2016/06/02 のログ
■ヨキ > 「つまり君はあくまで精神論からなる信仰のただ中から、同じ神の領域へと取り込もうとしている訳だ。
心と頭とを共に用いて深く理解を得た神学者の方が、まだ話の聞き甲斐もあるというものよ」
不快そうに溜め息を吐き、片眉を上げる。
「……どこで何を知ったんだか。
例えば君の得た情報が、全くの偽であるという可能性は?
予め釘を刺しておくが、『まことの真実であると断言できるものは、このヨキの口から語られた物事のみ』だ。
君がどれほど全知全能であるか知らんが、このヨキと直接相見えもせずに、ヨキを知った気にはならずにいて頂きたい」
背凭れから両手を下ろし、緩く腕を組む。
「君が言いたいのは、劇団フェニーチェのことか?
……今のところ、誰あろう君から形見を受け取ろうという気には、あまりなれないな」
■ルギウス > 「宗教は学問足りえますが、信仰は内からくるものだと私は思いますよ。
戒律を形だけ守るだけでご利益があるなんて馬鹿馬鹿しい。
数多の神が存在しているのに、新しい神が生まれない保障もありません。
最初は、ただの壁のシミかもしれないんですから」
対して愉快そうに笑みを浮かべる。
「私は全知全能には程遠い存在です。小さく弱いただの人間ですとも。
偽かもしれないし、真かもしれない。
何せ『貴方の口からは嘘だって語られる』のだから。
もっとも……その判断材料を探すために、お喋りしている所もありますが」
過去を覗き、今を見て。
燻る火種か障害か。舞台を見るならどこがいい―――。
「形見というほどのモノではありませんけれどね。
不死鳥はいつか羽ばたくとしても、私がお膳立てしてはツマラナイ。
ただ火は絶やさぬようにしなければいけない。
誰かが覚えていなければ、『真実の死』が訪れる。
もったいぶりましたが、なんてことはない。
いつかの舞台の映像記録ですよ。画質は少々荒いですがね」
肩を竦めた。
「『我が神に誓って』細工は何もしていません。
純粋にファンに対するサービスです。
いらなければ捨ててもいいし売り払っても構いませんよ」
■ヨキ > 「心より産まれくる信心を、否定はせんよ。
君の場合は相手が悪かっただけさ。
信仰を理解せぬヨキのような者の心に、訴えかけてどうなるものでもないよ」
ルギウスの言葉に、冷徹な無表情を保ったまま口を開く。
「ヨキを嘘吐きと侮るか?
嘘を吐くくらいなら、ヨキは一切にして口を開きはせんよ。
言葉で語る以上、君にはすべて真実をくれてやる」
続く「形見」の内容に、ようやくふっと小さな笑み交じりの吐息。
「ヨキへ突っ掛かるような輩は阻むが、そうでもなくばヨキとて素直に話すものを」
空の左手を差し出す。
「映像記録、か。ビデオにでも撮っておいたものかね?
アナログだろうとデジタルだろうと再生してみせるのが我が家の自慢だが、」
不敵に笑う。
「誓うなら、君の神でなくこのヨキに誓えよ、ルギウス。
斯様なことでは、このヨキをいつまで経っても捉えることなど出来んぞ」
■ルギウス > 「私だって、何も知らない方にはお譲りしたくはなかったのでねぇ。
重ねてご無礼、どうかご容赦を」
深々とした一礼。
「知り合いの悪魔に、私は敵を作りすぎると言われた事がありますが長く在るが故にもうそういう性分でしてねぇ」
苦笑を浮かべただろうか。
少しだけ表情が変化したかもしれない。
「アナログですよ。
完全再現よりも、想像の余地が働く媒体の方が蘇る不死鳥の礎に都合がいい。
模倣ではなく新たな誕生を願うのですから」
ひょいと左手にビデオテープを渡す。VHSでなくβである。
しかも三つ。
「でしたら、捉えるまで延々と観察を続けるだけです。
貴方の舞台を楽しみにしながらね」
新しい舞台を楽しみにする子供の表情が見えたかもしれない。
「確かにお渡ししましたよ。後はご自由にどうぞ。
私は別の舞台を仕込むとしましょう……またいずれ、今度はお茶でもご馳走しましょう」
■ルギウス > 舞台からスポットライトが消える。
再びライトが照らす頃には男の姿は掻き消えて―――
ご案内:「常世公園」からルギウスさんが去りました。
■ヨキ > 「ヨキを誑かすならば、甘言の使い方を覚えておくがいい。
踏み込まれれば頑なだが、うまい話には弱いからな」
目を伏せて笑う。
そうして受け取ったVHSよりもやや幅広のテープに、ふは、と吹き出す。
大きな片手で三本を受け取って、その外側を見分する。
「よりによってベータとは、物好きだな。
演目から媒体まで、よほど表街道に出る気がなかったと見える」
礼を告げて、鞄の中に仕舞い込む。
「データだろうとディスクだろうと、取っておいてやるさ」
ふんと鼻を鳴らして、投げ出した足を伸ばす。
「ヨキの生は、この地球に始まったときから波乱万丈よ。
せいぜい見逃さずにおくがいい」
やがて別れの言葉と共に消えるルギウスを見送ると、再びしんとした静寂が戻る。
「…………、」
徐に立ち上がり、荷物を取る。
「やれやれ。
ヨキを叩いて出る埃などあるまいに」
手入れの行き届いた服の、小さな衣擦れの音を立てて歩き出す。
規則正しく、揺らぐことのないヒールの足音。
ご案内:「常世公園」からヨキさんが去りました。