2016/11/24 のログ
ご案内:「常世公園」にヴィルヘルムさんが現れました。
■ヴィルヘルム > 夜も更けた公園を歩く【青年】の足取りは重く,吐く息は白い。
周囲を妙に気にしながらも,【青年】は異邦人街の方へと向かっていた。
「………寒い…。」
それもこれも,慣れない服の所為だ。
靴は思ったよりも重いし,デニムは思ったよりも温かくない。
そう,彼は,服を買いに行ったのだ。
別の自分を見てみようと思って,店員に“恋人へのプレゼント”と伝えてみた。
…いや,間違いではない。この【青年】がゲイだというわけでもない。
この【青年】の島での名前はマリア=フォン=シュピリシルド。
「……………。」
見事な大変身と言うべきだろう。
肌の色と,瞳の色と,それから微妙に見えた髪の色さえ何とかすれば,だが。
ご案内:「常世公園」に美澄 蘭さんが現れました。
■美澄 蘭 > 「…ここまで時間忘れたの、久々…
しかも今日、寒いし…」
口元に白く細長い指を寄せ、息を吐きながら歩く少女。
急激に冷え込んだこの夜、多少は寒さに耐性があるとはいえ、薄手のコートでは流石に応えるものがあった。
先日、浜辺で開き直りを得た結果、今日の練習が思いのほか興に乗ったのだ。
乗り過ぎてしまった結果、この時間である。
「表」の街ならさほど気にすることはないのだろうが、周囲の人の気配に気をつけながら、早足で駅に向かう。
結果として、【青年】とは対面する方向に歩いている。
■ヴィルヘルム > 周囲を気にしている【青年】が貴方に気付かないはずがない。
けれど,距離をとっても不自然になるだろうし,どうすることもできなかった。
「……………。」
自分の顔をよく知る貴方だが,今はニット帽とPコートの襟が顔を多少なりとも隠してくれている。
ならば,何食わぬ顔で通り過ぎるべきだろう……できるだけ自然に,目をそらしながら。
■美澄 蘭 > 緊張感は、伝わってしまうものだ。
ましてや、通常の五感とは違った感覚すら持ち合わせる、この少女であれば。
どこかピリッとした、不自然な緊張感を感じ取った少女は、自分より小柄に見える【青年】の方に、意識して視線を向けた。向けてしまった。
ニット帽につばはない。少女の目が、Pコートの襟の陰で輝く、【青年】の赤い瞳を捉えてしまった。
(………?)
背丈。赤い瞳。
既視感を感じて、蘭は思わず足と、視線の動きを止めてしまった。
■ヴィルヘルム > 紅色の瞳に,貴方は既視感を覚えるだろう。
これが昼間か,電灯の下であったならば,すぐにでも正体はばれていたに違いない。
けれど,夜更けの公園に明かりは少なく,2人を照らすのは月明りのみ。
「………こんばんは?」
立ち止まって横目で貴方を見て,小さくそうとだけ,自然に告げる。
その声は,貴方の知る“紅色の瞳”を持つ少女のそれとは,印象が違うものだろう。
……そのまま立ち去れればそれが一番良いのだが。
■美澄 蘭 > 「………こんばんは」
既視感ある瞳だったけれど、その声は高めとはいえ明らかに男性のものだった。
少し、緊張に蘭の顔が硬化する。
「表」の顔であれば、【青年】は見たことの無いだろう表情。
「………ごめんなさい、知り合いがいつもと違う格好に挑戦したのかと思って」
その表情のまま、視線を向けてしまったことを詫びた。
寒さと緊張のせいだろうか、その声はわずかにかすれ気味で、暗い。
■ヴィルヘルム > 貴女の言葉を聞いた【青年】は,内心に安堵のため息を吐いた。
けれど同時に,別人となったことが嬉しいような,奇妙な感覚にとりつかれてしまう。
「……謝らなくていいよ,こんなに暗いんだから。」
そして,正体が露見してしまう危険を冒しても,貴方に声をかける。
もしもばれてしまったとしても,貴方の言葉通りに,いつもと違う格好に挑戦した,ということにすればいい。
そう考えると恐怖は消えて,何だか少しだけ,楽しくなってきた。
■美澄 蘭 > 体格面で自分がやや優位なことと、相手が視線の件を許してくれたことも相まって、少しだけ緊張の強張りは緩むが…それでも、少女の顔に笑顔はない。
【青年】の表の顔に気さくに気遣ってくれた少女は、ここにはいないかのようだった。
「………ありがとう。
そうね…普段は、こんな時間は出歩かないんだけど…
ピアノの練習で、ちょっと調子に乗っちゃって」
「気がついたらこんな時間」と、俯きがちにし、また口元の手に温かい息を吐きつけた。
「………あなたは、こんな時間に何を?」
ちらりと、どこか訝しげに【青年】の様子を伺った。
■ヴィルヘルム > そんな貴方の表情や,声色を【青年】は静かに観察していた。
こんな時間に,男性と1対1で出会えば,警戒もするだろう。
故郷の常識からすれば,貴方の雰囲気の差は理解できないものでもなかった。
「こんな時間まで? 随分と熱心なんだな……。
今日は一段と寒いし,夜は…この辺でも,物騒だから気を付けたほうが良い。」
それは一般論でもあったし,今は男性という立場だということもあった。
というか,男の恰好をしたら,こんな言葉を言ってみたかったのかもしれない。
「僕は買い物…ちょっと長引いて,こんな時間になったけどね。」
■美澄 蘭 > 「本番が近くて…「楽しむ」つもりで開き直って、迷いがなくなったせいかもしれないわね。
………ええ、だから普段は気をつけてるの。「女の子だから」みたいな考え方、あんまり好きじゃないんだけど」
気遣う言葉をかけられてなお、青年に対して蘭の態度が軟化することはない。
それどころか、返る言葉には刺すら感じられるかもしれない。
「…そう…今の商店街は混み合うから、確かに長引くかもしれないわね」
そう言って、また口元の手に息を吐きかける。
それから、無言で公園の奥を見つめて…
「………。」
つかつかと、自販機の方に向かっていった。寒さで手が限界だったらしい。
■ヴィルヘルム > 「練習に没頭してたっていうより,楽しんでたって感じかな?
…………なるほど,そういう考え方もあるんだ。」
意外な一面を見た気分だった。貴方に聞こえるかどうか,小さな言葉で呟く。
この島ではそれが一般的なのかもしれないし,貴方がそういう性格なのかもしれない。
どちらにしても,今後は注意して発言するべきだろう。恰好なんてつけるもんじゃない。
「…手袋とか,持ってないのかい?」
以前のことから,奢られたりするのが嫌いなのはわかっていたし,そう声をかけるに留めた。
正体が露見するという恐怖は,ほとんど消え失せてしまっている。
■美澄 蘭 > 「その二つって、別に背反じゃないでしょう?
………聞こえてるわよ。皆が皆そうじゃないとは思うけど、次からは気をつけてね」
練習の件については、「没頭して楽しむ」という発想を提示しつつ、【青年】の納得の呟きにはそう釘を差す。
「男性」ということでマウントを取ろうとする相手(【青年】の場合、悪気はないのだろうが)に対しては、よほど上手にやらない限り辛辣なようだ。
「東北じゃあるまいし、こんな季節からここまで寒くなると思ってないもの。
…あ、東北って、この島の近くにある国の、北の方にある地方の名前なんだけどね」
そんなことを言いながら、温かいミルクティーを購入して、ボトル缶を両手で包み込むように持つ。
つまり、この少女は今手袋を持っていないということだ。
■ヴィルヘルム > この【青年】の場合は,マウントを取る気があったわけでもない。
そして辛辣な言葉を向けられても,気を悪くするような性格でもなかった。
「あぁ,ごめん,でも別に,聞こえないように言ったわけじゃない。
気を悪くしたなら,今度は僕が謝るよ。」
言いつつも自販機の方へと近づいて,貴方の言葉を聞きながらその手のひらを見る。
この寒さが幸いして,恋人へのプレゼントセットには手袋も含まれていた。
けれどきっと,ただこれを差し出しても貴方は決して受け取らないだろう。
どう言えば,受け取らせられるか。少し考えて……
「…ピアノを弾くなら,指先は大事だろう?
霜焼けになるまえに……さっき買って,まだ使ってないし。」
…そんな風に言いつつ,男物の手袋を差し出した。
と言ってもマリアのサイズに合わせてあるので,貴方にもちょうど良いだろう。
「今度は“女の子だから”ってわけじゃない。これなら良い?」
……皮肉に聞こえたかもしれないけれど,その表情を見ればすぐに“善意”なのだと分かるだろう。
【青年】はもう,その瞳を隠そうともしていない。
■美澄 蘭 > 「…別に、気を悪くしたわけじゃないわ。
ただ、その…随分「無邪気」だなって思っただけ」
「謝るほどのことじゃないわ」と言って、今度はこちらが気まずそうに目をそらす。
異性に対する距離の置き方、何とかしたいと思ってはいるのだ。一応。
…と、差し出された手袋。ピアニストらしく、蘭の指は少女としては長めの部類に入る。
既製品の手袋だと、安いものではサイズが合わないことがよくある。硬い生地を使いがちな男物であれば、尚更だった。
それを口実に、申し出を断ろうと…
「流石に、まだ霜焼けになるほどじゃないし…男物だと、サイズがシビアだから多分合わないと思うの。
…気持ちは、嬉しいんだけど………」
困ったようにとはいえ、ほんの少し笑みを見せた口元が…正面に立った「青年」の顔を見て、再び固まる。
大きく見開かれた目。それは、警戒というより、驚愕の表情だった。
■ヴィルヘルム > 無邪気と言われる心当たりは,えてして当人には無いものだ。
この【青年】の場合も同様で,首をかしげるのみだった。
ついでに手袋は,スマホの使えるニット手袋である。
【青年】自身はつけたことがないので,その伸縮性までは知らないが…
「それでも,指先を温めることくらいできると思うけど。」
…貴方にそれを押し付ければ,サイズを理由にして突き返すこともできないだろう。
けれど目が合った瞬間の,貴方の表情が“楽しい時間の終わり”を示していた。
貴方が言っていた通りに,変装だって言い訳をすることもできるけれど…
「それじゃ,僕はもう行くよ……気を付けてね。」
…そうすると,貴方を寒い公園に足止めすることになる。
そう考えた【青年】は何食わぬ顔で貴方に背を向けた。
急ぐことはせずに,けれど真っすぐ,異邦人街へと向かって歩き出す。
明確に呼び止められなければ,立ち止まることも振り返ることもしないだろう。
■美澄 蘭 > 「………そういうところよ」
不思議そうに首を傾げる【青年】に対して、苦笑を返す蘭。
彼女も彼女で大概ストレートで、人のことなど言えたものではないのだが。
驚愕に茫然としている間に、押し付けられた手袋。
そして…目が合って、自分の表情を確認したあとの、【青年】の変化。
混乱の中に符合が生まれ、符合がまた混乱を生む。
「………待って!」
蘭は、頭の整理がつかないまま、青年の背中に向かって、声を張り上げていた。
■ヴィルヘルム > 呼び止められれば,【青年】はぴくっと体を震わせて…
「…何?」
足を止め,静かに,振り向いた。
■美澄 蘭 > 相手が足を止めて振り返れば、怒ったような顔でつかつかと、気持ち大股に【青年】に歩み寄る。
そして…
「………あのね。
無理して低音を作るのって、凄く、難しいのよ」
震える声でそう告げると、先ほど差し出された手袋を、突き返した。
「………説明して。でないと、受け取れないわ」
正体に…【青年】の表の顔に気付いただけでは、ここまでの動揺はないだろう。
ただでさえ白い少女の顔から、ますます血の気が引いて見えるのは、寒さのせいだけとも思われなかった。
■ヴィルヘルム > 貴方の言葉を聞いた【青年】は,どこか残念そうに頷いた。
それは文字通りに,変身した自分で貴方と会話するのが楽しかったから,その終末を残念に思った顔だった。
突き返された手袋を,真っ白な【青年】の手が受け取る。
少しだけ間があったのは,言い訳を考えていたからだが…
「……最初に君が言ってた事が正解。
声なんて魔法で……」
【青年】は“少女”の声を作った。
「…いくらでも変えられるでしょう?」
…それを感じさせない程度には,自然に笑って見せただろう。
■美澄 蘭 > 「………。」
突き返された手袋を素直に受け取った上で、説明して正体を明かしてくれる【青年】。
…それでも、蘭の表情が晴れることはなかった。
「………逆に、魔法を使って今の…普段の声を作ることも出来るわけよね?」
魔術が発動した瞬間は寧ろ「今」だと感じ取る、蘭の魔力察知能力。
先ほど、「女だからと注意されたくない」と言った蘭の言葉に対しての、目の前の人物の…「女」を引き受けたとも思われない反応。
意地の悪い追求だと分かっていたが…頭の混乱が、口をつぐませてはくれなかった。
■ヴィルヘルム > 貴方の表情が晴れないところを見て,疑念を消すことは不可能だと,察した。
魔力を察知されているとまでは分からなかったが,声を変えたときに,貴方の瞳はわずかに動いていただろうから。
……だから【少女】の声はもう使わない。
「……確かに,それもできるね。
どっちかが偽物でどっちかが本物だとしたら,君は,どっちの僕が本物だと思う?」
この瞬間,貴方に向ける紅色の瞳は,これまでにないほど鋭かっただろう。
偽物でありながら長い時間そこにあり続けた【少女】と,
本物でありながらもまだ新しい【青年】の2つの仮面を半分ずつ被った“シュピリシルド家の魔女”が,貴方に問う。
■美澄 蘭 > この【青年】が、今までにないほど鋭い瞳で自分に問いかけてくれば、驚いたように目を丸くする。
…が、その問いの内容が、どこか癇に障ったのだろうか。少女は、不機嫌そうに目を細めて眉を寄せ、臆することをしなかった。
「…あくまで、私の考えを聞きたいだけで、私に決めてもらおうなんて甘えた考えじゃないわよね?
前者なら答えるけど、後者なら答えないわよ」
少女の中で、肚は決まっているらしかった。
■ヴィルヘルム > 不機嫌そうな表情,それは“マリア”には見せなかったものだ。
もっとも,“マリア”が蘭の気に障るようなことを言わなかった所為でもあるが…
「…大丈夫,君を甘く見ちゃいけないのは,さっき思い知ったよ。
それじゃ,男か女か,せーの,で言おうか。」
…そんな貴方の“別の一面”を見られたことが,自身の“別の一面”を吐露する負担を軽くしていた。
「……せーの。」
■美澄 蘭 > せーので言う、という軽さに不機嫌そうに片眉を上げたが、
「…まあ、いいわ」
と頷く、そして。
「男」
その答えは即答だった。
「…何でそう思ったか、必要なら説明もするわよ。
さっき「気をつけてね」って言ったこと、繰り返さずに済むでしょうし」
そういう蘭の表情からは不機嫌さが幾分薄れている。
相手が隠そうとしなくなって、不信感が薄れた分もあるだろう。
■ヴィルヘルム > 「……男。」
言ってしまえば,それは仮面でもなんでもなくなってしまう。
自分ではない自分を演じていた,あの愉快さは消えてしまうだろう。
けれど一方で,青年は大きな安堵を覚えていた。
…クローデットにすべてを知られた後,最後に言葉を交わしたときもそうだった。
仮面を外して,誰かと言葉を交わすことが,この島ならできるのだ。
「あはは,まぁ,別に説明は要らないかな。
それよりも……はい,これ。」
改めて手袋を渡す。今度はもう突き返す理由が本当に無いはずだ。
女だっていうのは嘘だったけど,ピアノの発表会を楽しみにしてるっていうのは,嘘じゃない。
■美澄 蘭 > 「そう?あんまり「無邪気」だったから、色々心配なんだけど」
説明不要と言われれば、微妙そうな表情を浮かべて。
それでも、彼が事実を明らかにしてくれれば、蘭の表情から警戒の色は消えていた。
…と、改めて手袋を差し出されれば、
「………「あなた」は、大丈夫なの?」
と、問うた。
基本的に、人から何かを一方的に受け取るのが得意ではない。遠慮するための、最後の口実を、戸惑いの表情で使った。
彼の名前は呼ばなかった。「男」としての彼の名前を蘭は知らないし、いつもの名で呼ぶのも、不自然な気がしたから。
■ヴィルヘルム > 「無邪気っていうのは分からなかったな…
…それじゃ,それはまた今度話そうか。ここで話してたら凍えちゃうからね。」
微妙な表情だったのを察したのか,自分も説明しなければと思ったのか,
そんな風に理由をつけて,ここでの話を切り上げながら後日につなげた。
「……大丈夫,この服…袖,思ったより長くて。」
理由としては弱いし,こじつけに過ぎない。
けれど,青年は貴方の押し付けた手袋を返してもらうつもりは無いだろうし,突き返すのは難しそうだ。
「それじゃ,今度こそ帰るよ。
暗いから送っていくなんて言っても,断るだろうし,ね。」
楽しげに笑って,再び背を向ける。今度こそは,呼び止められずに異邦人街へ向かえるだろう。
ご案内:「常世公園」からヴィルヘルムさんが去りました。
■美澄 蘭 > 「そうね…今度、色々話しましょう?
やましいことはなさそうだけど、それでも納得しきれないところはあるし」
「約束よ?」と、真顔で青年の顔を見つめて念を押した。
「………今度、埋め合わせはするから」
微妙な表情で手袋を受け取り、はめる。
冷たい空気を、手袋は見事に遮断してくれた。
「………そう、私って結構じゃじゃ馬なのよ」
楽しげに笑う青年に対して、こちらも楽しげに笑って頷く。
「それじゃあ、お休みなさい」
青年の背中に、今まで通りの声音で別れの挨拶を向けたあと。
ミルクティーのボトル缶を適当に手の中で転がしながら、最寄りの駅に向かったのだった。
ご案内:「常世公園」から美澄 蘭さんが去りました。