意外と、文字も知らなかった「異邦人」は多いのだな…知り合いは多くないが、きみで2人目だ。
私も勉強は大体出来ているぞ?…苦手な部分は、春までには何とかしなければならんがな」
携帯や、勉強のことについてそう語って、柔らかな苦笑いを浮かべた。
リヒットとセシルの手の温度が近くなる。どちらかといえばセシルに厳しい状況だが…リヒットが気持ち良さそうなので、少しだけ頑張ってから、不自然でないタイミングで手を離した。
「…確かに、社会のルールがしっかりしている割には、あちこちで騒ぎがあるな。
この島は、「この世界では」異能や魔術の使い手の多い、手探りの場所だそうだから…色々大変なのだろう」
リヒットの髪を撫でながら、そう言う。
また寂しそうな顔をするリヒットの気持ちを鎮めるのに…今出来るこれ以上のことを、セシルは思いつかなかった。
「…そうか…疲れることはあっても、「こちら」ではきみは遊び足りんのだな。
復習が楽しめる分で気を紛らわすことは出来ても、それでは足りんか………む」
リヒットの状況を優しく頷きながら聞き…ふと、何かを思いついたようにリヒットの頭を撫でる手が止まる。
「きみ、文字は少し読めるのだったな…図書館に行ったことはあるか?」
リヒットの頭に手を置いたまま、そう尋ねた。
■リヒット > 「離れた場所と連絡……伝書鳩みたいに? どうやってるんだろうなー……ふしぎ。
『ちきゅう』の人はカミナリのちからも灯りとかに使ってるらしいし、すごいって思う。
文字は、まわりで学校に通ってる人やオトナが使ってるのは見たけど、リヒットには必要ないものだったから……ここでは必要だけどね」
手を離されると、温まって白い肌にほのかに赤みが差した掌をひらいてまじまじと眺めています。
元の白色とひんやりした温度に戻っていくのを観察している様子。
「……うん、『とこよじま』のことについては、ちょっとは習ったよ。
『ちきゅう』でも、異能とか魔術ってのがでてきたのはつい最近だって。『いほーじん』が来るようになったのも。
それ以前からクルマとかデンシャとかはあったらしいけど。
だから、学校を作ってべんきょーしたり、けんきゅーしたり。
リヒットもセシルさんも大変だけど、ちきゅうの人も大変だよね」
どこか人事のように、同情の弁を述べます。まぁ正直、リヒットがその辺の事情を飲み込んだところで、できることはありません。少なくとも今は。
せいぜいが、迷惑にならないように『ちきゅう』のルールを学ぶくらい。
そして、図書館の名を出されると、髪を撫でられながらもセシルさんを見上げ、どこかバツがわるそうに薄桃色の唇を尖らせています。
「図書館……先生に言われて、何度か行ったことはある。
でも、一回、面白い本を読めた時に、たのしくてシャボン玉をいっぱい出しちゃって、そのことで図書館の人にすっごく怒られた。
大事な本がダメになっちゃうでしょ、って。
もう行っちゃダメ、ってわけじゃないけど、そのときのその人が怖くて、しばらく行けてない。
少しずつ文字も読めるようになったから、教科書以外の本も読んでみたい……図書館行きたい、けど、まだ怖い……」
■セシル > 「すぐに声を届けられるらしいからな…伝書鳩より凄いかもしれん」
そう言って、からからと気持ちよく笑った。
「カミナリ…「電気」というやつだったか?
あれをエネルギーにして様々な機械を動かしているそうだからな…私は、魔力を使わん魔術道具のようなものだと思うことにしたよ。
…ああ、魔術道具というのは、魔術で動く便利なもの、のことだ。私の世界でも、高価なものばかりだったがな」
魔術を元に発展した文明があったためか、セシルは「電気」はそれなりに理解しているようだった。
「そうだな…私達だけではなくて、皆大変なのかもしれん」
「地球の人も大変」の言葉には、そう言って力強く頷き。
…そして、図書館の話に唇を尖らせるリヒットの様子に、「あ」と、気まずげに小さな声を漏らし。
「…そうか…怖いことを思い出させてしまってすまんな。
きみのような体質でも、気兼ねなく読めるような本を集めた図書室があれば良いのに…」
そう言いながら、優しく髪を撫でるのを再開する。
(…しかし、「本」に無縁だったリヒットのような者にこそ、本はより必要なはずなのにな…)
リヒットの顔を見ながら、そんなことを考える。
実際、様々な種族の集まるというこの学園で全く対策していないとも思えないが…一方で、この幼い精霊に、それを探り当てるだけの能力があるとも思えない。
「………よし、今度私が図書館に行って、きみが気兼ねなく読める本とか、本を読める場所について聞いてこよう。
…それなら、きっと怖い思いをせずに済むだろう?」
そう言って、に、と、人の良さそうに、しかし力強くリヒットに笑いかけてみせた。
■リヒット > 「まほう、かぁ。使えたら楽しそうだけど、すっごく難しいって聞いた。
カミナリをキカイに使って動かすのも不思議だし、魔法も不思議。リヒットから見ればどっちも不思議……」
そう言い放つリヒットもまた、不思議な撫で心地の髪をもっていたり、浮遊したり、シャボン玉を出したり。
不思議なこと、不明なことというのは人それぞれです。
「でも、勉強すれば原理はわかるって先生は言ってた。魔法は難しいけど、キカイはそれほどでもないって。
わかるなら、わかりたい。だから勉強しなくちゃ。セシルさんも勉強がんばろうね」
セシルさんを見上げるリヒットの唇の端が、ほんの少しだけ釣り上がります。リヒットなりの笑顔かもしれません。
「怖いこと……んーん、リヒットは大丈夫。図書館のことも、リヒットが悪かったんだから。ルールは守るべき。
……でも、『ちきゅう』の本は1ページが薄くてびっくり。教科書もすっごく薄いのに何十ページもあって数えられない。
そのぶん、水にも弱いっぽいけど……」
リヒットはスモックの袖を振り、ひとつシャボン玉を作ります。
それをすぐさま小さな指で摘んで割ると……『さんすう 2ねん』という表紙の教科書に変わりました。
シャボン玉の精霊ならではのモノの携帯方法です。
彼が言ったとおりにその教科書は薄く、そして湿りに湿って全体がフニャフニャに波打っています。表紙の端は何度も捲られたのかボロボロに。
「あっちで友達が持ってた本は……当然読めなかったけど、読み聞かせてもらったことはあるよ。1ページがすっごく厚かった。
ちょっとくらいなら濡れても大丈夫だったけどね。
……図書館に、濡れても大丈夫な本、あるかなぁ。あったら、行ってみたい」
半年ももたずにボロボロになった教科書を眺めながら、リヒットはどこか興奮を感じられる口調で自らの希望を述べます。
よほどに勉強が楽しくなってきたのでしょう。
■セシル > 「…確かに、仕組みが分からんと不思議だな。
私が使えるのは剣と一緒に使う魔術だけでな…他は、専門に学ぼうと思うと大変そうだった」
そう言って、笑いながら頷く。
もっとも、リヒットの不思議さは「精霊だし」で済ませてしまっているのだが。
「…機械はそれほどでもない、か…
………化学もそうであったら良かったのだが。
…もっとも、きみの前で弱音ばかり吐いてもいられんか。
そうだな、頑張ろう」
リヒットの表情が、笑顔の形に近づく。
それと顔を見合わせるようにして、セシルもに、と笑った。
「…確かに、ルールは守るべきだが…」
うーん、と、「大人」に近いはずのセシルが腕を組んで首を傾げる。
ルールの杓子定規加減に、ちょっとどうなのかと思うようだ。
「…まあ、きみが納得しているなら良いか。
確かに、この世界の紙は随分薄いな…おかげで持ち運びは楽だが、水に弱くなる、というのは盲点だった」
…と、リヒットが精霊らしいやり方で教科書を出してみれば、「おお」と感嘆の声を漏らし。
「…きみは随分勉強を頑張っているな…
それだけ使い込んでもらえたら教科書も嬉しいだろう」
と、笑った。
「これだけ便利なものが溢れている世界で、「水に濡れても大丈夫な本」が存在しないとしたら、その方が妙な話にも思えるがな…
…今度、図書館で聞いてみるか?」
リヒットの興奮を感じられる口調を楽しそうに見つめながら、そう尋ねる。
■リヒット > 実のところ、図書館に置かれている本は大多数が『水気厳禁』の本でしょう。
その中から都合よく防水の本を見つけ出して借り出し読むことはできるかもしれませんが、やはり『館内でシャボン玉を飛ばす』のは怒られて当然の行為。
まぁ、それさえ我慢すればリヒットでも大丈夫でしょう。できるかはさておいて。
しかし、セシルさんの言う言葉も一理あります。
「……だよねー。カミナリを自由に使えて、夜でも明るいのに、本が水に弱いなんて。雨だって普通にいっぱい降る場所なのにね。
まぁ、『あっち』にいた時も、雨の中でわざわざ家から出て本を読む人とか、川に本持ってくる人は見たことないけど。
でもきっと、水の中で読める本だってあるよね。図書館にあるかな……。それが楽しい本だったらいいなぁ」
とはいえ、『水属性の異邦人に備えてあらゆる本を防水加工にする』には、大変容の混乱が治まってきたというこの時期では動機が足りないでしょうけども。
「セシルさんが聞いてくれるなら、嬉しい。でもリヒットもがんばって聞いてみる。
本は好きになってきたから、いっぱい読みたい。でも本屋さんにいくにはお金がないから、図書館は使いたい。
勇気出して、行ってみるよ」
手につまんだ、リヒットから見れば大判なつくりの教科書。
それをもう片方の手でデコピンすると、まるでそれがシャボン玉であったかのように、飛沫を残して割れて消えてしまいました。
「かがく……セシルさんがいま勉強してるやつかな。リヒットも名前だけは聞いたことあるよ。
なんか聞くからに難しそうな感じだけど……セシルさん、頑張ってね。
もし面白い発見とかあったら、こんど教えてね。リヒットが発見したことは……きっとセシルさんは知ってるだろうから、いいか」
つややかな髪ごしにセシルさんの掌の暖かさを頭皮に受けながら、リヒットは首をあげ、空を眺めます。
「……そろそろ、帰らなくちゃ。異邦人街に。
夜になって風がカラカラになってくると、たどりつけなくなっちゃう。セシルさんは、どこに棲んでるの?
リヒットは異邦人街の池だけど、いつかはこっちの居住区にも棲んでみたいなぁ……」
■セシル > 「「水に濡れて大丈夫な」「文字が書ける材料」の種類には、私が見た範囲だけでも困りそうにないからな。
水に触れても大丈夫なようにする動機が強くあるのは…幼子が触れるような本が主か。
きみに楽しめれば良いのだが」
そんな推論を述べつつ、リヒットに対して頷いてみせる。
流石に、「お風呂で読む本」の類は、異邦人たるセシルからは想像の範囲外だった。
「そうだな…私の方でも聞いておくし、調べもしておこう。
多分、調べたりするのは私の方が得意だろうからな。
…無論、きみの勇気は応援するぞ」
図書館に行く勇気を出そうとするリヒットに、満面の笑みを向けて頷いた。
「ああ…物質の形とか、働きとか、変化の仕方を学ぶ学問らしいのだが…
私の元いたところではそれらは錬金術の独壇場でな。全然しっくり来んのだ」
「化学」については、そう言って眉間に皺を寄せる。相当苦しんでいる模様。
「そうだな…新しいことを学べたら…きみにも分かるような説明を頑張ってみよう。
…いや、きみが考えることはきっと私は考えないからな、面白い発見になると思うぞ」
「だから是非聞かせて欲しいな」と、人の良さそうな笑顔でリヒットと目線を合わせる。
…と、リヒットが「そろそろ帰らなくちゃ」と言うと、「そうか」と言って撫でていた手を離して。
「私は…ここからそう遠くない、女子寮にいるんだ。
1人で生活する力があまりないのでな」
「自炊などさっぱりだ」と言って、苦笑いを浮かべる。
「そうだな…この世界の人間の暮らしを間近で見ていれば、きみの学びもより豊かになるかもしれん。
…水道が整備されていれば、工夫次第で暮らせんこともない、か?」
「乾き」がネックらしいリヒットの言葉を聞いて、そんなことをぽつりと。
その際には、家賃の類などが問題になるかもしれないけれども。
「…とにかく、気をつけて帰るのだぞ」
そう言って、リヒットを見送ることにした。
■リヒット > 「ぶっしつのかたち、はたらき……」
もしかすると、カミナリを従える術や、この島のどこでも得られる綺麗な水に含まれる『えんそ』とやらの正体も、化学で分かるのかもしれません。
俄然興味が湧くと同時に、やはりリヒットにはまだ早い話であることも大雑把に理解できます。
リヒットが学ぶべきことは山ほどあり、そしてそれらには順序があります。
もしかするとその中には、故郷の世界に戻った時に有益になるかもしれない知識もあるかも。
「……んー、セシルさんがそう言うなら、リヒットも学んだこと、説明できるようにがんばる。
リヒットはいつか『先生』になりたいって思ってるから……先生なら説明できないといけないもんね」
セシルさんがリヒットの頭から手を離すと、リヒットはふわりとスモックの裾を揺らしながら距離を置くように浮遊しました。
あれほど撫でまくられた髪は不思議とわずかの乱れも残っておらず、頭頂から湧き出す泉の流れのようにまっすぐに垂れ下がって揺らめいています。
「セシルさんも『じょしりょー』なんだ。学生が何人もあつまって暮らす場所。
いいなぁ……人がいっぱいいるんだろうな。
リヒットは水さえあればあとはなんとかなるけど、引っ越しとか、お金とかよくわかんなくて、まだ異邦人街のまま。
……異邦人街、リヒットからみてもよくわかんない人たちが多くて、まだなじめないんだ」
先にセシルさんに言われたとおり、高度は上げないように、スモックの裾を軽く押さえながら、シャボン玉のように風に流されていきます。
「セシルさん、お話ありがとう。楽しかったよ。やっぱりお話はたのしい。
また会った時は、セシルさんのお勉強の話、聞かせて欲しいな。じゃねー」
くるくると風に揉まれながら、手を振り振り、異邦人街のほうへと去っていくリヒットでした。
ご案内:「常世公園」からリヒットさんが去りました。
■セシル > 「おお、「先生」か…素晴らしい目標ではないか。
説明、楽しみにしているとしよう」
リヒットの目標を聞いて、楽しそうに笑む。
「ふむ、女子寮に住む知り合いが多いのか。
…しかし…金のことはまだ仕方ないとして、異邦人街は異邦人街で馴染めんとは、難儀だな。
………環境が許せば、いっそこの公園の池に住む方が馴染みが良いか?」
なんて、苦笑混じりに。
精霊ですら馴染めないって、どれだけ「サラダボウル」状態なんだ異邦人街は、と思ったとか思わないとか。
「こちらこそ、きみの役に立てたなら幸いだ。
図書館のこと、いずれ知らせるよ」
手を振るリヒットに、手を挙げて応え、見送る。
リヒットの姿が見えなくなったところで…
「………いかんな、汗が引いてしまった。
ランニングコース選定の前に、一度帰って風呂で汗でも流すとするか」
そう、寒そうに身を軽く震わせ。
女子寮に足を向けたのだった。
ご案内:「常世公園」からセシルさんが去りました。