2016/06/28 のログ
ご案内:「常世公園」に阿曇留以さんが現れました。
阿曇留以 > 雨が降っていた。
土砂降り、というわけでもないが霧雨というわけでもない。
適度に強く、適度に濡れる。
その程度の雨。

そんな公園の、屋根着きベンチで一人座って空をみている。
朝方、晴れていたために本を持って公園でのんびりしようとしたところ、だんだんと曇ってきて、この天気だ。

「いつごろ晴れるかしら……」

ぽつりと呟く。
土砂降りの雨なら、大概はすぐに止む。
が、今のように強いわけでもなく弱いわけでもない雨はそう簡単に晴れない。
傘のないなかを歩くのは、本を持っている以上嫌だった。

阿曇留以 > 降水確率を見なかったのがいけなかったのか。
はたまた天の神様の言うとおりにしなかったのがいけなかったのか。
どちらにせよ雨が降り、止まないのは変わらず。

読みかけていた本を広げ、雨音をBGMに読み出す。

本の内容は一人の少女のお話。
誰も居ない世界で、毎日起きて、ぼーっとして、たまに工作をして、そして寝る。
世界には何も起こらず、誰も訪れない。
ただずっと、日々が停滞していた。
そんなある日、ふと気まぐれで拾ったパソコンのモニター。

阿曇留以 > モニターは壊れており、直すには相応の部品などが必要だった。
いや、直したところで何かが映るわけでもない。
そんな無駄な修理。

だけれど、彼女はなぜかそれを修理し始めた。
なぜかは分からない。
誰かに命令されたわけでもないし、使うというわけでもない。
ただ、不意にこれを修理したくなった。

怠惰に、無為に流れていく時だったけれど、そのモニターを直し始めてから初めて彼女の時間が流れ始めた。

ご案内:「常世公園」に南雲 海斗さんが現れました。
南雲 海斗 > 「うーん、やっぱりちょっとは濡れちゃうなあ……」

傘を持って歩く少年。自分の足元がどうしても濡れてしまう事を気にしてるよう。

「よ、せっ!」

水たまりをピョンピョン飛んで避けつつ、公園から帰路につこうとしていた矢先。
この学園では数少ない、見知った顔を目にした。

「あれ……阿曇さん?」

とてててて、と近づいていく……が、それ以上声はかけない。
読書中のようで、邪魔してはいけないと思ったのだ。
だが、傘を持っていないようで、どうしたものかと少しおろおろしつつちょっと距離を置いて見ている状態である。

阿曇留以 > 毎日、構造も分からないモニターを弄っては壊し、弄っては壊し。
いつしかモニターは原型をなくしていた。
けれど、彼女は何とか修理しようとモニターを直し続けた。

長い年月が流れた――かもしれない。
とうとう彼女はモニターを修理した。
それは既に原型をなくし、彼女好みの形になっていたが、紛れもなくモニターだった。
長く、しかし楽しかった日々が終わりを告げる。
また明日からは停滞した世界が始まる。
そう考えると忘れかけていた感情が彼女を叩いた。

零れそうになった涙を拭き、ただ最後の実験。
モニターに電力を流し、画面が点くかの確認。
ぽち、とモニターのボタンを押すと様々な文字が流れる。

――やった、成功だ。

少女は喜びのあまり叫ぶように声を出した。
本当に、嬉しそうな声で喜ぶ彼女。
だけれど、それで全ておしまい。
浮かれた気分が沈んでいき、はぁ、とため息を出した彼女。
さぁ、電源を切ろう。また明日から元の生活に戻るんだ。
そう思いながら、モニターに目をやり、電源を切ろうとしたら――。



「――あら、海斗くん?」

ふと、現実から聞こえてくる声にめをやれば、この間あった少年の姿が見えた。

南雲 海斗 > 「あっ、こんにちはっ、阿曇さんっ!
えっと、読書、邪魔しちゃってごめんなさい……」

おどおど。
少し緊張気味に、傘をさしたまま頭を下げる。
そして顔を上げると、またおずおずと口を開く。

「え、えっと、阿曇さん、傘、ないみたいでしたから……僕の、ちっちゃいですけど、よかったら……」

そのまま、やはりおずおずと傘を差し出す。
差し出したせいで自分が濡れているが、それよりも『傘が無くて困ってるんだったら、貸してあげないと』と言う気持ちの方が勝っているようだ。

阿曇留以 > 「ええ、こんにちは。
別にいいのよ、本はいつでも読めるから」

海斗に笑いかけながら此方も頭を下げる。
傘を差し出してくれる海斗をみて、ちょっと困った笑みを浮かべるが。

「ん~……、そういってくれるのは嬉しいのだけど、海斗君が濡れちゃったら意味がないから……。
とりあえず、そこにいたら濡れちゃうから入っておいで」

濡れている海斗をみて手招き手招き。
傘が小さいのと、やはり貸してくれる本人が濡れてしまったら意味がないために借りることなど出来なかった。

南雲 海斗 > 「あぅ、すみません……」

とてててて。
少し恥ずかしそうな、申し訳なさそうな顔をしつつ、手招きされるまま入って行く。

「ボクが、もすこしおっきい傘を持ってたらよかったんですけど……」

海斗の使っている傘は子供用。流石に、大人が使うには小さすぎた。

阿曇留以 > 「海斗君が悪いわけじゃないわ。
そもそも、今日の天気予報を見てなかった私がわるいんだから」

申し訳なさそうな顔をしている海斗に、ぽんぽんと頭を叩いて慰める。
しかしすぐに気付いたような顔をして

「でも、そうねぇ。
大きめの傘をもっていれば、同年代の女の子がこういう目にあってた時、一緒の傘に入って帰れたかもしれないわね」

なんて、くすくす笑ってからかう。

南雲 海斗 > 「でも、今日降る確率、低かったですから。
阿曇さんが持って来てなくても、仕方ないって思います」

ぽんぽんと頭を叩かれれば、少しはにかんでそう返す。
降水確率30%。別に降らないだろうと思っても、まあ仕方ない確率である。

「あ、あぅ……ボクはその、そもそもあんまり、お話しできる人、いませんから……」

からかわれれば、俯き。
この学園で、海斗と同年代は驚くほど少ない。
故に、同年代の女の子どころか、同年代の友達すらいない有様なのだ。

阿曇留以 > 「あら、そうなの?
海斗君、お友達多そうにみえたのだけれど……」

これだけ元気な子であれば、普通の学校なら多かったかもしれない。
でも考えてみればこんなに若いのだ。
自分と仲が良いのは、逆に歳の差があるせいか。
17や18の子が多いこの学園で、彼のように若い子が馴染むには難しいかもしれない。

「それじゃあ私は海斗君を独り占めできる時間が沢山あるってことなのねぇ」

特に深い意味はなく、彼に笑いかける。
意味があるとすれば、また組み手ができる、ていどだろう。

南雲 海斗 > 「ボク、おどおどしちゃうタイプですし……中々、ここにいる人は年上の人ばっかりですから」

しゅーん。
学校の勉強は難しく、誰かに聞こうと思っても気軽に聞ける相手はいない。
遅くまで勉強して何とかくらいついて、空いてる時間は自主稽古。
甘えたい盛り、遊びたい盛りに、その両方が出来なくなっているのが今の海斗だった。
だから。

「あっ……じゃあ、ボク、独り占めして欲しいですっ。阿曇さんといると、ボクも楽しいですからっ!」

ぱぁ、と笑って食いついた。
当然、全部を本気で言っているわけではないが……寂しがりやな身としては、少しは本気で言っているところもあったりする。

阿曇留以 > 「ふふっ、ありがとう海斗君。
じゃあしばらくは独り占めさせてもらっちゃうわね」

まるで弟の頭をなでるように、優しく撫でる。
多分弟がいたら、こんな風だったのだろうなんておもいつつ。

「でも、ちゃんとお友達作らないとだめよ?
確かに皆年上だけど、頑張ってお友達増やさないと大変でしょ?」

南雲 海斗 > 「えへへ……」

はにかんで頭を撫でられる。
こうやって撫でて貰えると安心する。心が落ち着く。
このまま抱き付いてしまいたいくらいだが、それはぐっと我慢の子。

「わかっては、いるんですけど……どうしても、怖くて。
だから、阿曇さんが話しかけてくれて、とっても嬉しかったんです」

ある程度年が行くと、海斗くらいの子どもは、からかう対象か、もしくは変に気を使って距離を置く存在になってしまう。
特におどおどしているところのある海斗は、話しかけたらどうなるかよくわからないという不気味さを醸し出してしまい、余計人を寄せ付けずにいた。
自分から話しかける勇気も無く、さりとて話しかけて貰いやすいわけでもなく。
そんな状態で一年を過ごし、最早友達と言う存在に関しては諦めかけているところもあったのだ。
だからこそ、そんなところで話しかけてくれて、そして甘えさせてくれた留以に、なついているのだろう。

阿曇留以 > 確かに、そうだろう。
もし自分が海斗ぐらいの年齢で、自分より年上の存在しか居なかった場合。
きっと友達なんてずっとできなかっただろう。
で、あれば自分の存在はきっと嬉しかっただろうし、そこから誰かに繋がるきっかけを与えてくれれば、もっと嬉しいに違いない。

「それじゃあ、今度私の友達も紹介するから、友達を増やしていきましょ?
皆いい人だから、きっと海斗君とも仲良くしてくれるわ」

だから、今度タイミングが合えば海斗にいろんな人を紹介してあげようと。
とはいっても、留以もそんなに知り合いが居るわけではないが。

南雲 海斗 > ぱあぁ。
顔をキラキラと輝かせて、ぺこぺこと何度も頭を下げる。

「あ、ありがとうございます!本当に嬉しいですっ!!」

友達が増える。話せる人が、増える。
流石に甘える事は出来ないだろうけど……ひとりぼっちじゃなくなるのは、嬉しい。
その顔は、希望に満ちて輝いていた。

阿曇留以 > そうやって笑ってくれるとこちらも嬉しくなる。
明るい笑顔で、なんども頭を下げている海斗にちょっと困った顔を見せる。

「でも友達が増えちゃったら海斗君を独り占めできる時間が減っちゃうわねぇ……。
私より美人な子とか、頼りがいのある男の子もいるから、きっと私のことなんて忘れちゃうでしょうし……。
紹介するの、やめておこうかしら……」

なんて意地悪なことをいってみる。

南雲 海斗 > 「そ、そんなことないですっ!阿曇さん、とっても綺麗で、頼りがいがあって……お姉ちゃんがいたらこんな人かな、こんな人がいいなってくらいで……!」

わたわた。
友達を紹介してくれなくなると言うことよりは、留以の事を忘れてしまうと言うことを躍起になって否定しているようだ。
ものすごく、あわててる。

阿曇留以 > あまりの慌てっぷりにくすくす笑い出す。
ちょっとからかいすぎてしまっただろうか。

「冗談よ、困らせるようなこといってごめんね。
でも、そういってくれるのは嬉しいわ。
私も、海斗君みたいな弟がいたらなぁって思うわ」

なんというか、目の離せない弟のようで。
小動物に近い感覚かもしれない。

南雲 海斗 > 「うう~……からかいすぎですっ」

ちょっとむすっ。
拗ねたような顔になって文句を言う。
そして、そのまま小声でぽつりと。

「……どうせだったら、ほんとにお姉ちゃんになってくれたらいいのになぁ」

そんな事を漏らした。

阿曇留以 > 拗ねた顔に笑う。
あまりいじめるのもかわいそうだろうか。
そんなことを思って謝ろうと口を開きかけたときに、呟きが聞こえ。

「あら~、じゃあお姉ちゃんってよんでみる?」

なんて、提案してみた。

南雲 海斗 > 「…………いいの、お姉ちゃん?」

上目遣いで、ぽつりと、確認するように。
甘えるような、すがるような、そんな視線を飛ばしながら。

阿曇留以 > きゅんときた。
上目遣いで、どこか小動物感を感じさせるその姿に、心がときめいた。

「ええ、いいのよ。
お姉ちゃんに甘えていいからね」

ぎゅっと海斗をだきしめようとする。

南雲 海斗 > 「……! うん!」

抱きしめられれば、海斗もきゅーっと抱き返す。
遠慮なしに、心の底から、甘える事が出来る。
寂しさを忘れさせてくれる人。
異能『stand by me(誰かボクのそばにいて)』は、そもそも海斗の寂しがりやな性格が、異能として顕現した物。
異能になってしまうくらいには寂しがりやな海斗が、甘えさせてくれる『お姉ちゃん』に出会えた。
海斗の胸は嬉しさでいっぱいになり、全身を預けて甘え切っている。

「お姉ちゃん、お姉ちゃん……!」

すりすり。
心の底から相手を信頼し、相手に甘え切ったスキンシップ。
敬語も忘れ、素の口調で思い切りそれを堪能していた。

阿曇留以 > 心臓の速度と同じテンポで、ぽむぽむと海斗の背中を叩く。
安心させるかのように、ゆっくりと。

「あらあら……海斗君たら甘えん坊ねぇ。
……あら」

ふと、空から光が差し込んでくる。
外は既に雨が止んでおり、曇空から太陽がわずかに差し込み、留以たちに日差しを浴びせ始めた。

南雲 海斗 > 「ずっと寂しかったから、ボク……!」

ぽむぽむと背中を叩かれ、安堵に体の力を抜きつつしばし甘える。
と、留以が空からの光に気付いたら自身もちら、と上を向く。

「あ……止んじゃった……」

少し名残惜しそうに。
出来れば、もう少しだけ、甘えていたかった……。
そんなふうに、悲しそうな顔をする。

阿曇留以 > 時間的にもそろそろ戻らないといけない。
海斗の呟きが聞こえれば、また優しく頭を撫でる。

「また会えるから大丈夫よ~。
今度も手合わせ、してくれるんでしょ?」

弟を慰めるように、諭すように、優しく語り掛ける。

南雲 海斗 > 「うん、絶対に!」

こくん、と力強く頷く。
大丈夫、今一時じゃない。
お姉ちゃんとは、これからいくらでも時間はあるのだから。

阿曇留以 > その力強い頷きに笑みを返し、そっと海斗から離れる。

「それじゃ、またね海斗君。
雨の中で話し相手になってくれてありがとうね」

小さく手を降り、留以はその場を去る。

ご案内:「常世公園」から阿曇留以さんが去りました。
南雲 海斗 > 「うん、またね!」

手を振って見送る。
そして、いなくなった後で手を下して。

「……お姉ちゃんが心配しない様に、頑張らなきゃ!」

く、と握りこぶしで力を入れて、明日からも頑張ろうと誓う海斗であった。

ご案内:「常世公園」から南雲 海斗さんが去りました。