2016/06/01 のログ
ご案内:「常世公園」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > 夜になって人波の引いた公園の中を、スーパーの買い物袋を提げたヨキが歩いてゆく。
日中の暑さが嘘のように心地よい風に、木立の揺れる音だけが響いている。
「……………………、」
等間隔に並ぶ街灯からやや外れた位置の東屋にベンチを見つけて、
真っ直ぐ歩いていた足を不意にそちらへ向ける。
腰を下ろし、膝の上に置いた大きな袋を漁る。
なるべく音を立てないように努めているのが判るが、ビニル袋は否応なしにがさがさと音を立てた。
「だめだ。もーーだめだ。むり。耐えられん」
取り出したのは、牛肉が入っているパックだった。
スーパーの精肉売り場で売っている、ラップで包まれたあれだ。
「うう……ヨキは情けない」
黒いネイルで飾られた人差し指の爪で、パックにぷつんと穴を開ける。
包装を丸ごと全部剥がしてしまうと、サイコロ状にカットされたヒレ肉を指で抓み、
そのまま口に放り入れた。
生肉を真顔で咀嚼して味わい、ぐびりと呑み込む。
「…………、おいしい……」
泣きそうな顔で肩を落とした。
■ヨキ > 元はと言えば転移荒野である。
同僚の教師を鋼の意志で襲わずに耐えきったあと、
ヒトの生肉を食べたい生き血を啜りたい欲がとんでもないことになっていた。
落第街に住む、馴染みの不死種の女の子が「先生大丈夫?血舐めてく?」と申し出てくれたが、
気持ちは嬉しいけど、とおっぱいを揉むだけで済ませた。
不死じゃだめなのだ。
ヨキが食べたいのは、れっきとした生きた人間なのである。
だがヨキの正義から鑑みるに、何も悪いことをしていない人間を、
食欲のためだけに手を掛けてしまうのは重罪だった。
生肉の小さな塊を、まるでスナック菓子のように二つ三つと食べ進めてゆく。
途中でペットボトルの緑茶を一口飲んで、はあ、と息を吐いた。
「こんなの、まるっきり犬のようではないか……」
言いながら、脂がついた唇を舐める。どう見ても犬だった。
ご案内:「常世公園」にルギウスさんが現れました。
■ルギウス > スポットライトが公園の一角を照らし出す。
そこに現れたのは、司祭服にサングラスの男性。
「やぁ、大変そうですねぇ……食事を我慢なされるというのは」
舞台上の役者のような深いお辞儀。
その姿勢を維持している。
■ヨキ > 上を向いて、なけなしの最後の一つを口の中へ落とす。
食べ終わってしまった。
包装のごみを別の小袋に纏めながら、現れたルギウスに苦笑いする。
「…………。ここはヨキの楽屋ぞ。支度も済まないうちから、食事の邪魔をするでない」
スポットライトを浴びる顔に向かって、冗談めかした言葉を投げる。
荷物をまとめて傍らに置くと、東屋のすぐ近くに設えられた水道で手をざっと洗い流した。
「人間などそんなものだ。数えきれない我慢でできている」
■ルギウス > 「楽屋であるなら、挨拶回りも重要かと思いましてねぇ」
くつくつと笑って洗い流し終わるタイミングで顔を上げる。
食事の邪魔はしてないというパフォーマンスのつもりなのだ。
「まったく、愚かしい。
我慢などくだらない……心が欲しているのならば、従うべきです。
貴方にとっては、学園など無防備な餌がそこら中により取り見取りじゃあないですか。
何を躊躇する必要があるのやら。
名だたる魔術師であっても、ボロ雑巾と同じでしょうに」
肩を竦めてから、首を横に振る。
理解できない と ばかりの動き。
■ヨキ > 「派手な挨拶回りだ。看板役者かね」
鞄に入れていたタオルで、ベンチの前に立ったまま手を拭く。
ルギウスの言葉に、金色の半眼がはっと笑う。
「何を言うか。
君が言うまでもなく、この島はヨキにとってこれ以上ない据え膳、それも満漢全席だ。
だがルギウス、ヨキが己の欲の箍を外すということは、他のすべての人間にも『心の欲するままに従え』と告げるのと同じだ。
このヨキは、そのように中途半端な教師稼業はやっておらん。
従うべきものと従わぬべきものの判断も付かぬのなら、平等を謳う常世島で子らを教える資格はないよ」
理解できなさを隠しもしないルギウスへ、呆れたように口をへの字に曲げた。
■ルギウス > 「まさか、私は裏方であり観客ですよ。
舞台に上がるなんて、恥ずかしくてとてもとても」
舞台に上げるのは得意なんですけれどねぇ。 などと嘯く。
「我が神は、それを肯定されていますよ。『汝の為したいように』と。
喰われたやつはただ弱かったか……運が悪かっただけでしょう?
ほら、平等に弱肉強食だ」
語るのは強者の理論。
「まったく秩序は息苦しい。そして生き苦しい。
平等と謳いながらも、群れから出てしまったモノは“間引く”のですから。
さて、貴方にとって“間引く”に値する価値のない……いや、価値の出てしまった方の定義はなんでしょう?」
■ヨキ > 冗談めかした言葉に、やれやれと首を振る。
そうしてベンチに座り直すと、後ろの背凭れに両腕を置く。
「残念ながら、ヨキは君のように神を持っておらんでな。
だから『君の神』の言葉は、『威光を装った君自身』の言葉にしか聴こえんのだ。
揺さぶりを掛けようとしているのかは判らんが、ヨキの心までは到底届かんよ」
暢気に笑って、背凭れに置いた手で頭を支える。
どこか寛いだような格好で、語るルギウスの顔をじっと見据える。
「『間引く』?そんな傲慢は聞いたことがないな。
群れからはぐれたものは自ずと衰えるか、個体なりに生き方を見出すものであろう。
君は間引いた若菜を捨てるタイプか?
ヨキはそいつをどうにでも活かす方法を知っておるぞ。お浸しとか、味噌汁とかな。
もしも間引く対象が『人間』であるのなら、ヨキはそれを判断する言葉を持っておらん。
間引きやそれに類する見方で、この島の者らと接したことがないのでな」
■ルギウス > 「神の声を伝える司祭としては、この上ない評価だと思いますがねぇ。
生きるの楽になりますよ?」
おそらく自分で作ったのだろうデフォルメされたイラストが載っているパンフレットなんかを取り出す。
勧誘のつもりらしい。
「おやおや、おかしいですねぇ?
貴方 間引いた若菜(生徒)を美味しく頂いてるじゃあないですか。
判断基準がないのなら、それこそ欲求にただ従っているだけだ。
ちなみに、私は間引いた若菜は第三者を釣る餌に使うタイプです」
■ヨキ > 「今でさえヨキは十分すぎるほどにラクに生きておるが……。
はっきり言っておくが、ヨキに信仰を理解する頭はないぞ。
それ以上下手な勧誘を続けるつもりなら、
君は聖職者としては及第点らしいが、営業マンとしては無能だな」
お手上げとばかり、後方に置いた両腕を広げてみせる。
「……それで。君はヨキについて、いったい何を知っておるね?
基準がないと言ったのは、『間引く』などと言う至極傲慢なものの見方についてだ。
それ以外の判断基準は、数えきれないほど沢山ある。
それらはすべてヨキの経験と実務と、第三者が齎す多種多様の状況によってに培われたものだ。
同僚の教師として意見を交換し合うならばまだしも、
そのように抽象的な物言いをされてヨキの個人的な価値観を公開する気にはなれないな」
頭を支える手で、側頭部をぽりぽりと小さく掻く。
「君は結局、ヨキをどうしたいのだ?」
■ルギウス > 「信仰とは頭で理解するものではなく、心で感じるものですよ。
極論ですがアートであっても神になり得るのです。
まぁ、勧誘は9割冗談ですが」
いそいそとパンフレットを片付ける。
「通り一辺倒は存じていますし……貴方が語りたくない部分も多少は。
傲慢ですかねえ?もつ物が、己の価値観で他者を左右している時点で、大差はないようにも思えるのですが。
まぁ、意見交換するほど担当科目も近いわけではないですし。
長い長い幕前の余興です。さして意味があるわけではありません」
今回出向いたのは と 前置きして。
「退屈でしたので、お喋りでもしようと思いましてね。
後は、そう。
私に縁があったモノのファンだそうで、形見分けでも と」